第161話 日本ツアー出発

 祖母ちゃんから説明があった。


 ‥‥かなり端折ったカンジで、納得できるモンじゃ無かったが。

 分かった事は、被害者と思われてた記憶抜かれた連中。

 あれは人身売買組織の連中で、自業自得だと。

 敵対組織の関与は無かったと。

 ここらで幕引きしたいと。


 ‥‥‥ふ~~ん?

 まぁ、しょうがないか。

 祖母ちゃんは絶対に口割らないだろうしね。


 ダグラスたちは無事に帰した。

 帰ってからは無事じゃ居られないだろうがな。ハハハッ!


 王妃様たちの日本ツアーも別日に改めて仕切り直そうかと思ったのだが、納得して貰えなかった。今回の日程を目標に様々な調整をしてきたので、今更変更は出来ないと?

 はい!了解です。

 ここで変えると後が怖いですね。

 半端ない殺気を感じますわ‥‥‥


 王妃様達の状況と周辺事情を考えて、決行する事にした。

 トゥミ達とも相談したが、決行の方向で決まった。

 もう1日、ここで準備を整え、当初の予定より1日遅れでの日本ツアー出発である。


 牙狼村、エルフの里以外のメンツでの初の日本ツアー。

 日本の高官が知る訳の無い、異世界の王族の日本ツアー。

 それがどういう事なのか、ルバンの周辺諸国に知られたら何が起こるか分からない。全ては俺の手にかかっている。


 日本人たちにも知られたらどうなるか分からない。

 日本人は都合よく自分の理解できる事しか考えない。理解できない事が目の前に起こると、大抵はパニックになり取り乱す。

 今回は異世界の話である。馬鹿共はチートが!魔法が!と自分が努力した事の無い力が授かるんじゃないかと大騒ぎをする。

 幸い、魔法も記憶が抜ける位進歩しているので、どうしようも無い輩は消えて貰おうと思っている。しかし、当然の事だが、記憶操作は禁忌である。

 使用者は死罪。だから痕跡は極力残さない。

 セキュリティは中途半端じゃ自分に跳ね返ってくる。

 だから容赦出来ない。


 王妃さまと取り巻きで30人。トゥミ達別に護衛で20人。

 全員で50人。トゥミ達と俺で9人だから約60人の団体様です。

 なんとか観光バス2台で納めた。本来なら1台で納めたい所だが、色々な柵があってだな、うん、しょうがない。

 普通の観光バスなら50人なんて1台で、俺らはワゴン車で良いのだが、のっぴきならない方々が乗るので、リムジンバス2台になった。


 何かあったらどうする?と祖母ちゃんに相談したら、どっちかの国が消えるんじゃないか?どっちが残るか賭けようか?だと。

 どう考えても祖母ちゃんはルバン王国に付くだろうな。

 まぁ、俺もそうなんだが‥‥‥


 日本なんて技術以外は取柄の無い国になってしまっている。

 日本で誰かに親切にされたことも無いし、民度は年々低くなって自分の事しか考えない風潮が進んでいる気がする。

 民度が高いと言われていた日本は‥‥今は昔の物語。


 俺が考える事じゃないね。

 王妃様たちをいかに安全に持て成すかを考えないといけない。

 取り敢えず観光、買い物は最終日にブランドが集まっている場所に行く事にした。



 ~~~~~~~~~~~



「はい。日本ツアーにいく方々、お集り下さい。今回、このツアーに当たり総責任者を務めます、神田真悟人です。どうかよろしくお願いします。」


 軽い拍手の中、日本ツアーの説明をする。

 ここは日本であり、ルバン王国の常識も価値観も言葉も通じない場所である事。

 ルバンとは違って、王族であろうとも此処の仕来たりに従うべき場所である事。

 ツアーの間中、絶対に従って下さい。事に依っては守れない事態も発生します。

 私の言う事を守っていれば、基本的に平和な場所です。

 繰り返しますが、揉め事を起こす前に私に言って下さい。


 口酸っぱく、皆がウンザリするまで言ったが、王妃様だけは理解してくれて周囲にも注意喚起を促してくれる。


 くぅ~!良く出来た女だ!惚れるぜ♪

 なんて益体も無い事を考えていたら‥‥トゥミ達がいきなり全員整列をさせて、

「今迄聞いた事、反芻してみよ!答えられない奴は置いて行く。分かったな!‥‥分かったら返事は!?」

「「「「「え‥‥あの‥‥」」」」」

「返事は!?」

「「「「「あ、はい‥‥」」」」」

「返事は!?」

 乗馬用の短い鞭が小気味よい音を立てる。

「「「「「は、はい!あ‥‥」」」」」

「返事はぁ!?」

「「「「「イ、イエスさー」」」」」

「返事は!!」

「「「「「イエッサー」」」」」

「返事わぁ!!??」

「「「「「サー・イエッサー」」」」」

「よし!次からは1回で言え!」


 ここから、トゥミさん達の異世界教育が始まった。

 6人づつ5つの班を結成し、王妃様たち高位の貴族をリーダーに抜擢して互いに競わせた。この短時間でその掌握術って、何者ですか?


 そのお陰で、滞りなく日本ツアーの準備は整った。

 トゥミ達は何故かメイドさん達から絶大な信頼を寄せられるのだが‥‥解せぬ。


 ツアーは3班と2班で2台に分乗するのだが、俺としてはランダムに交流が図れれば良いかなぁ?なんて甘っちょろい事を考えていたのだが、キッチリと上位の貴族から順に分けていた。


 中途半端に混ぜると絶対に揉め事になると言われ、俺の日本人っぽいナァナァな部分を思い知らされた。

 封建社会は中途半端に崩せるものじゃない。無礼講とは、礼儀を試されると言う事だと言われた。本来の無礼講とは密議の際に堅苦しくやると話が進まないので行われたものだと何かで読んだ覚えがある。決して無礼を働いても良いと言う意味ではない筈だ。まぁ、当時は無礼になった行動を大目に見ようという意味では合っているのだが、儀礼的に無礼となるのを容認する訳で、人として無礼な行動を許す訳ではない。


 班分けも済んで、出発のバスを待つ。

 本来は日本ツアーガイドブックを準備するはずだったのだが、これに待ったが掛かった。何故か?日本の技術で作られた写真を入れた日本ガイド。そんなもの配ったら、どんなプレミアが付くか分からない。写真の精巧さと色彩。規格化された文字と、全て同じ物を複製する技術。ルバンに無い技術で作られたものは配れない。

 では、写真抜きにして手書きでコピーをしても同じ事。コピー技術は無い。大体、紙が違う。こんな精巧な薄さで均一な紙なんて出回っていない。綴るのもホッチキスなんてある訳が無い。


 色々指摘されて、あぁ~‥‥‥と納得せざるを得なかった。

 それでも実際に日本に行ったら、嫌が応にも目の当たりにするだろう。

 だから写真をバンバン入れて綺麗な冊子を作り金を採って売った。

 1冊、金貨1枚。‥‥1冊\100,000である。

 直ぐに売り切れた。

 日本に行けば、もっと詳しいガイドが無料で配られてるのに‥‥

 でも、ルバンの言葉で翻訳してあるものが無いから正当な価格と思う事にしよう。

 しかし、メイドさん方?1人20冊とか止めて下さい。

 転売する気満々じゃないですかぁ!?


 別の意味で止められたのが分かった気がした。



 バスが来て、各人、上位貴族から順番に乗り込む。

 席順も暗黙の了解の様である。

 一応、後方にラウンジがあって飲食出来るようになっている。

 だから、その辺りから埋まると思っていたのだが‥‥


 王妃様、最前列。

 いや、そこ、バスガイドさんの席だからね。

 はい、皆さん、下がって下がって!

 どんだけ前が良いのですか?

 ああ、走ってる前を見れるのが楽しいと。

 電車の最前列とか楽しいもんね。

 ただ、安全の観点から言うと、王妃様たちは真ん中辺りに‥‥

 嫌?そうですか。じゃあ順に詰めて行きましょうか。

 今度は窓際だとかで揉める。その辺は各人で相談して決めて下さい。


 ある意味、幼稚園生より質が悪いね。


 はい、メイドさん達?荷物は盗られないから大丈夫です。

 無理に席の周りに置いてるから城壁みたいになってますよ?

 いつの間に持ち込んだんですか?バスの床下収納庫に仕舞いましょう。

 大丈夫!ちゃんと名前を書いて、分かる様にしてますからね。

 あ~!そこ!わざと他と同じ名前書いて混同させない!

 全員が王妃様の名前書いてどうするんですか。

 番号振るんで無駄な努力です。割符もあるから、直ぐ分かるからね。


 無事に荷物も人も載せて、出発です。

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