第196話 出発
隣国に出発する当日の朝。
スティングはエリーに準備を整えて貰って、朝食を食べて出発するだけの準備万端であった。
食堂に真悟人とトゥミ達が現れて、一緒に朝食を取って出発する手筈である。
「あ、スティ、シャツのボタンが取れ掛かってます。ちょっと待ってて下さいね。」
エリザベスは相変わらず献身的にスティングの面倒を見ている。
本来なら、辺境伯嫡男に対する公爵家令嬢なのだから自分で動いたりしないし、気付かなければイケない筈のメイドを叱責するものだが、エリザベスは自分で動く。
メイドが動く前に主人が動いてしまうのはいつもの事だが、この辺りには事情があってエリザベスはスティングのお世話は私が行います。と、公言しているのである。
メイドたちは自分たちの仕事だと主張したが、エリザベス曰く私が気付けない部分は補佐をお願いします。と、真正面から宣戦布告。
メイドたちの闘志に火を付けたのだが、今回はエリザベスの勝利!
メイドたちの悔しそうな表情(表立って表情は変えていないが…)を見てエリザベスはドヤ顔で良し!と拳を握るのである。
そんな事情を知らないスティングは、
「あ、ホントだ。エリーありがとね。」
気軽にお世話されているのである。
生まれながらに貴族の嫡男だったらこんな気軽に済まないのだが、この緩さがメイドや執事たちの人気だったりするのは本人たちは知る由もない。
そんな所に真悟人とトゥミ、サラ、シャル、ユナたちが食堂に入ってくる。
それぞれ着席してメイドたちが給仕を行う。
最初は彼女たちも自分らで自分たちの食事を準備していたのだが、王都の屋敷ではメイドが行うので仕事を取らない様にと説得されて言いつけを守っている。
「ごめ~ん!遅れた。」
カレンが慌てて駆け込んでくる。
誰も騒がず、
「「「「おはよ~!」」」」と気軽に挨拶。
うん。この緩さが良い!とメイドたちは思うのだった。
……良いのか?それで?
「んじゃ、いただきます。」
「「「「「「「いただきま~す!」」」」」」」
一応、家長の真悟人が声がけして食事が始まる。
普通の貴族家ならば食事中に喋るのはお行儀が悪いとする家が多いらしいが、神田家では喋る喋る。
シャル「サラ、順番ありがとね~!」
サラ「いいよぉ。まさか(生理が)来るとは思わなかったからね。その代わり終わったら変わって貰うからね。」
シャル「うん。今回は(子供が)出来てるかも知れないから、少しの間変わってもらうかも?」
カレン「マジか!?」
ユナ「えぇ~!先越されんの嫌だなぁ。」
シャル「夕べは確率高かったからね!」
トゥミ「こないだは私も良い日だったから、私の方が先かも?」
「「「「えぇ~!!」」」」
真悟人は黙して語らず。若干顔が赤いか?
エリザベスは話題に交じり、将来設計?
スティングは居た堪れない……
朝食の話題には決して相応しくない内容で盛り上がっている。
そんな様子をメイドたちは生暖かく(内心ニヤニヤと)見守っている。
彼女たちはベットメイキングも行うのだから、バレバレである。
変態的性癖はあまり無く、嫁たちの趣味嗜好に答えられる真悟人は、メイドたちからも絶大な人気を誇る。
更に嫁たちを必ず満足させる技量は執事たちからは神と崇められている。
秘匿されるべき夜の生活が、使用人たちにバレバレなのは如何なものか?
知らぬは真悟人ばかりなり。
「朝食が済んだら1時間後に出発しよう。」
「「「「「「「はい。」」」」」」」
真悟人の言葉に全員が答える。
出発メンバーは真悟人の家族と護衛でボス達とアルファ達。他にもマンガリッツァ達。メンバー詳細は不明?だが、テキトーに入れ替わるらしい。
最初、隣国までの護衛の話が持ち上がった時に希望者が殺到して、牙狼戦隊を筆頭に500人以上が希望したので激しい争奪戦が行われたが、結局5人編成1チームとして6チーム30人が同行する。
そのうち実際には2チーム10人ずつ同行して、途中交代していく。
表向きはそうなっているが、実際はもっと細分化されていて人数も多い。その辺り良く知らない真悟人は、まぁ上手くやってくれ。と思っている。
行程は馬車で5日間ほどの道のり。
馬車が通れるのなら車を持ってくれば速いし良いんじゃね?と、ランドクルーザーを持ち出そうとした真悟人だったが、全員に全力で止められた。
しょうがないので馬車を現代日本仕様に分からない様に改造してあるのは真悟人らしいというか、何というか。
まだ日本に行った事の無いスティングは興味深々に馬車を見ていた。
なんせ車体はアルミ製を木製に見せかけて重量軽減。
足回りからタイヤはノーパンクタイヤだしサスペンション装備で乗り心地抜群。
ベアリングを多用して転がり性能抜群!ソーラーとバッテリーを積んで、電動アシストモーターで馬の疲労軽減できる優れものに仕上げている。
電動アシスト自転車を馬車に転用してみたのだが、馬たちは大喜びだとボスが言ってた。8人乗りの大型馬車だが、普通の荷車を引くより軽いそうだ。
大型馬車なのに2頭立て。普通は4頭立てにする大きさだが、これは馬自身も普通じゃない。
スレイプニルの血統でグラニと言われる馬たちである。
なんでそんな馬が出て来たのかと言うと、牛の姐さんの紹介である。
彼らは牙狼村の牧場にいつの間にか潜り込んで来て、牛の姐さんの下に付いたそうだ。すっかり居ついたグラニ達も自然と数を増やして行った。
最初は牙猿たちや魔狼たちに目茶目茶ビビってたらしいが、今では持ちつ持たれつの良い関係を築いているらしい。
そんなグラニ達の中から足自慢の馬たちが同行している。
因みにグラニは馬の魔物と思われている。
それは食生活が雑食の為。肉食の馬なので魔物だろうとなったのであるが、雑食なだけで狩りをして肉を確保する訳では無い。
昆虫や小動物を食べるくらいだと聞いたが、真悟人の所に居るグラニ達は焼肉が大好物だったりする。ステーキより焼肉!それも骨付きカルビが大好きで骨ごとバリバリ食うグラニ達はやはり魔物だなと思う真悟人だった。
グラニ2頭立てで引く大型馬車2台。御者はボスとアルファが務める。
エリザベスの両親、公爵夫妻は隣国に入ってから適当な場所で真悟人が迎えに行って、馬車ごと転移させる予定だ。
ただ快適そうな馬車の旅も味わいたいとの要望なので、1日前くらいには迎えに行こうと思っている。
隣国への馬車の旅、出発である。
……隣国ってなんて国だっけ?
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