第160話 全容

 翌日‥‥‥

 正直言って意味が分からん。

 解かる事は、俺はミネルヴァとシェリーに愛を語り、彼女たちはそれを受け止めてくれた?‥‥良いのか?


 本来ならば、二人に愛を告げる事‥‥破滅だろ?

 なんで許されてるんだ?俺は?


 ミネルヴァとシェリー‥‥

 ミネルヴァは伯爵家の3女。

 政略結婚で上位の貴族に嫁ぐ立場だな。

 シェリーは神官。

 結婚なんて考えられない立場だよな。

 俺は冒険者。

 たかがAランク‥‥されどAランク。

 とは言え、冒険者が貴族の娘さんや神官さんと結婚なんて在り得ないだろう。


 ベッドの上でゴロゴロと益体も無い事を堂々巡りで考えている。

 いい加減、覚悟決めろよ!!

 と、言う事で真悟人様にお目通り願いました。



「真悟人様、先ずは報告を。私ダグラスはルバン王国伯爵家3女、王宮魔術師風術のミネルヴァと王都神殿筆頭神官シェリーに求婚を致しました‥‥‥」

「うん。」


 決死の覚悟で告げた口上に、一言で返された!

 こ、ここで怯んではイケない!


「あ、はい。ミネルヴァとシェリーには色好い返答を頂きました。

 謹んでここにご報告申し上げます。」

「‥‥‥・・・ダグラス。」

「‥‥はい。」

 え~っと‥‥随分溜めたな。


 いきなりガシッ!と肩を掴まれた。

「よくやった!!今ここでは何も言わん!今度ゆっくり話そう!」

「あ‥‥ハイ。」


 取り敢えず、真悟人様の許しは得た?

 ミネルヴァとシェリーの喜び具合と、トゥミ様達が来てくれてるから大丈夫なんだろう。

 でも、もう一っ真悟人様に告げなければイケない。


「それともう一つ、今回の日本ツアーですが‥‥」

「ああ、それも聞いてるよ。神殿関係者は大混乱だろうから、シェリーのフォローをしてやってな。」


「は、はい。‥‥」

 なんだ?俺の知らない所で何が起きてる?


 ミネルヴァとシェリーに話を聞いて謎が解けた。

 神殿関係者に召集が掛かっている。筆頭神官のシェリーが行かない訳には行かない。シェリーこそ召集の本命なのだが、この時は知らない。

 更に、ミネルヴァの伯爵家は神殿関係の管理者だった。

 当然、召集に関係してくる訳で、二人共に日本ツアーなんて行ってる場合じゃない。

 いきなり、どうなってんだ?


 真悟人様は、

「ほとぼりが冷めたら日本観光に連れて行ってやる。今は辛抱してくれ!」

 そんな風に言ってくれたし、ミネルヴァとシェリーが大変なのに俺が我が侭言ってもしょうがない。

 詳細は分からないが、神殿の存続に係る激震だということだ。

 俺の望みは、早く平穏な日常に戻る事を願うだけだ。



 ~~~~~~~~~~



 時は少し遡って、祖母ちゃんの所。

 河童の庄吉には魔道具の回収を命じて、スライム先生に労いの言葉を掛けていた。


「ああ。それと、真悟人には余計な事言わなくて良いからね。」

「良いんですか?」

「良いんだよ。これは私の恥だからね‥‥」

「分かりました。」

「あんな輩を放置した、あたしの落ち度さね‥‥」


 そこにボワッと転移で河童の庄吉が戻ってくる。

「お待たせしました。魔道具回収、終了しました。」

 魔石の付いたペンダントを両手で渡してくるのを受け取る。


「庄吉。ご苦労だったね。‥‥‥‥‥」

 ジッと目を見て労うが、庄吉は真っ直ぐにこちらを見ないで俯いている。


「いえ、こんな事くらい何でも無いです。」


「そうかい。じゃあそろそろ本当の事を言ってくれるのかい?」

「!!‥‥‥」

 庄吉の身体がビクッと震える。


「庄吉の身体はちゃんと綺麗なまま返してやんな。借りた者の義務だよ。」


「‥‥‥」

 庄吉は何も言わないが、真っ直ぐな視線に耐え切れずに恐る恐る目を合わせる。

「‥‥‥‥」

 目を合わせてもう一度俯き、覚悟を決めたようだ。

「‥‥はい。すいませんでした。」

 観念して素直に頭を下げた。


「聞かせて貰おうか。ジャン・ピエール。」

「はい。」


「最初に、あの商人たちですが‥‥」

「ジャン・ピエール。あたしが何に対して怒ってるか分かってんだろ?」

「‥‥はい。言い訳は無しですね。先ずは庄吉に身体を返します。」


 転移の時のようなボワッとした煙のようなものが出て、河童の庄吉は呆然とした様子で座り込んでいる。

 何が起きたか分からない様子だ。

 庄吉とは別にオジサンが正座している。

 色々言何かを考えている様子で、脂汗を流しつつ俯いている。


「先生?」

「はい。了解です。‥‥庄吉?大丈夫か?あっち行こう。」

「う?あ?‥‥うん。」

「手厚くしてやっておくれ。」

「はい。了解です。」

 祖母ちゃんに促されて、スライム先生は河童の庄吉に声掛けをするが、庄吉は今一つ分かっていない様子で隣の部屋に移動して行った。


「じゃあ、説明して貰おうかね。」

 ジャン・ピエールに視線を向けると、背筋を伸ばして視線を彷徨わしている。

「‥‥はい!」

 覚悟を決めたように話し出した。

「先ずは、ムラーノ様のお傍にいる為に、お役に立てるように、頼りにして頂くために、その先には二人の明るい未来を目指し、二人の楽園を作り、誰にも邪魔されない桃源郷を‥‥‥「シャーラップ!!」」

「いい加減におし!そんな戯言を聞いてるんじゃない!これ以上続けるなら‥‥」

 祖母ちゃんの手にどす黒い靄が渦巻き、それを見たジャン・ピエールはもう一度平伏して言い訳をする。

「あ、す、すいません!久しぶりにお声掛けして貰ったら興奮してしまって!」

 鼻息荒くフンスフンスと興奮してるのが分かる。

「はぁ~~~‥‥だからお前と話すのは嫌なんだよ。」

 絶望的な表情を浮かべて、「そ、そんな!?」とか言ってるが、当たり前である。


 宥めながら脅しながら聞いたことを纏めると、ゴルフ大会を聞いたジャン・ピエールは、何とかムラーノ様のお傍に行こうと策を練った。


 役に立てば良いだろう!と単純な頭で単純な事を考えた。

 そこで日本に向かうメンバーを色々探ってみた訳だが、その中に素行の悪い商人グループが紛れ込んでいた。


 これはイカン!と、ムラーノ様のお傍で守らないとイケない!

 ここからジャン・ピエールの暴走が始まる。


 そこでシェリーに目を付けた。

 彼女を利用して潜り込む安易な手段に走った。

 素の状態でシェリーに会ってる事もおバカなのだが、なまじ魔法の腕は良い。

 伊達に迷宮魔女のムラーノ様の弟子はやっていなかったのだ。

 上手くゴルフツアーには潜り込んだ。


 シェリーがダミーだとバレちゃ不味いので、結界で隠してゴルフ以外で周囲に関りを持たせない様にしたのだが、そこに深い計算も何も無く、安易に隠しただけ‥‥

 お陰で、深読みした周りは振り回されたのだが‥‥


 素行の悪い商人グループは、所謂人身売買を行ってる屑たちであった。

 ゴルフツアーで日本に来た事を利用して、日本で女の子を攫ってルバン王国で売れば、異世界プレミアが付いて破格の値段で売れる筈だった。

 また、異世界知識を抜いて一儲けを企んでも居た。


 ルバン王国では、基本的には奴隷は認めていない。

 しかし、諸外国には認めている国も多く、ルバン王国に来たからと開放させる訳にも行かず、グレーゾーンとなっている。

 だから他国で奴隷を買って登録をして、ルバン王国では申告だけで済ませる輩が後を絶たない。

 この辺りの諸事情はまた後で語ろう。


 しかし、人を日本から攫って連れて行くには次元転移が必要である。

 根本的に次元転移(異世界転移)が出来る技術があるならそんな商売しないでも第1線で活躍できる筈であるのだが。彼らがどんな策を講じていたのかは分からない。


 攫った女の子の売り先予定の貴族は、足の着かない異世界の女の子が手に入ると期待も股間も膨らむばかりだったが、とんだ結末が待っているのをまだ知らない。


 商人たちは逃走経路や周辺の地理を調べるために、夜中に周辺を散策していた。

 最初はホテルの女の子を狙うつもりだったが、居なくなったのが分かりやすいホテルの従業員では無く、もっと人の多い地域に移動するつもりだったようだ。

 そこでジャン・ピエールに見つかり揉め事となる。


 此処でも迷宮魔女の弟子の力を発揮する。

 無駄に能力が高いのが今回のポイントである。

 コイツは事もあろうに不用意に記憶を抜いてしまう。

 戦時中の斥候じゃないんだから、余計な事をして話を大きくしてしまう。


 だったら完璧に真相を語れれば、まだ話も収拾するだろうに、そこはジャン・ピエールだけあって、彼の悪い癖は詰めが甘い。

 記憶抜きも中途半端で、触りを知って全てを知った気になる馬鹿野郎だった。

 当然、誰かに報告する訳もない。

 ここで功名心を持って祖母ちゃんに訴え出てれば、結果は違ったであろう。


 ここで、上の人たちは周辺国の敵対組織の関与を疑う訳である。

 口封じと証拠隠滅。

 工作員の可能性。

 色んな憶測が飛び交い現場は混乱する。

 なんせ、牙狼戦隊の目を掻い潜っての犯行である。

 そりゃプロ中のプロだろ?って疑るのが必然だった。

 そして結界の掛かってる部屋。

 中には参加していない筈の神官の女性。

 分かりやすい囮にしては謎が多い。

 よくここまで掻き回したもんだ!


「はぁ、ジャン・ピエール‥‥ただじゃ済まないからね。」

「わ、私はムラーノ様のお傍に居れれば、どの様な罰でも!」

「それがどんだけ、あたしの顔に泥を塗ってるのか分かってるかい?」

「私は、私はムラーノ様のお役に‥‥うっうっうう~う~~」

 ジャン・ピエールは泣き出した。

 良い歳したおっさんがマジ泣きである。

「ふぅ~。」

 流石の迷宮魔女と恐れられるムラーノ様もコイツばかりは手に余るようだ。

「本当に、コイツがあたしの弟子なんて知られると恥なんてもんじゃ無いよ。悪意無くやるから余計に質悪いさね‥‥」


 事件の全容は分かった。

「‥‥何処まで公開するのかも頭の痛い話だね‥‥」

 祖母ちゃんの悩みは尽きない様である。

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