第128話 勿体無い
「おはようございまーす!」
「おはよう。」
「おはようです。」
「はい。みんな、おはようさん。朝ご飯はちゃんと食べるんだよ~。」
「「おはようございます!」」
食堂は朝の7時からやっている。
学校の始業時間は8時半だが、寮から学校まではゆっくり歩いても10分位なものだろう。
だから寮の食堂は、7時半くらいから8時過ぎくらいが一番混む時間帯だ。
セルフサービスで、おかずとスープとサラダを取って、ご飯かパンかは日替わりだ。
子供たちなので、食べ切れる量を準備するのだが、食べ切れない子も居れば、足りない子も居る。
だから、最近は大盛りと小盛りに出来るようにした。
焼き魚や肉を倍にする事は出来ないが、量を調整できるものは言ってくれれば対応する。
「おばちゃん!大盛りで!」
「すいませ~ん。減らして下さい。」
そのうち、魚や肉も調整出来る様にしようと言う取り組みもある。
だって食べ物余らすのって勿体無いでしょ?
この勿体無いと言う言葉は今までのルバン王国には無かったらしい。
この国は飢えた事が無い‥‥なんと!?そんな国が在るのか!?
真悟人を驚愕させたルバン王国だが、まだ建国200年位で年若い国だと‥‥
それでも200年もあれば紆余曲折あって然るべきなのだが、無い物はしょうがない。
いや、良い事なんだけどね?事件を求めてる訳じゃないよ?
この国は真ん中に広大な河が通り、その岸辺に発展した国だと。
自然が大きく占めていて、最初は誰も見向きもしない土地だった。
川沿いに人が住み着き、集落になり、街になり、国になった。
全て自給自足で、目ぼしい交易品もなく。他国からは価値のない国と思われていた。
しかし、この国の本当の価値は、広大な河から出来た広大な農地。
豊かな大地はこの国の民の腹を満たした。
山があり、河があり、広大な農地があり、海もある。
他国に求めるものは?
技術である。
食料を出して、技術を得る。
この国はそうやって生きてきた。
この国が敬遠された理由はもう一つある。
迷宮魔女の森を筆頭とする人外魔境の地域。
この、人を阻む地域がこの国の価値を下げている。
(‥‥‥祖母ちゃんか‥‥いやいや何でも無いです。)
この国の豊かな土地を目指して進攻しようとした国も当然在る。
しかし‥‥森に阻まれた。
森の迷宮に誘い込まれ、一国の軍隊全てが森に呑まれた。
迷い込んだ森を捜索したりもしたのだが、彼らの痕跡すら見当たらない。
(‥‥‥祖母ちゃん何やっちゃってんの?)
進攻した国は、遺品位は返せと攻め立てた。
そう言われても、攻められた側としては、はい。そうですか。とは言えない。
大体、いつの間にか進行して来て、いつの間にか全滅してたんだから、そんなの知ったこっちゃ無い。
だから、勝手に調べろと突っぱねた。
進攻した国は、これ幸いと遺品捜索の大義名分の元、更に進攻すべくやって来たが‥‥‥森に呑まれた。
何千、何万もの人間が消えるのは尋常じゃない。しかも、実際に行方知れずで遺品も無い。
どうなったのかは誰も知らない。
(‥‥‥祖母ちゃんは知ってるんだろうけど‥‥)
その事件から迷宮魔女の森と呼ばれるようになったのだが、この森の脅威は得体の知れない魔女ではなく、現実の猛獣たちである。
角熊を筆頭に牙猿や魔狼など、伝説級の危険動物?果たして動物なのか魔獣なのかも不明な生き物を相手に人間は無力であった。
(今じゃ皆、仲間だけどな。)
それ以来、この森には不可侵の方針を取り、他国もルバン王国には触らない事にしたようだ。
そうやってこのルバン王国は、真っ向からの戦争も無く、飢える事も無かった国の出来上がりだ。
だから、今のルバン王国は貴族を筆頭に飽食の暮らしを送っている。
有り余る食材を無駄に消費する。
食べる量より捨てる量が上回る食生活。
家畜すら食材の選り好みをする国。
真悟人はそんな国を変えたかった。
食べ物を粗末にするな!食べ物で遊ぶな!好き嫌いすんな!勿体無いを知れ!!
先ずは自分の手の届くところから。
身の回りから食べ物の大事さを説くのだが、自分の周りに居たエルフも牙猿も魔狼もオークも人魚も‥‥何を当たり前の事を??
笑っちまった。
食い物を粗末にしてるのは人間だけだった。
大人には今更何を言っても無駄だろう。
だったら子供たちから教育すれば、勿体無いを知れば、変わるかも知れない。
寮の食堂では、勿体無いを覚えてもらえるようにお願いしている。
量の調整をするから、残さず食べましょう。
自分がどの位食べれるかを知りましょう。
残しても別に罰則がある訳じゃない。
ただ、残さない習慣付けをして、残したら勿体無いと覚えて欲しいんです。
「スティング~!今日のメニュー、ソフト麺だってよ!」
「「「おお~!!」」
聞いてた周りの者たちも歓声を上げてた。
絶大な人気を誇るメニューである。
「あのカレーシチューが最高だよな!」
「お替りは確定だな。」
このメニューの時は、普段食べない子でもお替りをしたりするので、作る方も量の調整が難しい。
お昼時。
子供たちが一斉にやってくる。食堂にとっての戦争の始まりだ!
「おばちゃ~ん!大盛りで~!」
「ボクも~!」
「おねえさ~ン!僕は特盛りで~!」
「子供がおべっか使ってんじゃないよっ!」
周囲に笑いが起きる。
そんな時。
「おらっ!お前、何しやがる!」
揉め事が発生。
周囲は静まり返る。
平民の子が食事中にふざけていた。
たまたま横を通った貴族の子とその取り巻きに、跳ねたカレーが飛んでしまった。
「おい!これをどうしてくれるんだ!あ?」
「す、すいません。すいません。」
「すいませんじゃ済まねぇんだよ!」
取り巻きの一人が、テーブルの上のトレイを引っ繰り返して、平民の子の胸と膝の上にカレーがぶちまけられた。
「あっ!‥‥」
さすがにやり過ぎたと思ったのか、貴族の子も固まってしまった。
周囲で誰かが、
「うわ!勿体ねー!」
「なぁー、勿体ねぇなぁ。」
「あ~あ、食事ぶちまけちゃったよ!勿体ねぇ。」
周囲から食事を無駄にした事への非難の声が相次いだ。
「食事、無駄にしてあいつバチが当たるぜ。」
「なぁー、普通は飯に手ぇ出さないだろう?」
「ちょっとやり過ぎだよなぁ。」
そこへ食堂のおばちゃんと先生がやって来た。
「はいはい、あんたたち散った散った!ご飯の時間が無くなっちゃうよ!」
皆、我に返って、そうだ!今日はソフト麺だ!
こんな事してる場合じゃないと、食事に戻って行った。
カレーを掛けられた平民の子は、半べそになりながらも食堂のおばちゃんが裏でキレイに洗ってくれた。
貴族と取り巻きは先生が連れて行った。
まぁ、実行犯は厳重注意で、貴族の子は実際に何も言って無いし何も行っていないという事で、取り巻きを連れるのならちゃんと制御出来ないとイケないと諭されたようだ。
おばちゃんたちは思った。
思った以上に勿体無いが浸透してるね~。
その辺にほっこりするおばちゃんたちであった。
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