第206話 海

「海だ……」


 真悟人たち一行は海に来ていた。

 惨劇の領都を過ぎて、村で老人を弔い、漸く海まで辿り着いたが、予想通り海は酷い有様だった。


 浜や岩場は黒くコールタールの様な物がこびり付き、腐臭が漂う。

 水に透明感は無く、波が灰色に泡立つ。


 生命に溢れた海は何処にも無かった。


「アンジェ達が見たら、嘆き悲しむだろうな…」


「イネスも怒り狂うと思うよ…」


 希望としては、もう川から毒物は流れ込まない。

 河口は今まで通りの透明な水が流れ込み、濁った海の水と混じり合う。


 河口周囲の水だけは浄化薬が流れ込んだ事もあり、微妙に汚染が薄まってる気がする。気がする程度の微々たるものだが、汚染が少しづつでも浄化されて行けば元の海に戻るはず。

 気の遠くなるような時間が掛かるだろうが、いつかの日本がそうであった様に此処も綺麗な海に戻す努力を積み重ねて行かなきゃならない。


「一気に浄化出来る様な都合の良い魔法は無い…よなぁ。」


「無いねぇ。そんな魔法有ったら川で使ってるって。」


「そりゃそうだなぁ。」


「川は浄化薬流しても、汚染された所を流れて行くから多少の効果は見込めるけど、海は汚染されてる所だけ浄化薬が流れる訳じゃ無いんで、浄化薬の効果無いしね。」


「薬は現実的じゃ無いか…」


「使い方かな?」


「何か良い方法あんの?」


「海水には拡散されて効果無いけど、砂浜や岩場が汚染されてる部分には効くんじゃ無い?」


「おお!そうか!」


「せめて砂浜と岩場の陸地部分だけでも浄化出来れば違うでしょ。」


「そうだな。浄化魔法も使えるかも知れないな。」


「うん。……だけど、広いよ?」


「……あぁ、この海岸線の……あの先まで汚染されてるよな。」


 海岸沿い、砂浜部分から岩場とその先の遠く岬が伸びている方まで、見渡せる場所は汚染されているだろう。


 この後、話し合って汚染の酷い場所から…要するに河口から順に浄化する事になった。三班に分かれて河口から左右を浄化していく二班と、浄化薬の複製を作る班とで分かれて作業を行う事にした。


 地味に浄化を行う。

 汚した時間の何倍もの時間が掛かる事を行わなきゃいけない。

 日本ではどうやって汚れを消したか?気の遠くなる時間を使って海の自浄作用を期待しただけだ。実際、どうしようも無かったんだろうが、その轍を踏みたくは無い。


 ネーレウスに相談するか。


 思ったところに、海が割れ、潮が引き、何かが近づいてくる。


「ご苦労。」


 一言発して濡れたイケオジ現れる。

 その後ろから、バトラショワディタおばはんが登場する。

 俺の気持ちが伝わったのか?怖い目で睨まれる。


「ふうん。」


「まぁ、成果としては悪くない。」


「あんたの気持ちは別にしてよくやってくれた。」


 余計な事を思ったのはマイナスポイントだった様だ。

 だって登場時の濡れた感じが怖かったんだよ。

 おばはんどころか妖怪滋味ていて…妖怪なんですが…

 あ!ごめんなさい。そんな睨まないで下さい。



 特に会話を交わす間もなく、彼らは海に戻っていく…

 すると、一瞬にして綺麗な海に戻った。


「うそ?」


「マジか?」


「すげえ」


 皆のセリフはこれに集約される。

 ただ、綺麗になったのは海だけで、海岸の浄化は俺たちの仕事の様だ。

 あの岬の先まで、海岸を綺麗にしなければイケない。


 ハイライトの消えた目をした皆で順に海岸を浄化していく。

 それでも、海に魚が跳ねたり、小魚が泳いでいたり、岩場でエビが居たり、ハゼが寄ってきたり、カニが行進してたり、フナ蟲にビビったりと海を楽しめた。


 当たり前の海が戻って来た事に皆で喜んだ。


 この短期間に死んだ川、死に掛けの海。

 人が汚した自然を目の当たりにして、サラたちが浄化を頑張った川、ネーレウスとバトラショワディタが浄化した海を見た。


 俺の中だけだが、日本で起こした自然破壊と自然保護を同時に見た気がする。

 壊すのは一瞬。治すのは何十倍もの時間が掛かる。

 地球にはネーレウスは居なかった。


 今、アンジェリカス達がその役割を行っている。

 ネーレウスとバトラショワディタは地球は手遅れだと言ったが、アンジェ達は頑張ってる。昔の海を取り戻したい。

 汚す元凶を取り除きたい。


 俺も手伝えるように力を持たなくてはイケない。

 言葉が伝わる様に声を大きくしなくてはイケない。

 話せるように勉強しなくてはイケない。


 この世界の海を見て、色々思う所がありますが、一瞬で浄化してしまったので、海を汚したと言う感覚がほんの一部の人間にしか無いと言うのは最大の問題点な気がする。


 今後はこの海もルバン王国管轄の海になるから、海に関する制約は十二分に厳しくさせてもらおう。

 そんな事を思いながら、海を楽しもうと思う。




 水着に水中眼鏡とシュノーケル、銛にヘラに足ヒレ。

 手にゴム手袋、腰に魚篭を付けてGO!!


 シュノーケルで呼吸をしながらポイントを探す。

 ここだ!と思える岩場で潜る。

 素人じゃ5mも潜れればスゴイ。トプンと潜って岩場に取り付き周囲を伺う。

 そこで息切れ、一旦ブシューっとシュノーケルから水を吐き出す。

 足ヒレを付けてるからまだ良い方で、無いと潜るのにも苦労する。


 さっき目星を付けた場所に再度潜る。

 岩に取り付き、魚、貝、ウニ、タコ、他を確認して再浮上。

 この時点で魚、タコは逃げていたりする。

 エビ、カニは隠れて居ても取れる場合もあるし、タコも様子見してたりする。

 魚は居ないね。クロダイやカサゴ、アイナメなんかの根魚は運次第。


 魚!…ダメ、エビカニ?…ダメ、貝?…サザエ系の巻貝やウニなんかを探す。

 次にアワビやトコブシの張り付き貝を探すが、海の中だとスゴイ速い!あっという間に見失う。


 再浮上して、次は岩を返せるか?引っ繰り返せるか?だけど、ちゃんと元に戻さないとイカン!そしてサンゴ系が有ったら触っちゃイカン!


 日本では漁業権があるから全てご法度です。

 勝手に捕っちゃイケません。


 異世界ならではの古き良き日本の様な海の採取でした。


 今の日本の海はアクアラングは勿論、シュノーケリングもアウトで採取は当然NGだったりする。

 BBQして捕って来るのもNGが殆どです。

 捕まりますよ?


 種を撒いて育てています、海は既得損益が厳しいので採取は止めましょう。

 釣りは緩いので、養魚場の周囲など以外は大丈夫っぽいです。

 釣り禁止の看板が出ているような所は当然NGです。

 バリケードを壊して侵入するなんてのは論外!捕まって下さい。


 ハリスや道糸の仕掛け類とコマセ(撒き餌)、ゴミの後始末はしっかりしましょう。釣り場を汚すと、結局自分たちの首を絞めます。


 高級車で乗り付けて残念な行動をする方々を多く見受けますが、

 先ず常識を身に付けましょう。

 そして良識ある行動が出来れば、尊敬されるでしょう。


 今のあなたの行動は子供や孫に見せられますか?

 同じ行動をする子供たちを見て何とも思いませんか?


 そうですか。……

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