第192話 心配

 タンターンと木槌が鳴ってスティングとエリザベスは立ち上がる。


 ゴヤン、A、Bと、何故かAの母親も兵士たちに連れて連れて行かれた。

 スティングとエリザベスは、はて?と思ったが、雰囲気的に周りが触るな!という感じだったので黙って真悟人達と部屋を出て控室の戻る。


「ふぅ~。無事に終わってよかったよ。」


「お父さん。…… 終わったの?」

 深刻な顔をしてるスティングと後ろで心配そうに見ているエリザベスを見て、ちゃんと話さないといけないと思ったのだが。


「あのな。スティング。……」

「真悟人?戻ってる?」

 トゥミが扉からヒョイと顔を出した。


「ああ、戻ってるぞ。ってかノックくらいしろって!」


「あはっゴメンね。他の誰も居ないと思ってね。…って、スティは随分深刻な顔してるね?エリーもそんな心配そうな顔しちゃって。」


「あ、あの。無事に終わったって。彼らの事とか、隣国の事とか、こんな短い間に簡単に終わるとは思えなくて。それで…」


「それでエリーもスティも深刻な顔してるの?」


「だって、あいつ等は強制労働って言ってたけど、鉱山とかで死ぬまで働かせられるのとか、ちょっと可哀想って言うか、あと、あの執事が隣国のスパイだったら、ゴヤンとか殺されちゃうんじゃない?だってバレて逃げたんでしょ?それに、こんなことから戦争とかになったら嫌だし…」


 トゥミは黙って腕を組んで聞いていたが、スティングが戦争に発展することまで心配してるのを聞いて、黙って抱きしめた。

「エリーもお出で。」

 大きく手を広げて二人を両肩に抱きしめる。


 その三人を真悟人は更にトゥミの正面側から抱きしめた。

「そうか。戦争まで心配してたか。」


 しばし二人の頭を撫でて、トゥミに頷いて見せる。

「うん。スティ、エリー。多分これからね、宰相たちが呼びに来るよ。だから二人とも、もう一度身嗜みを整えようか?ね。」


 そう言ってトゥミはエリザベスを連れて行った。

 スティングは真悟人を見上げて僕は?って顔をしたが、真悟人は一言。

「顔を洗ってこい。」


 スティングが顔を洗って着替えてるうちに本当に宰相の使いが呼びに来た。

 真悟人が簡単に返事をして、待っているとトゥミとエリーがお化粧を直して戻って来たので4人で部屋を移動する。


 ちょっと真面目な雰囲気で誰も何も言わないので、少し緊張してきた。

 エリーを見ても、うん。と頷くだけなので、やっぱり緊張してるのかも。


 そして移動したのは王族たちの控えの間。

 正式な謁見ではなく内輪で話すときにはこの部屋を利用する。


 コンコンコンとノックをすると、中から宰相が顔を出した。

「お待たせしました。」


「………」

 無言で中に入れられ、廊下を確認してから扉を閉じる。


 中にはルバン国王と王妃様と宰相。

 他に難しい顔をした文官数人と、アイーチ侯爵?A子爵?B男爵?先ほどの審査会でのメンバーが揃っていた。


「良し。当人が来たから始めようか。」


「はい。先ずは私たちから謝罪をさせてください。」

 そう言ってアイーチ侯爵が頭を下げた。


 突然の事に面食らって狼狽えるスティング。

 エリザベスを見ると平然とこちらを見てニッコリ笑う。

 うん。可愛い。

 いやいやいや。そうじゃない。


 動揺してるスティングを見て、大人たちが順に説明をしてくれた。




 事の起こりからアイーチ侯爵が話してくれる。

 執事の言動がおかしい事に気付いたメイド長がアイーチ侯爵に報告した。先代の時から仕えてくれてる信頼の置けるメイド長だった。


 最初はメイドや下働きの男が辞めて行って、代わりに素性のあやふやな人間を雇い出した。それも全て執事の采配によって。


 普通に貴族家では使用人が早々に辞めるなど、余程の事が無い限り考えられない。

 大抵は素性のしっかりした人間で、それなりの筋から紹介があって貴族家に入る事になる。メイドなども下級貴族の娘だったりとちゃんと教育もされている者たちであるにも関わらず、それが複数人も入れ替わるなど有り得ない事だった。

 それも当主であるアイーチ侯爵に何の報告も行わずに人事を行うなど、絶対に在ってはならない所業である。


 メイド長は、旦那様には確認を取ってあるとの執事の説明には納得出来なかった為に、旦那様には内密に報告する事にして、報告を聞いた侯爵は、最初は半信半疑な様子だったが、目を掛けていた庭師見習いなども辞めている事実から執事の行いに何かの確信を得た様だった。

 侯爵は、この事を公にしない様にする事と、逐次報告する様にメイド長に命じた。

 そしてこの話を国王に報告を行い、宰相から神田辺境伯を紹介された。


「牙狼戦隊の隠密部隊を貸しましょう。」


 なんと!王族の影すら翻弄するという牙狼戦隊の隠密部隊!!

 そんな部隊をあっさり貸してくれるというこの男。

 後の見返りが怖いとも思ったが、腹を括って借り受けることにした。


 牙狼戦隊の隠密部隊としてやって来たのは、5人ほどの少年少女?メイドとして少女が3人に下働きの見習いとして少年が2人。

 こんな子供たちで大丈夫か?と思ったが、後日、彼らの働きに舌を巻くのである。


 最初は隠密からの報告で辞めていった人間の所在が分かった。

 辞めたその理由も。

 余りにも理不尽なその内容にアイーチ侯爵は執事に対して殺意すら覚えた。

 でもここでバラす訳には行かない。徹底的に追い詰めて本性を暴いてやる。


 彼らの働きで次々に明るみになる不正や横領。

 それに嫡男であるゴヤンに近づき、色々と良からぬ事を吹き込んで、洗脳紛いの事まで行っていると言う。


 そして、取り巻きであった子爵家Aと男爵家Bも巻き込んで良からぬ事を企てている事も判明した。

 もう我慢ならんと思い出した頃に、神田辺境伯の嫡男スティングに絡み出したとの報告を受けた。

「それはイカン!絶対に阻止するべきだ!」

 そう訴える私に、隠密メイドの少女はあっけらかんと答えた。


「真悟人様は放って置けと仰ってます。スティングがどう対応するか見物だな。と面白がっていらっしゃいました。」


「なんと!!私は我が息子ながら馬鹿さ加減にぶん殴ってでも止めようと思うが、スティング殿は大丈夫なのか?」


「さぁ?」


「さぁって…おいおい。」

 隠密メイドの少女は小首を傾げてニッコリ笑う。

 少女と話していると何となく調子が狂うと言うか、感情的になりそうなのが肩透かしを食う様な。ちょっと気の抜けた気分になる。ある意味、冷静に居させてくれると言うのだろうか。彼らにはこのままこの屋敷に居て欲しい気持ちになる。


 そんな少女が小さな箱を取り出した。

「これを使おうかと渡されました。」


 んん?今、何処から出した?不思議に思いながら渡された小箱を開けると、中には石の様なガラスの様な魔石が入っていた。

「ん?なんだこれは?……小さな魔石が繋がって、こんなに綺麗に丸い魔石など見た事無いぞ?何をする物だ?」


「これと同じ物があちらの扉の上に有ります。お気づきになりますか?」


「は?何処にそんな物が?」

 近づいて扉の上周辺を探して見るが見つからない。


 少女が近づいてきて、よっとジャンプして何かを摘まんだ様だが?

 軽々よっとジャンプしたが、私の身長くらい飛ばなかったか?

 この部屋はかなり天井が高いぞ?


 扉の上、天井付近の隙間から摘まみ出したもの。それは先ほどと同じ繋がった魔石だった。

「ご覧になります?」


「??」


 机の上に別の小箱を出した。

 だから何処から出したんだよ?おい?


 箱が光り出した。

 何だ?これは?


「あちらをご覧になって下さい。」

 手を向けられた方を見ると。


 えっ!?私が居る。私がこの隠密メイドの少女と向かい合って何かを話している。

 何だ?これは?どうなっている?


「あ、音声も要りますよね。」


 何かを弄ると小箱がしゃべりだした。

『「真悟人様は放って置けと仰ってます。スティングがどう対応するか見物だな。と面白がっていらっしゃいました。」』


『「なんと!!私は我が息子ながら馬鹿さ加減にぶん殴ってでも止めようと思うが、スティング殿は大丈夫なのか?」』


『「さぁ?」』


『「さぁって…おいおい。」』


 私と少女の絵が動いて先ほどと同じ話をしている。

「ど、どうなっている?」


「記録の魔道具です。」


「記録の魔道具?」


「魔石に映したものと音を記録する魔道具です。」


 と、とんでもない物が出て来た。

 こんな革命的な魔道具が存在するなんて聞いたことも無い。

 あんな小さな魔石で写されたら、隠し立て出来ないだろう……


「あっ!そうか!!コレで写されたら証拠が出来るって事だな!」


「旦那様。声が大きいです。」


「あ。すまん。」


 少女はクスッと笑って

「メイド風情に謝る事の出来る旦那様は素晴らしいと思いますよ。」


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