第93話 キノコ

 宴会は盛り上がった。

 マンガリッツァは寝てしまったが、ウメヤマ達が張り切って裸踊りをしていたが、♂の裸なんて見たくないので、隅っこに避難して手酌で飲んでいる。


 トゥミ達が俺を探しているようで、キョロキョロと周囲を見回している。

 まぁそのうち見つかるかな?と思って、敢えて声は掛けないでいたら向こうの方へ行ってしまった。

 意外と分からないもんだね。


 果物のジュースや、ちょっと摘まめるものを持ってマンガリッツァの所へ行った。

 テントの隅に簡易休憩所が作ってあり、マンガリッツァはそこに寝かされてると聞いたので、行って見たら‥‥起きてやがった。

「よぉ。気分はどうだい?」


 黙って周りをグルっと見回して。

「‥‥まぁまぁだ。」


 まぁまぁか。デュロックの話から俺に付いてくる事にした真意を聞いてみようと思ってたので、その答えにちょっとイラッとして正面から頭を叩いてやったら、ぺちって音がして笑いそうになった。

「‥‥‥何をする?」


 その真っ直ぐな目が昔飼っていた犬を思い出した。

 何で今、思い出すのか分からないが、その目が当時の飼い犬の真っ直ぐな目線にそっくりだった。

「お前って、真っ直ぐに俺を信じてくれてるんだな?」

 俺は何、変なこと聞いてんだ?やっぱ酔ってるのか・・・


「‥‥‥そんな当たり前の事がどうした?」


 当たり前なんだ。そんな真っ直ぐな信頼に、思わず涙腺が緩みそうだ。

 こんなに真っ直ぐに信じてくれたのは、あの頃の飼い犬だけだ。

 一緒にしちゃイケないが、自分もこいつを真っ直ぐに信じてやらなきゃいけないよな。その当たり前が出来ない俺が居たんだよ。

「そうだな。俺もお前を信じてるさ。‥‥‥所で、総長ってなんだ?」


「‥‥‥あ?真悟人の肩書きだろ?」

 当たり前だろって顔をして、俺が持って来た果物ジュースに口を付けている。


「いや、なんでそんな肩書き付いたんだ?」


 マンガリッツァは不思議そうな顔して、

「‥‥‥当然だろ。仲間全体を纏めて、見回して、綻びを直して。‥‥他に誰が出来る?‥‥‥デュロック達に聞いたぞ。前の畜生どもから助けた経緯も、どんな扱いをされてたかも‥‥‥我には許せない行いだ。そんな事は二度と繰り返しちゃイケない‥‥‥情けを掛けた残りが、また繰り返そうとしていた。だから糺した。情けは二度は無い。‥‥平和には、悪も必要。それは、今後我がやる。総長は正義だ。‥‥‥だから、真悟人は総長。そういうことだ。」


 そう言う事だって?分からねぇよ。いや、言ってる事は分かるよ。‥‥

 これだけの大所帯になって来ると、ちゃんとピラミッドを作って役割分担して行かないと、崩壊する。独裁は続いた例は無い。

 だから俺がトップで、総長と言う肩書で、マンガリッツァとボスとアルファがNo2で、ウメヤマやビーワンたちがケツを支えて、だんだんと組織が出来て行くんだろう。


 マンガリッツァのそんな長いセリフは初めて聞いた。

 途切れ途切れだが、しっかりと意思を感じた。意気込みも感じた。

 俺が支える。だからちゃんと神輿に乗れ!そういう事だろう。


「ああ。分かったよ。マンガリッツァ。頼むぞ。」


「‥‥当然だ。しっかりと支えるから折れるなよ。」


「もちろんだ。所で、酒はもういらないか?本当の盃を交わそう。」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ああ。」

 こいつ、絶対飲みたくないと思ってるな。

 本当のお猪口を出すか。


 俺の出したお猪口を見て、マンガリッツァは固まった。

 ちょっと馬鹿にされてる?と思っちゃったかな?

「これは、お猪口と言って、酒を飲むための器だ。この、お猪口で酒を交わすのを盃を交わすって言うんだ。その為の酒は、これだ!」


 とっておきの大吟醸を出す。

 緑の一升瓶に和紙のラベル。こんな時でしか飲めない。

 ガブガブ飲む奴には飲ませない。

「本当は、お猪口で飲むのは燗を付けた日本酒だが、マンガリッツァにはコップ酒はきついだろう。」


 一応、冷や徳利に移して、お猪口に酒を注ぐ。

 爽やかな、フルーツの様な香りが漂い、マンガリッツァも惹かれる香りだと言う。


 クイッと一気に飲み干す。

 爽やかな喉越しと香りに、思わずほぅ~とため息が漏れる。

 そんな俺の様子を見て、マンガリッツァも一気に盃を空けた。


 また寝ちゃうかな?思ってたが、ほぅ~~‥‥と息を付いた後に、

「‥‥美味い!‥‥」

 嬉しそうにそう言った。


 3杯くらい飲んだら、目の周りが赤くなった。

「飲んでばかりじゃダメだぞ。美味い酒には美味い肴が必要だな。」


 七輪を出して、火を点けて、イカの一夜干しを炙った。

 最初は何も付けないで。

 裂いたイカを手に取り、匂いを嗅いで訝しんでいたが、恐る恐る口に入れた‥‥

 眼をまん丸にひん剥いて、


「う、美味い!これは美味い!!」


「初めて食ったか?」


「ああ、これは美味いもんだ。これは何だ?」

 裂いたイカの身じゃ、何だか分からないだろう。


「これは、イカと言って海に居るんだ。海には変わった生物が居る。見た目は不思議だが、美味い奴も多いぞ。」


 日本酒を嬉しそうに舐めながら、

「‥‥海ってすげぇな。」


「ああ、今度、女の子連れて海行くか。」


「‥‥‥何故、女の子?‥‥」


「まぁ、気にするな。次、焼くぞ。」

 次は、シイタケやマツタケやシメジやエノキのキノコ類。

 酒で割った醤油にくぐらして、香ばしく焼く。


 醤油の焼けた匂いに、鼻をヒクヒク動かしながら、

「‥‥これは!良い香りだ!」


 シイタケから齧る。アツアツのシイタケに、ハフハフしながら味わう。

 マンガリッツァの怖い顔が笑顔になる。

 アツアツのキノコを順に味わう。食感の違いに感心しながら、普段山でとれるキノコがこんなに美味くなるのか!と感動しているマンガリッツァ。


「マンガリッツァ達に頼みがある。このキノコを育ててみないか?」


「‥‥あ?キノコを‥‥育てる?」


 畑で野菜を育てるのは分かるが、キノコを育てると考えた奴はいない。キノコは季節に山で採るものと認識している。なのにキノコを育てる?それが出来れば画期的な事だが、それはあくまで人間の認識。オークたちには、そんな先入観は無いから、やってみろと言われたらやるだけだ。人間なら、そんなの無理だと断っただろう。マンガリッツァは、今食った美味いキノコがいつでも食えるならやるべきだと考えた。当然、真悟人への信頼も込みである。


 育てるのは、シイタケ、ヒラタケ、なめこ、マイタケ、きくらげ。

 原木栽培法というのを試してみようと思う。

 まず、キノコは基本的に広葉樹に生える。ナラ、クヌギ、ブナ、カエデ、クルミ、さくら、リンゴ、栗などなど。

 きのこ種菌を日本で入手して、培養できれば何よりだが、きのこ種菌の拡大培養は種苗法により禁じられていると!そんな法律があるんだね。

 ただ、ここは異世界なのでそんな法律は当て嵌らないから、全力で増やそうと思う!!


 一通りを説明したら、マンガリッツァもやる気になっていた。

 広葉樹と呼ばれる樹を探して、樹の名前を書いた看板をつけて枝を伐採して持ち帰る。それと、周囲の関係ない針葉樹木は切り倒して広葉樹を増やす。

 ただ、やり過ぎない様に。適当に間引く感じで良いだろう。

 それと、サトウカエデも探してもらおう。

 メープルシロップをかけたホットケーキが食いたい。


 この山は何でもありそうな気がする。

 なんせ、マルーラの木やカカオの木やマカデミアナッツまで在るくらいだからな。

 気候や地域は無視して存在してるから、色々期待しているのである。



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