第164話 お土産と?
朝、早くに目が覚めた。
トゥミはまだ俺の肩で寝息を立てている。
サラサラの銀の髪を指で梳いて見る。
流れるようにサラサラと指から零れる銀の髪。
トゥミの髪に顔を埋めて、胸いっぱい吸い込んでみる。
とっても幸せな香りがする。
「あぁ、俺って幸せだよな。」
思わず呟いてしまうほど、今の状況は幸せだと思う。
思えば、離婚して自暴自棄になりそうな頃、異世界を知った。
俺の資産の全てを注ぎ込んで今の下地を作ったのだが、全ては祖母ちゃんのお陰なんだよな。
祖母ちゃんが昔住んでた土地を買うのが精一杯だったのに、足りない資金にアッサリと補填して、周囲一帯を買い占めた。
そうして気付けば神田農園が始まっていたんだが、その頃俺は異世界で生活するのに精一杯だったな。
トゥミが来て、ボスが来て、アルファたちが来て、ドンドンと仲間たちが増えて行った。‥‥敵対しての殺し合いもあった。
俺が拗ねて海に行ったらアンジェ達に出会ったね。
今、こうして異世界の住んでる国の王妃様たちを招待して、日本観光出来るまでになった。綺麗で可愛い嫁まで貰って、朝の微睡みに幸せを感じている。
通りすがりの婆さんに親切にしたら、自分の祖母ちゃんだった。
そして、貰った指輪が幸せの原点だと思う。
そう、この異界の指輪と祖母ちゃんの存在が俺の幸せの原点だな。
祖母ちゃんのお陰で異世界でやり直すことが出来た。
指輪のお陰で道具たちが認めてくれた。
忘れがちだけど一番大事な事だよね。
まあ、全て祖母ちゃんのお陰。
祖母ちゃんアリガトね♪
そんな益体も無い事を考えていたらトゥミが起きた。
開き切らない目で俺を見て、無言で両手を伸ばす。
そんな動作がたまらなく愛おしい。
このままトゥミの可愛さに溺れていたら一日ベットから出られない。
しょうが無いから出かける支度をしようか。
朝の可愛さから一転して、ホテル前で点呼を取るトゥミ達、嫁一同。
皆、ベットの中ではあんなに可愛いのになぁ‥‥と思いながらイエッサーと返事を返す。ニヤニヤするのを必死に堪える。
観光バスに順に乗り込み、サラが本日の予定を全員に告げる。
もう一台ではシャルが同じように説明しているだろう。
本日は高速ドライブ。
富士山を見て、お土産を買いに行く。
ホテルを出て首都高から東名高速に入り静岡方面に向かう。
王妃様たちに日本のインフラ整備を見せようと思う。
都市間の街道を整備する事で物流が変わる。
野菜や肉や海鮮などの生鮮食品が迅速に運ばれてくる。
どんなメリットがあるか、自ずと理解できるだろう。
実際に王妃様はこのツアーから帰った後は、インフラ整備に執念を燃やしたそうだ。
俺が鼻先にニンジンをぶら下げたせいもあるが、それはまた別の話。
今日は幸い快晴に晴れ渡ってくれた。
少しガスってはいるが、綺麗に富士山が見える。
「あの山が富士山です。別の言葉でマウントフジと言います。」
おぉ!!
ざわめきが起きた。
異世界で同じ名前があるとは思わない。
過去に絶対に日本人が行ったに違いない。
山間部に入る手前の都市は小田原という。
と告げるとまたざわめきが起きた。
そりゃ皆さん、オダーラとマウントフジの位置関係を思い浮かべるだろう。
しかし、ルバン王国とは何も関係ないからな。
ルバンの歴史も何も調べて無いから何とも言えませんが。
御殿場で降りてアウトレットモールへ向かう。
そこで昼食を取って、お土産を買う。
時間はたっぷり取った。
街中の高級ブランド店を巡るのと違って集まってるし、見て回るのにも危険が少ないだろうと判断してココに連れて来た。
金に糸目を付けないと言うのも良いのだろうが、ここはアウトレットモール。
ここの商品が何故アウトレット扱いなのか考えて欲しい。
どれだけ品質に拘るのか、ルバンでの品質と比べてどう感じるか。
ここの存在価値も全て説明した上で、商品の品質と言う物を考えて欲しい。
本来の品物を見ないと違いは分からないかも知れない。
でもね、ちゃんと見る人が見たら分かるらしいよ?と、言ったら王妃様たちは見極めてやると燃えてきたようだ。
実際に店員さんを捕まえて、トゥミ達を通訳に懸命に色々聞いていたようだ。
何処の店でも店員さんじゃなくて店長さんだったようで、説明に疲れた顔をしていても、莫大な金額の売り上げにニコニコしていたので良しとしよう。
だって、ねぇ、下手したら100万超えの金額の買い物ですよ?
何をどれだけ買えばそんな金額になるやら?
このアウトレットで何千万円落とすんですか??
人数居るし、お土産は膨大な量だし、服やカバンや靴や装飾品とキリが無い。
商人たちが定期的に仕入れられないかとお願いに来るので、希望だけ聞いて後で交渉してみようか。でも、貴族たちがこの商品を求めだしたら、ルバンの産業を駆逐してしまいそうだから慎重に考えないとね。
ある程度廻って、チュロスやソフトクリームなどを食べながら休んでいると王妃様たちが戻ってきた。
因みに買った物は全て神田農園に送って貰うように交渉してある。
莫大な金額を買っているので、梱包だけでも追い付かないのを見て、責任者は全て送料無料で送ってくれると請け負ってくれた。
全ての商品が贈り物仕様のラッピング希望なので、普通に考えて間に合う訳無いね。
前にも話題に出たが、このラッピングという文化もルバンには無かったので、皆さんの食い付きの良い事!何でもかんでもラッピング。日用雑貨もラッピング。食料品もラッピング。全てラッピングを求めるので店員さんは天手古舞!?
何処の店も大混雑と嫌がらせにしかならないので、そりゃ送料無料で纏めて送ってくれますわ。
閑話休題
王妃様たちが戻って来て、クレジットカードの上限に達したと‥‥
はっ?
確か一枚、300万くらいイケるはずじゃあ?それを1人2~3枚渡して無かったか?こいつらどんだけ使ったんだよ?支払いが滞る事は無いが、一応王族の金は税金から出てるんじゃないのか?
まぁ、言ってもしょうが無いね。
彼女たちは、それぞれ稼いでいるので税金じゃ無いそうだ。
そりゃ失礼しました。
一通り満足したので、今夜の宿に行きますか?
了解しました。
集合を掛けます。
全員集めてトゥミ達の点呼が始まります。
おおぅ!ここでも大人気だね。
注目の中、アルファの前に大量の女性が並ぶ。
並んでる女性の連れの男性たちはトゥミやサラやシャルや王妃様たちの前へ‥‥
結構年配の方も並んでいらっしゃる。
何故ここでも握手会?
アウトレットモールの職員の方がパイロン並べだしました。偉い方がこちらに挨拶に来ます。
莫大な売り上げとモールの盛り上げ貢献に記念品を贈ってくれるそうだ。
有り難く受け取りますとお礼を言ってバスに乗り込みます。
握手会を捌いたトゥミ達もバスに乗り込むが、アルファが何やら困っている。
アルファに女の子がしがみ付いて離れないみたいだね。
そのまま置いて行こうと思ったら、情けない顔で訴えて来るんでもう少し待つ事にしてあげた。
懸命にしがみ付く女の子と必死に説得するアルファ。
傍から見たら、別れを告げる非常な男と縋りつく女にしか見えない。
しかし彼らは初対面。どころか通りすがりも良い所。
第3者が介入すると余計に拗れそうだし、周りが困り果てていると唐突に女の子が離れた。‥‥何故?
周りの疑問を背にアルファはバスに乗り込む。
女の子は涙ぐみながら手を振っている。
アルファも苦笑いを浮かべて手を振っていた。
そんな騒動も無かったかのようにバスは走り出した。
思いっきり深いため息を付くアルファ。
何故女の子が離れたか?
聞いたところ、アルファはあの女の子に結婚を迫られたそうだ。
最初はのらりくらりと躱していたが、突然しがみ付いて離れなくなったと。
彼女は一生の恋に出会ったと言う。二度とこんな出会いは訪れない。
だから離れない。離さない。
なのに何故離れたか?
「俺は結婚して、愛する女が居るんだ。」
「えっ!?で、でも私だってあなたを愛してる。」
「俺は彼女を愛しているし、彼女も俺を愛してくれてる。」
「わ、私の方があなたを深く愛せるよ!」
「彼女も深く愛してくれてるよ。それに俺が惚れてるんだよ。一生掛けて愛して行きたいんだ。」
「わ、私‥‥‥」
「分かってくれ。彼女に心配を掛けたくない。」
「じゃ、じゃあ、彼女に奥さんに会わせて!」
「は?」
「そ、そうしたら納得するかも、理解できるかも知れないから。」
「‥‥‥」
「じゃないと離れられない。二度と会えないなんて死んでも嫌!」
「‥‥分かった。しかし、ここまでは来られない。」
「何処でなら会えるの?」
「東京の先の‥‥それもしばらくは無理だ。」
じっと目を見つめている。
「‥‥分かった。神田農園に行けば良いのね」
「ああ、1カ月後にシルビアを連れて行くから。」
「‥‥奥さん、シルビアさんって言うんだ。」
「あ、ああ。」
「約束だよ。」
「分かった。」
ゆっくりと彼女は離れてくれた。
‥‥‥ふぅ~~~~~。
女性陣の深いため息。
誰も何も言わないが、ちょっと切ない空気が流れていた。
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