第180話 罪人
「おい!この縄を解け!俺にこんな真似してタダで済むと思うなよ!」
「‥‥‥‥」
「お前の顔は覚えたからな!あの御者みたいにギタギタにしてやるからな。」
御者の話が出て、思わず顔を見てしまった。
「はっ!今更怖気付いたか!?お前は今すぐこの縄を解けば、考えてやる。」
身を捩って縄を強調する罪人。
その様子を冷静に見つめる管理官。
彼は罪人の言動を記録して、心の移り変わりや反省を促せるか?社会復帰は可能か?を観察する管理官である。
基本的に全ての言動は無視するが、今回は馬車の御者に対する暴行及び殺人未遂。更に婦女子の誘拐及び強姦も容疑に入っている。
被害者の御者は、必死に抵抗して女性を守ろうとした。
それはもう、命を懸けて守ろうとしたそうだ。
一言で言える程、簡単な事じゃない。助られた時の彼の身体は、よく命を繋いだと思われる状態だった。例え戦場でもここまで惨いことはしない。
目撃者によると男でも悲鳴を上げる様な酷い状態だったと言う。
だから管理官は、その所業を行った罪人を見てしまった。
喚く罪人を見ながら、罪状の内容はもっともだと思う。
傲慢かつ残忍で、他人を見下し、自分の思うままにならないと癇癪を起す。強欲で陰湿。虚栄心も強いと見える。更に上位の者にはへりくだる気質は更生は望めないと判断する。
1週間観察した記録を提出する。
その後、裁判を行い刑を定める。
同時に捕縛された2人は、収監時から従順になり自分の行いを悔やむ素振りを見せるが、基本的に他人のせいにする気質があり、更生には時間が掛かると思われる。
他人のせいにしたがる者は、自分が犯罪を犯したのは人のせい、環境のせい、状況のせいにして自分を正当化する。ある意味では前者よりも質が悪い。
再犯率が高いのもこの手の人間である。
3人とも貴族の子息で在り、3家共にお取り潰し。
人身売買に関わっていたので問答無用で一族郎党、断頭台!!だったのだが、最近は趣向が変わった。
死罪はある意味逃げだろう。死んでおしまいじゃ、被害者は浮かばれない。
死ぬより辛い目に合わせるべきと、色々検討されている。
一瞬で死ねない、殺してくれと言わせるべく考えられている。
それと、一族郎党と言っても、全ての人間が悪い訳じゃ無い。
だから恩赦の判断もされるが、復讐を考える様な輩はアウト。
軽くても、魔法契約が成されて執行猶予が付く感じ。
使用人も全て調べられるが、雇われていて反抗は出来ないので携わっていた深さに選り様々の判決が下される。
こちらも軽くても、魔法契約が成されて執行猶予が付く。
犯罪の被害者は犯人の裁判で意見陳述が認められている。
トーマスとセリーヌの所にも意見陳述を行うかの問い合わせがあったが、もう見たくない。司法にお任せします。と直接の意見は辞退した。
ただ、こう言う事が繰り返されない様にお願いします。とだけ付け加えた。
主犯の彼らの判決は苛烈な物だった。
昆虫による虚勢。
男性器を昆虫に捕食さる。正に地獄の苦しみを意識を失うことなく味わい、度々自分の行いを反芻させる。意識を失う事も、気を違える事も出来ずに苦痛を味わい、自業自得だと繰り返される。
喰われる物が無くなると治療されて無限労働。
只管働くだけの人生となる。
内容は、写本や裁縫などの屋内作業から鉱山の採掘まで、本人のスキルや能力により決められるが、今回の犯人たちや性犯罪者などは重犯罪者として使い捨てにされる運命にある。
死んだ犯罪者は、彼らが食料としてる魔物のエサとして廃棄処分。
病気やケガは実費で治療を依頼しなければならない。
この世界に人権は無い。
盗るな犯すな殺すな。
嫌なら犯罪を犯さなければ良いのである。
全ては自業自得。
死罪になるよりも無間地獄の方が見せしめになり犯罪率は減ったが、性犯罪だけは減らない。人間の業の深さを感じると、ある管理官は書いている。
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「真悟人、お疲れ様。」
珍しくユナが迎え出てくれた。
「おう。ユナ。ありがと。」
抱きしめて口づけをする。
「仕分けは終わったの?」
「おう、意外と良い人材が揃ってて、盛況だったぞ。」
直接の罪の無い者たちは、執行猶予がついて様々な職場に引き取られていく。
イチバン人気は料理人と財務担当などで、メイド、執事、庭師など手に職を持ってる者から売れて行く。
最後に残るは、兵士や護衛官。
腕が立つなら良いが、中々難しい。
そうすると勤務態度や周囲の評価で判定される。
勤勉な性格や人間的な性質を問われるので、正に日頃の行いが物を言う。
そんな状況を目の当たりにすると、人は真面目にやろうと思う様だ。
貴族3家のお取り潰しだから、結構な数の人間が職を失ったが、早々に片付いた所を見ると、家の使用人たちは真面な人たちだったようだな。
そんな話をユナとしながら、マイカのお迎えに行く。
マイカはユナとの娘で、只今4歳。生意気の盛りになってきました。
「パパァ!お迎えゴクロー!」
幼稚園の入り口で仁王立ちになり、両手を腰に当てて胸を張って労ってくれる。
「おう。マイカ。パパが来るの分かってたのか?」
「分からいでか!当然でしゅ!」
噛んでも仁王立ちは揺らがない。
「良し、分かってたご褒美に、飴ちゃんをあげよう!」
ポケットから出した飴を剥くと、カワイイ笑顔であ~ん!と口を開ける。
そのお口にイチゴキャンディを入れるとご機嫌な笑顔で、
「アリガト~♪」
って抱き着いて来る。
マイカに飴ちゃんをあげたらユナに怒られた。
「もう~!そうやって直ぐにお菓子与えないの!」
その尖がったお口には、口移しでミルクキャンディを入れてやる。
「!!ん~!‥‥」
大人しくなった。
マイカを抱っこしてユナと一緒にブラブラ歩きながら家路に着く。
こんな幸せを犯罪者に脅かされるなんて、絶対に許せないよなぁ。
辺境伯を受ければ、もっと犯罪抑制が出来るかな?
なんて、初めて権力の使い方を考え始めた。
幸せが守れる街が出来たら良いよね。
俺の人生、やり直しじゃないけど、今幸せだよ。
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