第153話 振り返り(二人の世界)
悪い妄想を振り切って、ミネルヴァはパターゴルフ場にやって来た。
‥‥キョロキョロと辺りを見回すが、ダグラスは来ていなかった。
「うそ!?まさか‥‥」
まさか、さっきの妄想が現実になる?
そんな現実は信じたくない。
生まれて20ウン年、恋なんてしたことなかった。
人の恋の話はいくらでも聞いた事がある。
でも、自分がこんな気持ちになるなんて‥‥
こんな気持ちだなんて知らなかった。
ちょっとの事が飛び上がるほど嬉しくて。
ちょっとの事で涙が出るほど不安になる。
「これが、恋なんだ‥‥」
妄想では2時間待った。
部屋番号は聞いても教えてくれないのは分ってる。
でも8階なのは分ってるし、イザとなったら皆からグッチさんに連絡してもらおう。不安な気持ちを懸命に抑えて、落ち着き無くパターゴルフ場前で待っていた。
一方ダグラスは、売店に居た。
今回、一緒に来た記念に何か良い物はないかと物色していたのである。
結構混雑していて時間が掛かってしまった。
ちょうど良さそうな物があったので、それをお揃いで購入して、贈り物だと言うと、不思議な素材の紙??みたいなもので包んでくれてリボンまで付けてくれたのだ!俺にしちゃ上出来だろう。
このリボンは、王都では女性の間で爆発的に流行っているのは、ダグラスでも知っている。
最初は、牙猿戦隊の頃(牙狼戦隊の前)ピンクとイエローが服の帯をリボン結びしていたのを、目ざとくトゥミが発見して真悟人に強請って髪飾りなどにアレンジして貰ったのが発端である。
そこからトリネコ商会が商品化して大ヒットとなった。
まだ、商品をキレイに包んでリボンを付ける文化は無い。
ダグラスが売店で、贈り物用にラッピングをして貰ってるのを見た周囲の者たちの中に、トリネコさんが居た。
何という偶然!何というお約束!!
これで王都にもラッピング文化が導入されるのは間違いない。
真悟人の所へラッピングに関しての問い合わせが殺到するのである。
閑話休題
ミネルヴァは泣きそうな気持ちで待っていた。
待ち合わせの時間からは、ほんの10分。
ミネルヴァにとっては永遠の10分。
そこへダグラスが手に袋を下げて登場した。
「ゴメン!待たせたな。」
「!!~~~・・・・」
気持ち的にイッパイイッパイだったミネルヴァは、走り寄ったダグラスに思わず抱き着いてしまった。
「お!おい!どうした!?大丈夫か!?」
大丈夫である。
ただ悪い妄想に引っ張られてしまい、冷静で居られなかった。
しかし、そんな事は言えない。
それに、今度は抱き着いてしまった事が恥ずかしくて顔を上げられない。
絶賛パニック中である。
ダグラスの方は、突然抱き着かれて何が起こったのか分からない。
こちらもパニックに成り掛けたが、さすが冒険者。
伊達に命のやり取りで修羅場を潜っている訳ではない。
直ぐに冷静さを取り戻し、周囲を確認すると、大注目の的である。
エレベーターホールに続いて、本日2回目。
これはヤバい!と思い、
「ミネルヴァ、移動しよう。」
衆人環視の中、肩を抱いてゆっくりと外に出て行った。
アツアツのバカップルぶりである。
二人のやらかしぶりに、周囲も騒然となっている。
その中にはクトゥルフを始めとする魔術隊のメンツも居た。
当然の様にグッチも居た。
皆、面白がってパターゴルフ場に見に来てたのである。
g「いや~、予想以上に面白い事になってるなぁ‥‥」
k「まったく!ルヴァがあんなに脆いとはお姉さんは知らなかったよ。」
a「しっかし、10分くらいであんなに取り乱すかね?」
y「出掛けの妄想がイケなかったね。あれでハマっちゃったんでしょ。」
g「ミネルヴァはどうしちゃったの?君らが何か焚き付けたの?」
k「やだなぁ、そんな事しませんよ。」
a「多分、思いが溢れちゃったんじゃないですか?」
y「二人の世界に入ってしまったみたいですね。」
g「心配無いなら良いんだけどね。」
k「心配は無いと思いますよ。」
a「心配な心当たりが‥‥」
y「なに?」
a「魔法少女隊の存続がぁ~!」
y「あ~それは心配かも!?」
k「何の心配してるんだか?」
g「‥‥‥‥」
平和である。
表に出てきた二人は、公園のベンチに腰かけていた。
パターゴルフ場の周囲は公園になっていて、散歩道が作られて所々にベンチが置かれていた。
二人はまだ入り口付近の明るめな場所に居たから気付かなかったが、もっと奥に入った暗がりでは、熱い抱擁を交わしているのを散見出来たであろう。
「ミネルヴァ?大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい。」
「何かあったのか?」
「いえ、え~と‥‥」
「まぁ、大丈夫なら良いさ。」
思わず頭を撫でてしまうダグラス。」
「あぅ‥‥」
撫でられたミネルヴァは、恋人が出来たらして欲しい事【第4位 頭ナデナデ】をして貰って、心臓バクバクである。
「待ち合わせに遅れてゴメンな。ちょっとコレを選んでてね。」
手に持っていた紙袋を掲げてミネルヴァに見せる。
「せっかく一緒にこういう所へ来れたから、何か記念になるもので、お土産に出来るもの無いかな?って探してたんだ。」
紙袋からリボンの付いた包みを出して、ミネルヴァに手渡す。
ミネルヴァは口元で、「リボンが付いてる‥‥」と、つぶやいている。
「こ、これを私に?」
「そう。俺のセンスだからな、気に入ってくれると良いんだが。」
恋人が出来たらして欲しい事【第3位 サプライズプレゼント】である。
待ち合わせに来なくて絶望してる所に表れて、恥ずかしい失敗もさり気無くカバーしてくれる。
その上、恋人が出来たらして欲しい事【第4位 頭ナデナデ】【第3位 サプライズプレゼント】と来た!これで【第1位 愛の告白】が来たら!?
もう、ミネルヴァの頭の中では、結婚するしかない!この人が居ないと生きて行けない!とまで思っている。
因みに、恋人が出来たらして欲しい事【第2位 親友に紹介】です。
彼女の事を信頼している気持ちの表れですね。
ダグラスの方は、初めての彼女が出来そうで、単純に浮かれていた。
計算してやっている訳ではなく、素で思いついた事をやっているので、ミネルヴァがどれだけ喜んでいるか?など分かっていない。
「開けてみ?」
プレゼントの包みとダグラスの顔を見比べて、困った様子のミネルヴァ。
「ん?どうした?」
「リボンが‥‥」
「ん?」
「こんな、キレイなリボン!ほどいたら戻せないよ。」
このリボンは蝶々の型のリボンではなく、花の型のリボンであった。
多分、ルバン王国では誰も見た事のないリボンであろう。
「うん。大丈夫だよ。」
そう、ダグラスも思った。
こんなキレイなリボン、解いてしまったら戻せと言われても絶対に出来ないと。
だから売店のお姉さんに聞いてみた。
結び方を教えてくれないか?と。
お姉さんはニッコリと微笑み、
「リボンは別になっているので、解かなくても大丈夫ですよ。」
「「おおおおぉぉぉーーー~~」」
周囲から歓声が上がっていた。
包みのリボンは蝶々結びで、その上に別のリボンを付ける。
王都では全く無かった発想だった。
花型の結びの下に伸びた2本のうちの1本を引いてみる。
花型の一つの房だけ解けて、リボンが外れる。
ミネルヴァに渡した包みの、リボンの一片を引いてみる。
「あっ!」
花型は崩れずに包みが解けた。
「ス、スゴイよ?」
ミネルヴァは思わずダグラスを見つける。
「スゴイよな。店で開け方教わったんだよ。」
ドヤ顔する訳でも無く、素直に話すダグラス。
その姿勢にますます熱い視線を送るミネルヴァ。
勝手にやってくれ!
って訳にも行かないね‥‥けっ!
慎重に包み紙を開けて、登場したのは‥‥箱に入ったゴルフボール?
「うん。このゴルフボールにはね‥‥」
このゴルフボールは記念品様に印刷されたゴルフボールだった。
葛飾北斎の波の絵 「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」が印刷されたボールだった。
「これは海の波を描いたものだと、向こうに書かれてる山は、この国、日本の象徴である富士山という山だということだ。」
そう、葛飾北斎「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」これがどういう事をもたらすか、この時の二人は知る由も無かった。
「スゴイね!!こんなボールに絵が描いてある。‥‥ん?こっちは?」
「うん。こっちはゴルフのマーカーだよ。さっきの富士山とお日様だな。」
デフォルメされた富士山の上にお日様がさしている。
正直言うと、こちらの方がミネルヴァの好みであった。
「ダグラスさん。こんな良い物貰って良いの?」
「ああ、気に入らなきゃゴメンだけど‥‥「ううん!スッゴイ気に入ったの。」」
「そうか、うん。良かった。」
「ダグラスさん。ありがとう。」
「いや、一緒に来れた記念だと思って。」
「うん。本当にありがとう♪」
ダグラスは、単純に喜んでくれて良かったと思った。
ミネルヴァは、これを見せて父母兄弟を黙らせようと思った。
そう、ミネルヴァは貴族の娘であった。
この後の二人は‥‥‥‥
若い二人の事で野暮な事は語るまい。
明日は最終日である。
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