第197話 道中
王都にある神田辺境伯家の屋敷を朝食後に出発。
軽快に街道を走る。
ルバン王国から見て北西にある隣国。
主要な産業は小麦などが主体の農業国。果樹なども頑張ってた様だが、ルバン王国の様々な果実たちに押されて、輸出は行われていないようだ。
牙狼村でしか育たなかった果実たちだが、挿し木などによって王国内の他地域でも育てられる様になった。牙狼村産の果実とは1ランクも2ランクも落ちるが、王侯貴族だけの物では無いくらいには普及に成功した。
これを輸出するほどに広まった為、隣国は果実市場から撤退を余儀なくされた訳だ。
隣国へ向かう街道は、そこそこ整備されてはいるが維持出来ていない様子で、荒れた部分が目立つ。
周囲の風景はルバン王国内では青々と繁った畑や果樹園などが続いていたが、隣国に近付くに連れて荒れ地や雑木林が目立ち始める。
川を国境としていて、ルバン王国側の国境警備隊に声を掛ける。
両国間の交易は冷え込んでいるのだろう。数台の商人の馬車しか見受けられない。警備隊員に話を聞くと、王国から隣国へは食糧を中心に細々と輸出されているが、隣国からは薬?薬品?ポーション類が持ち込まれるという事だ。
一応、禁制品で無い事を確認してはいるそうだが…
報告をしてくれた隊長に酒を数本渡したら、隊員全員がお礼を言いに来て跪いた。
「神田辺境伯 ありがとうございます。」
「お前たち大袈裟だ。」
「とんでもございません!」
どうやらこの国境は寂れ過ぎていて、全く楽しみの無い場所らしい。
物資も細々としか入らないから、酒なんて最高の贅沢だとか。話を聞いて追加で酒を渡したら、隊員たちは狂喜乱舞の大騒ぎだった。
その様子を対岸の暗い眼差したちが見つめているのを真悟人たちは知らなかった。
ルバン王国と隣国との国境。
ここで一つ仕事がある。
国境警備隊の仕事には何処の誰が国境を通過したかの記録を取っている。
そうするとエリザベスの両親、ロレーナ公爵夫妻の通過の記録が必要となる訳だ。
当初は軽く考えていたが、記録無しは流石に不味いだろうと、急遽トゥミがロレーナ公爵夫妻を馬車毎連れて来て、素知らぬ顔で加わっていたが、隊長が気付いてまた隊員たちが全員で跪く騒ぎになっていた。
「真悟人さん。今夜はここで夜営して英気を養うって事で良いのかい?」
ロレーナ公爵は真悟人の事を「真悟人さん」と呼んでいた。
「ええ。折角ですから焼き肉でもやりましょうか」
「最高だね!公務をほっぽって来た甲斐があるよ」
「貴方!何を仰ってるんですか!人前でいけませんよ。」
公爵夫人も嗜めながらとても嬉しそうだ。
彼等も牙狼村の焼き肉と酒の虜になった人たちだ。
国境警備隊の宿舎の裏の河原に焼き肉の準備をさせて隊長たちにも声を掛ける。
「良かったら一緒にどうだ?当直などは飲めないだろうが、食事なら交代で取れるだろう。」
隊長も最初は遠慮していたが、肉を焼き出したら直ぐに折れた。隊員たちは遠慮する隊長を威殺しそうな目で見ていたが、Goが出ると狂喜乱舞が始まった。
「う、うめぇ!」
「こんな美味い肉、初めて食った!」
「ウワサ以上だ!至福の焼き肉!」
どんなウワサだか知らないが、焼き肉自体は広まっているみたいだな。
国境警備隊の狂喜乱舞を横目で見ながら、公爵とサシでビールに焼き肉を楽しんでたら、ボスが報告に来た。
「動き出しました。」
「ん?」
「対岸です。」
「あぁ…公爵?どうします?」
「そうだねぇ」
悪い顔でニヤリと笑って、「取り込んじゃおっか!」
「うん。了解。ボス、耳貸しな」
ボスは直ぐに暗闇へ消えた。
国境警備隊の面子が全員食い終わった頃、国境の川に架かる橋を20人くらいの集団がボスたちに連れられて、ゾロゾロと渡って来る。
全員痩せ細っており、ルバン王国のスラムの住民の方が色艶が良さそうだ。
薄汚れた制服を纏っているが、継ぎはぎで一張羅かも知れない。落ち窪んだ目はギラギラと焼き肉台を見つめていた。
隣国の国境警備隊。
想像以上に酷い環境に居る様だ。
コチラの焼き肉の匂いに惹かれてフラフラと橋を渡り出した奴等が居たので纏めて連れて来た。
全員を並ばせてボスが声をかける。
「此方に居られるのがルバン王国ロレーナ公爵閣下と神田辺境伯閣下だ。」
隣国国境警備隊の面々は跪いた。
アルファが続きを述べる。
「両閣下は明日、橋を渡り王都に向かう。貴様たちの現状を憂いた両閣下の慈悲に寄り、晩餐を振る舞う。また対価は必要無いと仰って頂いている。」
アルファの口上が終わり、ロレーナ公爵に一言お願いする。
「君たちは大変な状況みたいだね。辛かったらルバンへおいで。今日は十分楽しんでくれ。」
「皆んな分かってると思うが、家族も一緒な。心配すんな。私たちに任せておけ。嫌な者は無理しないでも良いぞ。以上だ。」
全員、半信半疑な顔をしている。
取り敢えず飯を食わせようと思うが、何も食って無さそうな身体にイキナリ肉は厳しいだろう。
ホロホロに肉を煮込んだカルビクッパを出して見る。ひと口啜った途端に全員が泣き出した。
「殺されると思ってた。でも、もう死んでも良い。」
「最高の最期の晩餐だ。」
「母ちゃんに食わしてやりてぇ。」
「子供たちに、子供たちにも…」
思い思いに泣きながらも食ってくれてるので大丈夫だろう。
「真悟人さん、アレ僕も食って見たいな。」
ロレーナ公爵夫妻がキラキラした目で見てくるので、追加で出したが、結局全員分出す事になった。
大量に作って置いて良かったよ。
お腹が落ち着いた隣国国境警備隊の面子は、現在の状況を色々教えてくれた。
割と近隣の村から纏めて徴兵されるので、元々友達だったりするそうだ。
小さな村から働き盛りの男を纏めて徴兵して、残った女から見目良い女は領主に献上される。
存続出来ない村も多い様だ。
もう末期状態であろう事は分かる。
では、どんな方針で進めようか?
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