第106話 闘鶏

 トリネコさんとの商談はシャルに丸投げ!

 判断付かない事は聞いてね。

 それで分かってくれる、シャルは本当に優秀だと思う。そんなシャルのご機嫌取りに次郎柿をいくつか渡しておいた。


 第1回トリネコカップは明日行うことになる。

 トリネコさんは、今回そんなに商品は持ち込んでないので、かわりに賞金を出してくれる事になった。それも金貨10枚も!それって100万円ですよ?物価が違うからもっと高価値ですね。

 突発的にそんな金額出せるってスゴイな!カッコいいな!と素直に思った。


 会場はいつもの広場で、直径6mくらいの円形のリング?高さ1mくらいの柵を作る。

 ルールは前回も言ったが、戦闘不能(戦意を無くして蹲る)になるか、セコンドのタオル投げ(敗北宣言)で勝敗を決する。

 タオルが投げられた時点で、直ぐにレフェリーが間に入って追撃を阻止するので、レフェリーも手練れで無いと、ケガをする。


 雄鶏は本気で殺すまで闘う。

 切ない気持ちになるのも本当だけど、黙って肉にされるよりは‥‥

 色んな考え方あるだろうが、命を頂きます。

 生きるために‥‥

 そういう事なんです。


 殺されたくなくて、タオルを投げて懸命に回復魔法を使う奴もいる。頑張った分労ってやって次代に繋げる。

 血だらけになりながら頑張った鶏は、飼い主の腕の中で息を引き取る奴もいる。

 一番切ない瞬間だ。号泣する奴も多い。命を燃やし尽くして終わる‥‥

 良い悪いは分からない。

 でもね、その鶏は捌かれて飼い主の家族で頂くんです。命を頂くんです。


 闘鶏なんて教えるんじゃなかったかな‥‥思うことも在る。

 スライム先生に言われたよ。

「そんな悩む事じゃ無いんじゃない?本来お肉にされる定めだったのが敗者復活戦なんでしょ?それにね、彼らと話してみたんだけどさ。」

「話したの!?どう思ってるの?恨んでないの?」


「まぁ、落ち着きなよ。」


「あ、ゴメン。‥‥取り乱した。」


「真悟人らしいね。大丈夫だよ。そんで闘鶏の選手の子と話したらね、」


「うんうん。なんだって?」


「ありがとう。って。」


「え?」


「生きる意味もなく、大きくなったら殺されるのは分かってた。しかし、戦う事で明日を夢見ることが出来る。何の目的も夢も無く消え去るより命を燃やし尽くして散るのなら本望だと。だからその機会をくれてありがとうって。」


 正直言って泣いた。この話を聞いて本気で泣いた。前回の俺の話は、全部この話の受け売りだったんだよ。


 だから勝った奴によく言うんだが、敗者にも敬意を払え。勝ったからって蔑んだ態度をとるな!命懸けの闘いを汚すな!とね。




 今現在、闘鶏用の軍鶏を飼っている奴らは100を超える。‥‥そんなに居たんだね。

 その中から20羽くらいに絞って貰う。

 俺は知らなかったが、ランキングがあって、その上位20人?20羽が出ると言う事だ。

 20人の内訳は、オーク10人牙猿8人魔狼1人エルフ1人となっている。人口の多い順みたいな感じだな。

 圧倒的にオークが多いが、魔狼とエルフの2人の順位は一桁内に入っているそうだ。スゴイな。


 夕方に、参加者に集まって貰ってミーティングを行う。スケジュール説明から、時間割などを決める。対戦相手は本番前にくじ引きで決めて貰おう。


 トリネコさんから賞金が出ることを説明したが、皆の反応は、「へ~!」とか「ふ~ん‥‥」と、薄い反応だった。

 牙狼村でも金銭の流通を考えないとイケないな。

 賞金は金貨10枚!これは10戦行うから、勝った方に金貨1枚!‥‥価値としては、リンゴ1個?

 あれ?全然ショボく感じるぞ?あれ?


 サラが補足してくれた。

「リ、リンゴは確かに高価値ですが、ここでは当て嵌まりませんね。金貨1枚あれば、焼き肉3回食べれますよ!ワインの樽が金貨2~3枚です。あとは~海の魚、小1匹とか、ボアの肉100㎏級1頭が金貨3枚?じゃ買えない?かな~?‥‥」


「「「「「‥‥‥‥‥」」」」」


 な、なんかこの村って物凄く贅沢な暮らしをしてる?説明してるサラが困ってる。

 よっく考えたら、牛乳や卵だって市場では高価値なもので、気軽に1人コップ1杯とか卵1個とかは、在り得ない事なんだって。


 だから、朝飯に牛乳と目玉焼きとベーコン出したら泣きそうになってたんだな?

 街に行って市場価値を調査する必要があるな。

 めっちゃ、今更ですけど‥‥


「で、では明日の検討を祈ります!勝者には金貨1枚と、俺から希望を1つ叶えます。出来る範囲でね!だから頑張って下さい!」


「「「「「応っす!!!!!」」」」」


 な、なんかヤル気出たから良いかな?

 サラがジト目で、「私も叶えて欲しいな~?」


「な、何かな?」


「じゃあ、今晩ベットでね♪」


「お?今夜はサラの番か?」


「そそ!あとでね~!」


 ああ、いつからカレンとユナの順が組めるのか相談しなきゃ‥‥まだ初夜はお預けなのであった。



 ~~~~~~~~~~



「皆さん、今日は澄み切った青空で、闘鶏日和となりました!第1回闘鶏トリネコカップを開催します!」


「「「「「おおぉぉーー!!」」」」」


 円形の柵の周りに黒いシーツを掛けて左右が見えない様にした鳥籠が並べられ、その横にはそれぞれの飼い主たちが座る。


 観客は柵の周囲から少し離れて、階段状に観客席が設置される。一晩で良く準備出来たな!?

 建築チームの技術力に感心ですわ!


 ゲストは最前列、一番よく見える場所に座り、その横に俺や嫁たちが並ぶ。


 先ほど、対戦抽選会を行い、かなりの盛り上がりを見せた。その順番通りに対戦が行われる。


 そう言えば、順位って?同じ鶏を何回も戦わせてるのか?あんまり無理させない様にしよう。

 後で聞いたら、鶏の順位じゃなくて飼い主の順位だそうだ。沢山飼ってても負けばかりじゃダメだし、勝率の順位みたいなもんかな?


 さて、始まるようだ。

 飼い主の紹介と鶏の紹介。それぞれのアピール。

 1試合、最長20分以内で行う。

 実際に早い試合だと1、2分で瞬殺!って事も在る。


 試合が始まる前は鶏の身体を冷やす。

 興奮で体温が上がってしまうと、戦えなくなってしまうので、試合前は入念に体を冷やす。


 カーン!とゴングが鳴る。

 鶏の攻撃は、嘴と足の爪。

 頭から首、背中にかけて攻撃する。

 突いて鶏冠を噛み千切り、飛び上がって爪で急所を攻撃する。近くで見てると、鮮血が飛び散る事も在る。


 ナターシャさんとオタロは、大興奮で試合内容を話し合っていますが、トリネコさんは冷静にシャルやサラと興行収入などの話をしている姿をみると、商人だなぁ‥‥と、思うとこですね。


 トゥミは脳筋なので、大興奮の大騒ぎです。

 アバレルナ!オトナシクシロ!!


 他の冒険者の面々は、あそこのフェイントが!とか、上手い!そう避けるか!そこで爪だぁ!イケ!

 トゥミと変わらなかった‥‥


 おぉっと!上位の方の鶏が蹲ってしまった!

 直ぐにタオルが投入されて、レフェリーが割って入る。すかさず回復魔法が掛けられます。

 勝った方は、まだ首の毛を開いて興奮冷めやらぬ様子だが、冷たいタオルで拭われて徐々に落ち着いて着ました。

 勝利宣言をして、柵から離れます。


「ふぅ、死なないで良かった‥‥」


「今は、レフェリーも熟練したし回復魔法を直ぐ掛けるから死ぬ事は少ないみたいだよ。」


 トゥミが冷静に説明してくれるが、さっきまでの大興奮は何だったんでしょうか?


 因みに、鶏の為に回復魔法を覚えようとする奴が多いんだと。

 闘鶏の鶏を飼うには、回復魔法は必須と言っても良いくらいに多用するので、オーク達も必死に魔法を覚える。

 魔法使えるオークって、滅多に居ないんじゃ無かったっけ?それが、回復魔法に限っては使える奴らがゴロゴロ居るってどうなってんだろね?


 順調に試合も進んで行って、皆の泣き笑いを見ながら、今まで娯楽と呼べるモノが無かったから、これはこれで良かったのかなと思う。


 そして最後の大一番が始まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る