第152話 振り返り(宴~)

「やはり神官のお姉さんは会場に来てないか。」

「はい。部屋には戻ったようですが、結界が張られている様で中の様子は伺えません。」

「そりゃ、やっぱ黒だよな‥‥先生は何だって?」

「もう少し泳がせろとの事です。」

「しょうがないな。先生が動くまでは。」

「はい。」

「次の被害者が出ない様に、監視は怠るな。」

「了解しました。」



 ダグラス&ミネルヴァ

 真悟人様たちが席に戻った後、魔道具らしき物を乗せたテーブルが運ばれてきた。

 ミネルヴァに聞こうかと思ったが、まだ機嫌が悪そうなので聞きずらい。


 もぅ~!他の女にデレデレしてたら許さないんだからねぇ~!

 ‥‥でも彼女や奥さんでも無いのに言えないよね。

 ため息ついてたら、なんかテーブルが運ばれてきた。

 あれは、BINGOだね。会場入るときカード貰ったよね。

 ダグラスさんはきょとんとしている。


「ダグラスさん、BINGOですよ。」

「は?なんだ?それは?」

「カード貰いました?」

「ああ、数字の入った紙か?」

 その後、ミネルヴァから説明をされた。

 王城のパーティで真悟人様が広めたそうだ。

 カードを買えば手軽に盛り上がるので、何処のパーティでも必須アイテムとなっており、BINGOマシンなる魔道具はバカ売れして、予約待ちだそうだ。

 最初に当たった奴が一番良い物を貰えるのが通例だが、色々アレンジされて遊ばれているらしい。


 パーティなんて縁が無いから、全然知らなかった。

 数字を呼ばれる度にあちこちで歓声が上がり、カードの穴が増えて行く。

 最初のBINGOを引き当てたのは、魔術隊のユピテルだった!

「BINGO~!!」

 飛び上がって喜んでいる!

 1位の商品は、日本ツアーペアチケット!

 このまま観光ツアーに参加しても良いし、別で来ても良い。

 皆の羨望と称賛の声を聞きながら、ユピテルは目録を貰って来た。


 その後はBINGOもどんどん増えて行く。

 結局、俺もミネルヴァも当たらなかった。

「あ~ぁ、ドライヤー狙ってたのにな!」

「そうか、狙う物があったんだな?」

「ダグラスさんは無かったの?」

「う~ん。特に気にして無かったな。」

 その後はまた、他愛もない話をしてるうちに宴は終了した。



 このまま今夜は終わりたくないと、何となくダグラスは思った。

 でも、どうすれば‥‥

「あれは、良いかも知れない!」

 そういえば説明にあったし、案内も出てたじゃねぇか!

 魔術隊のメンバーで引き揚げると言っていたミネルヴァを探す。


「ルヴァ~、戻ってもう一度お風呂行こう~。」

「ああ、うん。」

 ミネルヴァも、もう少し一緒に居たかった。

 でも、纏わり付いたら迷惑だよね‥‥

 今夜はしょうがないかぁ。


 ・・・・・「‥‥ルヴァ!」

 えっ!?

 ダグラスさんが呼んでる??

 会場から退出する人の流れの中、足を止めて周囲を確認する。

「あっ!ちょっとルヴァ!先行ってるからね~」

 そんな言葉に手を振って答える。


 人の流れの中、風魔法で周囲の人の気を探っていく。

 さすが王宮魔術隊、風のミネルヴァは伊達ではない。

 使いどころは微妙ですが‥‥

「見つけた!」

 人で溢れる中、隅で私を探しているみたいだ。

「ダグラスさ~ん!」


「おお!ミネルヴァ!良かった。見つかった。」

 見つかったら、ミネルヴァは懸命に探してた自分が恥ずかしくなってしまった。

「どうしたんですか?」

 極力冷静に聞いてみる。

「あ、いや~、良かったらパターゴルフ行かないかな?と思って。」

「パターゴルフ?」

「ああ、夜も出来るみたいだから‥‥」

 ダグラスにしてみれば、精一杯の誘い文句。

 というか、こじつけた理由。

 ミネルヴァにしたら、もう少しストレートに言って欲しい気がする。

 もう少し一緒に居れる事に文句は無いのだが‥‥

「あ、早く寝たいなら別に構わないんだ。無理にとは言わない。」

「そうなんですか?」

「あ、いや、‥‥もう少し一緒に居れたら、なんて。」

「もう、最初からそう言って下さいよ。」

 ミネルヴァがちょんとつまんだ、ダグラスの着てるシャツの端。

 それを見て、ダグラスは溢れる思いを口にしたくなる。

 思わず、互いに見つめあう。

 BGMは山下達郎の『ずっと一緒さ』


「チーン。」

「あ!!すいません!エレベーター到着しました。お客様すいません!」


 そう、ここはエレベーターホールだった。

 それも周囲は人でイッパイの。

 係の人は、雰囲気をぶち壊した事を謝ってるし、周囲の人たちからは‥‥


「兄さん!決めろよ~!」

「爆発しろ!」

「きゃー!頑張ってね~♪」

「兄ちゃん!男見せろや!!」

「がんばれよー!」

「ヒューヒュー♪」

「お二人さん、見せつけてくれるなー!」


 オーー!マイ・ゴーーーッド!!

 やらかしちまった!!

 思わずミネルヴァを背中に隠す。微妙な笑顔を振りまいて適当にあしらっていくが、その間ミネルヴァは俺の背中でシャツを握りしめている。

 こりゃ、振られるパターンだな。と、内心ではやらかした自分を殴りたい。


 ミネルヴァは、周囲の人に冷やかされてる間、ダグラスさんが私を背中に庇ってくれた。テキトーに相槌を打って流してくれて、頼れる背中に抱き着きたい気持ちを押さえていた。


 目撃者が居なくなった頃、さすがにエレベーターホールからは移動した。

「このまま一緒にお話ししてても良いですよ?」

「うん。俺もそれには文句無いんだが、パターゴルフでもしてた方がミネルヴァの体裁が良いだろ?」

「はい?そんなの私は‥‥「まぁその方が俺も言い訳付け易いんだよ。」」

「そうなんですか?」

「うん。一緒に遊びたいし。」

「そうですね。‥‥ううん。そうね。」

「ああ。その話し方の方が、俺は嬉しいな。」

「うん♪」


 パターゴルフ場の予約を取って、30分後にここで会う約束をした。

 まだ、何も言ってくれて無いけど、ちゃんと言ってくれそうな予感。

 エレベータホールまで戻る途中、小指だけ繋いだ。

 日本の風習で約束を交わすのにする、指切りって風習だ。

 触れ合う小指だけが、ジンジンするほど緊張した。

 この小指、二度と洗わない!とか子供みたいなことを思った。


「じゃあ、後で。」

「うん。後でね。」


 そう言って彼は8階で降りて行った。

 部屋に戻った私は、先ず皆に取り囲まれて質問責めに合う。


「ちょっと~ルヴァったらどうしちゃったの~??」

「はい?何が?」

 改めて言われると顔がにやけてしまう。

「何が?じゃないでしょ~?」

「えへへ。」

「あ~~?何かあったな?」

「いやいや、何も無いよ。あっ、これからちょっと出てくるから心配しないでね。」

「「「は?」」」

「何言ってんの?あんたは?良い年の娘が夜に出てくるからって、心配するに決まってるでしょ!?ちゃんと何が在ったのか言いなさい!!」

 ルフに詰め寄られたから、簡単に説明してダグラスさんとパターゴルフをしてくると正直に話した。

 正直に話したら、意外と簡単にお許しが出たのでちょっと拍子抜けかな?


 時間が無いので、ザっとシャワーを浴びて、家にもこれが欲しいと思った。

「そんなに遅くならずに戻るから、心配しないで。行ってきまーす。」



 パターゴルフ場の入口でダグラスさんを待つ。

 彼はまだ来ていなかった。

 先に来てそうだったので意外だったが、大人しく待つことにした。


 彼が来ない。

 係員さんに聞いても知らないと言うし、部屋番号も分からない。

 寝ちゃってるのかな?と思ったが、聞きようが無い。

 フロントで聞いても、名前だけで部屋番号は教えられないと断られた。


 2時間待った。

 ‥‥‥彼は来なかった。






「~~な~んて事になったらどうしよう~~!!」

「アホか!あんたは!」

「悪い妄想だけは得意だよね!」

「そんだけシュミレーション出来てれば上出来!」

「さぁ、行くならサッサと行ってお出で。」

 お楽しみなのだが、イザとなると悪い妄想に取り付かれるのはよくある事。

 行って来いと皆で送り出してから、次の行動を開始した。

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