第100話 二人の夜
「それじゃあ静かに飲める所に行きましょうか。」
「はい。」
う~‥‥ドキドキする。
二人っきりだと、まるでデートの様でドキドキが止まらない。
神田さんは、スマホで周辺を検索してるようだ。
本当にこの辺は知らないんだな。と、それを取り繕うこともなく正直に飾らない感じがとても好印象だった。
「あっちの方へ行きましょうか。」
「はい。良さそうな所はありましたか?」
「そうですね、入ってみてダメだったら直ぐに場所を変えましょう。」
「うふふ。そうですね。」
「何か可笑しかった?」
「いいえ、神田さんて全然飾らない方なんだなぁと思ったら嬉しくなって。」
「それ、嬉しくなる事?」
「うふふ。男の人って取り繕うことが多いから、正直な感じがして安心です。」
「そんなもんかな?」
気楽な会話をしているうちに、目的のBarに着いた。
古いアメリカ映画に出てきそうな雰囲気で、おしゃれなカクテルより、バーボンウィスキーをショットグラスで飲むのが似合いそうな店だった。
「いらっしゃいませ。」
「いい感じのお店ですね。」
「うん。当たりですかね。」
二人でカウンターの隅に座る。
女性を奥にして、並んで座ってから飲み物を注文するが、カウンターの端から滑らせて出されそうな雰囲気がある。
「お酒は希望ありますか?」
「え~っと、口当たりの良いのが良いです。」
「爽やかなのとか、甘いのとかは?」
「爽やか系で。」
顔を上げると、静かにバーテンが寄ってきた。
「ウォッカトニックとアーリータイムス、ロックで。」
大して酒を知らないので、無難な爽やか系と安いけど好きなバーボンを頼んだ。
「バーボン、お好きなんですか?」
「そうですね。アーリータイムスは好きなんです。」
ウォッカトニックとアーリーのロックは直ぐに出てきた。
「それでは、改めて乾杯!」
グラスを合わせるとチンッと綺麗な音が鳴った。
富岡香は、まだドキドキしていた。
この年齢だけに、男性と付き合ったことが無い訳じゃ無い。
大学時代はかなりモテてた方だろう。
しかし、どうも裏表のある人は好きになれず、一時付き合った男も自分に対して言ってる事と、男同士で話してる内容が違い過ぎて、幻滅してしまった。
大学を出て、大手メーカーに就職したが、数年頑張った後の移動先で、上司のセクハラが酷くて告訴した。勝訴したものの、会社は気まずくていられなくなり、現在のカンダ(株)に入社したのだが、出会いが無い。同僚も良い人たちで不満は無いが、恋人になれる様な男性は居なかった。あれから今まで、彼氏無しで数年が経つ。だから、真悟人との出会いにテンパる位に期待しているのである。
酒を何杯か飲み、たわいもない話をして、お互いに笑い合い、ほろ酔いで良い気分である。
「そろそろ行きましょうか?」
来たーーー!!と思った。
所謂お持ち帰りですよね?
私、お持ち帰りされちゃうんですね!?
今日の下着は大丈夫だよね。‥‥‥生理、いつだったっけ?安全かな?
出来ちゃったら、玉の輿かな?
でも、捨てられちゃったらどうしよ?
やっぱ遊びだよね?
酔った頭でグルグルと考えてる間にタクシーを呼んで、会計を済まして外に出る。
二人でタクシーに乗って、車の揺れで眠くなり真悟人にもたれて寝てしまった。
夢うつつに、あぁ良い匂いがする。
この人に抱かれて眠るのは幸せだなぁ・・・
と、幸せな夢は唐突に終わりを告げた。
「富岡さん、着きましたよ。」
「ひゃい!」
跳び起きた!
い、いよいよ‥‥どこのホテルかな?
‥‥‥ん?あれ?
見慣れたマンションの前にいる。
「部屋は3階ですか?」
「は、はい。」
ま、まさか!家でするの?
え、え~!それは、いきなり家は嫌かも‥‥
その間にも、エレベータで3階に着く。
家の扉の前で、
「カギはちゃんとありますか?」
「は、はい‥‥」
ど、どうしよう‥‥と悩みながらカギを差し込み、廻す。
カシャンと軽いカギの開く音がした。
「それでは、僕は失礼しますね。」
「えっ?」
え?あれ?入らないの?
「楽しかったです。また飲みましょう。おやすみなさい。」
そう言って、エレベーターで降りて帰ってしまった。
廊下から下を見ると、ちょうど待たせてたタクシーに乗るところで、こちらを見上げて手を振ってくれたので、小さく振り返した。
部屋に入り、カギとチェーンを掛けて、バックを放り出してベッドに倒れこんだ。
「なぁ~~んだぁ~!‥‥もう!色々期待させておいて~。」
とっても残念だったが、ホッとした。
いきなりそんな事にならなくて、良かったような、残念なような。
微妙な乙女心である。
~~~~~~~~~~
「ふぅ。」
香を送って、帰りのタクシーの中で、
やっぱ社員の女の子に手を出しちゃダメだよな。
久しぶりの日本でのデートだったが、楽しかったし良い店も見つけられたので、有意義な夜だったと思う。
ずっと異世界に居ると、こういう部分が乾いて枯れて行くのかも知れない。
やはり生活に潤いは必要ですね。
日本に帰る前に、人魚さんたちとの濃厚な夜が合ったから紳士で居られたが、あれが無かったら襲ってたかもなぁ‥‥
ブルっと来た。
~~~~~~~~~~
真悟人が香たちと飲みに行って、2、3日後。
「ねぇ、京子、聞いた?」
「ん~?何を~?」
「あんたと同じ総務の富岡さんと、システムの近藤さん。」
「ん~?」
「こないだ社長と飲み行ったんだって!?」
「うそ!?」
「ホントホント!こないだ駅で見た娘が居てさぁ!」
「マジで!?」
「駅前通りで、新しくできた和食屋さんから3人で出てきてね、近藤さんはタクシーで帰って、富岡さんはお持ち帰りだって!!」
「キャーッ!うっそー!!」
噂には尾ひれが付くものである。
「京子ももう、体当たりしかないよ!出来ちゃえば玉の輿だぁ!」
「おいおい。他人事だと思って無茶言うなよぉ。」
~~~~~~~~~~
女子更衣室にて。
「ちょっとぉ!聞いた?」
「なに?」
「総務の富岡さんと社長がデキてるって!」
「うっそ!ドコ情報よそれ?」
「ふっふっふっ!そりゃ教えられないなぁ!」
「うわ~!ウッザ!」
~~~~~~~~~~
「香ぃ、噂になっちゃったね~。」
「うん。‥‥‥」
「実際、あの後はどうだったの?」
「一緒にお酒飲んで、紳士的にタクシーで送って貰っておやすみなさ~い。」
ヒラヒラと手を振る。
「お持ち帰りじゃ無かったんだぁ?」
「綾さぁ、あたしって女の魅力足りないかなぁ?」
「う~~ん。十分魅力的だと思うけどなぁ?」
「社長ってさ、スゴイ良い匂いがするんだよね。抱かれて眠れたら最高だったのに‥‥」
「えっ!何それ?」
「タクシーで寝ちゃってね、もたれて寝ててさ。良い匂いなんだよね。」
「なんだそりゃ?つか、寝ちゃうほど飲んだの?」
「楽しくて、ついね‥‥‥」
「うーん。噂を逆手に取って、もうワンプッシュかなぁ?」
「やっぱ、そうかなぁ?‥‥‥」
~~~~~~~~~~
「社長。おはようございます。」
「あ、山際さん、おはようございます。」
「社長、女子社員の間で噂になってますよ。」
「ああ、僕には疚しい事無いので大丈夫なんですが、富岡さんが困りますよね。」
話は聞いている。予想以上に広まってるなとは思うが。
仕事に影響がなきゃ直ぐに収まるだろうと高を括っている。
しかし、波紋は思った以上に大きいようだ。
「女子社員の間でですねぇ、ファンクラブがデキてるみたいですよ?」
「は?何ですか?それは?」
「富岡香がですね、話をリークしたみたいで‥‥」
「ええ?どんな話を?」
「主なのは、一緒に飲んで紳士的に送ってくれて、スゴくカッコ良かったと、とても良い匂いがして抱かれて眠りたいと、極め付けは私のモンだから手を出すな!」
「マジですか!?」
「そして、ファンクラブがデキて社長を共有しよう!と、抜け駆けするな!と、富岡香もファンクラブに入ったようで、社長の秘書室を作ろうとしてるようです。」
「うわ~。何か斜め上に行ったなぁ。こりゃ早く逃げた方が良いかな?」
「社長の海外出張もですね、経費が全く計上されて無いので、自腹で行くのはおかしいとか、朝昼晩の食事は管理した方が健康のために良いとか、その管理は秘書室で行うとかの案が出てますね‥‥‥」
「ちょ、ちょっと怖いですね。」
管理何てされたら、それこそ異世界に行けなくなる。
まさか、富岡香がそんな方向に向くとは思っても見なかった。
う~~ん。
何か対策を考えねば‥‥‥
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