第127話 夜の番

 男子寮、女子寮共に歓迎会の夜は更けていく。

 子供たちなので、酒は飲まないしデザートを食べて幸せな夢を見てると良いね。


 そんな深夜にも関わらず、周囲を警戒する影たち。

 今年は牙狼村村長の息子と娘が入学した。

 それも、息子の方はエルフシティ市長であり、魔法学校校長であるヴィトンの孫である。

 それに娘の方は、人魚族長の孫娘であるアンジェリカスの娘。

 人魚族長の曾孫に当たる。


 これは、最初は真悟人も知らなかった。

 子供が出来てから(イネスがお腹に居るのが分かってから)知った事だった。

 人魚族長はバトラショワディダさん。発音できないのでバトラさんと呼んでいる。

 彼女の最大の特徴は‥‥触覚がある。

 額の生え際辺りから長く1本伸びている。それがピロピロと動くのである。

 これが非常に気になる!気にしないようにしてても、ついつい視線で追ってしまう。

 これに気を取られて近づこうとする者なら‥‥パクッと食われてしまう。

 なんと恐ろしい‥‥どういう意味で食われるのかも、知りたくは無い。

 真悟人が最も恐れる人物の一人である。

 トップはやはり、迷宮魔女の‥‥‥ゾクッとした。やばいやばい!口に出しちゃイカンね。


 閑話休題


 今年の魔法学校には、そんな大物の子息たちが集まっている。

 当然、公爵家の娘も居るので、女子寮の警備は厳重である。

 男子寮には第1王子のシモン様が入る筈だったのだが、部屋の改装が間に合わずに遅れている。

 その分人手が分散して警備が大変になっている訳だが‥‥


 交代制の警備とはいえ、人手が足りないので食事もままならない。

 今回は貧乏クジを引いたとみんな諦めていた。


 そんな折に、背後に何者かが忍び寄る。

 王国の影の部隊は、その道のプロ中のプロ。

 自分たちの背後を取れる奴など居る訳が無い。

 そんな彼らの後ろからアッサリと声を掛ける。


「動くな。」


 終わったと、誰もが思った。

 決して油断してた訳じゃない。

 それでも簡単に後ろを取られるのは、敗北を意味する。

 その相手は、如何なる手練れか?このまま殺られるのか?

 彼らの目的は?


 色んな思いが巡る中、意外な言葉を掛けられた。


「食事だ。」


「は?」

 影にあるまじき間抜けな声を出してしまった。


「その間、警戒を替わろう。」


「あ、あの、あなた様は?」

 少しだけ頭が回って来た。敵じゃない?食事?交代してくれる?


「牙狼戦隊、ブルーだ。安心して食事して来い。」


 気付くと、もう一人男が居て、黙って頷いてくれた。


 促されて、安全な場所に移動してから弁当を開けた。

 サンドイッチとお握りのコンビ弁当唐揚げ入り。

 絶大な人気を誇り、予約は絶えずイッパイで、当日分も整理券が配られる幻の弁当。

 話だけでそんな凄いモンか?と舐めていた。

 俺は、俺は今、モーレツに感動している!まったくもって舐めていた。

 こんな美味い弁当があったのか!?

 パンはふっくらして柔らかく仄かに甘みを感じさせる小麦の味。

 具材はタマゴと魚のほぐし身(ツナと言うらしい)でジューシーでメチャメチャ美味い!更にお握りには鮭という焼き魚が入っていて、これが米と海苔との絶妙なハーモニーを奏でている!

 そして唐揚げ!これが周りはカリッと中はジュワッと信じられない美味さだ。

 最後に、赤いタコさんウィンナー!これが美味い♪味も最高だがタコという海の生物を模ってるという噂だ。

 最近流行っているタコ焼きの中のタコの形なんだそうだ。

 可愛いじゃねぇか。

 この弁当のスゴイ所はそれだけじゃねぇ。

 なんと、スープ付きだ!


「あちっ!ふ~っふ~っ」


 入れ物が新しく発売されたマジックボトル!

 入れた物が、熱いものは熱いままに、冷たいものは冷たいものに保温されると言う魔道具だ。

 最初に買うときは高い!躊躇するくらい高い!

 しかし、このボトルを弁当屋で買うと弁当に必ずスープが付く。

 ボトルを持って行って弁当を買うと無料で熱々のスープを付けてくれる。

 これが爆発的に売れていて、俺も予約は入れているんだが‥‥


 スープもまた美味い♪

 毎日、日替わりで変わるそうなんだが、これが種類の豊富な事!

 スープ、シチュー、みそ汁などが主なんだが、どれも具沢山で人気が高い。

 コーンポタージュとクラムチャウダーとトン汁が人気ベスト3だな。


 ボトルを持った奴らがお替りで並ぶんだが、中には不正をする奴らが居る。

 お替りして直ぐに別の容器に移してまた並ぶんだ。

 これを何人かでやって、別で売りに出すとメチャメチャ儲かるという寸法だ。


 そんな奴らが出てきてから、お替りは1日2回までに制限が付いた。

 まぁ普通に弁当とスープ3杯なんて、よっぽどの奴じゃないと食えないだろう。

 それに、スープを入れに持って行った際に、いつの間にかボトルが改良されてて、その日に何杯入れたかカウントされるようになったんだそうだ。


 それでも弁当1個でスープ3杯ゲット出来るんだから不正?をする奴らは後を絶たない。あ、もう不正じゃないな。

 他でスープを転売するにはボトルを20以上は準備しないといけないだろう。

 弁当も20以上買う訳で‥‥お客様毎度あり~ってな訳だな。


 後は食い物だけに、いちゃもん付ける奴もいる。

 虫が入ってた!だの、腐ってて腹壊した!だのと有る事無い事捲し立てる。

 虫入りは持って来させて鑑定すれば一発!直ぐに御用となる。


 腹痛は指定の病院に行かせる。そこで鑑定するのだが絶対じゃない。

 転売された弁当の場合は、当然無効である。

 食べた弁当容器を鑑定すれば、これも一発で分かる。

 こういう輩は容器を持参する事はしないので、その場合は証拠不十分で門前払い。

 中身を入れ替えてきた奴も居たが、それこそ一発で分かる。

 アホか。

 因みに、病院代は病院から弁当屋に直接請求が来るので相手が儲かる事は絶対に無い。

 病院側も何故腹痛を起こしてるのか?食中毒か?などは検査するので弁当が原因じゃない事はお見通しですよ。


 最近、様々な店舗で人気の魔道具がある。

 その名もブラックリストチェッカー!

 店舗に難癖付けて金銭をゆする行為をする様な奴は色んな店舗でやっている。

 情報共有して弾いてしまおうと言う試み。

 これに登録されたら社会生活が営めないだろう。

 ある意味、怖い魔道具だな‥‥


 弁当を食いながら、色んな事を考察していた。

 本当に美味い弁当だった。


「ごちそうさまでした。」


 噂通り、まったく気配を気取らせずに目的を遂行する牙狼戦隊。

 二人一組で、牙猿と魔狼で組んでいるというのは本当だったんだ。


 それが食事を差し入れてくれて、食う時間まで作ってくれた。

 うちの部隊も見習って欲しいぜ。


「替わろう。助かった。」


「もう良いのか?」


「ああ。お代はどうすれば良い?」


「構わない。ボスからの奢りだ。」


「ボスって事は?」


「ああ、真悟人様だ。」


「本当にありがとう。感謝してると伝えてくれ。」


「分かった。それでは後を頼む。」


「おう。後は任せて‥‥もういねぇ‥‥」

 既にブルーたちの姿は無かった。



 この日以来、影たちの訓練が真剣に激しくなったのと、今まで誰もやりたがらなかった夜の番の人気が高くなったそうだ。


 弁当屋には、影の部隊から毎晩の弁当が注文されるようになった。


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