第185話 イネスの伝手

 イカの養殖に関してロンシャンとゲラルディーニに聞いてみよう!

 と、改めてロンシャンたちの町に向かう。


 昔は寂れた港町で人魚さんたちとも敵対してたから、海の港なのに本当に何もない町だった。細々と塩の生産をしているだけで、本当に寂れていた。

 それがロンシャンとゲラルディーニ兄弟がこの村に流れてきてから、村は劇的に変わった。


 まず一番大きな事は、人魚さんたちとの敵対が無くなった。

 ロンシャンとゲラルディーニ兄弟は罪の償いとして海での労働に勤しんでいたが、その様子を人魚さんたちが認めてくれて、人魚の嫁さんが出来た。


 嫁さんを貰った男は強い!!働いて食わしてやらなきゃ!強くなって守ってやらなきゃ!男に生まれたからには嫁の一人や二人、養えなくてどーする!?

 まぁ、三人居るんですけどね。


 彼らの嫁になった人魚さんたちだが、真悟人の嫁のアンジェ達とは別の部族の顔効きだった。それを最大限に利用して、塩の精製から漁業全般を大いに盛り立てて、村は町へ、町から街へ、今では市へと人口増加の一途を辿る。


 その産業のメインは塩!なのだが、他に海産物の養殖は他の追従を許さない。

 魚の養殖は勿論、貝や海藻、エビ、イカ、タコからあらゆる海産物が養殖されていた。それも全て人魚さんたちあってこそ!食物連鎖の間に介入して飢えさせずに繁殖を促進する。捕食する側もされる側も餌に困らない。数を減らさずにどんどん数を増やすのを促進する。


 増えた分は間引いて陸上の人間や動物たちの食宅に上がる。

 そうやってバランスを取っているのだが、自然界相手では上手く行かない時もあるのだが、細かいバランス調整を行うのは、さすが人魚さんたちであった。


 彼らにイカの養殖を聞いてみる。

 イカと言ってもスルメイカからマルイカや様々な種類がいる。

 養殖出来そうなのはアオリイカやコウイカだが色々難しい事もあるようだ。

 特に餌!死餌は食わないが、食いだすと一気に食うみたいだ。

 最初に活餌をやると死餌は絶対に食わないらしい。それでも空腹に耐えかねて死餌でも食う個体が出ると、前述の通り他の個体も死餌を食うということだ。


 スルメなど馴染みのイカたちは微妙と言われた。

 群れで行動して活動範囲が広く泳ぎも速い!後ろ向きに速く泳ぐから囲われてる場所だと壁に激突して死ぬ。

 やはり死餌は食わないので、アジなどをイカに食わすなら自分たちで食った方が良いだろう。だから養殖しない。養殖しても割に合わないと言うことだ。


 人魚さんなら何とかなる?とんでもないと言われた。

 育てたアジを食わすくらいならイカを捕りに遠征するよ~!だって。


 んじゃ捕ろうって、イカ漁業の相談に変わった。

 先ずは地球とは違うこの世界でのイカの位置付けと生息なんだが、地球と変わらないようだ。ただ、この世界で海で漁業を操業するのはルバン王国のみ。それも真悟人達のみなので、ある意味捕り放題。


 でも好き勝手出来る訳じゃない。筋を通す所は通さないと揉め事になる。

 そしてイネスの伝手が出てくるのだが‥‥‥なんと、あの、イネスの伝手って人魚の長のバトラショワディダだった。

 あの恐ろしい人魚の婆さんに会うと思うと、俺のメンタルがシオシオのパーです。


 あの婆さんは人魚の長に収まらない。海の長に近い位置に居るらしい…

 リヴァイアサンと茶飲み友達?何それ?意味分からない。

 つか、リヴァイアサン…本当に居るの?


 イネスが、

「リヴァイのおじさんね~!おっっっきいぃ~~~っの!!凄いの!!そんでねぇカッコいいの!?パパの次にカッコいいかも!?」


「……へぇ~。」

 どうリアクション取れば良いのか分からない。

 イネスの琴線に触れる存在なのは分かった。

 俺は関わらなくて良いよね?バトラの婆さんだけでお腹イッパイですって。

 でも、そんな訳には行かないよな。うん。知ってる。


 イネスには、バトラの婆ちゃんとリヴァイのおじさんにちょっとお願い事があるからな。ちょっとお話させてくれと言ってある。

 イネスの伝手というのを崩さないように、正式に人魚さん達に連絡は入れてもらっている。


「パパは何をお願いするの?」


「うん。ルバンのおじさんたちがサキイカを食べて美味しい~!って言ってたのは知ってるだろ?」


「うん。裏で取り合いしてた。料理長が研究の為に取り置きしておくって言ったら、偉いおじさんたちが多すぎるとか少ないとかで揉めてたよ。」


「……(あいつらそんな事してたんだ。)そ、そうか。イネスはサキイカは好きか?」


「うん。好きだよ。でもねぇサキイカばかりだと飽きちゃうの。だからイカクンも良いかな。」


「イカクンかぁ!そうだな。他にも酢イカやソースイカなんてのもあったな。スルメとかの乾き物だけじゃなく、イカ料理は果てしない広がりがあるから説得しやすいな。うん。イネス、ありがとな。」


 こちらを見上げているイネスの頭を撫でてやったら、嬉しそうに笑っていた。


「せっかくのイネスの伝手だし、近いうちに会えるように出来たら良いな。」


 人魚さんの打診ではまだ色好い返答は貰えていないらしい。

 まぁ海を納めているような方だから中々難しいだろう。アンジェと一緒になる時でも会えるまで2週間位かかったもんな。


「パパ、バトラお婆ちゃんに聞いてみるからね。」


「おう。イネスありがとうな。」


「えへへ。ちょっと待ってね。」


「ん??」


「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」


「イネスさん??」


「あのね。今からなら良いって!」


「は?」


「今ならリヴァイおじさんも来るって!」


「はい?……ドウイウコト?」


「パパも今からなら行けるんでしょ?」


「はい??」


「今からならバトラお婆ちゃんも時間取れるし、リヴァイおじさんも来れるってよ?」


「今から?」


「うん。」


「何処に?」


「バトラお婆ちゃんトコ」


「!?!?!?!?」


 わが娘ながら恐ろしい娘!?

 正規の申し入れでは中々会う事も叶わない相手にあっさりとアポイントメント取ってくれました。


 その後はイネスに手を引かれて海へ、あれよあれよと言う間にバトラショワディダの屋敷に。

 老いては子に従えですか?……そんなに老いたつもりは無かったが。


 イネスのあの連絡方法は念話?

 人魚さん同士で特定の相手に話を繋げる方法があるそうだ。

 イネスを子供と思って舐めてました。


「イネス。ゴメンな。」


「ん~?どうしたの?」


「パパな、イネスの事子供だと思って侮ってたよ。でもな、イネスの力でバトラお婆ちゃんに会う事が出来る。ここからはパパが頑張らないとな。」


「えへへ。アンジェお母さんが出発する時に言ってたの。自分の出来る事は何でもやってみろって。人に迷惑掛けなければイイって。

 だからね。パパの役に立てたら良いなって思ったの。」


「うん。」


「イネスはパパの役に立った?」


「ああ。スゴイ役に立ってるよ。イネスは俺の自慢の娘だ。」


 膝を付いてイネスを抱きしめた。

 いつの間にか、膝立ちではイネスの方が大きくなっていた。

 涙が溢れて周りが見えない。

 髪を撫でる手をイネスは少し照れ臭そうにしていたが、首に手を回して俺を抱き締めてくれた。











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