第102話 2組の結婚

「実は、私たちそれぞれ、「結婚しようと思います。」」


「お?おお!ついにか!?」


「「は、はい。」」


「プロポーズ受けてくれたんだな。」


「そ、そうですね。喜んでくれたので良かったです。」

 とはグッチの弁。


「僕は、泣かれてしまって、かなり狼狽えてしまいました。」

 とはディオの弁。


「うんうん。カレンは喜んだか!それにユナも泣くほど嬉しかったんだな!」


「は?」

「えっ?」


「ん?どうした?」


「私の結婚する相手は、シルヴィですが‥‥」

「僕の相手はティーネですよ‥‥」


「えっ?だって、え?どういう事??」




 ・・・・・・・・何の事は無い。


 彼らは、カレンやユナと恋愛相談していただけで、それを周りの者がそれぞれが出来ているんだとすっかり勘違いしていて、思い込んだ様で‥‥


 グッチは裁縫娘のシルヴィに告白。

 最初は相手にしなかった。

 シルヴィは揶揄われてると思ったから。馬鹿にされてると腹を立てたが、それからグッチの事を気にするようになって見ていた。

 昔の事(グッチが暴走した事)もあるので警戒していたのだが、仕事は真面目にやってるし、昔と違って落ち着いてて人当りも良くなった。

 随分変わったんだなぁ‥‥と少しずつ話をするようになった。

 シルヴィを見付けると遠くからでも嬉しそうに駆けて来て、少し話して仕事に戻る。そんな態度を見ていたら、本当に自分の事好きなのかも?と思い始めた。

 しかし、カレンとの噂も根強いので、思い切って聞いてみたら、カレンは最初から相談相手で、恋愛対象ではない。それにカレンは真悟人の相手としてこの村に来た訳で、なおさら恋愛対象にはならないとハッキリ答えてくれたので、お付き合いしても良いと返事をした。

 その時のグッチの喜びようったら、この人こんなに感情豊かなんだと、なぜか嬉しくなった。


 それから付き合いだして、しばらくしてオークキングの話があり、キングが村に来た時の宴会の後に、グッチに呼び出された。

 彼の言葉は、

「私は今の料理人の仕事に誇りを持っています。まだまだ修行中の身ですが、将来的にはシェフになりたい。でも、その為には、一人では無く、シルヴィと共に人生を歩んで行きたいと思っています。どうか、私と結婚してください。‥‥‥」


 ハッキリとしたプロポーズだった。


「‥‥‥‥‥はい。よろしくお願いします。」


 彼は、目を見開いた後、満面の笑みを浮かべて、

「ありがとう‥‥‥」

 と言って、静かにキスをしてくれた。



 ~~~~~~~~~~



 ディオは、この村に裁縫の勉強をしに来たティーネと再会した。


 そう、ディオとティーネは幼馴染だった。

 昔からティーネには色々世話を焼いて貰ったりしてたのだが、反発して酷い事を言ったりして、色々と素直になれずに突っ張ってしまった。

 そして、グッチと一緒にエルフの里で問題を起こし、この牙狼村に罪を償うために来たときは、もうティーネには2度と会えないと思っていた。

 だから、ティーネが裁縫娘として村に来たときは本当に驚いた。まさか再会できるなんて、だが、こんな自分じゃ対等には付き合えないと思っていた。


 ティーネは牙狼村への裁縫娘募集を聞いて、直ぐに立候補した。

 元々裁縫は得意だったし、それを生かせて、更にディオに会えるかも知れない。

 村に来たら、期待通りにディオには再会できた。

 彼は農作業に従事していた。

 昼間は畑に出て、開墾したり種を蒔いたり収穫したり‥‥‥

 室内で裁縫をしてるティーネとは、まったく接点が無かった。

 話が出来る機会は、偶にある宴会くらいで、この時は働いてる場所の区別なく、皆ワイワイとやっているので、思い切ってディオに話しかけた。


 ディオは、ティーネが村に来て再会できたのは嬉しかったが、自分は罪人である。だから馴れ馴れしくしちゃイケないと思っていた。幸い、仕事上は全く接点がないので、気にしなくても良いことにホッとしていた。

 ただ、宴会の時は皆入り乱れて飲んでいるので、近づく機会はあるが、話しかけられるなんて思っても見なかった。


「ディオ、久しぶり。」


「あ、はい、久しぶりです。」


「なんで敬語?」


「いえ、あの、僕なんかに近づかないほうが良いですよ。」


「は?どういう事?」


「僕は罪人なんです。だから、対等には話せないと言うか‥‥」


 パァーーーン!


 突然の音に周囲が静まった。

「な、何言ってんのよ!今償ってるんでしょ!真面目にやってるんでしょ?何で対等じゃないとか言うのよ!この村にあんたは罪人だからなんて言う人は一人も居ないわよ!そ、それなのに、なんであんたがウジウジしてんのよ!もっとシャンとしろぉ!シャンとぉ!!」


 ジンジンとする左の頬から血の味がする。

 ああ、あの頃のティーネのまんまだな。

 殴られたのに、ちょっと嬉しくなってしまった。

「ああ、そうだな。僕が悪かったよ。」


「へ?あ、あの、あたし、ゴメンまたやり過ぎちゃった!ゴメンね!」

 取り敢えずその場から逃げ出した。

 あ、あんな素直に謝るなんて思って無かったから。

 昔みたいに突っ掛かって来るかと思ってた。

 ちょっと暴走癖のあるティーネだった。



 それから、二人は普通に会話を交わすようになった。

 ディオは、昔みたいに意地張って突っ張らないで、素直に付き合うようになった。

 ティーネは暴走せずに、ちゃんと話をする様に心がけていた。

 しかし、お互い恋愛的感情は在るのだが、どうもその辺だけは素直になれない。

 だから二人の仲は何も進展せず、ディオは仕事の合間などにユナに相談していた。

 ユナも面倒見が良いので、周囲から出来てると誤解されてしまうのである。



 些細な事で言い争いになった。

 原因は本当に下らない事だったが、お互いに剥きになってしまった。


「何よ!あんたなんかユナさんが良いんでしょ!」

 いつもユナさんを褒めてばかりで何なのよ!


「ば、何言ってんだよ!この場にユナさん関係ないだろ?」

 なんでユナさんの名前が出てくるんだよ?


「どうせあたしはダメな女だよ!いっつもいっつもユナさんユナさんって!」

 どうせいつも、あたしとユナさんを比べてるんでしょ!


「ち、違うって!そういう事じゃ無いって!」

 ユナさんは全然恋愛対象じゃないって言うのに!


「アンタなんかユナさんと一緒になればいいじゃない!」

 どうせユナさんの事が好きなんでしょ!?


「お、俺はティーネと一緒になりたいんだぁ!!」

 あ、本音が出ちゃった‥‥


「え?」


「あ、」


「え~と?今のは?」


「あ~、そ、そうだよ。ぼ、僕はティーネと一緒になりたいんだ。」


「そ、それって、プロポーズ?」


「む、昔からティーネが好きだったんだ。一時諦めたけど再会できてスゴイ嬉しかった。ウジウジしてた僕に活を入れてくれて、やっぱりティーネと一緒になりたいって思ってたんだ。

 ‥‥‥ティーネ、僕と結婚して欲しい。」


「‥‥は、はい。わ、私で良いのぉ?‥‥」


「僕は、ティーネが良いんだよ。」


「ディオ‥‥ディオォォーーー!うぇ~~~ん‥‥」


「だ、大丈夫。ティーネ、泣かないで。」

 胸に飛び込んできたティーネを、狼狽えながらも優しく抱きしめた。




 ~~~~~~~~~~



「あ~‥‥‥この事、3人は知ってたの?」


「う~ん、最近ね。」


 どうやらトゥミ、サラ、シャルの3人とも噂を信じていて、そんな事になってるとは夢にも思わなかった。

 カレンとユナも、こんな事やたらと口外できないので、ダンマリを決め込んでいて、それが噂に拍車を掛けたようだが、当人たちは自分が言われるのは構わない。

 4人が幸せになれればそれで良いと、男らしい事を言っていた。


 それを聞いて、ちょっと彼女たちにキュンとしたのは本当である。



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