第105話 案内

 結婚披露宴も無事?に終了した。

 決局いつも通り、皆、ヘロヘロになるまで飲んで初夜はお預けである。


 起きたらカレンとユナの顔があって、照れ臭かった。

 新しい家が出来たら引っ越して来てもらって、皆で一緒に住もうと思っている。


 グッチ達も決婚したし、エルフの里にまた挨拶に行かなきゃね。

 彼らの両親は呼んでいたが、さすがにカレンとユナの両親は呼んでなかった。


 カレンの両親もユナの両親も、ここに娘を送り出すだけあって、この結婚に否は無いという。逆にいつまでもたもたしているんだと発破を掛けられていたそうだ。


 商人のトリネコさん達が帰るタイミングで俺らもエルフの里に行こうと思う。

 トリネコさんの予定を確認してから決めようか。



 トリネコさん夫妻と冒険者達は、迎賓館に泊ったのだが、王侯貴族の様だと部屋の豪華さに恐縮していた。

 食事も和洋折衷だったのだが「こ、こんな日常があって良いのか!?」などと訳分からん事を言っていた。

 ふんだんに使われた香辛料と複雑な味わいでありながら、しっかりした味付けと、街では味わえない料理に目を輝かしていた。

 食器から飲み物から何から何まで目新しく、信じられない技術というのは分かるが、どうして凝んなものが出来るのか不思議なようである。


 まあ、透明なガラスの食器やプラスチックの器など、考えても分からないであろう。

 商談に乗せられても丁寧にお断りするだけなので、今のうちに見て置いて下さい。


 折角来てくれたから、大して見る物も無いのだが、一応案内することに。

 大樹の周囲に作られた鶏小屋の東側に広がる広大な畑に彼ら6人は硬直している。

 整然と区画割して、同一耕地でカブ→大麦→クローバー→小麦を4年周期で輪作するノーフォーク農法を取り入れた有機栽培を試している。

 まぁ、今見ただけでは分からないだろうがと、思ってたが意外な質問をされた。


「こ、この畑一面に色々植わっていますが、休耕地は無いんですか?」


 へぇ。気付くんだぁ?

「はい。輪作するので休耕地を作る必要が無いんです。」


「輪作??」


「それじゃ、次に行きましょうか?」


「あ、はい‥‥輪作?」


 気になるようだが、説明したりはしない。


「あ、あの、畑の中を牛が一列になって歩いていますが?あれはいったい?」


 また意外な人から質問である。

 冒険者のサンディだが、実家が農家だったので多少の知識があるようだ。


「あれは馬鍬を引いてるんですよ。」


「馬鍬?そ、それは牛や馬が引く鍬って事ですか?」


「そうですよ。」

 あれ?この世界は馬鍬すら無いのか?犂って言ったほうが分かるのか?

 まぁ、これも説明しないけどね。


 次は鶏小屋である。

 今では広大な養鶏場となっていて、毎日新鮮な卵が食べられるのは彼女たちのお陰である。

 ここでも、彼らは固まってしまった。


 大樹の上で盛大に鳴く雄鶏たち。飛べない訳じゃ無い。飛距離が少ないだけである。普通に飛んで樹や屋根に上る。

 俺らが近づいたら警戒の声を上げて、全員サッサと小屋に入ってしまった。

 こいつら変に賢いんだよな。


 俺だけなら大丈夫なんだが、今日は見慣れぬ同伴者が居るから警戒している。

 小屋の入り口からそっと覗くとボス鶏が睨みを利かせている。

 俺一人で中に入り、ボス鶏にワイロの干し柿を渡して見せてくれと頼んでみる。

 交渉の末、干し柿30個で手を打つと。足元見やがって!干し柿を渡すと、配下の鶏が奥に運んで行った。後で皆で食うんだろう。


 トリネコさん達に大丈夫だと中に入って貰う。

 100ⅿ位伸びた鶏小屋。それが3棟あってそれぞれにボスが仕切っている。

 雄鶏は間引かれるので、上位30羽くらいしか残れない。3棟でも90羽しかいない。

 牝鶏はそれぞれの棟で3桁は下らないだろう。


 ただ、雄鶏も最近は闘鶏が流行っていて、雄鶏を間引くときは皆血眼になって選定している。一人当たり3羽までに決めていて、それぞれに鶏小屋を作って大事に育てている。牝鶏は5羽までにしているが、どんどん増えるので牝鶏は小屋に戻される。

 皆が持って行った鶏はハッキリ言ってもう鶏じゃない。

 あれは既に軍鶏である。

 飼い主以外は近づけない危険な生物となっている。

 狩りに連れて行ってカミソリウサギと戦う剛の者も居るんだそうだ。


 その話にナターシャさんとオタロが食い付いた。

 是非!闘鶏が見たいと言い出したのだ!

 面白そうだし、近くにいた戦隊を呼んで連絡を頼む。臨時闘鶏大会を開催しよう。

 トリネコさんに、優勝者に何か賞品を出してあげて欲しいとお願いしたら、快く承諾してくれた。

 今ここに第1回トリネコカップが企画された。


 闘鶏は基本的に雄鶏同士で命がけの戦い。

 勝負は戦闘不能になった方が負け。

 またはセコンドからのタオル投げ(敗北宣言)

 それで勝負は付く。


 日本でもこの世界でも、雄鶏は肉になる運命である。

 可哀相?だったら鶏肉を食べなければ良い。

 現在飼育されている鶏たちは、ほぼこの原理で育てられていると思う。

 可哀相と思うあなたは今日からベジタリアンになると良い。

 日本食は魚出汁が多いし中華は鶏出汁が多いだろう。

 本当の意味でのベジタリアンは出汁や隠し味にも気を遣うそうだ。


 昔、日本で四つ足の獣を食うなとお触れが出たそうな。

 そこで困ったのが猟師。ウサギを捕っても売れなきゃしょうがない。

 ウサギの肉は鳥肉に似ているから、1羽2羽と数えて、鳥と偽って売ろうとしたのがウサギを羽と数える始まりとか?

 何が言いたいかと言うと、目先に囚われないで本質を見てね。って事です。


 闘鶏に参加する雄鶏は、潰されて肉になる運命だった。

 しかし、自分の実力を試される機会に恵まれて、全力で戦って勝利すれば、美味い飯にも在り付けて、女(牝鶏)も手に入る。

 鶏界の敗者復活戦である。飼い主も至れり尽くせりで自分の雄鶏を称える。

 負ければ元通り、肉になるだけだ。

 知ってか知らずか、闘鶏に来た軍鶏たちは気迫が違う。本当の意味で命がけだ。

 その本気を笑う奴は居ない。その本気を可哀相なんて言って欲しくない。


 闘鶏をベースに賭けが行われる。

 この牙狼村では金銭は流通していないので、夕食のおかずや、労働にて対価を賭ける。現状では酷い揉め事にはなっていないので黙認しているが、酷い内容が確認され次第、両方を罰するとお触れを出している。

 酷い内容?それは俺の主観です。だって命の軽いこの世界で、この世界の流儀でやってたら、それこそ酷い事になるよ?苛めだって絶対にあるし、そんな綺麗な世界じゃ無い。だから俺が歯止めになって、俺の感覚でダメなもんはダメ!

 納得できない奴は、俺が直接相手になってやる!‥‥そこまで吹っ切れた奴はまだ居ないけどね。


 閑話休題


 鶏小屋の次は、牛小屋やマス池を見て、姐さんに発破を掛けて貰った。

 グルっと回って、果樹園に行く。

 ここでも彼らは固まる。

 何故か?王侯貴族の間で高価取引されているリンゴが生っているから。


 この時期はリンゴやミカンがメインで、もう少しすれば食えるようになるだろう。

 収穫の終わった柿の木の前で、渋柿を食わす。

 

「これは柿と言います。先日収穫されました。食べて見て下さい。」


「うっ‥‥ブェ~~!なんだこりゃ?ぺっぺっ」


「あはは。渋柿と言います。それを加工して干したものがこれです。」


 所謂あんぽ柿を一口ずつ渡して食べてもらう。

 みんな口の中が渋でイガイガだろう。

 そこにあんぽ柿を食うと‥‥

「おぉ!甘い!すごく甘いぞ!」


「これは保存食なんです。甘い果実は鳥たちに食べられてしまう事が多いんです。しかし、渋柿は誰も食わない。でも手を加えてやれば、こんな甘い保存食になるんですよ。」


「「「「「おおぉぉ~!!」」」」」


「お茶でも飲んで口を整えて下さい。‥‥皆さん整いましたか?」


「「「「「はい。」」」」」


「では、これをどうぞ。」


 トリネコさんが先陣を切って口に入れる。

 シャクッと良い音がしてシャクシャクと咀嚼する。

「うま~~~い!!甘くてジュウシー!凄い美味い。」


「それは、次郎柿と言って、渋柿と同じ柿の仲間です。そんな甘い柿もあるんですよ。」


「おぉ!甘い美味い!同じ柿とは思えない。」

「スゴイ甘い!美味し~~い!!」

「これって、メッチャ高いんじゃないの?」

「やばい!止まらない!」

「あーー!お前!何個食ってんだよ!」


「真悟人様、これは市場には出さないんですか?」


「う~ん‥‥検討中ですね。干し柿はまだしも、甘柿は輸送の問題もあるのでどうしようか悩んでます。」


「なんと!輸送の問題ですか?今ここで何ですが、真悟人様から打診して頂いた冷凍庫ですが、思い切って冷凍馬車2台と冷蔵馬車2台!都合付けて戴けませんか?」


「ほう!2台+2台ですか。分かりました。屋敷戻ってから詳細を打ち合わせましょう。」


 村を案内したら、注文も入りました。

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