第181話 婚約と森
犯罪の裁判なども終わり、春の陽気の良いある日、スティングとエリザベスの婚約式は桜の舞う中で行われた。
桜はまだ牙狼村にしかない。
真悟人が日本から持って来て植えたのだが、牙狼村以外では育たなかった。
染井吉野から枝垂桜や山桜、八重桜や河津桜など様々な桜を持ってきたが、全て牙狼村以外では育たない。
他にも梅、桃、栗、柿、等々、様々な果樹を試したが牙狼村以外では一切育たなかった。
これは、どこまで広げられるのか?検証してみようと、オークのマンガリッツァに頼んで、山に広げて行った。
分かった事は、果樹園と続きで在れば育つ。
間を開けると育たない。
では、どれだけ間を開けると育たないのか?‥‥‥間10mを超えるとダメなようだ。果樹園の中に道を1本通す程の間が精一杯。それを超えると育たない。
これは祖母ちゃんの何かだろう?と思って祖母ちゃんに聞いたのだが、
「ふ~ん。そうかい。」
それ以上の言葉は聞けなかった。
因みに祖母ちゃんの屋敷?がある山に近づいて行くと、育ちが良くなる。
山とメインの畑の位置的関係性に何か在るのか??
検証のために植えまくったから、牙狼村の畑からオークの山までの間は、全て果樹園になって、果物の種類も数も半端なく増えた。
間に街道を通したのだが、片側は果樹園。片側はビニールハウス?スライムハウスかな?その中でイチゴなどの野菜系フルーツを育てている。
スイカ、メロン、などに交じって、バナナやマンゴー、バニラなど、何でも有りです。
マルーラの樹が植わって実を付けてる時点で、気候無視なのはもうお察しの通りだろう。
最近はユーカリの樹から油を採っていたりもするし、その奥で桐や檜が間に植えてあったり、サトウカエデの林もあってメープルシロップ採取装置が付いている。
緯度も気候も関係ない目茶苦茶な豊かな森が牙狼村周辺の森だ。
真悟人も慣れたので考えなくなったが、山際さんがルバン観光に来た時はぶっ飛んでたね。
檜もそうだが、杉も少量だが植えている。
花粉の飛散がどれだけ影響を与えるか分からないからね。
植えた時点でアウト!と言われてしまえばそこまでですが。
話を戻して、桜満開の中、神田スティングとエリザベス・テレーザ・ディ・ロレーナは婚約した。
あれだけ悩んでたスティングだが、エリザベスに会って直接、面と向かってハッキリ言われてぶっ飛んだ!
「スティ、私はスティが好きです。私をお嫁さんにして下さい。」
「!!!!‥‥‥」
……フリーズ中。
おい!スティング!何とか言え!
真っ赤になって彼は固まった。
口がパクパクしてるのが魚みたいだったと、鯉になって恋に落ちたと、イネスたちに揶揄われて、彼は真っ赤になって怒る未来を今は知らない。
‥‥‥再起動。
「は、はい!俺、いや、ぼ、僕もエリーの事好きです。一生大切に守ります。僕のお嫁さんになって下さい!!」
とても10歳とは思えない堂々としたプロポーズだった。
ロレーナ公爵夫妻もとても嬉しそうに祝福してくれた。
「スティング。娘を宜しく頼むぞ。これから俺の事はお父さんと呼んでくれよ。」
「スティング。ありがとうね。私の事もお母さんと呼んで欲しいわ。」
「はい!お父様!お母様!これからも宜しくお願いします。」
ガチガチに緊張していたが、少しづつ慣れて来て、真悟人とトゥミも交えて歓談をする、楽しい婚約式になったようだ。
「エリー?本当に僕で良かったの?」
「何を言ってるんですか?私はスティが良いんです!恥ずかしいからあんまり言わせないで下さい。」
「うん。ごめんよ。僕もエリーが良いよ。ありがとう。」
はぁ~~‥‥‥今迄悩んでたのは何だったんだか?
イネスは、すっかりエリーMyLoveの兄スティングを横目で見ながら片隅でそっと溜息を付くのだった。
スティングは後2年、エリザベスは後1年で魔法学校は卒業する。
その後は、魔法高等学校に入学して3年間学んで、15歳で成人となり卒業する。
彼らは卒業後に結婚するのだが、婚約の期間には互いに色々ある。
若い年代だから誘惑は多い。非常に多い。
婚約期間中の素行により、婚約破棄に至るカップルも一定数見受けられる。
本当に結婚に至るのかは、今後の彼らの行動次第である。
貴族と言えども、学校を卒業して直ぐに収入がある訳では無い。
嫡男は爵位を継ぐ練習を兼ねて、家の仕事の見習いから始まる。
次男、三男では爵位を継ぐことは出来ないので、役人を目指して文官になったり、騎士隊に入って武官になったりする。
何方も狭い門なので競争率が激しい。
一番人気は、エルフシティの文官と牙狼村の武官である。
エルフシティの文官は、魔法科と文理科があり、専門学校もある。
要するに、魔法のエキスパートか事務のエキスパートかの違いで、魔道具制作の専門職などもある。
付加魔法が使えれば、一生食いっぱぐれ無し!とエリート中のエリートになれる。
他にも農業、林業、畜産業、漁業、工業と様々な分野での活躍が期待される。
武官である戦隊に関しては、ズバリ軍隊及び警察である。
騎士隊は警察機構、戦隊は軍隊である。
牙狼戦隊は、軍隊内部で超エリートの特殊部隊。
必ずしも牙猿と魔狼だけではなく、人間やオークも在籍する。
それぞれの特色を生かして様々な任務に就いている。
その中でも、レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクの5部隊は、超高難度の特殊部隊で在り、迷彩の忍者装束と各色のスカーフは、彼らだけのステータスとなっている。
因みにイエローとピンクは女性編成隊であり、流石に男性ほど数は多くない。
それでも戦隊を希望する女性は一定数居るので、狭き門なのは変わらない。
スティングは一応戦隊希望にしているが、決めかねている。
エリザベスは、魔法職を希望しているが‥‥‥
大規模破壊兵器であり制御不能では、リーサルウェポンにしかならない。
スティングが制御出来るかに多大な期待が寄せられている。
本人たちには知る由も無いが、この二人の婚約には様々な思惑がある事は、公然の秘密である。
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スティングとエリザベスの婚約式。
エリザベスは公爵家の長女である。
本来なら王城で盛大にパーティを催すのだが、真悟人はまだ身分としては平民なので内輪でこじんまりとやる事にした。
と、言うのは大義名分で、牙狼村で信用のおける者たちだけで盛大に行うのである。
これは面倒臭い貴族の柵や、決して友好的とは言えない輩を排除するため。
そして最近きな臭い近隣諸国のスパイたちを排除するためである。
牙狼村‥‥‥既に牙狼シティと呼んでも差し支えない位に発展した街になっている。
それでも、迷宮魔女の森の奥地でありエルフシティからしか来る手段が無い。
牙狼村とエルフシティ間には、馬車がすれ違えるだけの街道も整備してある。
しかし、街道周辺は魔獣がうろついているのは変わりない。
いや、逆に増えているのが実情である。
何故か?
増やしているからであって、危険生物だからとドンドン駆逐して行ったら絶滅してしまう。魔獣たちの素材も貴重だし、食料としても重要である。
だったら増やそう!と彼らの生態を調べて、巣となるような都合の良い場所をたくさん作った。餌はどうするか?食物連鎖を考えて、餌となる小動物を養殖して放す。
小動物のエサとなるような果樹や木の実の生る樹々を植林して、森の中の樹を間引いて樹が育成しやすい環境を作る。
何年も掛けてそんな活動を続けて来たので、爆発的に魔獣は増えている。
なんせ、出会ったら終了と言われていた角熊さえチラホラと見かける位だから、如何にこの森が豊かになったかが分かるだろう。
お陰で素材を輸出できる程の収穫高を上げているのだが、逆に迷宮魔女の森は
今まで以上に最高に危険な森になってしまった。
その危険な森こそが狙いで在った。
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