第188話 裁判っぽい何か
公爵家との婚約破棄と賠償金100万を要求。
神田真悟人の反論。
「彼らの証言は事実無限であり、スティングを陥れて公爵家との婚約破棄させるのが目的であり、卑劣な行為と言わざるを得ない。
この行為が虚偽の証言であった場合は侯爵家、子爵家、男爵家はどう責任を取られるのか?」
侯爵家、子爵家、男爵家はそれぞれの執事が参加していた。
当主は誰も来ていない。子供の些細な揉め事と軽く見て執事に任せていたのである。
執事たちは子供等の証言を鵜吞みにして、裏付けを取っていない。
真悟人の言う、貴族家としてどう責任を取るつもりか?との言葉に大いに憤った。
「貴殿こそ子息の行いでこの状況になっている事についてどう責任を取るのか?
公爵家との婚約破棄と賠償金100万では済まされない。
どれだけの覚悟を持って貴族の責任を問うのか聞かせて頂きましょう。」
「ほう。これは面白い。
貴族家ご当主でも無いあなた方は私が求めた内容に対応して頂けるのですか?」
にやっと悪い顔で笑う真悟人に男爵家の執事は怯んだ。
「いや、男爵家はご当主にお伺いを立てないと私では判断できないので、内容だけ伺いましょう。」
それを聞いて侯爵家は裏切り者と糾弾した。子爵家は令息がケガをした事実があるので引くに引けなかった。
ゴヤン君、A、Bの三人は予想以上の白熱ぶりに三者三様の反応を見せていた。
ゴヤン君はこのまま糾弾して婚約破棄させればエリザベスは自分と婚約できると考えている。
Aは自分はケガなんてしていないのに、ケガを見せろと言われたらどうしようかと子供らしい浅はかな心配をしていた。
Bはビビり捲っていた。ちょっとちょっかいを掛ける程度の心算で居たのに、予想以上の大事になってしまった。父親に内緒で執事にお願いして来て貰ったので、貴族としての責任と言われて父親に説明できないと震えていた。
ある意味、男爵家Bが一番真面なのかも知れない。
審査会、議長が要求を確認する。
「よろしい。侯爵家、子爵家、男爵家、三家の要求は、辺境伯家令息スティング殿と公爵家エリザベス嬢との婚約破棄及び、賠償金100万とある。この100万とは何を指しますかな?100万円?金貨100万枚??それとも白金貨100万枚ですかな??」
この議長の要求内容確認にはどよめきが起きた。白金貨100万枚はもう国家予算オーバーである。茶目っ気たっぷりに真悟人にウィンクして見せた。
真悟人は釣られて笑いそうになり、俯いて懸命に堪える。
傍から見ると、余りの金額に震えているようである。
ゴヤン君は考え無しに100万と相談も無しに決めた。執事たちはこの場で初めて聞いた内容であった。
流石に白金貨100万枚は無いにしても、金貨100万枚でも普通の貴族家では準備出来ない。金貨1枚10万円✕100万枚=1000億…十分国家予算ですね。
ここで更にゴヤン君は余計な事を言ってしまう。
「これは金貨100万枚だ!」
審議会一同、大きなざわめきが起こる。
どれだけ常識外れな発言があったとしても、全て審議の対象となるので周囲から咎められることは無い。
「そう、ですか。流石に金貨100万枚は一片には出せませんね。ですから年間10万枚、向こう10年間で支払うと言う事でどうでしょうか?」
それでも年間100億円という金額。常識的に考えて無理である。
調子に乗ったゴヤン君。
「良し。それで良いだろう。遅延は許されないぞ。」
自分が貰う気満々で答えるゴヤン君。
執事たちは真っ青である。
万が一負けたら?そんな思いが浮かんで、それは自分の命に直結する。
いや、侯爵家の執事だけは微妙な表情で大丈夫かと勝てるのかと思案中であったが、流石にあと数年で成人する侯爵家嫡男が勝てない審議会でこんな大勝負には出ないだろうと思った。常識的には100万円でも十分過ぎるのに、こんな非常識な金額を吹っ掛けるのは、それだけ確信があると考えた。
先ほどのやり取りでも「どれだけの覚悟を持って貴族の責任を問うのか」と言う問答をしている手前、今更こちらから減額も出来ない。ただ実際には払える範囲に収まる筈である。
「では、神田辺境伯家の要求を聞きましょうか。」
議長の静かな声が響く。
「そうですね。先ず賠償金に関しては同等が慣例でしょう。婚約に関してはまだ婚約していない様ですので、……先ほど侯爵家の方が貴族としてと仰られたので爵位を掛けましょうか。爵位返上する気概はありますかね?」
これには今までで一番のどよめきが起こった。
審議会で爵位返上まで言及した事は今までには無い。
それほどの重大事項である。
大体、貴族としての責任は真悟人が言い出した事。上手い具合に相手から言質を取っておこうとする。
流石にこれには執事たちも言葉を濁した。
「さ、流石にご当主様に代わってその様な重大事項はお約束できかねる。」
「ほう?先ほどの言葉とは違いますな?貴族の覚悟と責任云々はどうされたのですかね?まぁ私も鬼じゃない。使い走りの方々には酷な要求でしたかな。」
このセリフには執事たちは顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。
しかし、受けるとも言えない。
「まぁ良いでしょう。一応こちらが正義だった場合の話です。条件だけお伝えして其の上で無理だと言うなら考慮してあげましょう。」
これは完全に見下した話だった。出来ないなら考慮してあげますよ。と言われているのである。貴族の世界でこれを了承したら末代まで馬鹿にされるだろう。メンツを踏み躙られる話を当主に持って行ったら、その場で命は無いだろう。
しかし、受ける訳には行かない。だから使い走りと馬鹿にされているのである。
ここまで話が大きくなるとは考えていなかった。
答えられずに黙していると、議長から一言あった。
「神田辺境伯。そんなにイジメてやりなさんな。」
「そですね。悪乗りが過ぎましたか。」
これに笑いが起きた。
余りにも馬鹿にされた、見下された一瞬に頭に血が上った。
「いいでしょう。私から旦那様にこの条件をお伝えしましょう。」
言った。言ってしまった。
これで物理的に首を落とされても文句言えない。
一応、議長から確認が入った。
「侯爵家の代表として引けなくなりますぞ?宜しいのですか?」
「大丈夫でしょう。勝てば宜しいのですから。ゴヤン坊ちゃまがあそこまで仰られたのですから、旦那様もご理解下さるでしょう。」
これでゴヤン君も逃げられない。
正に一蓮托生。些細な子供の悪だくみから事が大きくなり過ぎたが、それに気付くにはもう少し掛かる。
「よろしい。互いの要求は出そろいました。本日はこれで閉廷します。本日の要求決定事項を踏まえて後日証人喚問及び証拠の判定を行います。ではご苦労様でした。」
最初の強気は何処へやら?訴え出た方が意気消沈して退廷して行く。
「お父さん、すごい大事になってる気がするんだけど…」
「そうだな。向こうも引けなくなってるみたいだな…それでも、命が掛かる事態は避けたいなぁ。あの侯爵家の執事はヤバそうな覚悟をしてる見たいだし…」
議長を務める宰相に命掛けは避けられるように根回しして置こうと考える真悟人だった。
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