第159話 纏めてやっちゃう?
ダグラスとミネルヴァたちを前にシェリーの告白は続く。
「あたしは、インチキしてここに来た。賞金だって貰う資格は無いの‥‥だから‥‥
‥‥‥だから、正直に話して罰して貰おうと思ったの。
あの時、ダグラス兄さんに会って、気付いたの。こんな事しちゃイケないって、ズルをしたお金で子供たちに食べさせても、喜んでくれないって。それに、兄さんに怒られちゃうって思った。恥ずかしい事だって思った。それで、ここに来る前に王妃様に会って来たの。」
「王妃様に!?」
ダグラスもミネルヴァも、全員が驚いた。会いたいからって会える相手では無い。不敬として処罰されてもおかしくない相手だった。
そんな疑問を感じ取ったのか、シェリーは説明してくれた。
「ううん。自分から行ったんじゃなくて、真悟人様に呼ばれてたの。だから、王妃様の前でちゃんと真実を話しますので罰して下さいって。」
「そ、それで会って来たのか?」
ダグラスはシェリーが罰を望んだのに対して、どうなったのかを心配した。この後、連れて行かれるかも知れないと思ったのだ。
「うん。会って来た。
王妃様だけじゃなくて、王様も宰相様も居て、横に真悟人様とトゥミ様が付いてくれたので、落ち着いて話せたよ。」
「お、王様や宰相も?‥‥」
一同、絶句だった。
雲の上の人たちの前で、真実を話して罰を望む‥‥どれほどの心の強さだろうか?それを考えると、ミネルヴァは気が遠くなりそうだった。
「王様たちは何と?」
もう、ダグラスは気が気ではない。この後、シェリーは処刑されてしまうかも知れないのだ。
「さっきと同じ話をしたの。そしたらね。」
「そしたら?‥‥」
一同、息を呑む。
「いきなり、真悟人様のお祖母様って方が現れてね。凄く威厳のある声で、『ルーク、あたしゃ許さないよ。少し国が荒れるよ。覚悟しな。』って言って、あたしとも少し話して消えたの。
その後、王様は頭抱えてたわ。」
「ル、ルークって、王様のファーストネームだよね?」
クトゥルフが疑問の声を上げる。
「う、うん。ルーク・オスロ・ド・ポンポンヌ・ルバン王だったと思うよ。王様をファーストネームで呼び捨てで‥‥って、あの噂?」
「うん。あの噂、きっと本当だよね。」
「なんだ?そんなスゴイ人‥‥まぁ真悟人様のお祖母様なら‥‥納得も出来るが、噂って?」
ミネルヴァが説明してくれる。
「ダグラスは知らなかった?先ずはココに着いた時、あのお祖母様の前に出た時に、王様を筆頭に全員が跪いたって。」
「‥‥マジか。」
「それと、噂なんだけど‥‥あの人が森の主‥‥そう、迷宮魔女‥‥」
「!!!!」
「シェ、シェリー!?許さないって言われたのか?」
突然、肩を掴まれてガクガクと揺さぶられる。
「ま、待って!兄さん!あたしじゃ無いから!あたしじゃ!」
「えっ?でも、許さないって。」
ダグラスはまだ神妙な面持ちで聞いてくる。
「あたしじゃ無く、神殿長たちに対してだよ。あたしには『辛かったねぇ。行き届かない国でゴメンよぉ。もう何も心配は無いからねぇ。』って抱きしめてくれたよ。とっても温かくって、なんか幸せな気分になる腕の中だったよ。」
「そうか‥‥ふぅ~。」
「もう兄さん心配しすぎだよぉ。」
そう言いつつ、ダグラスの手を取ってナデナデとしている。
そこにまた突風が!手が弾かれる。
「神官が色目使うな!」
ミネルヴァの容赦ない突っ込みが入る。
しかし、シェリーも怯まずニヤッと笑い、
「王妃様がね、『神官だからって結婚を規制したりしてないのよ?それは間違った認識ね。』って言ってくれたの。だから、ダグラス兄さんと結婚も出来るんだよ!?」
なんと!今度はミネルヴァがビックリ眼である。
「ウソ!神官とか、神職に就いた人は結婚できないって‥‥」
「うん。それが間違った認識なんだって言ってたの。」
シェリーはちょっとドヤ顔である。
「そうか‥‥そうすると‥‥」
ミネルヴァはブツブツと何か考えながら呟いている。
徐に顔を上げると、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「良し、シェリー、二人で相談しよう。」
「へ?」
突然のミネルヴァの申し出に面食らう。
「あの、ここで今してる相談では無くて?」
「うん。ちょっと二人で話したいんだ。」
それを聞いた魔法少女隊の面々は何かを察したようで、グッチとダグラスの二人の退室を促す。
二人は突然の豹変に疑問を抱きながらも、言われた通りに席を外した。グッチの方は何か心得た様子であったが、ダグラスは気付かなかった。
それから待つ事、暫くして、もう一度呼ばれて部屋に入った。
「け、結論は出たのか?」
ダグラスは不安ながらも聞いてみた。
ミネルヴァもシェリーも、さっきまでいがみ合ってたとは思えない程、穏やかな表情をしている。
「先ずは、ダグラスは私たちとどうしたい?」
「うん。ダグラス兄さんはどう思ってるの?」
二人からの問いかけにダグラスは困った。
ここは、どう答えるのが正解なんだ?
俺はどうしたいんだ?
自問自答しながら考える。
二人からの真剣な目線に、心を射抜かれる気分を味わいながらも、ここは取り繕ってもしょうがない。嫌われるのは怖いが、自分の気持ちを偽って生きて行く事は出来ない。何より、後悔したくない。
「俺は‥‥俺は、自分に嘘を付きたくない。だから、正直に言う。
ミネルヴァ。あの夜に言った俺の気持ちは本当だ。今も変わらないしこの先も変わらない。俺は、君を愛している。」
二人が息を呑むのが伝わってくる。
ミネルヴァの目を涙が浮かぶのが見えた。
それを無視して俺は先を続けた。
「シェリー。俺は、お前の事が好きだった。神官になると言われて、心が砕けそうだった。元々、こんなに歳が離れていては俺なんか相手にされないと思っていた。だから、心に蓋をしていたんだ。神官になって、ドンドン綺麗になっていくお前を見てるのが辛かった。諦めようと頑張ったんだがな‥‥正直言って、神官でも結婚できると聞いて嬉しくなっちまった。ミネルヴァに愛を伝えたのに何を言ってると思うだろう。でもシェリーの事も好きなんだ。きっと、愛してるんだ。‥‥どっちか選べと言われても、今の俺には決断できない。すまねぇ。情けない事言ってるのは分かってる。本当にすまねぇ。」
一気に言い切った。
顔を上げると、二人とも泣いていた。
こんな情けないこと言われて、悲しくなったんだろう。正直に言った事を少し後悔した‥‥
いきなり二人に抱きしめられた。
「ダグラス、正直に言ってくれてありがとう。」
「ダグラス兄さん!あたし、あたし‥‥うぇぇぇ~ん」
両の手で二人の肩を抱く。
こんな幸せな瞬間はこれで最後だろうと、心に焼き付けるように二人を強く抱きしめた。
「さて、既に良い時間なので話を進めて良いですか?」
雰囲気をぶち壊すグッチのセリフ。
その瞬間に、ここには俺たちだけじゃない事に気付いた。
グッチも居るし、魔術隊だって居た。
やっべ~~!のめり込んで周りが見えて無かった事に気付いて、血の気が引いた。
「じゃあ、皆さん改めて座りましょうか?結論としてはミネルヴァさんからお願いできますか?」
「あ、はい。」
頬を赤く染めながらミネルヴァが説明してくれるようだ。
死刑宣告を待つ気分になったが、さっきの幸せな瞬間を思い出して、狼狽えない様に冷静にあろうと心に命じる。
「えっと、ダグラスありがとう。貴方の気持ちは素直に嬉しく思うわ。」
シェリーが横でウンウンと相槌を打っているのが可愛くて、つい頬が緩む。
「先ず、私の家は貴族なの。私は3女だから家を継ぐとかは無いんだけど、上位の貴族家に嫁ぐとかじゃない限り、正妻は外せないの。伯爵家だから大したもんじゃ無いんだけどね、」
「いやいやいや、ちょっと待て!え?ミネルヴァさん?伯爵家の3女なの?」
「あれ?知らなかったっけ?」
ニヤッと悪い顔です。
あ、これは確信犯ですね。
「あ、ハイ。」
「それでシェリーは神官さんでしょ?だから周囲の誤解を解く意味でも結婚式は盛大にしたいの。」
「ハイ。」
ん?なんだろう?この話の流れは?
「ダグラスはAクラス冒険者でしょ?だからこの組み合わせは中々インパクトあるのよね。」
「ハイ。」
何処に向かってるんだ?この話の着地点は?
「それで色々相談した結果、纏めてやっちゃえば良いかなって!」
「ハイ。‥‥ハイ?纏めてやっちゃう?」
「うん。」
「何を?」
「聞いてなかったの?」
「イエイエ、キイテマシタヨ?」
「兄さん?ちゃんと聞いてね。」
「ウン。聞いてるヨ?」
「兄さんとミネルヴァさんとあたしの結婚式を盛大にしよう!って話ね。」
「それを纏めてやっちゃう?」
「そう。そうすればミネルヴァさんのお家の顔も立つし、あたしも誤解が解けるしで、良い事でしょ?」
「うん。そうか。そうだな。良い事だな。」
そうか。現実に戻って来たヨ。
俺、結婚できるんだ?それも二人と。
大好きな二人と。
やべぇ、少し実感したら泣けてきた。
さっきの至福の瞬間は、まだ続くんだ。
続いてくれるんだ。
やっべぇ~涙が止まらねぇ。
「えっ?ちょっとダグラス?貴方、泣いて‥‥」
「ダグラス兄さん?喜んでくれるんだ?昔から嬉しいと涙が‥‥」
その後、3人で暫く泣き続けた。
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