第162話 海の世界
ゴルフ場を出発したバスは海を目指して走る。
ゴルフ場の隣は広大な牧場地域になっていて、それを過ぎると海に降りて行く。
神田農園はゴルフ場を併合したことにより、海までブチ抜きで敷地内になった。
間を横断する一般道は、トンネルになっているか敷地内に入れない様にフェンスに囲まれている。
米軍基地の周辺道路のイメージと同じである。
海に出たら歓声が上がった。
ルバン王国の王都は海に面していないので、海を見た事の無い人も多い。
一番近い海でも、魔女の森を抜けて牙狼村の更に先になる。
国の端っこにある村がルバン国内唯一の海で、人魚さん達に抑えられてたので塩や海産物を細々と採取する程度だった。
今ではゲラルディーニとロンシャンが人魚さんの嫁を貰って、海辺を牛耳っている。この兄弟、やればできる子!どころか、嫁さんと一緒にこれでもかと才能を発揮してくれて、エルフシティに匹敵する海の街になっている。
それでも王都からは遠い。
エルフシティ経由で海の街までは何日もかかる旅程なので、一般の人が海を見る事は殆んど無かった。
その海が目の前に広がっている。
王妃様たちどころか、メイドさんたちまで思わず歓声を上げた!
うん。気持ちは分かる。
目の前に海が広がると、一気にテンション上がるよね!?
島国育ちの真悟人でさえそうなのだ。海を見た事無い人は相当だろうね。
海に出てから神田農園からも出る。
海沿いに走って皆が落ち着いてきた頃に、最初の目的地に到着した。
「海の世界」‥‥そうシーワールドである。
海と縁遠い所から来たんだから、海の中まで見せてやろうと思った訳です。
団体様で予約して、時間通りに到着。
整列してトゥミ達の注意事項タイム「「「サー・イエッサー」」」
大注目である。
班ごとに行動するのが基本。それぞれの班にはトゥミやアンジェたちが付き添って説明や通訳を行う。
ショータイムまでは自由時間。
シャチとイルカ、オットセイのショーが見れるのだが、馴染みの無い名前に皆さん頭の上にクエスチョンマーク。
なにそれ?美味しいの?‥‥お約束を言ってくれたメイドさんには、お土産引き換え券進呈です。
お土産引き換え券。
この時は皆、「ふ~ん‥‥」と大して興味を示さなかったのだが、実際にお土産引き換えする時には、阿鼻叫喚となったとだけ伝えておこう。
引き換え券狙いの行動されても詰まらないもんね。
館内に入り、皆の行動は‥‥口を開けて固まってるのが大半。
ガラスの透明度に驚愕してる奴とか(それガラスじゃなくてアクリルだけどね)水の中を見れると言う事に理解が追い付かない奴、どんな魔法を使用してるのか?と魔力探知してる奴、単純に美味そう♪と涎垂らしてる奴と、反応様々。
王妃様やお付きの者たちは、研究者も混じっていた様で、熱心に説明に聞き入っている。ただ、日本、というか地球?には人魚さん達は居ない筈?なので、生態系はかなり違うんだよ?と納得させるのが大変だったようだ。
アンジェやムルティたちの人魚さんチームは、海の中は当然自分たちテリトリーだから、似たような魚を見て納得していた。
ただ、タカアシガニとか深海系の生物には馴染みが無い様で、水槽のアクリル越しに何か会話してるような行動をとるのが不思議だった。
ねぇ?会話できるの?
いよいよショータイム!!
「集合!」「整列!」「番号!」
どこぞの軍事行動より洗練されてるのが恐ろしいわ。
プール前の席に順に座り、時間まで待機。
さあ、時間となりいよいよショータイム!?と期待したが‥‥
‥‥ん?何やら揉めているらしい。
シャルが直ぐに聞きに行った。この辺の行動力は素晴らしい。
シャルが戻ってきて告げたのは、
「なんかねぇ、シャチが駄々を捏ねてるらしいの。いつもなら喜んで飛び出して行くのに今日に限って?」
それを聞いたアンジェが、
「そうか、きっと私らのせいだな。ムルティ、フラビ、行くぞ。」
「「は~い!」」
‥‥行ってしまった。
心配になり、一緒に付いて行ったのだが、
「お客様、すいません。どうか席でお待ちください。」
「‥‥‥」
係員に制止されていた。
アンジェは髪で見えない様に鰓を出し、声にならない声で鳴いた。
「「「えっ!?」」」
シャチが一気に躍り出て、アンジェの前に整列した。
シャチは3頭、アンジェ達とそれぞれ会話しているようだ。
「「「‥‥‥‥」」」
シャチのトレーナーさん達や係員さんも唖然と見守っている。
シャチたちは帰って行った。
「もう大丈夫よ。」
フラビの言葉通り、ショーは再開された。
最初はシャチの挨拶。
後はオットセイのショー。イルカのショー。シャチのショーと続くのだが、皆揃って必ずアンジェ達に挨拶に来る。
これはそれぞれのトレーナーさん達は困惑していた。
教えていない芸? 特定の客に挨拶? それ以外は普通に芸を披露してくれるのだが、「何故?そんな事を?」と不思議でしょうがない様だ。
オットセイはアンジェ達の前で「アオ~!アオ~!」と鳴いてクルクル廻っていた。イルカたちは「ピューピュー」鳴きながらジャンプを繰り返す。
シャチたちは、アンジェを呼んだ。
トレーナーさん達はシャチたちの不可解な行動に混乱している。
アンジェたちは苦笑いを浮かべながら、
「しょうがねぇなぁ。」と3人で服を脱いだ。
下に水着を着ていたのだが、周囲の男性陣はガン見!歓声まで上がっていて、一緒に居る女性に叩かれてる奴もチラホラと‥‥
水着になったアンジェ、ムルティ、フラビの3人はプールに飛び込んだ!
まさか飛び込むと思っていなかったのか、ショーの係員も観客も絶叫する!
そこに襲い掛かるシャチ!
誰もがプールが真っ赤に染まるのを想像したが、3人はそれぞれシャチの背に乗っている。
そして、その姿は人魚であった。
下半身は魚。胸は貝殻で隠し、流れる金髪やオレンジの髪。
一瞬静まった会場は、怒涛の歓声と拍手が起こった!
それからのシャチと人魚のショーは、歴史に残る一大エンターテイメントとして後世に伝えられるショーとなったのであるが‥‥
ショーの後の騒ぎを鎮めるのが大変だった。
人魚に変わったイリュージョンは公表できないので、一切詮索しない事。
偶にショーに出演する。
シャチたちとの交流も意思疎通出来る訳では無いと言う事にして、この事に触れない様にと約束を取り付け、万が一破ったら一切係わらない契約を交わした。
彼らは知らないが、キッチリと魔術契約を交わしているので絶対に他には漏らせない。この辺りの仕組みはルバンの方が進んでいる。
ルバンの皆さんは、さすが人魚の方々だと絶賛していたが、言葉が違うので誰も分からないだろう。
地球の言葉なら誰が分かるのか見分けが付かないが、ルバンの言葉が分かる奴は絶対に関係者であろう。敵味方は別にしてね。
水族館とショーを堪能した後は昼食である。
付属のホテルレストランを貸し切りでバイキングを楽しんで貰った。
此処までは非常に好評である。
ルバンには魚を鑑賞するなんて酔狂な事をする輩は居ない。
根本的な豊かさの違いであることは、王妃様たちは分かっただろう。
海の生き物を陸地の水槽で飼育する事がどんなに大変な事なのか、更に繁殖できる環境を整えるなんて王侯貴族がどれだけ金貨を積み上げても出来る事では無い。
そこまで理解できた参加者はほんの一部だが、理解できる者が居ただけでも良しとしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます