第156話 先生!!

 ミネルヴァたちがクラブハウスに戻って、先ずはひとっ風呂浴びようという話になった。

 各人が部屋に戻り、一人になると。


「ピンポ~ン」

 呼び鈴が鳴り、誰かが来たようだ。


「はーい。」

 ユピテルは返事をしながらインターフォンに出ると、画面にはホテルの制服を着た男が立っていた。

 ユピテルも日本の電化製品の扱いに慣れたもんである。まぁ魔道具と思っているのだが、きっとミネルヴァなら大慌てで挙動不審になる筈である。


「どちら様ですか?」

「ルームサービスです。お疲れさまのお茶とお菓子をお持ちしました。」

 そんなの聞いていないが、サービスなら貰っておこうと扉を開ける。


 扉を開くとワゴンにポットと食器とお菓子が乗っている。

「中でご準備させて下さい。」

 そう言いながらワゴンを押して部屋に侵入して来る。

「では、ご準備させて頂きます。」

 食器を並べ、お茶を注ぎ、お菓子を並べた。


 男は突然と振り返り、邪悪な笑顔を浮かべて周囲に結界を張った。

「後は、あなたですね。」

 

「ナニ!?どういうこと?」


「ちょっと大人しくして頂いてれば直ぐに済みます。」

 男は如何にも如何わしい事をしますと言いたげに迫って来た。


「私が可愛いからって襲いに来たな!」


「ええ、まぁ、そういう事にしておきましょう。」


「ちっ!正直じゃないね。‥‥先生!!」


「随分と余裕だ‥‥!!」

 言いかけた時にパリーン!と結界が割れて、ボワッと何かが転移して来た!

「な!なん・・うっ・・う~!・・」

 男は転移して来たものに包まれてた。

 必死に藻掻いているが‥‥段々と動きが遅くなり、やがて大人しくなった。


「オーケー!先生、離してやんないと死んじまいますぜ?」

「うん。こんなもんだねぇ。」


 転移して来たのは、スライム先生と河童の庄吉だった。



 実は、魔術隊のメンバーがクラブハウスに戻った時にグッチに呼び止められ、例の応接室で話を聞いた。


 日本ツアーに行くメンバーが狙われる恐れがあると。その為このブローチを渡しておくので、全員必ず身に付けて置くこと。

 風呂に入る時は髪留めとして使ったりして、手放さないように。


 危険が迫った時には戦わずに呼び出せ!

 キーワードは「先生!!」だ。

 いいか、絶対に魔法ブッ放したりして、戦ったりするなよ!?


「「「「サー・イエッサー」」」」

「うん。良い返事だ。では解散。」



 そんな話を聞いた、直後の事である。

「こんなに直ぐ、襲撃者が来るなんて‥‥」

「うん。僕たちもビックリだよ。」


「先生、あっしはコイツを御屋形様の所へ持って行きます。」

「そうだね。任せちゃって良いかな?」

「へい。お任せください。」


 河童の庄吉は、偽ホテルマンの上に乗っかり、ボワッと転移して行った。


 ピンポーン!

「ちょっとユピー!大丈夫!?」

 ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!


「あぁ~~!!ウルサイ!!」

 扉を開けたら、魔術隊のメンバーの顔が在った。皆、キーワードを聞いて心配して来たのだ。

「もう、事は済んでるから入って。」

 また、何かを連想させる物言いである。


 メンバーが中に入ると‥‥

「スライム先生!!」

「「「きゃーー!」」」

 スライム先生は、王宮女子の間で絶大な人気があった。

 先ず話せるスライムという事と、その穏やかな物言いと、ぷよぷよのスライムボディは抱き心地抜群で引っ張りだこである。


 過去に真悟人が、謁見にスライム先生を引っ張り出して、話しが出来る博識なスライムとして認知され、主にメイドさんから人気が広まって行ったので、当然、魔術隊のメンバーも知っていた。

 そのスライム先生が居たので、思わず騒いでしまった訳である。


 魔術隊のメンバーが落ち着いたのを見計らって、スライム先生から説明があった。

 転移で撃退して、偽ホテルマンは真悟人の所へ持って行った。

 もう危険は無い筈だが、ブローチは付けておくこと。

「いいかい?」

「「「「サー・イエッサー」」」」

「良い返事だね。」

「「「「エヘヘ。」」」」



 そして彼女たちは無事に表彰式にも出席。


 魔法少女賞

「王宮魔術師チーム!」

「魔法の操作、周囲の警戒、防御の対応、素晴らしい魔法操作を見せてくれました。これからも精進してください。」


「「「「きゃーーやった~!!!!」」」」


 なんと賞を頂きました!!

 勤務体制も改善です!お休みが増えます!

 もう、最高です!!



 ~~~~~~~~~~



 そんな表彰式の裏では。


「ちっ!やっぱり実体は掴めなかったかい!まぁそんな簡単には捕まらないか。でもね、尻尾は掴んだからね。絶対に離さないし追い詰めてやるさね。」


「御屋形様、こいつはどうしますか?」


「そうさね。異世界人と違って壊れなかったから良いもんだけどね。‥‥記憶を抜けなかった?日本人は構造が違うのかい?丈夫なのかね?

 まあ、洗脳された訳じゃ無く、操られただけかい。これは‥‥洗脳すら出来なかった?その間の記憶は分からないけどね、何も知らない方が幸せさね。」


「うっ‥‥」


「あぁ、ここで目が覚めたらまた厄介だね。一応、ここの住み込み従業員みたいだからね。コイツの部屋は分るか?そこへ捨ててお出で。」


「へい。分かりやした。」

「あぁ、ちょっとお待ち!」

「へい!」


「もうそろそろ表彰式も終わる。あの小娘が部屋に戻ったら、例の魔道具を回収してお出で。そっちからも辿れるかも知れないからねぇ。」


「へい。行って参ります。」

「ああ、気を付けて行ってお出で。」

「へい。」

 庄吉はボワッと転移して消えた。


「スライム先生もご苦労だったね。」


「いえいえ、祖母ちゃんに比べたら何もして無いのと一緒ですよ。」


「本当に助かったよ。あんた達の隠密には、逆立ちしても敵わないさね。」


「あはは!」


「しばらくアッチでも動かなきゃならないからね。頼りにしてるよ。」


「はい。祖母ちゃんの頼みなら!お任せください。」


「ああ。それと、真悟人には余計な事言わなくて良いからね。」


「良いんですか?」


「良いんだよ。これは私の恥だからね‥‥」


「分かりました。」


「あんな輩を放置した、あたしの落ち度さね‥‥」



 ~~~~~~~~~~



 表彰式も終わり、残る者と帰る者で別れて行く。


 王妃様チームの人間は、明日から日本ツアーが開始する。しかし王様や宰相は戻らなければならない。


 王様も残ると、暫く駄々を捏ねていたが、宰相に叱られ、王妃様に宥められ、お付きの者たちに説得されて諦めた。

 国のトップたる者が、政をうっちゃって遊んでる訳には行かないのである。

 


 王妃様たちと一緒に、トゥミ達も護衛として同伴する。

 しかし内情は、日本ツアー経験者のトゥミ達とファッションやグルメの女子トークで盛り上がる王妃様一行。

 その中に混ざれる猛者は居ないであろう。

 諦めた王様は賢明である。


 予定としては、今夜はこのホテルに宿泊。

 明日の朝から、リムジンバス2台総勢50名程で日本観光へ出発!

 2泊3日の予定である。

 最初はもっと長く、4泊5日位考えていたのだが、諸所の事情により検討した結果この日程に落ち着いた。


 正直な話、いきなり異世界ツアーである。

 絶対にボロが出る。

 話を聞いて、理解してたつもりで、覚悟を決めてたトゥミ達だって大パニックを起こしかけた!

 刺激が強すぎるので、少しずつ慣らして行こうという作戦である。


 先ずは日本のインフラのスゴさを体感してもらおうと思う。

 このホテルでも、上下水道から給湯設備、照明やエアコンなど、魔道具としても説明出来ない様な設備を実体験で感じて貰った。


 今度は建物の中から外に出る訳である。

 ゴルフ場の自然?の景色とは訳が違う!

 コンクリートもアスファルトも無い世界から見たら、その眼にはどう映るのか?


 大義名分では、ルバン王国の技術の推進を目的とし、先進世界を視察する。

 まぁ、生活水準上げるようにガンバレ!と見本を見せるのである。


 そんな日本ツアーが開始する。

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