第203話 人の心

 隣国への侵攻が進む中、ロレーナ公爵たちや戦隊たち、それにスティングやエリザベスも侵攻に加わって行った。真悟人と浄化薬を作るシャルたちと、ボスの他少数の人員を残して。


「さて、シャル曰くこの薬品を1時間おきに1日流してやれば、取り合えず川の浄化は進む筈だとの事だ。」


「はい。順に流すように指示してありますから、そちらは大丈夫かと思います。」


「うん。直接説明してたし、大丈夫でしょ。…それより、こいつらをドウシテやろうかと思ってね。」


「あぁ……」


 そこにはこの川を汚した元凶。豚顔の親戚兄弟がいた。

 何か言いたげではあるが、懸命に口を噤んでいる。


 他の者たちはこの工場での労働者だった者たちでシャルとユナの指示の下、懸命に浄化薬を作っている。


「先ずはダンマリじゃ先に進まないからな、色々教えてもらおうか。」


 押さえ付けられ薬を注入されると、身体をガクガクと震わせながら話し出した。

 問答無用の自白薬。絶対に隠し事は出来ないな。と、いつも思う。


 そこで出て来た話は聞くに堪えない悍ましい物だった。

 村の人々に対して、人として行ってはいけない行為を繰り返す。

 尊厳を踏み躙り、悲しみと憎しみを積み重ねてゆく。

 こんな考えが出来る事が信じられないし、人ってここまで残酷に成れるものかと言うのも想定出来なかった。


「もういい。」

 これ以上聞いていたら自分まで憎しみと悲しみに塗り固められそうだ。


「聞いてられん。捨てて来い。」

 聞いてた事から考えると自分の身内や仲間以外は虫けら以下と見ていて、自分に利が無ければ何をしても良いと考えている。

 この分だとこいつらを取り巻く環境に居る者たちは同じ考えだろう。

 もう、心は決まった。

 こんな連中なら自分も鬼畜になれる…


 昔、映画見たな。鬼畜って…

 あんなもんじゃない。あんなもんじゃないんだよ。あれでも人として切なかったのに、悲しかったのに、それ以上の事を俺はするんだよ。


 そんな俺の心情なんてどうでもよく、…いや、俺の心情は考えちゃいけない。


「はっ。了解しました。」


 豚顔の親戚兄弟二人は引っ立てて連れて行かれる。

 最低限の装備と食料を持たされて、更に川の上流まで連れて行かれて文字通り捨てられた。

 当の本人たちは何が起きたのか分からない。

 ただ、助かったのは分かった。


「おい、俺たち解放されたぞ?」


「ああ、もうダメかと思っていたが…」


「ふん。所詮は王国の奴らなんて腰抜けぞろいなんだ。このまま領地まで戻るぞ。」


「ああ、父上たちの言う通り、何もしゃべらずに黙っていたのは良かったな。」


「そう言えば、何か薬を打たれなかったか?」


「気のせいだろ。気付いた時も何も変わって無かったゾ。」


「そうだな。早く戻っテ父上たちに報告せねば。…」


 彼らは何も考えず、ただ解放されたものと思い領地に帰還する。

 とんでもないお土産を持たされているとも知らずに。



「捨ててきました。」


「ああ。あいつらどの位で帰りつく?」


「割と街の近くに捨てたんで、1日あれば辿り着くと思います。」


「そうか…」

 悲しそうな顔をする真悟人をシャルとユナが抱きしめる。


「大丈夫よ。血縁と関係者のみにしか向かわないから。」

「うん。間違いなく根絶やしにするよ。それに加担した奴らもね。」


「そうだな。何であんな奴らが蔓延るんだ?人の心ってもんは持ち合わせていないのか?どうしてそんな非道な事が出来るんだ?」


「真悟人、そんなの考えても理解できる訳無いよ。」

「人の心が有れば、そんな事出来る訳無いもん。」


「うん。ただ、俺もかなり非道な行いをしてると思うわ。」


「それは私たちも共犯よ。」

「そうだよ。それに私たちの家族を守るためにも必要な事でしょ?」


「ああ、実験的な部分もあるし、割り切って動向を確認するか。」




 今回の試薬。

 ………ゾンビ薬。

 それも、血縁を頼りに性欲と食欲を爆発させる。


 どうなるか?

 男女関係なく交わろうとする。その上に喰う……悪魔の試薬。


 薬を打たれた者は身体に蟲が生まれる。

 その蟲は脳に向かい寄生主を操る。ただ、その蟲は寄生主に認識されると様々な抗体の攻撃により死滅する。しかし、蟲が存在する間はゾンビ状態で寄生主は死ねない。身体が死んでも頭から蟲が身体を操る。意識も記憶も保持されている上で自分の意識とは関係なく捕食し生殖する。その行動を本人は認識したまま継続する。


 特効薬は認識すること。認識出来なければ、三大欲求の性欲と食欲を刺激するのだが、対象が血縁関係や仲間と認識してる者。

 ただ、オスにしか寄生しない。メスには寄生しないのは生殖の問題か?


 マウスでの実験でこの事実が判明したとき、全員が震え上がった。

 この世に出しては行けないモノを作ったと。

 しかし、凶悪犯罪者たちによる人体実験により、蟲の存在を認識するとあっさりと身体が抗体で対抗するのを発見。

 マウスでは血縁と仲間の認識としていたが、人間では分からない。

 何処まで危害を及ぼすのか?


 蟲の成長によっては街に着く前に兄弟で交わって喰い合う事も考えられた。

 表面上は呂律が回らない様な会話になり、外観からは異常は認識出来ない筈だ。

 さて……


 豚顔の親戚兄弟。自分たちの領地に帰還した。

 街の入り口で領兵たちに絡んで、自分たちを止めた領兵に極刑の宣告をして街に入った。……周囲の者はいつもの事なので、ほとぼりが冷めるまで謹慎という形でやり過ごす。

 真面に聞いていたら領兵や市民は居なくなってしまう。


 それに言葉の呂律が回っていなかったので、どうせどこかで酔っぱらって帰って来たのだと思った。

 だから真面な報告もせず、ただ帰還報告だけ入れていた。


 兄弟は腹が減っていた。

 持たされた食料や水は最低限だったので、何か食いたくてしょうがない。

 それに、、、やりたかった。性的にやりたくてしょうがない。

 横を歩いている兄弟に欲情して、自分はどうしちゃったんだと互いに思っている。兄弟に欲情するなんて有り得ない。それも同姓なのに、決して自分は同性愛では無いと互いに思っている。


 そんな状況で自分たちの屋敷まで馬車で戻る。

 その間も互いにそわそわして落ち着かない。早く着かないのかと御者に怒鳴り散らす。御者もいつもの事なので、今日は随分機嫌悪いな。くらいにしか思わない。


 屋敷に付いた途端に馬車から飛び降りて屋敷に走り込む兄弟を見て、よっぽど何かあったんだろうなと思いながら厩へ向かう。


 屋敷では連絡を受けていた両親と執事やメイドたちが出迎えていた。

 彼らには姉や妹たちも居る……


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