第122話 オリエンテーション

 一通りの自己紹介は終わった。

 平民は自分とイネスの二人だけだった。


 まぁ、それもそうか、平民で高等教育受けてる奴は少ない。

 精々裕福な商人の子が読み書き計算を習うくらいだろう。


 お父さんは言っていた。

 浮くかもしれない、虐められるかも知れない、でも将来武器になる。

 知ってると知らないじゃ、知ってて知らないふりが良い。

 知識は自慢するもんじゃない、必要な時に使うもんだ。

 だから黙っておけって。


 お父さん。

 僕もイネスも黙っておくよ。

 イネスと目を合わせて、頷く。

 互いに分かっているアイコンタクト。

 ボスさん達との戦闘訓練の中で覚えた意思疎通。

 お父さんの言った通り、いろんな所で役立つって、今、役に立って嬉しくなった。

 イネスも同じ事思ったみたいで、にやけている。


「よし、一通りの自己紹介は終わったな。次は班分けだ。これは5人づつ4班作ってもらう。前から順に男3女2、男2女3で4班作る。実習の時にその班分けでやるからな。同じ班の奴を覚えておけよ。」


 その後は、班ごとに分かれて改めて自己紹介。

 みんな貴族なので、親の爵位をひけらかす。

 僕は平民なので、召使い程度に考えてる奴が居る。

 そんな中で、


「スティングって牙狼村の村長の息子でしょ?」


「ん?そうだけど?」


「すっげー!牙猿や魔狼従えてるってホント??」


「従えてるって言うか、仲間だよ。みんなとってもイイ人なんだ。」


 全員固まった‥‥

「牙猿と仲間‥‥ワンスさん達も居るし可笑しくは無いが‥‥」

「魔狼と仲間‥‥シルヴィア先生と仲間?‥‥」


 ん?なんか変な事言ったかな?


「じゃ、じゃあ牙猿戦隊なんて‥‥」


「ああ、レッドさん達はいつも遊んで貰ってるよ。戦闘訓練にも一緒に行きたいのに中々参加させてくれないんだ。」


「せ、戦隊と戦闘訓練??‥‥」


「うん。僕は弱っちいからまだ無理だって、最低でも牙猿戦隊2軍と渡り合えないと無理みたいなんだ。」


「に、2軍って、そんなのあるの?」


「そうなんだよ。この学校の2年生に居るワンス、トゥース、スーリーも3軍だからね。先ずは彼らに勝たないと、全然レッドさん達には届かないね。」


「お、おい!ワンス、トゥース、スーリーったらこの学校の3巨頭だぞ?あ、あの人たちに勝つって!?」


 周りが騒めいた。同じ班だけじゃなくクラス全体が注目している中、イネスだけは隅でこっちを見て「ばか!」と言っていた。

 な、なんか失敗した気がする。


 冷や汗だらだらの時に、救いの神が!!


「ここか?‥‥おーい!スティングとイネス居るかぁ?」


 噂をすれば何とやら、今話題にしてたワンスが来た!


「あ!ワンス兄さん!」


「おう!スティングとイネス居たか!オリエンテーションは終わったか?」


 気軽に教室に入ってきた。

 そこでヘルメス先生と目が合い‥‥‥


「あ!やべ!」


 瞬間、土の槍が床から出現した!

 間髪入れずワンスは壁に飛んだが、土の槍は先端をホーミングして行く。


「くっ!」


 ワンスは更に天井から壁、床へと自在に飛んで土のホーミングミサイルを躱していく。


「ほう、これを躱すか?んじゃ次は‥「待った待った待った~~!!」」


 ヘルメスの言葉に被せて、ワンスが待ったを掛ける。

「ヘルメスさん!ここでやったら怪我人出るって!」


「ちっ!しょうがねーな。」


「‥‥舌打ち?」クラス全員、ヘルメスは戦闘狂だと刻まれた瞬間だった。


「勝手に入ったのは悪かったよ!スティングとイネスを見に来ただけなんだ。」


「それはしょうがないですね。じゃあ、本日のオリエンテーションはここまでにしましょう。では解散!‥‥ワンスはトゥース、スーリーを連れて訓練場に来なさい。」


「ああ、は~い!」

 またトゥースとスーリーに恨まれちまうな。

 あの人をあんな戦闘狂にしたのは親父だって話だし、逆らえないよなぁ‥‥


 気を取り直して、周りを見回すと‥‥

 みんな固まっている。

「ん~と、じゃあ、スティングとイネス、寮に帰るか?」


「「はい。」」


 もう、余計な言い訳も無しで、早々に引き上げた。


「ワンス兄さん、ダメですよ。」

 ワンスはイネスに叱られている。


「まさか、ああなるとは思って無くてな。」

 そりゃ、あんな状況は予想できないだろう。


「でも、スティングは助かったみたいですよ?」


 うっ。。。それは‥‥言えない。

 ワンスはニヤッと笑って、

「スティング、貸し+1な。」

 誤魔化されないかぁ。


 貸しをどうやって返すかを話しながら寮に帰った。

 イネスは女子寮なので、途中で別れて男子寮に帰ってきた。

 まだ出来立てのこの学校は2年生までしかいない。

 この建物自体が1,2年生専用ではあるが、ワンスが寮長をやっている。


「部屋は確認したか?」


「うん。お父さんからマジックバック借りたから、何も置いてないけどね。」


「ばか!」

 頭を小突かれた。

「その事は言うなって言われたろ?」


 あっ!そうだった。ワンス兄さんだから、油断していた。

 お父さんたちは伝説のアーティファクトとされるものを普通に使っている。

 これは領主様くらいしか知らない事で、公にバレたら大変な事になると口止めされている。


「最低限、出して置くものは出して置けよ?何も無いのは不自然だからな?それと、口は災いの元だからな?言える事と言えない事はよく考えておけ?」


「うん。分かったよ。ワンス兄さん、ありがとう。」


「おう。後でトゥースも来るから、一緒に飯行こう。まぁその前にヘルメス先生との戦闘訓練だがな‥‥」


「うん。ありがとう。頑張って!」


 ワンス兄さんが帰った後、部屋に出す物を悩むのだった。


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