第199話 寄り道
「どうもありがとうございました。」
隣国国境警備隊隊長が最敬礼してお礼を言っている。
「これからは真面になりますよ。」
「家族の事とかも本当にありがとうございました。」
「ここで小さな村でも作れば、それなりに食べて行ける筈ですよ。」
「はい。まさか、こんな直ぐに集落が作れるなんて夢にも思わなかったです。」
「これは今後の私たちの為にもなる事ですから。」
真悟人とロレーナ公爵と隣国国境警備隊長の3人で出立前の打ち合わせ。
邪魔者を排除して、今後は国境村として立て直す方針だ。
「はい。全員整列!!」
そろそろ出立しようとする時に隊長が警備隊全員を集めて整列させた。
「ロレーナ公爵閣下、並びに神田辺境伯閣下。 私共、隣国国境警備隊一同は、両閣下に永世の忠義を誓います。」
「「「「「誓います!!」」」」」
「うん。ありがとう。君たちの忠義は嬉しく思うよ。ただ正式に受け取るにはもう少し待っていてくれたまえ。」
「はっ!正式にお仕えできる日をお待ちしております。」
ロレーナ公爵の言葉に隣国国境警備隊の面々は笑顔で答えた。
隣国国境警備隊は3人の貴族に搾取されていた。
国境警備隊だけにそれなりの装備と予算を割り当てられていて、まともな筈だったのだが、豚顔、狐面、カラスの3貴族が管理者として来てからは山賊まがいの関所となった。
訴え出れない弱い立場の者を狙って、物資の横領や女性を強制的に召し上げ、慰み者にするという鬼畜な行いを繰り返すようになった。
何故その様な行いが公共の施設で公然と行えたのか?
これは豚顔の貴族的権力が強かった事によるらしいが、既に国として正常に機能していない事もあるだろう。
そこに通ったルバン王国からの特使。
返り討ちに合い、牢獄に捕らえられた。
今までの行いを永遠に振り返って貰おう。精神が破綻するような甘えは許さない。この3家の縁者や関係者は同罪であろう。順に送られる筈である。
国境の関所を通過して、真っ直ぐ向かえば隣国の王都だが少し寄り道。
西に向かい、海を目指す。
国境となっている川沿いに下って行く。
道は悪い。最悪だ。
この特製馬車だからまだ耐えられるが、この揺れには普通に酔う。
「アル!休憩しよう。」
開けた場所に馬車を乗り入れて休憩を取るが、全員グッタリだ。
周囲は小さな林と草原が連なっていて、所々集落らしき家屋が有るが、生活は厳しそうだ。こういうのは根本的に国が変わらないと解決できないだろうな。
「ロレーナ公爵、私とアルとボスで先行して、拠点場所を見つけてから迎えに来ますよ。」
「おぉ!そうしてくれるかい?流石にこの道は女性たちには辛いからね。」
「はい。お任せください。(さすが公爵。そのセリフで奥方の機嫌が上がった気がする。……さり気無く口に出来るのは難しいが見習おう。)」
自分が辛くて先行しようとしていた事を、ロレーナ公爵により女性への気遣いと言うオブラートに包んで、上手い口実を得て出立する。
いつも通り、ボスの背中におんぶ紐で縛り超高速移動の開始。
今回は川沿いな事もあり、森や林の木々は少ない為にアルの方が移動は速い。
アルに先行して貰って後ろを付いて行く。
天気は良いし川の水面がキラキラと反射して、風光明美な道中だった。
そろそろ拠点を探そうかという所まで着て、アルが急ブレーキをかけた。
「な、なんだ?なんだ?この臭いは?」
「臭い?何か異臭がするのか?」
「はい。私でも微かに感じます。アルは匂いには敏感ですから。」
「じゃあ、少しゆっくり進んでみようか。アルファ、耐えられなくなる前に言えよ。」
「了解しました。」
川沿いをゆっくり進むと…段々とヤバい臭いが周囲に漂ってくる。
景色も変化してきて、雑草さえ生えていない変な色の土に変わり、荒れ地に変わってきた。
あれほど風光明媚だった景色が一気に死の大地に変わってしまった様だった。
支流の川が流れ込んでいるのだが、その辺りから風景が一変している。
「どうやらあの川の辺りが臭いの元のようですが、ずっと上流まで続いてるみたいですね。」
「ああ、この臭いも余り吸い込まない方が良さそうだな。二人ともマスクしておけ。」
「「はい。」」
感染症云々が騒がれている昨今、ちゃんとマスクも持参している。
ちょっと高級な活性炭入りだと臭いも多少は防いでくれるようだ。
なるべく肌を出さない様にして、マスクと手袋をしてから川に近づいていく。
ゴーグルが有れば尚良かったが贅沢は言えまい。
三人で支流の川を覗き込み、絶句した。
「「「!!」」」
「……真っ黒だ」
真っ黒で粘りの有りそうな水?が支流を流れている。
本流の川に合流したとたんに茶色く泡立ち、薬の様な異臭が激しくなっていて、本流の澄んだ水を支流の黒い水が汚染していく。
そう。汚染していく。
本流も支流に汚染された後の下流は、死の風景に変わっていた。
「水質汚染と土壌汚染。」
昔の日本でも遭った。何でもかんでも垂れ流して、川を汚し、大地を汚し、海を汚した。殆どの生物は死に絶え、生き残った生物も奇形が生まれる惨事だった。
この臭いには覚えがある。
子供の頃、公害で汚染されていた川の臭いだ。
薬のようなドブの様な、目に染みる臭いがする川には生き物は…
回復するのにどれだけの年月が掛かったか。
死に絶え、取り返しの付かない状況も沢山あった。
そんな状況がここには現在進行形で広がっている。
「ボス、アル、いったん戻るぞ!」
「「はい!」」
その後は、全員で状況を確認することになった。
真っ黒な川を確認した後は、野営地を探して拠点を築く。
「さて、あの汚染状況は酷いね。」
「周囲に生物は一切居りません。また植物は粗方枯れています。」
「何を流してるのかな?」
「相当厄介な物だろうな。」
「……あれって、薬品製造の廃棄物じゃない?」
「薬品?」
「うん。今じゃあんな廃棄物は出ないけど、大昔の違法で粗悪な方法だと副産物で毒が出来る。その毒に似てない?」
「ああ!そうだね。臭いとかもそうだよね。」
「そうなのか……薬品製造?」
「そう言えば隣国って、交易が立ち行かないからって最近は薬品を交易に出してなかった?」
「「「「「………」」」」」
「これはもう国家間の問題として処理させてもらおう。真悟人さん、記録の方はお願い出来ますか。」
「了解しました。お任せ下さい。」
ロレーナ公爵の決断と真悟人の了承で解決の為の行動に出ることになった。
イネスの紹介でバトラショワディタに会った際、イカの漁獲量で相談したネーレウスが言ってたのは、きっとこの事だろう。
川がこの有様では、海も酷い事になっているに違いない。
海を確認しようとは思っていたが、いきなりぶち当たるとは思ってなかった。
あの汚染はヤバい。酷過ぎる。
この先、海までの間に集落が無いとは思えない。
惨状を考えたら非常に憂鬱な気持ちになるが、現在取れる最善の方法でもって住民を助けようと思う。
重い寄り道になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます