第123話 イネス視点

 教室に入ると、席の半分くらいは埋まっていた。

 机に張られた名前を見て、自分の席に着く。

 男子列、女子列と交互に名前順に座る。

 既に友達同士の者たちは集まって談笑しているが、イネスはスティング以外に知り合いは居ない。

 黙って席に着いたら、隣の男の子が話しかけてきた。


「初めまして。僕はシモン。君の名前を教えてくれるかい?」


「初めまして。私はイネス。どうぞよろしく。」


「イネスか良い名だね。こちらこそよろしくね。」


 そんな挨拶をしていたら、先生が入ってきた。

 入ってきたのはヘルメスだった。

 直ぐにスティングに気付いたようでニヤッと笑った。


「はい。みんな席に着け。」


 みんなバタバタと席に着いて時期に静まる。

 静まった皆を見渡して、


「よし。スティング、号令!」


 スティングは一瞬だけ固まったが、直ぐに気を取り直したみたいで、

「起立!!‥‥‥礼!!(おはようございます!)(((‥‥お、おはようございます!)))‥‥‥着席!!」


「よし。ちゃんと出来たな。俺はこのクラスを受け持つヘルメスだ。」


 誰かが小声で、「土のヘルメス‥‥」そんな呟きもしっかり拾われて、


「ああ、そう呼ばれる事も在る。先ずは、さっきの号令だがこれは毎日やってもらう。今日はスティングにやって貰ったが、明日は別の奴‥‥かも知れない。」


 そう言ってクラスを見渡す。

「毎日、始業と終業に号令をしてもらう。誰が何回やるかは未定だが、沢山やった奴はご褒美を考えて置く。やりたい奴は事前に予約しておけ。」


 みんな何故かゴクリと唾を飲み込み、緊張している。

 イネスはご褒美を貰えるなら、毎日やっても良いな。そんなことを考えていた。


「じゃあ、次はお約束の自己紹介をしてもらおう。自己紹介した奴は次の奴を指名しろ。それでは最初に真ん中でニヤけて居るスティング!お前からだ!」


 やっぱり!そうすると次は自分に来るね。

 スティングはガタガタっと席を立って自己紹介を始める。

「皆さん、初めまして。牙狼村から来ましたスティングです。村から余り出た事無いので世間知らずな面があります。そんな時はドンドン指摘してやってください。これからどうか宜しくお願いします。では次の自己紹介は‥‥‥イネス。お願いします。」


 やっぱり来たなと予想通りで、スティングを見て少し頷いてから立ち上がった。


「こんにちは。初めまして。イネスです。スティングと同じ村の出身です。不束者ですがよろしくお願いします。‥‥‥では、お隣の方、よろしくお願いします。」


 どうせみんな覚えちゃいないと簡単に纏めた。あんまり余計な事言ってもしょうがないし、折角だから話しかけて来た隣の男の子に回した。


「イネスさんにご指名に預かり光栄です。私はシモン・アルノー・ド・ポンポンヌ・ルバンと申します。名前の通りこの国の第1王子となります。しかしこの学園に入ったので、身分より皆さんとの切磋琢磨を期待しています。どうか宜しくお願いします。‥‥‥では、次は隣の御方にお願いします。」


 次に指名された何処かの子息は、しどろもどろに自己紹介を行っていた。

 この人、王子様なんだ‥‥‥まあ、私には関係無いし、この6年間を有意義に過ごせれば権力者には関わらない方が良いかな。パパもそんな事言ってたしね。


 一通りの自己紹介は終わった。

 平民は私とスティングの二人だけだった。


 平民で高等教育受けてる奴は少ない。

 精々裕福な商人の子が読み書き計算を習うくらいだろう。


 パパは言っていた。

 浮くかもしれない、虐められるかも知れない、でも将来武器になる。

 知ってると知らないじゃ、知ってて知らないふりが良い。

 知識は自慢するもんじゃない、必要な時に使うもんだ。

 だから黙っておけって。


 パパ。

 私は黙っておくよ。

 スティングと目を合わせて、頷く。

 互いに分かっているアイコンタクト。

 ボスさん達との戦闘訓練の中で覚えた意思疎通。

 パパの言った通り、いろんな所で役立つって、今、役に立ったね。

 パパの言う通りだと思ったらにやけてしまった。


「よし、一通りの自己紹介は終わったな。次は班分けだ。これは5人づつ4班作ってもらう。前から順に男3女2、男2女3で4班作る。実習の時にその班分けでやるからな。同じ班の奴を覚えておけよ。」


 その後は、班ごとに分かれて改めて自己紹介。

 みんな貴族なのだが、王子が居るので遠慮がちに自己紹介をする。

 私は平民なので、メイド程度に考えてる奴が居るみたいで、同じ班の女は典型的な貴族の女だった。

 うっとおしいなと思っていたら、王子が、


「この学園内では爵位は関係ないのだから、相手が平民だからと言って馬鹿にしちゃダメですよ。」


 う~ん、その言い様って逆に馬鹿にされてる?

 貴族の女は、

「あ、申し訳ありません。つい、うちのメイドに話す口調になってしまいました。」


 こいつは仲良くなれないな。と思っていた。

 そんな中で、


「スティングって牙狼村の村長の息子でしょ?」


「ん?そうだけど?」


「すっげー!牙猿や魔狼従えてるってホント??」


「従えてるって言うか、仲間だよ。みんなとってもイイ人なんだ。」


 全員固まった‥‥

「牙猿と仲間‥‥ワンスさん達も居るし可笑しくは無いが‥‥」

「魔狼と仲間‥‥シルヴィア先生と仲間?‥‥」


 あ~‥‥スティング、あんまり余計な事言わないでよ‥‥


「じゃ、じゃあ牙猿戦隊なんて‥‥」


「ああ、レッドさん達はいつも遊んで貰ってるよ。戦闘訓練にも一緒に行きたいのに中々参加させてくれないんだ。」


「せ、戦隊と戦闘訓練??‥‥」


「うん。僕は弱っちいからまだ無理だって、最低でも牙猿戦隊2軍と渡り合えないと無理みたいなんだ。」


「に、2軍って、そんなのあるの?」


「そうなんだよ。この学校の2年生に居るワンス、トゥース、スーリーも3軍だからね。先ずは彼らに勝たないと、全然レッドさん達には届かないね。」


「お、おい!ワンス、トゥース、スーリーったらこの学校の3巨頭だぞ?あ、あの人たちに勝つって!?」


 あ~あ、そんな事言ったら周りが騒めくの当たり前でしょ?

 取り敢えず、「ばか!」と言っておいた。


 スティングが冷や汗だらだらの時に、また火に油を注ぐ輩が‥‥


「ここか?‥‥おーい!スティングとイネス居るかぁ?」


 噂をすれば何とやら、話題にされてたワンスが来た!


「あ!ワンス兄さん!」

スティングは嬉しそう。


「おう!スティングとイネス居たか!オリエンテーションは終わったか?」


 気軽に教室に入ってきた。

 そこでヘルメス先生と目が合い‥‥‥


「あ!やべ!」


 瞬間、土の槍が床から出現した!

 間髪入れずワンスは壁に飛んだが、土の槍は先端をホーミングして行く。


「くっ!」


 ワンスは更に天井から壁、床へと自在に飛んで土のホーミングミサイルを躱していく。


「ほう、これを躱すか?んじゃ次は‥「待った待った待った~~!!」」


 ヘルメスの言葉に被せて、ワンスが待ったを掛ける。

「ヘルメスさん!ここでやったら怪我人出るって!」


「ちっ!しょうがねーな。」


「‥‥舌打ち?」クラス全員、ヘルメスは戦闘狂だと刻まれた瞬間だった。


「勝手に入ったのは悪かったよ!スティングとイネスを見に来ただけなんだ。」


「それはしょうがないですね。じゃあ、本日のオリエンテーションはここまでにしましょう。では解散!‥‥ワンスはトゥース、スーリーを連れて訓練場に来なさい。」


「ああ、は~い!」

 またトゥースとスーリーに恨まれちまうな。

 あの人をあんな戦闘狂にしたのは親父だって話だし、逆らえないよなぁ‥‥


 気を取り直して、周りを見回すと‥‥

 みんな固まっている。

「ん~と、じゃあ、スティングとイネス、寮に帰るか?」


「「はい。」」

ここで余計な事言ってもしょうがない。

素直にさっさと帰ろう。


「ワンス兄さん、ダメですよ。」


「イネス、ゴメン。」


「もう、そんな見境なく行動してたら、いつか怪我しますよ?」


「うん。でもまさかヘルメスさんがイキナリ仕掛けて来るとは‥‥」


「あの人、そういう人じゃないですか。ワンス兄さんも知ってるでしょ?」


「そうだな。軽率だったよ。まさか、ああなるとは思って無くてな。」


「でも、スティングは助かったみたいですよ?」


「ん?スティング、なんか余計な事言ったのか?」


スティングは何て言い訳するか悩んでるようだが、言い訳の前にワンスはニヤッと笑って、

「スティング、貸し+1な。」


ワンス兄さんには、お見通しの様だ。

そんな話をしているうちに女子寮との分かれ道に来た。


「それじゃ、私こっちだから。」


「「ああ、また明日な。」」



女子寮に向かうと貴族のメンドクサイ女が待っていた。

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