第191話 結審
人身障害に対する訴訟が隣国がらみの事態に発展。
子供達には当事者以外には関係無しとして、いったん休憩を挟み結審する事となる。
休憩後
「アイーチ侯爵家令息ゴヤン殿からの訴訟破棄。子爵家及び男爵家もこれを了承。結審結果は王妃様からお願いします。」
「まず、侯爵家令息ゴヤンからの訴訟破棄。これは受理しよう。今回は周囲への影響が大きすぎる。しかし、貴様の要求は金貨100万枚だったな。ゴヤン?これはどんな意図で出された金額だ?」
「ッ……」
まさか訴訟の要求内容に対する質問が来るとは思わなかったゴヤン君は挙動不審になりながらも言葉を発する事が出来ない。
「……黙っていては分らん。正直に申してみよ。」
「あ、あの……ゥ……」
「言えんか?ならば時間も惜しいから質問を変えよう。ゴヤンはもう一つの要求。公爵家令嬢エリザベスと辺境伯家令息スティングの婚約破棄も求めたな?これもどういう了見だ?」
「ァ……」
ゴヤン君はダラダラと汗を流しながら俯いている。
「これも言えんか?」
俯いたまま拳を握りしめ、震えるゴヤン君。
「ゴヤン!顔を上げろ!」
王妃様の一喝にビクッと身体を震わせ、恐る恐る顔を上げる。
「A!B!お前たちもだ!向き直れ!」
彼らは何処か他人事の気配があり、お前たちも当事者であると言われた事に委縮しながらも顔を上げ、姿勢を正す。
「お前たちはアイーチ領の年間予算を知っておるか?あ?ゴヤン?」
「ゥ……」
「まさかコレも答えられんか?」
心底呆れた表情の王妃様に対して、俯くことも出来ないで半べそのゴヤン君。
「A、Bは自領の予算は分っているか?」
答えられる筈もないAとBも泣きそうな顔で天井を見ている。
「お前たちは今まで何を学んできた?ん?」
侯爵、子爵、男爵の3人の当主は恥ずかしさと怒りの余りに顔を真っ赤にして耐えている。如何に自分の教育が疎かだったかを認識しながらも息子に腹を立てていた。
「スティング。お前は自領の予算は分っておるか?」
突然振られたスティングは、出掛ける前に話題になった内容だけにスラスラと答える。更に現在の特産や今後の戦略までと余計な発言までして真悟人に小突かれるオマケ付き。
ふっと一瞬微笑んだ王妃様が再び厳しい表情でゴヤン、A、Bに向き直る。
「聞いたか?‥‥‥金貨100万枚の価値が分かるか?お前たちは他領を潰す心算の金額提示をして、ルバン王国自体を窮地に陥らせようと目論んだ事になる。」
今度はさすがに3人ともに俯いてしまった。
「それだけではない。エリザベス。お前の所の予算はどうだ?」
我が意を得たりと自領の予算(さすが公爵領だけあって桁違い。)と今後の展望を話す。内容は神田辺境伯領との連携により多額の経済効果が見込まれる事と、それに伴うインフラの整備による公共事業の拡大。更に食料自給率の安定と就業率のアップも見込まれる。
その説明にはアイーチ侯爵と他の参加貴族たちも感心するばかりだった。
「スティングとエリザベスの婚約の意義も理解したか?更にこの二人は互いに思いあっておる。その仲を引き裂こうと言うのか?」
「「「………」」」
「お前たちの性根を問うておる?どういう心算だ?」
「も、申し訳ありませんでしたぁ!」
男爵家Bがスティングとエリザベスに向かって走り寄り土下座をした。
「僕はスティングが羨ましかったんです。エリザベスさんは高値の花で、経済的にも恵まれたスティングが羨ましくて意地悪や嫌がらせをしました。本当にごめんなさい!」
土下座をしているBに向かって、エリザベスと顔を見合わせたスティングは、
「えっと、先ず顔を上げて下さい。」
そう言ってBの前に膝を着いた。
えっ?と困惑してるBは思わず顔を上げる。
「僕たちはまだ話もした事無いですよね?だから意地悪とかそんな事も僕は感じて無くて。ただ君は彼らと一緒に居ただけの様に感じるんだよね?」
そんなスティングの言葉にBは、
「僕は一緒に居ただけじゃなくて、悪口も嫌がらせもやってたんだ。だから同罪なんだよ。本当にごめんなさい。」
そう言って土下座のままスティングとエリザベスに頭を下げ続けるBの姿にどこか居た堪れない気持ちになるスティング。
「僕もね、悪さするとお父さんに怒られるんだけど、そん時にサ、ちゃんとごめんなさいをして何が悪かったのかを言うと、お叱りが減るんだよ。ちゃんと自分で反省するのが大切なんだって。だから君はちゃんとごめんなさい出来るから大丈夫だよ。」
何が大丈夫かは分からないが、そんなスティングのセリフにエリザベスもクスッと笑った。
「そうですよ。悪いと思ったらちゃんと謝れるのが大事と私もお母様と王妃様に……」
あっ!?と余計な事を言いそうな事に気付いたエリザベスは、ニコニコと笑顔で誤魔化して、
「お母様と王妃様に優しく諭されるんですよ!」
危うく難を逃れるエリザベス。鬼の様に怒られると言わなくて良かったとスティングとのアイコンタクトで頷くのであった。
男爵家Bがサッサと投降して残されたゴヤン君と子爵家Aは、どうして良いのか分からない。二人とも甘やかされて育ったので、プライドも高いし人に謝った事も無い。
ただ、この場は自分たちが糾弾されて大変な事になるのだけは分る。でも、謝罪した事が無いのでプライドが邪魔をして動けなかった。
「ふ~……ゴヤン、A、時間切れだ。これを見ても動けないんじゃ無理だろう。」
王妃様の慈悲のひと時は終了した。
そのセリフにアイーチ侯爵は終わったと思った。またAの父親の子爵も終わったと思った。Bの父親の男爵は神妙な表情をしていた。しかし、Aの母親はこれでAを連れて帰れると思った。
この流れで何故その考えに至るのかは誰にも分からない。
「今回の審査会、結審により沙汰を申し渡す。これは人身傷害の訴訟では無く、見せ掛けた国家転覆罪に相当するが、被疑者が無自覚により査証偽装罪等としての審議を下す。よって、被疑者はゴヤン、A、Bであり、被害者はスティングとなる。」
「先ず、男爵家B。反省の態度有り。被害者に対して真摯に謝罪し、被害者側も謝罪を受け取ったと見なす。よって強制労働1カ月その後、被害者に仕える事。」
それを聞いた男爵はスティングに跪いてお礼を述べた。
「スティング様とエリザベス様。申し訳ありませんでした。お二人の慈悲あるお言葉にBは罪を償う事が出来ます。本当にありがとうございます。」
男爵家当主の跪いての涙ながらの謝罪とお礼にスティングとエリザベスは面食らったが、この場で有罪となると、命の危機になる事を理解して謝罪を受け入れた。
「どうか頭をお上げください。貴族家当主の方に頭を下げられると困ってしまいます。僕は父の助言に従ってるまでです。ですからお話は父として頂けると助かります。」
話を振られた真悟人は、スティングの成長に嬉しく思いながらも表情に出してはイケナイと顔を強張らせながら男爵と話をする。
その様子から、王妃様が次の沙汰を下す。
「さて、侯爵家ゴヤンと子爵家Aよ…」
今までで一番難しい表情で二人を見る王妃様だが、二人は気付かない。
Bが恩情持って許されるのだから当然自分たちもそうなると思っている。
何処までも自分本位な二人だった。
察した王妃様は、簡潔に述べる。
「ゴヤンとAも強制労働だ。」
「「………」」
最初は理解できない二人であったが、段々と言葉の意味を考えてみて…
「「「えぇ~~~!!!」」」
子爵家Aの母親も加わって大騒ぎであった。
国家転覆に相当するような事を企てて於いて、命が有るだけ有難く思え。
不満なら子爵家の細君も同罪として裁いてやるが如何する?と脅されて彼らは黙った。
罪の詳細を突き付けられて、命か労働かを問われて何も言えなくなったのである。
「この結審に不満が在るならば三日以内に理由とそれなりの証拠を持って再審請求を行え。今回の場合なら記録の魔道具が捏造だった等の具体的証拠だな。
以上。閉廷とする。」
タンターンと木槌の音が響く。
そんな中、アイーチ侯爵は真悟人を見ながら頭を下げた。
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