第117話 村の生活

 わし等はドワーフのダエグとオセルとハガル。

 ドワーフの水戸黄門一行‥‥黄門様と助さん格さんと言われる‥‥

 それが何だか分からない‥‥真悟人様が言い出したららしいが、教えてはくれない。牙狼村で鍛冶を行う約束をして、移動の準備を整えて街の外に出てきた。

 オダーラからエルフシティまでは交易路が整ってきていた。


 この先は迷宮魔女の森‥‥入り込んだら二度と出られない人外魔境の森。

 一歩入り込んだら‥‥「いきなり出たぁ~~!!」


「き、き、牙猿!?こ、こんな人里近くに!!」

 もう、死んだと思った。多少の心得は在っても、流石に牙猿には敵わない。

 せ、せめて‥‥

「おい!真悟人様は守るぞ!」


「「おう!!」」


 助さんも格さんも‥‥いや、違う!オセルもハガルも、それなりに馴らした猛者だ。なんとか真悟人様だけでも逃がせれば良いが‥‥‥


「「「はっ??」」」

 なんと、目の前の牙猿が膝を着いたのだ。


「主、お迎えに上がりました。」


「うぇ!「「しゃ、しゃ、喋ったぁ~!!??」」」


「うん。ボス!ご苦労さん。あぁ、彼らは村で鍛冶屋をやってくれるドワーフの3人だ。面倒みてやってくれ。」


「主、了解しました。」


 牙猿がこちらにやってきた。も、もう‥‥ちびりそうである。

 目の前まで来た牙猿が片膝を着き、目線を下げてくれた。


「牙狼村、牙猿の筆頭。ボスという。貴殿たちの面倒を見よう。今後宜しく頼む。」


「あ、あ、あわわ、」

 頬をパンパンと叩き、シャっきりせい!と気合を入れる。

「失礼申した。わしはドワーフのダエグと言う。村の鍛冶をやらしてもらい、信用を得たら酒造りも手伝いたいと思っている。今後宜しくお願い申し上げる。」


「わしは、ドワーフのオセルと・・・・」


「わしは、ドワーフのハガルと・・・・」


「黄門様と助さん格さんだな。」

 真悟人が横から、さらっと余計な事を言う。

 以降、彼らは黄門様と助さん格さん呼びが定着するのである。


「じゃあ移動するか。」


「「「???」」」


 真悟人に紐を渡された。はて、これで何をしろと?

 いつも間にか、牙猿も数が増えている。

 そして、おぶされと言わんばかりに背を向けてしゃがんでいる。

 ???疑問が尽きずに真悟人様を見ると、ボスにおぶさり、紐で自分を固定している。‥‥ああ、と合点は行ったが、おぶさって良いのか?逡巡していると、


「早く乗らないと置いて行くぞ?」


 そう、急かされて素直におぶさり、紐で‥‥紐で‥‥

 どう縛って良いのか悩んでいると、


「貸してみろ。」


 手際よくクルクルっと巻かれて縛られた。


「ぐえっ」

 きつく縛られてキツイ!


「キツイか?多少きつく無いと落ちるからな。少しの間だ、辛抱しろ。」


「準備良いか?では、GO!]


「うぉぉぉぉぉ~~~---!!!」

「ぐぁぁぁぁーーーーー‥‥‥」

「どがぁぁぁぁぁぁ‥‥‥‥ああぁぁぁぁぁ~~!!!」


 その後は記憶に無い‥‥

 しょっぱなから後悔した‥‥漏らすなんて‥‥‥


 気付いたときは綺麗なベッドに寝かされて、身体も清められていた‥‥

「ううぅ‥‥お婿に行けない‥‥」


「気付いたかい?馬鹿言ってないでお仲間を見てやんな。」


 そこには巨大な牙猿の♀?‥‥じょ、女性が居た。

 ヤバイ!こいつは強い!最初にあったボスと遜色ないぞ?


「あたしはこの牙狼村の牙猿筆頭、ボスの嫁筆頭でワフワンってんだよ。」


「あ、わ、わしはドワーフのダエグと申す。今回、真悟人様の元で鍛冶をやらしてもらう。信用頂けたら、酒造りにも携われるようお願いしている。」


「そうかい。スパイたちとは違うんだね?怪しい真似したら縊り殺すからね。」


「は、はい。決してそんな真似は行いません。」


「まぁ今日はゆっくりしな。お仲間も起きたら飯にするから声掛けな。」


「はい。あの、わし等を着替えさせてくれたのは?‥‥」


「あぁ、もう見れない状況だったからね。着替えさせたのはワフスリだよ。会ったらお礼言っとくんだね。」


「あ、あの‥‥‥」


「ああ、服なら洗濯に回してるから、そこにある服を着てな。それから粗末な物見てもあたしらどうこう無いから心配しなさんな。後は大丈夫だね?」


「はい。。。粗末‥‥‥」


 ワフワンは言うだけ言うと、部屋を出て行った。

 畳みかける様に言われて、羞恥心どころではないのだが‥‥

「わし、それなりに崇められる立場だったんだがなぁ‥‥」

 小僧の様に扱われて、戸惑うやら新鮮やらだが、出直すには良い感じだな!

 前向きなドワーフである。


 助さん格さん‥‥いやいや、オセルとハガルも起きて来て、食事をお願いしに部屋を出た。キョロキョロしていると、絶世の美女!エルフの女性がやってきて、


「黄門様と助さんと格さんですね?お食事出来てますよ。どうぞこちらへ。」


「あ、いや、あの‥‥」

 違うと言えない、ヘタレなドワーフたちであった。


 食堂に案内されると、結構人がいる。皆を見るとエルフと牙猿と獣人?オークも居る。なかなか混沌とした風景であった。


「こちらは食堂になります。セルフサービスになりますが、説明は必要ですか?」


 皆、お盆を持って並んでいる。好きなメニューを取っていくようだ。


「いや、大丈夫だと思う。案内ありがとう。」


「はい。不明な点がありましたら周囲の者にお声がけ下さい。」


 そう言ってエルフの女性は離れて行った。

 列の後ろに並ぶと、前に並んでた獣人が気付いて声を掛けてきた。


「お!ドワーフとは珍しいな!鍛冶をやりに来たのかい?」


「うむ。真悟人様にお願いして今日から世話になるので、宜しく頼む。」


「おぉ!そうかそうか!鍛冶は手が足りなくて天手古舞だからな!あいつらも喜ぶぜ!」


「今日からじゃあ、ここのシステムは分からんだろ。」

 後ろに並んでたオークが色々教えてくれた。

 獣人もオークもエルフも、かなり気の良い感じで、これならここで頑張れそうである。


 お盆に食事を乗せて、空いたテーブルに座る。

 今日取ったメニューは、魚フライとサラダ、煮物と漬物に味噌汁である。

 サラダと味噌汁はお替り自由で、他のメニューも欲しかったら、金を出せば食えるそうだ。

 食事はぶっ飛ぶくらいに美味かった!

 この魚って‥‥まさか、海の魚か!?添えられたタルタルソース?これが絶妙に合う!こんな美味い飯が支給される!?

 こんな好待遇で良いのか!?


 此処では暮らすのに基本的に金は掛からない。

 仕事をすれば給料は出る。

 無駄飯食いは許されない。

 真っ当に働けば、月に金貨2枚!!

 これは、かなりの好待遇だろう。

 人間の街なら、金貨どころか銀貨数枚で暮らす家庭もざらである。

 それが、家賃も食費も掛からないで金貨2枚も稼げるなんて!この村に難民が雪崩れ込んでも不思議じゃない。


 そこで、ふっと我に返る。

 わし等は、迷宮魔女の森の中に居るんだよな?

 でも、朝出て今は昼飯‥‥ん?昼飯?昼に飯が食えるのか!?

 まだ陽は高い。夕飯じゃないのは確かだ‥‥1日3食??

 1日に3回も飯を食って良いのか?

 ま、まぁ、それは置いておいて、朝出て昼としたら、そんなに深い場所では無いかも知れん。‥‥‥でも、あの速さを考えると‥‥わし等は森を吹き抜ける風になった。そうすると、かなり森の深い所に居るのか?まったく考えが及ばん。

 今悩んでもしょうがないか。時期に分かって来るだろうと思考を放棄した。


 食事の後は、鍛冶場に案内すると、またまた絶世の美女!エルフの女性が案内してくれた。


 鍛冶場は広かった。

 素材は、目ん玉飛び出るかと思った!その辺にミスリルやアダマンタイトがゴロゴロしている。「な、なんだ?ここは?」


「ん?お前たち、主の言ってたドワーフか?俺はこの鍛冶場を預かるオークのバスクだ。」


「ドワーフのダエグ「と、オセル」「と、ハガル」です。今後ともよろしくお願いいたします。」


「ああ、宜しくなぁ。今日は見学って事で、色々見て回ってくれ。鍛冶場っても鍛造も鋳造もやるし、変わった素材も扱ったりすんで気になったことは聞いてくれ。」


 鍛冶場の親方は、オークだった。

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