第114話 酒

 現在の牙狼村の種族は、人間、エルフ、牙猿、人魚さん、オークである。

 あ!スライム先生たちも居ますね。


 新たに増えた種族もいます。

 異世界定番!ドワーフたちです。


 鍛冶の世界でとても有名な親方が居て、マウントフジの領主であるアーサー辺境伯の所へ納品に伺ったところ、この世の物とは思えない美味い酒をご馳走になった。

 出所を頼み込んで教えてもらったが、オダーラの商人トリネコから買った酒としか分からなかった。


 アーサー・マウントフジ辺境伯は、本当は牙狼村の真悟人が出所だと知っていたが、また面倒事になると真悟人に怒られると思って秘匿したのである。


 ドワーフの親方、名をダエグという。

 彼は行動力が高く思い立ったらすぐ実行という性格で、従者は振り回されている事も多い。

 しかし今回の従者は鍛冶の右腕と左腕で、黄門様の助さん格さんみたいな者。

 オセルとハガルという二人の従者は、いつもなら暴走する親方を止めるのだが、今回だけは違った。


 目当ては酒である。

 これは行かない訳にはいかない!直ぐにトリネコ商会へ赴くが、会長のトリネコさんはオダーラの本店へ戻っていると、次に来るのは2週間後と‥‥とても待っては居られない。


 目的は酒である。

 トリネコ商会、マウントフジ店の店長は、現在ジャニが務めている。

 ダエグ達の話を聞いて、直ぐにピン!と来た。

(ああ、真悟人さんの所の酒を求めてるのか。)


「お客様。残念ですが、あの酒は一見さんにはお譲りできません。うちの商会長直々の許しが無いと出せないのです。現在、会長はオダーラ本店に戻ってますから、そちらでお求めになった方が早いと思います。」


 それを聞いて、よし!それならば!とオダーラに移動を決意する。

 その前に聞けることは聞いておこうと思った。

 辺境伯からは何も聞けなかったのである。


「あの酒は何と言う酒なんだ?水の様に澄んでいて、酒精もそれなりにある。しかも果実のような爽やかな香り‥‥どんな果実から作ったのか想像もできん!」


「あれは、日本酒と言うそうです。」


「ニホンシュ??聞いた事も無い酒だ。」


「はい。多分此処でしか手に入らないと思います。日本酒の神錦という銘柄だそうです。」


「カミニシキ??銘柄という事は、他にもあると言う事か?」


「聞いたところでは何種類かあるそうです。原料の種類が違うものがあるようです。他にも幾つかの酒があるそうですが、会長に聞かないと分からないですね。」


 なんと!いくつかの銘柄と種類が存在すると言う。貴重な情報を得たダエグ達は、ジャニにお礼を言うと直ぐにオダーラの街に向かった。

 新しい酒を夢見て、その足取りは軽かった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 牙狼村では現在、酒造りが大きな事業となっている。田んぼも酒用と食用で分けられて、酒用の田んぼでは山田錦を始めとする酒造り用の品種が作られていた。


 酒造りはチームに分けられて、日本酒チーム、焼酎チーム、ワインチーム、ビールチームがある。

 その中でも品種別、銘柄別とに分かれるので、かなりの人員が酒造りに携わっていた。


 最初は皆でワインで乾杯程度だったのが、真悟人が日本酒を持ち込み、ヴィトンとチビチビやってたのが広まり、我も我もと飲みたがり‥‥私も私もかな。

 それならば!と、本格的に酒造チームを発足。


 奥様達がオブザーバーとして色々口を出すのが玉に瑕。

 しかし、間違ったことは言っていない。職人たち以上に酒造りに燃える奥様達。

 筆頭トゥミを始め、日本酒に並々ならぬ情熱を持っているので、試飲は欠かさない‥‥コラコラ!大吟醸を試飲と称してカパカパ飲まない!あ~!瓶ごと持ちださない!そこ!隠さない!「え~。だんなさま~♪」色仕掛けは止めなさい!子供をダシに使わない!

 全く!子供より質が悪い!

「トゥミ!大人しくコップを置きなさい!」


 他にも芋、麦、蕎麦から酒を造って、蒸留の技法が伝えられて焼酎が造られた。

 すると、蒸留できるなら!と、当然ワインからブランデーが造られた。

「サラ!マイ樽を持ち込まない!」


 また、ほんの少しだがトウモロコシから酒を造り、蒸留して樽に詰める。

 これを少しずつ溜めて行っている。

 かなり酒精の強い酒で、少量に氷を入れて飲むと美味い!これは、バーボンウイスキーという種類の酒だそうで、銘柄は思案中となっている。

 何年か寝かさないと美味くならないと、公にはなっていない。

「カレン!樽に蛇口を付けるな!」


 そうして酒造チームがいくつも発足し、互いに切磋琢磨して美味い酒を目指していて、まるでどこかの国の大規模酒造メーカーのようになっている。

「アンジェ!色んな酒を混ぜて試すな!」


 そんな酒たちも最初は秘匿していたが、自分達だけじゃ消費できないのと、他人の評価も気になる。

 そこで、真悟人が持ち出したのをキッカケに、オダーラからマウントフジへと漏れ伝わり、しょうがないなぁとトリネコ商会へ販売を委託したのである。

 因みにビールは販売していない。

 ビールだけは牙狼村内で消費されてしまう幻の酒である。「フラビ!ユナ!自分用に確保すんな!!」


 このトリネコ商会を通じて販売された酒たちは、貴族たちがべっらぼうな価格で取引きしている様で、酒の販売だけで街の経済が潤う程である。

 貴族の依頼を受けた大勢の商人が詰めかけ、交易を行い、宿に泊まって飲食する。

 魔道具の販売もあるので、マウントフジとオダーラは商人がひっきりなしに行き交うので、街道も拡張されて広くなった程である。

 その経済効果を窺い知る事であろう。


 貴族たちはそんな状況を、指をくわえて見てるだけの訳が無い。

 あの手この手で酒造場を突き止めようと、人を送り込んで来るのだが、オダーラの先でエルフの里から運んで来るとしか分からない。

 魔女の森の中にあるエルフの里のその先には辿り着けない。

 分かるのは、エルフの里が交易場になっているのだが、いくら調べてもエルフの里には酒造場は無い。

 畑だって大量に酒を造れる程広くは無い。

 だからそこで酒を造ってる訳では無いだろう。


 エルフの里と言っているが、現在はエルフシティという立派な街である。

 人口も多いので、スパイは活動しやすい。

 今までのエルフの里ならば、余所者は直ぐに看破されたが、流石に街が大きくなって余所者なんて分からない。

 それがスパイたちを助長させることになった。


 しかし、現実にトリネコ商会はエルフシティから運んで来るのだ。

 エルフシティから運び出しているのは確実。かと言って、中継所として酒を運び込んでる様子も無い。これは倉庫に転移などの魔法陣が組まれていると考えるのは道理である。


 エルフシティの中にあるトリネコ商会の倉庫から運び出す迄は分かった。

 あの倉庫は何処に繋がっているのか?これを探り当てた者には一生遊んで暮らせる報奨金が約束される。報奨金目当てに様々な者たちが倉庫に群がる。


 倉庫にあれこれ当たりを付けるのは良いが、実は倉庫には何の仕掛けも無い。

 搬出も衆人環視の中、おおっぴらに行われるし倉庫の中も見学できる。

 昨日倉庫から大量に搬出した筈なのに、一週間後には倉庫には同量の在庫がある。

 絶対何かの魔道具か魔法陣が在る筈と、スパイたちは懸命に倉庫に張り付く。


 エルフシティのトリネコ商会‥‥実はトゥミの両親がやっている「牙狼商店」である。表向きはトリネコ商会を語っているが、ここでトリネコ商会に販売してるのである。トゥミの母親のケイトさんからいいかげんスパイたちがウザいと苦情が入っている。「トゥミ!シャル!‥‥ゴラァ!!~」「「キャア~~!!」」


 普通の倉庫、魔道具倉庫、酒蔵と分けられているが、酒蔵への干渉が半端ない!と、解決策を考えているのだが‥‥もう、実力で行っちゃいますか?どうですか?ダメですか、そうですか。。。


 街外れに巨大な倉庫を作った。


 奥様達は出禁です。‥‥「「「「チッ!」」」」




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