第104話 披露宴

「え~っと、では、グッチとシルヴィ、ディオとティーネの結婚披露宴を行います。」


「「「「「おぉおぉ~~!!」」」」」


「では、新郎新婦の入場です。皆さま盛大な拍手を!」


 司会はシャル。万能超人なので、日本式の結婚披露宴を教え込んでその司会ぶりを発揮してくれる。

 傍らに控えていた4人が、それぞれに腕を組んで入ってくる。

 新郎はタキシード、新婦はウェディングドレス。

 皆から溜息が零れる。

 女性陣は食い入るように、ギラギラした目で見つめている。



 実は今朝、オダーラの商人のトリネコさんが牙狼村にやってきた。

 自力でこの村に辿り着いた初の人間である。

 エルフの里から牙狼村までは、戦隊たちが見回っているので極端な危険はない。

 しかし、カミソリウサギや危険な虫はわんさか出る上に、まだインフラ整備も途中の為、難易度は高い。


 そんな中、辿り着いたのだが、なんでこのタイミングかなぁ?と困惑は隠せない。

 人間に、ましてや商人に見せたくない物が多すぎる。

 こちらに向かってるのが判明した時点で、お帰り願おうかとも思ったが殺す訳には行かないし、色々諦めて戦隊には丁重に誘導してやってくれと頼んだ。


 特別ゲストとして新たに席を設けたが、人間の商人一行6人が目を皿のようにしてキョロキョロと落ち着きがない。


 トリネコさんと奥さんのナターシャさん。

 こんな危険な所に奥さん同伴なんて‥‥と思ったが、元冒険者でかなりの手練れなんだそうだ。下手な冒険者を雇うよりよっぽど腕が立つらしい。

 最近では、一緒に出歩くことは減ったが、牙狼村に行くと聞いて、絶対に一緒に行くと宣言したそうだ。

 流石に迷宮魔女の森と呼ばれるような難易度の高い所に行くのだからとトリネコさんは渋ったが、だからこそ私が行かないでどうするんだ?と押し切られた。

 中途半端な冒険者より頼りになるし、裏切る事も無いので了承したと。

 ナターシャさん、どんだけ強いの?


 他の4人は雇われた冒険者だ。

 この冒険者チームは、所謂高ランクで、名実ともに揺ぎ無い実力を持っている。

 因みに、冒険者ランクは、鉄⇒銅⇒銀⇒金⇒ミスリル⇒アダマンタイトとなる。

 彼らは金級の冒険者で、ミスリルやアダマンタイトは伝説級になる為に、実質は最高ランクとなるだろう。

 ナターシャさんも金級だったそうだ。


 金級チーム「山猫の爪」リーダーのユージン♂、前衛後衛と万能キャラ。

 剣も魔法もイケる口だが、ちょっとチャラいのが玉に傷。

 前衛タンクのオタロ♂、ごつい巨体で寡黙な青年。デカい戦槌を背負っているが、重くないのかな?ユージンとは幼馴染だそうだ。

 後は女性2人、サンディ♀、典型的な魔法使い。特筆する事無し。

 キャロット♀、神官ですか?回復とバフデバフを扱うそうだ。特筆する事無し。

 この4人で金級まで伸し上がったが、頭打ちで悩んでいると。

 そこに冒険者の先輩であるナターシャさんから今回の話を聞いて二つ返事で受けたそうだ。


 トリネコ夫妻と冒険者チームが、あれが、これがと色々興味深々の様だが、今日は特別な日だから大人しくしててくれと釘を刺しておいた。

 トリネコさん夫妻は素直に頷いてくれたが、冒険者チームは蔑んだ眼を向けてきたので、久しぶりにエクスカリバーを浮かべて、お願いしておいた。

 驚愕の表情でウンウンと頷いてくれたので大丈夫だろう。

 ボスとマンガリッツァとアルファをこれ見よがしに紹介したらアワアワと挙動不審になってしまったので、ヨロシクね~と笑顔を向けたら女性2人が意識を失ってしまった。‥‥解せぬ。


 そんな事もあったが、無事に披露宴の幕は開けた。

 その頃には冒険者の女性も復活していたので良しとしよう。



 入場した新郎新婦の衣装に息を呑み、彼らも驚嘆の声を上げる。

「お、王族の婚姻でもこんな上質な衣装は見たことが無い‥‥」

「そ、それにあのデザインは何?見た事無いよ?スゴイ綺麗‥‥」


 そんな声はスルーして宴は進む。

 指輪の交換に、誓いの口づけ。

 これは最初グッチが異を唱えたが、押し切った。シルヴィは乗り気だったからね。


 次に両親への手紙に続くのだが、これは最初グッチの両親が拒んだ。

 いやいや新婦から両親へ宛てた手紙だから‥‥思ったが、彼らは息子が行った犯罪に心を痛めていて、人並みに結婚出来るだけでも十分だと。

 でもね、お父さん、お母さん、彼はもう犯罪者じゃない。

 確かに一時、間違った道に行ってしまったが、ちゃんと戻って信じた道を歩んでいる。

 そして人生の伴侶を見付けることが出来たんです。

 ご両親が祝福しないで、誰が祝うんですか?

 お母さんが泣き崩れるのを支えながらお父さんが「よろしくお願いします。」と言ってくれた。


 親族席に座っていた新婦の両親に前に出てもらって新婦が手紙を読む。

 シルヴィの両親は、まず文字を読み書き出来るようになっていることに驚いたようだが、この村に来たら最低限の教育をしますよ?

 次にティーネが手紙を読んだのだが、両親の反応は微妙だった。

「あの、イジメっ子が‥‥そのセリフ忘れんなよ?‥‥1年たって同じ事言えるか?‥‥」

 う~ん‥‥ディオは大丈夫だろうか?

 お涙頂戴とは行かなかったが無事に済んで歓談の時間になる。


 流石に幼少期からのスライドショーは在り得ないし、後は友人からの祝福のメッセージや宴会芸になる。


 魔狼による火の輪潜りや、オーク達の玉乗りや、牙猿達のジャグリング。

 皆の多彩な芸にかなり楽しませて貰った。


 友人の祝辞も趣向を凝らして、下手な人間の披露宴よりよっぽど楽しかった。

 最後の挨拶の前に新婦2人が話をしたいと前に出た。


 何故かカレンとユナが前に居る。

 な、なんか嫌な予感がする。


「皆さん、私たちの結婚披露宴に参加していただいてありがとうございます。今回結婚するに当たり真悟人様より指輪を授けて頂きました。」


 2人で左手の薬指に嵌っている指輪を見せる。

 そして徐に指輪を外す。


「この指輪は私たちの物ではありません。本当は、本当はカレンさんとユナさんの為に真悟人様が用意した指輪です。」


 カレンとユナは何故呼ばれたのか理解していなかったのだろう。

 その事を聞いて驚きの声を上げる。


「真悟人様は本当はお二人を愛しておられます。しかし、奥ゆかしさからか言えずにいました。ちゃんと指輪は準備していたにも関わらず。」


 皆の視線が集まる。

 止めてくれ、そんな理由じゃない。彼女たちの気持ちが掴めなかったのと臆病風に吹かれただけだ。


「この指輪のデザインは真悟人様とお揃いです。トゥミさんやサラさん、シャルさんとも当然お揃いです。」


 いつも間にかトゥミ達も前に出て指輪を見せている。

 こら!サラ、なんでそんなドヤ顔なんだ?


「指輪の石の色も、それぞれの瞳や髪の色に合わせています。こんな細かい所まで気を使って作っているのに、一時の仮とは言え、私たちがこの指輪を嵌めるには申し訳なさ過ぎてい畳まれません。」


 確かにそれぞれの髪や瞳の色に合わせて作ったが、そんな事は誰にも言っていない。何故気付いたんだ?

 トゥミは、青瞳、銀髪だからダイヤ。

 サラは、青瞳、青髪だからサファイヤ。

 シャルは、金瞳、金髪だからプラチナとゴールドのコンビリング。

 ユナは、茶髪、緑瞳だからエメラルド。

 カレンは、赤瞳、赤髪だからルビー


「真悟人様?ご自身の手で指輪を渡して下さい。私たちの指輪は、準備できるまでお待ちします。」


 こ、こんな展開は想定していなかった。

 これって‥‥公開プロポーズをしろと?祝いの席だから断れない。

 だ、大体彼女たちの気持ちは‥‥二人の顔を見て察した。

 ゴメン‥‥覚悟決めるよ。


 シルヴィとティーネから指輪を受け取った。


「カレン、ユナ、遅くなってゴメンな。色々言い訳したいトコだが、全て俺の弱い心が時間掛かった理由だよ。俺は‥‥美味しいご飯を作ってくれるカレンの事大好きだよ。ユナ、いつもありがとう。笑顔のユナが大好きだよ。」


「この指輪を受け取って欲しい。」


「「はい!!」」


 二人の左手の薬指に指輪を嵌める。

 あれ?なんか、目から汗が。焦るな俺!落ち着け俺!しっかりしろ俺!

「すまん、なんか感極まってしまって‥‥‥すまん。‥‥」


 必死に目を拭うと、二人はそっと抱きしめてくれて‥‥

 二人の目にも汗が‥‥少し、ほんの少し3人で抱き合って、何故か泣いた。



「皆、改めて、カレンとユナと結婚します。今回の主賓の4人には本当に心から感謝します。ありがとう。皆も本当にありがとう。」


 シャルが泣きながら拍手を促してくれた。

 盛大な拍手に送られて舞台から降りた。

 カレンとユナにトゥミ達が抱き着いた。


 これで、エルフの里から来たエルフの娘5人と結婚した。


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