第187話 一方その頃
その頃のスティングとその状況。
神田スティングとエリザベス・テレーザ・ディ・ロレーナ。
11歳と12歳で一つだけ年上女房。
エリザベスは公爵令嬢であり、容姿端麗、頭脳明晰な高値の花だった。
スティングは平民の息子でありエリザベスとは釣り合わない立場だったのだが、真悟人が叙爵して尚且つ陞爵して辺境伯となれば、辺境伯令息と公爵令嬢として身分も釣り合う。
ルバン国王を筆頭に王妃もロレーナ公爵夫妻もスティングとの婚姻は大いに喜んでいた。
問題は周囲の高位貴族たちを黙らせる手段を模索していたが、真悟人が爵位を受け入れるとの事で、この縁談は一気に進んだ。
そこにはエリザベスの猛烈なプッシュがあったことは言うまでも無い。
本来なら平民がいきなり叙爵してさらに陞爵して辺境伯なんて有り得ない。
ただ、今回は状況が違った。
様々な功績が大きすぎる。それこそルバン王国の根底を覆すような事さえある。
迷宮魔女の森は難攻不落の森として恐れられてきた。そんな場所に拠点を築き、細々と繋がっていたエルフとの交易を果たした部分で叙爵。今までの交易の不正を暴き、更にクーデターの鎮圧や新規技術の導入など諸々の功績で陞爵して辺境伯となる。かなりごり押しの無理強いだが、一つ一つ数えてたらキリが無い様な功績に報い、この王国に繋がって居て貰えるのは爵位と婚姻が一番だ。
爵位に関して、ず~~~~っと辞退されていたがスティングとエリザベスの話があってからは、流石に本人だけの問題じゃないと考え直してくれたようだ。
そんな様々な問題を乗り越えて婚約を終えたスティングとエリザベスの二人だが…彼らの生活は何も変わっていなかった。
互いにまだ学生の身分。スティングはまだ後2年あるしエリザベスの方も後1年ある。二人とも寮住まいで、エリザベスは寮長でもある。
中々生活を変える訳には行かないし、10代前半で一緒に生活など出来ないだろう。
ただ、周囲の目は変わった。
特にスティングに関しては平民と侮る輩は減ったし、公爵令嬢の婚約者ともなれば下手な事をすると親の顔に泥を塗る事にも為りかねない。
逆に摺り寄ってくる面倒くさい輩が増えたのも事実である。
好意的に寄って来るならば対処のしようは幾らでもある。
態々敵対しようとは思わないし、相手の立場や状況を考えて大人に相談できるのだから。
ただ、何処にでも阿呆は居るもので、真っ向からイチャもんを付けて来る輩も居る。
今日のスティングは自由課題で、偶々学校の外れで薬草を採取していた。
そこに近寄って来た3人が居た。それも一人になったタイミングを見計らった様に声を掛けて来たのは侯爵家の嫡男とその取り巻きである子爵家の嫡男と男爵家の嫡男。
今までも事ある毎にスティングに絡んできてたが、基本的にスティングは関係ない人間にはそっけない態度をとる。誰にでもニコニコとしてる訳では無いので意外と交友関係は狭い。
そう言う点ではイネスの方が交友関係は広いだろう。
それに牙猿のボス達の息子たちワンス、トゥース、スーリーが上級生に居て彼らに逆らう奴は居ない。
その彼らと同じ村出身で懇意にしてるスティングにちょっかいを出す奴なんて居なかったのだが、爵位など親の立場が絡むと勘違いしたりする奴は出てくる。
そこに公爵家令嬢のエリザベスと婚約したことにより、嫉妬で抑えが利かなくなった者がいた。
「お?そこに居るのはスラング君じゃないか?」
「……」
ワザと名前を間違えて呼ばれたスティングは当然、無視。
黙って薬草採取を続けていた。
「おい!スラング!侯爵家のゴヤン様が呼んでるんだから返事をしろ!」
ちゃんと取り巻きが二人居て、懸命にサポートをする。
「……」
「おい!返事をしろ!」
取り巻きAが薬草を摘んでいる手を蹴飛ばそうとする。
サッと避けて、Aの足を払う。
蹴飛ばそうとした取り巻きAは足を払われて尻もちを着いた。
「何するんだ!?俺に暴力を振るったな!」
「……」
無言のまま迷惑そうな目を向ける。
「スラング君。君はAに対して暴力を振るったな?これは報告する必要がある様だ。僕らは君に声を掛けただけなのにAにケガをさせたんだ。」
滅茶苦茶なこじ付けである。
「好きにすればいい。」
そう一言残してスティングは消えた。
「な!?消えた!?」
転移を使った訳では無い。
ただ近くの木に飛んだだけだ。
「まったく飽きもせずによく絡んでくるよな。」
木の上から侯爵家ゴヤン君と取り巻きA、Bが立ち去るのを眺めていた。
居なくなってから木にぶら下げていた魔道具を止める。
「お父さんに言われて魔道具を置くようにしたけど、役に立つかもね。」
エリザベスと婚約して絡んでくる貴族の子弟が増えたことを真悟人に相談したら、とにかく証拠を残すようにと言われて、記録の魔道具を設置するようにした。
これは日本ではビデオカメラと言うそうだけど、魔石で再現できたとお父さんは随分と喜んでいたんだ。
メンドクサイと思ってたけど、こんな時は設置してて良かったと思うよ。
魔道具を回収してスティングも寮に帰った。
後日、貴族の子息が暴力を振るわれてケガをしたと王宮に訴えが出された。
真悟人がバトラショワディタとネーレウスとの会談から戻って数日経った頃、王宮から呼び出された。
内容はスティングが人にケガをさせたと言う。詳細を聞くと、子爵家のAが薬草を摘んでいるスティングに声を掛けて近づくと、薬草を踏むな!と足を殴られてケガをしたと言うのだ。
「スティング、そんな訴えが出てるぞ?」
「うわ~!メンドクサイ!」
「心当たりあるか?」
「あるよ。ん~と…はい、コレ。」
真悟人に大きめの魔石を手渡した。
「ちゃんと撮ってたか。んじゃ、見てみるか。」
魔石を魔道具にセットして再生させる。
「あぁ~……お前がめんどくさがる訳が分かるわ。」
そこにはスティングを蹴ろうとして、除けられて足を払われる絵がしっかり映っていた。
「こいつ、よくこれで訴え出たな?スティングはどうして欲しい?」
「元凶は侯爵家の奴なんだよね。絡んでこなきゃどうでも良い奴だね。」
「そうか、でもこの絵じゃソイツは糾弾できないかなぁ。」
「うん。いつも取り巻き使って絡んでくるからうっとおしいったらありゃしない。」
「そうだなぁ、コレ音声は無いのか?」
「ん?あるはずだよ?」
今度は音声と合わせて画像を見る。
「何を要求してくるか分からんが、この映像じゃちょっと弱いけど、その辺から突いてみようか。」
「うん。お願い。」
王宮に真悟人とスティングで出頭する。
審査官に証拠を提出して状況を報告する。
そして審査会で審議に掛けられる。
審査会。
貴族同士で揉め事が起きた時に、互いに証拠や証人を集めて言い分を審査する。
訴え出たのは子爵家の令息A。
足に包帯を巻いて杖を着いている。
証人は侯爵家のゴヤン君と男爵家の令息B。
最初は訴え出たAの証言から暴力の内容、ケガの状態が報告される。
スティングの証言。
一人で薬草採取してる際にAがやってきて蹴られそうだったので除けて足を払っただけで暴力は振るっていないと証言。
侯爵家のゴヤン君と男爵家のBの証言。
明らかに悪意を持って足を殴ったと証言。ちゃんと声掛けして近づいたのに、声掛けは無視していきなり殴られたと話した。Aは倒れて、その間にスティングは逃げた。自分たちはAを介抱して戻った。
スティングは無暗に暴力を振るう乱暴者で公爵家の婚約者に相応しくない。
公爵家との婚約破棄と賠償金100万を要求する。
そんなトンデモない要求を突き付けられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます