第184話 後のお茶会

 王様たちの独断により、急遽お茶会が模様された。


 メンバーは当然スティングとエリザベスを筆頭に、その家族と王族。

 宰相が何故か仕切ってます。


 護衛に残った近衛兵は20名。

 皆さん嬉しそうですね。



 今回のお茶会、王妃様の狙いは‥‥‥日本酒だった。

 確かに婚約式の食事にも酒類は出したが、主にワイン。

 王国で有り触れた。と言ってもかなり高級なワインである。


 最初に王妃様が切り出した。

「ここ、牙狼村って新しいお酒を造ってるのよね?」

 ギクッ!とする王様だが、その話はカトリーヌ王妃には伝えていなかった筈。

「うむ。そんな噂もあるな‥‥‥」

 余計な事は言うまいとするその姿勢は立派だったが次の一言で玉砕!

「ふうん。貴方と真悟人さんが透明なお酒で乾杯してたって話だけどぅ?」


「あ、あれは、ほら、試作、そう、試作品だ。」


「そう、美味しかった?」


「うむ。それはもう、水の様でありながら酒精も強く、それでいて滑らかに喉を通る様は筆舌に尽くしがたい物が有るな。」


「へ~!?美味しそうね~♪」


「確かに美味い酒であった。暫くは夢に‥‥‥」

 ここで、ルーク・ルバン国王はカトリーヌ王妃の術中に嵌まったと悟った。

「ねぇ、ルークぅ?私には?」


「‥‥‥」


「まさか、自分だけじゃ無いよね~?」


「‥‥‥」

 眼を泳がせながら、懸命に真悟人に訴える。

 何とかこの窮地を救って欲しい!懸命に眼で訴える。


 この時ほど”目は口程に物を言う”と言う事を感じた事は無い。



「では、皆さん。少し飲み足りないかも知れませんので、牙狼村で新たに開発したお酒をご賞味下さい。もちろん飲まれない方は別のモノを準備します。」

 此処で国王のウルウルした目を正視出来る根性は無かったので、無言で「貸し1」と指を立ててやったら、王も無言で頷いていたから伝わったのだろう。


 日本酒は別に秘匿している訳でも無いし、普通に販売している。

 ただ、数が限られているので幻の酒扱いなだけだ。


 純米酒の「神錦」でさえその扱いで、ルーク・ルバン国王に試飲して貰ったのは吟醸酒の「神舞」である。

 試飲会の時は国王と宰相、農業の大臣と商業の大臣の4人だけの筈だが、メイドから話が漏れたとしか思えぬ。


 思わずメイドたちを見ていたら、試飲会の時のメイドを発見した。

 あの怪しからん胸は間違いない!

 じ~っと見ていたら、こちらの視線に気付いて、顔を赤らめて胸を隠して下がって行った。

 うおい!そうじゃねぇよ!胸じゃねぇよ!

 変な所で誤解を生んだ様だが、大事にはなるまい。トゥミ達にはちゃんと報告しておこう。


 この報告を怠って誤解を生んだ日には、大変な事になるのは身をもって知っている。

 些細な事でも報連相は大事だと、痛いほど理解した異世界生活である。


 後ほど、メイドの娘を愛人にどうだ?という打診があったが、丁重にお断りしておいた。トゥミ達に直ぐに報告を入れていたお陰でお咎め無しだった。

 あぶね~!報連相ホント大事!

 愛人に、それも王妃様の手の者なんて、全て筒抜けになる未来が見える。

 嗜好から性癖まで筒抜けなんて、どんな罰ですか!?


 牙狼村でのメイドさん達は、こういう公の場では戦隊のイエローやピンクのチームだったりする。牙猿と魔狼の接待チームで、水準はかなり高い。

 室内戦闘に長けていて、合同訓練の室内戦じゃ戦隊のブルーやグリーンを追い詰めたりする。レッド達は流石にトップを走るだけあって遅れを取ったりしないが、ヒヤッとする場面は多いので、室内戦訓練じゃ引っ張りだこである。


 余所から来たメイドさん達は興味深々で、戦闘に自信のあるメイドさんは偶に泣かされてる方も居る様だが、彼女たちに悪気は無いので許してやって欲しい。



 今回の胸の大きいメイドさんを俺がガン見してたと噂が回って、胸を強調した制服や仕草が流行りだそうだ‥‥‥止めてくれ。


 あれ以来、嫁たち(トゥミ達)の間でも、胸を丁寧に揉んでくれたとか、後ろから胸を揉みっぱなしだったとか、暴露大会が始まったりして‥‥‥止めろ~~!!


 スティングもエリザベスに女の価値は胸ですか?と聞かれて懸命に否定したと。

 情けない父ですまぬ。



 胸から話を戻して。


「神錦」を冷で、二人で一合位の量を出した。

 一瞬静まり返る室内。

 次に「ほぅ~~」と溜息が満ちた。


 美味しかったようで何よりです。

「これは「神錦」という銘柄の日本酒です。秘匿している訳じゃ無く、一定量しか生産していないので珍しくなってるのかも知れませんね。」


 希少で価値が上がってるのは百も承知だが、当たり障りなくこれ以上無いよ。と釘を刺しておく。

 蟒蛇たちに無制限に出すつもりは無い。


 日本酒の当ては漬物。

 キュウリとナスの糠漬けと大根の沢庵。

 塩辛は宴会で出したし、他に何が良いかな?と思案して、漬物にした。

 乾き物にサキイカと落花生。


 これが‥‥‥これがもう、失敗したかもしれない。

 糠漬けには糠が必要だが、これは何とかなる。

 米の脱穀は常時行っているし、困る事は無いだろう。


 しかし、あのイカとピーナッツを食った面々の圧力ったら、もう‥‥‥

 今後、落花生も最重要生産物として生産して行かねばなるまい。

 サキイカは、イカの漁獲量上昇と作成法の確立かぁ。

「はぁ~。」


 落花生ですか。

 千葉県や神奈川県の秦野市が有名だったよね。

 誰か修行に出すかぁ。

 闇雲に試行錯誤するよりは、農法が確立されたところへ勉強に出した方が早いだろう。ユナと相談する必要があるな。


 それとイカかぁ!‥‥‥イカって養殖出来ないのかね?これだけ需要が在るから養殖物も?と、思って調べたらイカは養殖していない(出来ない)らしい。

 理由は商業ベースに乗らないから。

 イカは活動的なので狭い水槽じゃ無理!!広範囲のスペースが必要らしい。

 餌も生餌しか食わないので、採算に合わないから養殖しない(出来ない)って事なんだと。それでもコウイカやアオリイカは飼育出来るし繁殖させているので、こちらは期待できそうだ。


 イカの種類がこの世界でも同じかどうか分からないが、海の事は人魚さんに聞いてみよう!と思ったけど、嫁の人魚さんたちは日本の海に出張中だった。

 他の人魚さんにやたらと声掛けすると後々面倒臭い事になりかねん。

 暫くは日本からの輸入品に頼ろう。何トンもの量は無くても構わないだろう。

 一時凌ぎではあるが、アンジェ達が帰ってから相談する事にしよう。


 この時俺は、ロンシャンとゲラルディーニ兄弟が人魚さんを嫁にしてる事をすっかり忘れてた。

 それに娘のイネスも人魚のハーフで、様々な伝手が在る事を思い出せず、イネスが頼ってくれないと拗ねてしまって、ご機嫌取りに大変な思いをする事になった。


 イネスに頭を下げて懸命にご機嫌を取って機嫌を直して貰ったが、見返りに夢の国一泊二日の旅に出る事になった。中にあるホテルに泊まって、ランドとシーを1日づつ回る計画だそうです。

 トゥミ達も行きたがったが、イネスの二人きりで行きたいと言う願いに思わずデレデレになってしまったのはしょうがないと思う。


 イネスの望みを約束して、夢の国の予約をお願いした。

 神田農園で俺の代わりに会社を取り仕切っている嫁の香にお願いしたら

「ふふ。イネスちゃんも夢の国好きなのね~。真悟人さんと二人で行きたいなんて妬けちゃうわ~。」


「まぁ、最近はスティングの婚約の事ばかりで余り構ってやれなかったしな。」


「イネスちゃんが人魚さんなのを忘れてて拗ねちゃったって聞いたよ?」


「あ~確かにな。アンジェ達が戻らないと海の事聞く相手が居ないと思っちゃったんだよな。」


「海の事?」


「そう。王妃様たちにサキイカ食わしたらドハマりしちゃってね。そこからイカの養殖出来ないか?って話になったんだよ。」


「イカの養殖かぁ‥‥‥ロンシャン達には聞かなかったの?」


「へ?」


「海で養殖って言ったらロンシャンとゲラルディーニ兄弟じゃん?」


「あ‥‥‥そうだ。何で思い出さなかったんだ?あいつらの嫁も人魚さんだし、養殖のプロじゃん!」


「真悟人さんって、どっか抜けてるよね。」


「あ~…返す言葉も御座いません‥‥‥」


 香に指摘されて気付いた。

 身近に養殖のプロが居たじゃん!?今更イネスとの約束は破れないから、それとは別に彼らにも聞いてみよう。



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