第124話 女子寮

 寮の前にあの貴族のメンドクサイ女が待っている。

 どう見ても、私狙いだろう。

 取り巻きを引き連れてるとこを見ると、私をメイド扱いする気満々の様だ。


 あ~、メンドクサイ!

 貴族の女がこっちに気付くと同時に、

「テレポ!」


 部屋に飛んだ。

 戦闘じゃスティングに敵わないが、逃げ足は私の方が早い!

 まだパパと私と何人かしか使えない魔法だが、こんな時は重宝する。


 部屋でちゃっちゃと着替えて、スーリー姉さんのトコに行く。

 ノックをして声を掛ける。


「イネスです。スーリー姉さん居ますか?」


 直ぐにドアが開いてスーリー姉さんが抱きしめて来た。


「イネス~!お帰り。初日はどうだった?嫌な事とか無かった?」


 ここで誤魔化してもしょうがないので、そのまま話をする。

「あ~!あの生意気そうな侯爵だかの娘かぁ。まぁ心配するこた無いよ。取り敢えずは上手く逃げてな。目に余るようなら追い込んであげるよ。」


「姉さん。ありがとう。」


 それと、今日のヘルメスとワンスの話もする。


「あのバカ!だからやたらとコールが来てたのか!」


 コールとは、パパが作った念話の魔法。

 強く相手を思い浮かべて、話が出来る。

 話したくないときは無視すれば良い。


「ヘルメスさんに付き合ってたら時間に限りないからね。ワンスとトゥースに頑張って貰おう。」


 トゥースはとばっちりも良いトコである。


「今日の夕飯の時に、新入生の歓迎会をやるからね。それまで侯爵の娘には関わらない様にしておきな。」


「うん。分かった。」

 部屋に攻めてきたら、トイレにでも飛んでおこう。


 部屋に戻ると、同室の子が帰って来ていた。

 彼女はAクラスで平民の子でメグという。

 まだあまり話した事は無いが、特に敵対することも無さそうだし、様子見かな。


 女同士ってホントにメンドクサイ!

 特に男が絡むと余計に拗れる。

 スーリー姉さんみたいにサバサバしてると良いんだけど、女って陰湿だからね。

 エルフの娘たちを見ててホントに思った。

 3才でも5才でも女なんだよねぇ~‥‥


 そんな益体も無い事を考えていたら、ドアをノックする音が‥‥

 嫌な予感がする。

「フライ、隠蔽」


 フライで天井に飛んで姿を隠す。

 音を出したり動いたりすると隠蔽の効果は薄れるが、魔法の効果が切れる訳じゃ無い。アンジェママに怒られるのを逃げるために懸命に覚えた魔法だ。


 パパがトゥミママからこの魔法で逃げるのを見て、教えてもらった。

 パパと私だけの絶対の秘密だ!


 メグちゃんがキョロキョロとしてあれ?って顔してる。

 不思議そうにしながらもドアを開けた。


「はい?」


 返事した途端にドアを強引に開けられ、貴族の女たちが雪崩れ込んできた。

 うわぁ~危なかった!


「ここ、イネスの部屋よね?何処行ったの?隠すと為にならないわよ?」


「はい?部屋をお間違えじゃないですか?」


「あなた平民の子よね?隠すなって言ったはずよ?」


「はい。隠してないです。どうぞ部屋を調べて見て下さい。」


 女たちは乱暴に部屋の中を物色しだした。

 その様子を呆れた顔をしてメグは見ているが‥‥チラッと私と目が合った。


「ホントに隠してないみたいね?この部屋にイネスは来てないの?」


「イネスさんですか?まだお会いしてないですねぇ。」


「ちっ!しょうがない。あなた。イネスが来たら直ぐ教えなさい!」


「はぁ‥‥」


「行くわよ。」


 ・・・・・・


「降りて来ていいわよ。」


 イネスはビックリしていた。まさかバレてるなんて!

 隠蔽を解いて降りて来た。


「どういう事だか説明してくれるんでしょ?」


「うん。先にごめんなさい。迷惑かけちゃった。」

 素直に謝って、同じ班に王子と侯爵の娘が居て、絡まれたのだと正直に話した。


「あぁ~!たち悪そうだもんねぇ。」


「スーリー姉さんにも夕飯の歓迎会までは逃げておけって言われたんで、つい隠れちゃったの。庇ってくれてありがとう。」


「まぁ良いわよ。これ貸しだからね。」


「うっ!返済は?‥‥」


「そうね。身体で返してもらおうかな?」


「か、身体で!?」

 思わず無い胸を隠す。


「あはは。そんなペッタンコの胸じゃ商品価値ないなぁ。」


「むぅ。これから大きくなるもん!」


「んじゃ、その将来に賭けてあたしと友達になってくれる?」


「へっ?友達?」


「そう。友達になって。」


「えへへ♪初めての友達だぁ!」


「そうなの?これから宜しくね。イネス。」


「うん。メグ。よろしくお願いします。」


 イネスは初めての友達ができた。



 ~~~~~~~~~~



 そんな頃。


「おい、ワンス!何で訓練場なんて行かなきゃイケないんだよ?」


「まぁ、そう言うな。助けると思ってさ!」


「ケンカはご法度だぞ?まぁお前にケンカ売る馬鹿は居ないと思うがな。」


「ああ、そんな馬鹿はお前だけだよ。」


「なんだと!?」


「トゥース兄さん落ち着いて!ワンス兄さんも煽んないの!」


 ワンス、トゥース、スティングの3人で訓練場に来ていた。

 何故訓練場なのかはトゥースには知らせていない。

 スーリーには無視された。


 訓練場に着いたら、出入口が土の壁で塞がれた。

「ようやく来たな!」


「げっ!ヘルメスさん!‥‥てめぇ!ワンス!騙したな!」


「人聞きの悪い。助けると思って来てくれって頼んだんで、騙してなんかないぞ。なぁスティング!」


「あ、ノーコメントで。」


「さぁ、最初は誰から来るんだ?3人いっぺんに来るか?」


 これから夕飯時まで地獄の模擬戦が繰り返される。

 こんな事の相手をしてるから彼らは強くなったのだが、その事に付いて彼らが感謝する事は無い。

 メンドクサイ大人の遊び相手はうんざりである。





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