第190話 審査会
審査会当日。
真悟人とスティングは出席するための準備を行っているが…
「ちょっと待ってくださいね~。」
トゥミとエリザベスも行く気満々の様だ。更に。
「ちょっと!あなた!先に行って宰相に少し遅れそうだと伝えて下さいな。」
「いやいや、そんな事言える訳無いだろ?」
「もう、こういう時に権力使わないでどうするんですか?エリザベスのドレスが掛かってるんですよ?」
一同、それは違う気がすると心が一致した瞬間だった。
そう、何故かロレーナ公爵夫妻も真悟人とスティングの家で準備していた。
審査会には真悟人とスティングだけではなく、トゥミも母親として付いて来ると言う。そしてエリザベスは婚約者として婚約破棄なんてさせないと、公爵夫妻は婚約者の両親として付いて来るそうだ。
この権力者たちが来たら、白も黒と簡単に引っ繰り返せるだろう…
更に事前通達には王族も閲覧すると来ている……
これ、絶対面白がってるよね?でも、王妃様までが参加するって事に彼らの怒りの波動を感じるのは間違いじゃない気がする。
そんな不穏な空気を感じながら馬車2台で王城に向かうと、王城に付いた途端に近衛騎士に囲まれる。
「神田辺境伯様とスティング殿とお見受けします。」
「あ、ああ。」
「審査会会場まで護衛致しますので、物々しい状況ご理解下さい。」
なんだ?
一体何が起きたんだ?
全員が物々しい雰囲気の中、審査会会場控室に到着した。
「お父さん?何が起きてるのかな?」
「さあな。レッド?居るか?」
牙狼戦隊、隊長のレッドが真悟人の横に跪く。
「ここに。」
厳戒態勢の王城内でも当たり前の様に現れる牙狼戦隊のスキルの高さに感心する。
「何があった?」
「侯爵家に隣国の間者が入り込んで居たようです。」
「執事か?」
「ご明察で。」
「分かった。引き続き頼む。」
声も無くレッドは消える。
「スティング、聞いたな?気を引き締めろ。トゥミ達にはピンクが行ってるだろう。」
些細な子供の喧嘩ではなく、国同士の小競り合いに発展しそうな予感に真悟人は溜息を吐いた。
審査会
それぞれの入場口から会場に入る。
真悟人が入場すると既に侯爵家、子爵家、男爵家とメンツは揃っていた。
観覧席には公爵夫妻とエリザベス、トゥミ達も揃っている。
ただ、相手には前回散々面倒くさい事を言っていた執事たちは居ない。
いや、男爵家の執事だけは居た堪れない様に小さく座っていた。
ああ、そういう事か。
納得した所で議長たちが入場、更に王族の入場となる。
なんと、王妃様が仕切るようだ。
ルバン国王は微妙な表情でこちらを見て頷いた。
ああ、理解したよ。色々と読めなければ貴族なんてやってられないだろう。
サラリーマンでブラック企業に勤めていた恩恵がこんな場面で発揮される。
嬉しくないね。
タンタン。
議長からの木槌の音が響く。
「アイーチ侯爵家令息ゴヤン殿から訴状。子爵家令息Bに対する暴力行為の審査会を開始します。」
「先ずは子爵家令息Bからの要求から確認します。」
「お待ちください。進行を遮り申し訳ありません。」
侯爵家当主、アイーチ侯爵から待ったが入った。
「このまま発言して宜しいでしょうか?」
ルバン国王ではなく、王妃様が頷く。
「ありがとうございます。先ずは今回この様な大きな事態に為りました事、お詫び申し上げます。そして今回の審査の内容ですが全面的に取り下げさせて頂きたくお願い申し上げます。」
王妃が手を上げ、それに議長が答える。
「それはどういった趣旨の下に取り下げる?今更無かった事には出来まいぞ?」
「はい。恐れながら申し上げます。まず、この状況がアイーチ侯爵家として望まない状況であります。その理由と致しましては、わが家の恥を晒す内容ですが…」
アイーチ侯爵が言い淀む。
大量の汗が滴り落ちる。
「それが…」
覚悟を決めて発言したが、余程言い辛いのか中々後が続かない。
しびれを切らした王妃から催促が入る。
「構わぬ。ここの人員は外には漏らさぬ。申してみよ。」
「は、はい。…わ、我が家に間者が入り込んでおりました。」
「……」「……」「……」
一瞬どよめきが起きかけたが、王妃や宰相が冷静に受け止めたので直ぐに静まる。
「ほう?間者とな?王宮に報告は来ていないがどうなっておる?」
「はい。間者の確証が取れたのが夕べ遅くのためにご報告が遅れました。」
「ここでその報告を行いたいという事か?」
「はい。審査会の場では在りますが、ここに至った経緯も含めてご報告いたします。」
・・・・・・
「……以上となります。」
「要するに、過去数年も前から隣国から執事として間者が入り込み、侯爵家の嫡男を傀儡とするべく暗躍してた訳だな。」
「おっしゃる通りです。使用人に関しましても半数以上は息の掛かった人間で、それ以外の者も執事から攻められれば抗えない状況でした。」
アイーチ侯爵の説明は続く。
審査会として開催している為、厳重な警備を敷かれているので外部からの侵入は出来ないが、逆に外部に出る事も叶わない。
アイーチ侯爵家令息ゴヤンと子爵家A、男爵家Bは当事者として厳しい追及を受ける事になるが、スティングは立場が異なる。
斜め上の展開に、最初こそ困惑したが興味を持って聞いていた。
それも長くなると次第に飽きてきて眠くなってきてしまった。
思わずエリザベスもそれに釣られてしまう。
それに気付いた王妃様が一旦休憩を入れてくれた。
「大まかな話は分かった。詳細は関係者で詰めよう。スティングやエリザベス達には荷が重い話でもあるからな。」
王妃様の微笑みにエリザベスは眠いのを気付かれたと恥ずかしくなってしまった。
顔の赤いエリザベスに
「エリー?どうしたの?」
欠伸で涙目のスティングが問いかける。
「知りません!」
怒るエリザベスに訳分からない、何処までも呑気なスティングだった。
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