第200話 浄化

 下流の集落の確認はアルファたち足の速い者で行う事にした。

 状況を確認して助けられる者たちは全て助けろ……と思ったが、状況を確認するだけに留めた。


「助けなくて良いんですか?」


「強制的にやらされてるばかりじゃ無いだろ?」


「あぁ、そりゃそうですね。」


 そこにロレーナ公爵も口を出す。

「真悟人さん。僕もそれには賛成だよ。中には私腹を肥やすために表向きはやらされてる顔をしてる奴らも居るからね。」


「チョット見極めは難しいですね。」



 サラたちには浄化薬を頼んだ。

 消し去る事は出来ないが毒性を中和することは出来るとの事だ。

 何もしないよりはマシ程度の効果だと言われたが、願わくば完全に浄化できるのが理想だ。


 自分たちは支流を遡る。

 スティングやエリザベス、公爵夫人たちは拠点でお留守番だ。

 一緒に行きたがったが、何が出て来るか分からない上に健康にも良くないだろうから、臭いが届かない程度の位置にキャンプ地を設置して待機して貰おう。



 汚染されている支流を上流に向けて進んで行くと建物が現れた。


「あれがそうだろう。一旦通り過ぎて周囲を確認しよう。」


 その建物は大きめの農家の様で、奥に何軒も連なっている。

 横には水車が付いていて、一見粉挽小屋のようにも見える。

 遠目には水車がいくつも並んでいて、風光明媚な雰囲気はある。


 ただ、小屋からの排水が・・・真っ黒だ。

 各小屋の裏手に水路を作って、上流で流した排水を下流で取り込まない様に、排水用の水路から川に排水をする。いや、垂れ流してる。


 汚水を流された川はそこから真っ黒く濁った死の川に変貌する。


「ここが元凶だな。」


「うん。」


「あの黒い水さぁ、やっぱりポーションとかの廃棄物みたいだね。」


「そうなの?」


「ユナとシャルが調べてた。薬草とか材料の毒素の集大成。」


「それって大昔の禁止になった製法ってこと?」


「うん。上澄み液をポーションにして残りカスが不純物イッパイで毒素になっちゃうやつだね。」


「かなり低レベルのポーションって事だろ。」


「そう。なんで今時こんな製法で作るんだろ?逆に不思議だわ。」


「本人たちに聞いてみよう。」

 合図があった。

 制圧の準備が整った様だ。


「公爵。宜しいですか。」


「うん。制圧、開始!」



 制圧自体は10分も掛からずに終了。

 活性炭マスクの上に覆面まで被ったボスと戦隊達が全ての建物に一気に突入。


 水車小屋は直ぐに開放。全部で6カ所。

 作業員は各所とも責任者1人と作業者5人で稼働させていて、6カ所の36人全員がただの労働者と思われる。


 彼らは狼狽えては居たが、反抗する事も無く大人しく言う事を聞いてくれたので、飲み物を配って休憩して貰っている。


 管理棟と思われた建物は、貴族らしい人物2人と管理者?6人が詰めていたが全員を縛り上げて並ばせた。

「いったい何のつもりだ!?」


「こんな事してタダで済むと思うなよ!」


「お前たち強盗か?どうする気だ!?」


 口々に叫んでいて騒がしくて仕方ない。

 貴族らしい2人は黙って睨み付けて居るから、一筋縄じゃ行かないかもな。

 それぞれ一人ずつに分けて事情聴取を行う。


 その間にサラたちに解毒剤?浄化薬?を作るようお願いする。

 この小屋にある材料と設備で作れるようだ。なんて優秀なんだ!

 逆に同じ材料じゃないと有効な解毒剤が作れないと?詳細は良く分からないがそういうモノなんだと。

 うん。任せた。


 休憩させていた作業員たちに状況を説明してやる。

 此処で作っていた薬品の廃液で川や周囲の土壌まで汚染されてる事。

 自然だけでは無く人間にも害があるので、体調が思わしくない者は申し出る事。

 どういう経緯で薬品を作る事になったのか説明する事。


 元々は全員が周辺の農家の人間だった。

 重い税と不作続きで食うに食えなくて、村ごと夜逃げも考えていた。

 そこに領主がやってきて、薬品作りに従事すれば税を軽くして貰えるとの話から働かせて貰っていると。


 実際には薬品作りを始めたら、廃液で川の魚も捕れなくなって、畑には雑草すら生えない上に体調もどんどん悪くなる。

 涙ながらに訴える者が続出した。


 更に判明した事は此処の領主は、あの豚顔の関係者だった。

 国境から海までの一帯が豚顔一族が納める地域らしい。

 何処までもトンデモナイ一族の様だ。


 話を聞いた公爵のこめかみに青筋が立ってピクピクとしている。

 公爵がこんな怒りを見せた事は無かったので、さすがの真悟人もその恐ろしさにビビる程だった。

 ここで怒っても何も進まないと理解している二人は、次の指示を出す。


 作業員の彼らは本来なら休ませてやりたいが、もう少し手伝ってもらおう。

 サラやシャルが作ってる解毒剤作成の手伝いをお願いする。


 彼らもこの惨状には心を痛めていた様で、快く手伝いを了承してくれた。



 残るは此処で実際に作業を監督していた奴ら処遇である。

 貴族2人はだんまり。

 管理者6人から大体の立場は聞き出すことは出来た。

 貴族2人は豚顔一族に連なる者で、領主の息子兄弟との事。

 こいつらは最後に処理しよう。


 管理者6人。彼らも元々は作業員たちと同じ村の人間で、上手く立ち回って管理者の立場を手に入れた。


 こいつらは若くキレイな嫁を娶っていた居たそうだ…

 幼い子供が居た者も2人居た。彼らは殺して欲しいと懇願していた。


 嫁の両親と自分の両親と嫁を人質に取られて、統括する仕事をさせられた統括管理者は、村長の息子だった。

 彼が一つ逆らうごとに自分の両親から傷め付けられた。

 嫁の両親も傷め付けられて、嫁を自分とみんなの前で凌辱すると脅されて心が折れた。

 両親と自分と全員の前で辱めを受けるなんて鬼畜な所業を考えるこいつ等はいつか殺すと心に誓い、薬品製造の全責任を負うと約束をした。


 他の3人も同じような恐喝をされて、結局6人とも嫁は連れ去られた。

 無事に再会したいなら分かるだろう?…と。


 誰も上手く立ち回ってなんか居ない。

 暴力で大事な者が傷付けられて、尊厳さえも踏みにじられて、それの何処が上手く立ち回っただ。


「真悟人さん。……ぼ、僕はもう我慢出来ない。もういいだろう?これ以上は、心が持たないよ。」


「公爵……いや、スペンサー。俺も限界だ。」


「初めて名前で呼んだな。」


「不満か?」


「もっと早く呼ばなかったのが不満だよ。」


「トゥミ達とマリーさん(公爵の奥様)達へはスペンサーから頼めるか?」


「ああ、浄化を始めるか。つか、スルーかよ」


「ははっ。勘弁しろ。もう気持ちに余裕が無くてな。」


「ああ、僕もだ。」



「先生!ボス!アルファ!  浄化すんぞ!」

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