第193話 結果

「メイド風情に謝る事の出来る旦那様は素晴らしいと思いますよ。」


「メイド風情とは言うが、私はメイドたちのお陰で毎日暮らして行けるんだ。それにお前は第1線の隠密メイド……」


 ハッとした。そうだ。メイドたちの顔ぶれが違う。

 いつの間にかメイドが入れ替わっている。

 何で気付かなかったんだ?おかしすぎるだろう。


「気付いちゃいました?」


「な、何か分かったのか?」


「お茶の味が変わったと思いませんでしたか?」


 お茶の味…そうだ!執事の奴が変わった茶葉を入手したとかで試してみたんだ。

 あれからか?いつだ?あれはいつだった?

「あ…思い出せない。」


「旦那様?もう、3年ほどになりますよ?」

 悲しそうな顔をしながら告げる。


「何?何故?なぜ、そんなにも?……」


「いいですか?ちゃんと聞いてください。あの執事が来たのは、4年前に下働きで来ました。そして、このお茶は認識阻害の効果があります。」


「なんだと?4年前?それでは、その時の執事は?入れ替わってたと言うのか?」


「はい。前任の執事様は… 」


 ここまで言われたら何があったのか予想できた。

「殺されてたか。」


「はい。」




 4年前に今執事をやってる男が入って来た。どんな手段で下働きに入ったのかは、当時のメイドを誑し込んだらしい。

 そして屋敷の者にお茶を振る舞い、少しづつ認識阻害を行ってから執事を殺害。成り代わることに成功する。

 最初は料理人の下働きに手の者を入れた。そして、認識阻害はあらゆる料理に利用されて、誰も気付けなかった。


 そうやって自分の息の掛かった者に人を入れ替えていくのだが。



 しかし、メイド長は娘の出産でしばらく故郷に帰っていたので、帰って来た時に異常な状況に気付く。知らない人間が増えて、知った者が居ない。

 その時には誰も疑問に思わず、人が入れ替わっても気付かない状況だったという。


 おかしいと言う事が分かっていても誰も分かってくれない。最初のうちこそ旦那様に訴えたが、自分の方がおかしいのでは?と思われてる様子。

 確固たる証拠が無ければ旦那様は説得出来ない。

 幸い、ちゃんと自分の事は覚えていてくれて、切っ掛けさえあれば何とかなりそうだと思い、大人しく様子を見ることにした。


 そして、ゴヤン君がスティングに絡み出した頃、アイーチ侯爵家を一人のメイドが辞めた。それは、宰相関係の家から侯爵家に奉公に来てた娘で、当然何故辞めたのかを問い質される。

 メイド長もその事を切っ掛けに侯爵に報告を行い、真悟人の所から隠密牙狼戦隊の面々が派遣される事になった。


 牙狼戦隊のメンバーは基本的に2人組である。

 派遣されたのは少女3人、少年2人。もう一人、少女が陰で動いていた。

 5人は表立って動き、一人が陰で連絡等を行う。普段居る者が居ないと不審に思われるために陰に徹する者を置く。これは一番腕の立つリーダーが行うことが多い。

 6人体制である事は、当然アイーチ侯爵も知らない。

 そんな陰のメンバーが、あらゆる所に記録の魔道具を設置し、集まる情報を精査し、ピンクとイエローに報告を行う。


 スティングが絡まれて、提訴された時にはほぼ内容は分かっていた。

 しかしバラす訳には行かないからスティングにも泳いで貰った。


 侯爵家だけでなく、子爵家、男爵家にも手を伸ばした侯爵家執事は当然に報告を行う。それは何処の誰に向けて行うのか?

 それが今回の焦点だった。



「本当の執事…セバスの亡骸は?…どうなってる?」


「既に骨となっていますので、どちらで弔うのかは旦那様の指示となります。」


「そうか。丁重に弔ってやらなきゃイカンな。」


「はい。仰せのままに。」


 私は、そんなに長い間騙されていたのか。そう考えると全身が怒りで熱くなってくる。それも、長年に渡り執事を務めていてくれたセバスを亡き者にされても気づかないまま……


 絶対に許せない。

 私の全てを賭けて報復を誓おう。



 私が思考に沈んでいる間、メイドの少女は黙って傍に居てくれた。

 こんな時に傍に居てくれる女性には、思わず気持ちを移しそうになる。

 親子以上も年の差がある上に、彼女は神田辺境伯の所の隠密部隊である。


「ん?」

 ここで疑問が生じた。

 牙狼戦隊って事は、彼女は牙猿か魔狼のはず…

 ブルッと身体に震えが来た。恐ろしきかな牙狼戦隊。気持ちまで奪われる所だった。


 …実際は彼女は人間で、ちゃんと成人してるし、アイーチ侯爵の気持なんかこれっぽっちも考えていないのだが、知らぬが仏。

 弱ってる時に優しくされると絆されてしまうのは人の性であろう。


 そんな事は置いておいて。

 そうして偽執事の目論見はバレたのだが、どうやって追い詰めるか?ここで逃げられたら全てが水泡と化す。

 周りから押さえて逃げられない体制を作ることにする。


 その間。子爵家A、男爵家Bの家もアイーチ侯爵の知らぬ間に包囲網が敷かれていた。この両家では侯爵家ほど手の込んだことは行われず、家人を取り込む方向で浸食されていたのだが…


 先に述べると、黒幕は子爵家Aの奥方だった。

 元々隣国の出身で、祖国からの依頼に嬉々として答えていて、事が成った暁には息子を連れて隣国に亡命という形で帰るつもりだった。

 だから彼女は息子を連れて帰れると考えていた訳である。


 侯爵家に偽執事を紹介したのも、認識阻害のお茶を仕入れたのも彼女だった。

 子爵家夫人という立場を利用して、様々な事で暗躍していたことが明るみになる。


 この女は元々隣国の実家から追い出されるように嫁いで来た。

 無気力で厄介者だった女が息子が生まれた事によって人が替わった。

 息子が全て。息子の為なら何でも行う。そんな所を国に付け込まれた様だ。息子の為にならない事であっても、息子の為ならという大義名分で盲目的に行う。ある意味狂人だった。


 この話を聞いて、トゥミ達は真悟人の嫁として、息子を持つ母として、皆で話合ったくらい衝撃的な話だったと後述している。



 男爵家は元々真面目な家であった事で付け入るスキが少なかった。

 領地の経営も、家庭の在り方も、家人の教育も真面目であり、息子が思春期で友達が悪かったと言えばそれまでだが、男爵家の子息が上位貴族の子息からの要求には抗うのは難しいだろう。

 それでも腰ぎんちゃくとして同様の悪さをしていたのは看過出来ない。

 親の意見としては、相談して欲しかった。と言う所だろうか。



 状況は全て明るみにされ、誰がどう動いたのかも判明した。

 後は何時何処で誰がどうしたかの裏付けと、今後の処遇の話し合いである。


 侯爵、子爵、男爵は揃って廃嫡を決意し、実際にどんな処罰を与えるかを模索した。

 方針が決まったところで訴訟が行われた。

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