第94話 骨酒
キノコの次は、川魚を焼く。
マスを塩焼きで出す。
これもマンガリッツァは気に入ったようだ。
次に、イワナをマスと一緒に焼いていたが、こちらは素焼きにする。
遠火でじっくりと水分を飛ばすように焼く。
時間をかけて焼いたイワナを土瓶に入れる。
辛口の日本酒を熱燗に付けてイワナを入れた土瓶に注ぐ。~しばし待て。
互いのお猪口に注ぐと香ばしい香りが漂い、口に含むと爆発的な旨味が駆け抜ける。イワナの骨酒である。
「おおぅ。‥‥‥‥美味い。」
じっくりと味を確かめるように口に含む。
「‥‥これほどに酒が美味いとは思わなかったぞ。」
イワナの骨酒を飲む間に、マスの骨を同じようにじっくりを焼く。
イワナの骨酒が無くなったら、マスの骨酒である。
骨と少しの身しかないが、十分に旨味が出ている。
こんな贅沢な酒を飲んだのは何年振りか。
本当は、全員に振舞ってやりたいが、さすがにそんなに数は無い。
それに、酔っ払いには勿体無い酒である。
「美味いか。それは良かった。」
「‥‥ああ、酒が好きになれそうだ。」
大分酔いが回ってきてるのだろう。
呂律が怪しくなってきた。
「この魚も育てないか?」
「‥‥なに?魚も育てられるのか?」
「あぁ。育てられるぞ。育てると、こんなものまで食える。」
鱒子を出した。
要するに、鮭の卵の醤油漬けがイクラで、マスの卵の醤油漬けがマスコである。
味はほとんど変わらないと思う。安いものは生臭かったりネトネトだったりする様だが、イクラよりは安く流通しているようだ。
マンガリッツァはもう躊躇せずに口に入れた。
本日、何回目かのまんまる目である。
「‥‥な、なんだ?これは?‥‥もう美味過ぎだぞ。」
そう言いながら、あっという間に空にしてしまった。
苦笑を漏らしながら、「気に入ってくれて何よりだよ。」
「‥‥これも、育てれば食えるのか?」
「ああ。卵の醤油漬けだから、ある程度数が増えないと無理だがな。」
「‥‥‥そうか、それが、デュロックが言っていた養殖だな?」
「話を聞いてたか。そうだ。魚やキノコを養殖すれば、こんな美味いものが、皆でいつでも食えるようになるんだ。・・・まぁ、成功すればな。」
「それが、我等の仕事か?」
「そうだ。足りないものを互いに融通しあって行くんだ。どうだ?やるか?」
「‥‥総長。やれって命令でも良いのだぞ?」
「あほか!命令で嫌々やるんじゃしょうがない。美味さを知って、自分でやるのが良いんだろ!」
「‥‥‥ああ。」
「ウメヤマ達にも少しずつお裾分けできる様に、美味さを教えられる様にやって行こう。そのうち全員で味わえるようにな。」
「‥‥‥ああ。‥‥その前に‥」
「その前に?」
「・・・・・・・・ZZzzz」
寝ていた。
多少食ったとはいえ、下戸が2合近い酒を飲んだんだ。頑張った方だろう。
さて、こいつをどうしようか悩んでいたら、既に周りにボスやアルファやウメヤマやトゥミ達が集まっていた。
「「「・・・・・・・・」」」
「お?おぅ。こいつ、運ぶか?」
「・・・・・真悟人?」
「・・・はい?トゥミさん?」
「・・・随分と美味しそうな物を二人だけで楽しんでたわね?」
「あ・・・・・・」
「総長、そりゃないですよねぇ?」
「主。我も美味さを教えて欲しい。」
「主?まさかこれでお開きはないですよね?」
「真悟人?観念しなさい。」
皆に詰め寄られて、しぶしぶ七輪を増やし、イカの一夜干しから焼き始める。
今度は、醤油マヨネーズ七味を追加して皆に出すと、
「「「「「美味ーーーい♪」」」」」
絶賛の嵐である。ここだけで盛り上がって大丈夫なのか心配したが、トップの連中が盛り上がってて、苦言を呈する部下は居ない。
マンガリッツァと盛り上がってても、黙って見守ってくれたのだから、それに応えようか。
骨酒は、エイヒレのヒレ酒を出した。これはこれで違う旨味があって非常に美味い!焼き魚はサバの丸干し。
これが凶悪的に美味い!しかし、煙と匂いで他の皆も寄って来てしまって、結局、皆のために只管サバを焼く羽目になるのである。
・・・・・ああ、後何匹焼けば良いんだ?
宴会の夜は更ける。
‥‥‥あれ?シャルとの甘い夜は?‥‥‥
~~~~~~~~~~~
翌日は撤収する。
全員で荷物を‥‥片づけない。
そのまま置いて行って、好きに有効利用してもらおう。
それと、樹に看板を付ける様に、紐や筆を置いて行く。
染料は墨。竈から煤を集めて溜めて置く。
それに毛皮を煮込んだ時に出る膠を集めて、混ぜて煉る。只管煉る。
それを梨の木型に入れて形を整え、乾燥させる。
そうすると墨っぽいものが出来上がる。
これを目地の細かい石の皿で只管研ぐ。
墨汁を作ったら書こう!
よく考えたら識字率は高くない。いや、語弊があるな。字を書ける奴はいない。
そりゃそうだよね。オークがそんな知性を備えていたら人類に取って変わってるな。
教育に関しては、スライム先生に相談してからになるが、何人かのチームを組んでもらって順番に教育することになるだろう。最初に教育された者は、後輩への事前指導に当たって貰う。人に教えるって、自分の知識の再確認だからね。復讐は大事なんだよ。‥‥‥あ、復習だね。どっちも大事だけどね。
看板にケヤキやブナやナラなどの名前を書いていく。
実際の樹木調査では区画と番号を振って行って、後日それに合わせて看板を付ける。
まぁ、それによって所有権を主張する意味合いもある。
俺のモノに手を出すなよ!?と言う訳だ。サトウカエデなんて見つかったらその最たる物だな。手を出す奴には死をもって報いよう‥‥フフッフッ。
そこまでの準備が終わったら、村に戻ろうか。
順番に返していって、最後に戻るつもりである。
そんな時に。
‥‥‥指輪の声がする‥‥‥
---アルファから認められました。新しい能力を開放します。---
---マンガリッツァから認められました。新しい能力を開放します。---
は?‥‥2人いっぺんに?‥‥‥それは、良いとして、今、アルファ??
なんで、今アルファなのか聞いても良い?
---葛藤から抜けた為です。---
そうか、シャマルの時の事を引きずってたのかな?
解放された能力は?
--- 身体強化 ---
--- 転移 ---
お?‥‥転移?マジか?
転移あったんだ。この世界もあったんだね~!
じわじわと喜びが溢れてきた。
まずは身体強化から試してみようか。
Lv何て無い世界だから、ステータスなんて分からない。
取り敢えず体を動かしてみて、どんなもんか見てみようか。
「身体強化!・・・・・お?なんか身体が軽くなった気がするぞ。」
その後、飛んだり跳ねたりと色々やってみたが、確かに強化されてるのを実感できる。これは自然に出来るように練習した方が良さそうだな。
次はいよいよ転移を試してみる。
ん~~‥‥どうすれば良いのかな?・・・・・
意識的に転移を考えると、やり方は分かるがちょっと躊躇してる訳で‥‥
ちょっと怖いんだよね。
行き先は、家の前。‥‥‥「転移!」
一瞬、意識が飛ぶような感覚。
日本と此処を行き来するような感覚の軽い感じだな。
どこまで跳べるのかな?‥‥‥「転移!」
おお!懐かしい景色!青い海と白い砂浜!
人魚さんがギョッとした顔して見ている。誰かが何処かに慌てて向かってる。
アンジェ達を呼びに行ったのかな?
ここまで跳べるのは分かった。
かなり優れもんのスキルだな。これでいつでもアンジェ達に会えるね。
「「「真悟人!!!」」」
「いよぅ!アンジェ、フラビ、ムルティ!」
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