第81話 マッチ

 魔道具の暴発で事故が起きた。

 と言う事は、販売してからも事故が起きる可能性がある。


 今回の事故の原因は、マッチに掛けた付与魔法が普通の火魔法の詠唱に反応してしまった事。今まで作った全てのマッチの魔法付与をやり直さなければいけない。


 最初に俺が魔法付与を試して、トゥミに試験をして貰う。

 シャルにも試験をして貰う。

 よし!今度はちゃんと他の魔法に反応せずに、擦ると言う物理刺激にだけ反応する様になった。持ち運んでる時や、カタカタと振動や落としたりなどの衝撃にも反応しない。魔力を流して擦ると言う刺激だけ限定して反応する。

 牙猿達にゲラルディーニのとこへ行って貰って試して貰う。

 大丈夫そうだ。

 往復もなるべく乱暴に運ばしたが、暴発は無かった。

 箱に入れて、魔法を使いながら走り回って見たが大丈夫!

 摘まんで魔力を流して擦る。それで点火!


 火は人の命を簡単に奪うのが良く分かった。

 ポメロも順調に回復して、魔法付与の作業に復帰した。

 トラウマになって出来なくなってしまうかと心配したが、本人がやりたい!と

 トラウマにはしたくないと努力してる。

 本当は怖いのだろう‥‥最初は手が震えていた。

 ラダンとルミックが応援しながらやっていて、彼らに任して置けば大丈夫だろう。


 さて、5人組の裁定だが、

 ニコルとネリは、強制労働3年間。マヌエル、パヤノ、テテは強制労働1年間。

 親たちがクレームを付けに来たが、じゃあ親が肩代わりして働くか?と詰め寄ったら、あっけなく引いた。

 しかし、親達にも保護者責任を検討すると言ったら、ネリの親が切れた!

 これ幸いと、取り押さえて、お前の血筋は全て根絶やしにしてやる!と、ブチ切れて脅しに脅した!。流石にヴィトン達に怒られたが、誤らなかった。

 禍根を残したが、全員調べが付いてるからな!と、脅したら‥‥更に怒られた。


 被害者が蔑ろにされるのは我慢がならない。

 本当は、加害者全員と保護者も含めて、監督不行き届き責任で少し働かそうかと思ったが、プラダ達が自分達にも責任がある。今まで悪い事を野放しにして来た長老たちも悪いと反省していたので、今後、そういう事があったら、未成年の場合は親も罰すると周知した。


 ニコルとネリは、竹の伐採と運搬。

 一応弁当も出るが、キツイ仕事だろう。一般の人との交流も一切禁止!当然、労働中は私語禁止。破るなら一言一週間延長。口答えも同様。

 厳し過ぎるとの声が在ったが、じゃあお前の身内を差し出せ!同じ目に合わせて、どう思うか考えろ!?

 誰も何も言わなかった。


 独裁政治!?大いに結構!被害者の悲しみが理解できない政治なら壊してやる!全員同じ悲しみを与えてやる!その上でもう一度言って見ろ!!


 本当は、こんな力ゴリ押しはダメだと分かってる。

 でも、許せないんだよ。日本でも一杯見て来たあいつ等が許せないんだよ!だから、せめてこの世界では、泣き寝入りさせたくない。

 人権くそくらえの世界だからこそ、良く出来るかも知れないじゃん!まぁ、そんな思いを押し付けました。


  奴らの強制労働だが、マヌエル、パヤノ、テテは、‥‥人魚さんの所へ行ってゲラルディーニとロンシャンの下に付けた。ちょっと羨ましいと思っちゃうでしょ?

 人魚さんに囲まれて、夜も頑張る?

 甘いな!それは、ゲラルディーニとロンシャンだけ!


 彼らは完全な労働係。

 昆布やワカメを干して取り込んだり、ひたすら魚の干物作りに勤しんだりする。

 人魚さん達にも彼らの行った事を周知している。


 最初は、人魚さんに怯えていたが、ビキニ姿のお嬢さんたちが周囲をウロウロしてる訳ですよ。

 そりゃ欲望にクラクラするし、ここは天国かと勘違いしてたみたいだ。

 実際の労働はメチャクチャキツイ!濡れた昆布は重いし大量だし塩水で身体がピリピリするしで、へこたれそうなのを人魚さんが叱咤激励して働かす!

 つい惚れそうになるが、彼女たちはゲラルディーニとロンシャン兄弟の元で甘い声を出している。

 気が狂いそうな禁欲生活に罰としての強制労働の意味を知る。


 1年くらい頑張って人魚さんに認められれば、夜も解禁!と人魚さんにはこっそり伝えておいた。

 それはそれで大変だと思うけどね!イヒヒ♪


 アンジェ達から、早く来いと催促の連絡も来てたので、このゴタゴタが落ち着いたら海でバカンスしたいところだ!


 ~~~~~~~~~~~


 マッチと竹水筒を持ってオダーラに行く。

 先ずはトリネコ商店に顔を出して、その後、商人ギルドで〇真印の登録を行う。


 現在ではすっかり看板娘になったメイちゃんの「いらっしゃいませ~!」と元気な声。「おぉ!真悟人さんだぁ~♪」と抱き着いて来る。


 おいおい、いきなり抱き着いちゃダメ!随分明るくなったね~?

 周囲の殺気を一身に浴びて、怖いのでメイちゃんと一緒に店の奥へ。


「トリネコさんは居るかな?」

「はい。今呼んできますね!」


「おお!真悟人さん。ご無沙汰しております。」


「お元気でしたか?」


「はい。真悟人さんのお陰で、店も繁盛しております!定期的に海の魚が入るのがやはり大きいですね!王都からの予約も一杯の状態です。こんなに良くして頂いて、どうお返しすれば良いのかと‥‥」


「今回はちょっとお願いがあって来たんですよ。」


「私どもで出来る事でしたら、何なりと仰って下さい。」


「コレを見て頂けますか?」

 最初に出したのはマッチの入った小袋。

 中に小枝の様な物が長さと太さを揃えられて、20本入っている。


「コレは?いったい何ですかな??」


「トリネコさんは、火をどうやって熾こしてます?」


 品物の説明ではなく、関係なさそうな質問になって、はて?と思いながら説明する。

「火打石か魔道具ですな。ただ、火打石は中々難しい。慣れないと火は熾きません。魔道具は高価すぎて、大きい商隊の時じゃ無いと持って行けませんな。」


「火熾しの魔道具ってどんな物ですか?」


「お見せしましょう。」

 直ぐ近くに展示されている商品を出した。

 一口のガス台のようで、上に五徳が付いている。この上に可燃物を乗せて魔道具を作動させると、乗せた可燃物が燃え上がる。

 魔石を使うので何回も使えるが、道具も魔石も高価なので、一般家庭は火打石か、種火を絶やさず使っているそうだ。


「なるほど!」

 先ほど出した小袋の中身をテーブルに出した。

 袋には〇真のマークが付いている。これは焼き印を教えて作らせたコテで付けた。

 不思議そうにしているトリネコさんに特に説明もせず、靴の裏で小枝を擦った。

 ボッと火が付く小枝。


 それを見て、

「な、な、なんですかぁ!!それはぁ!?」

 トリネコさんは絶叫した!


 トリネコさんの絶叫を聞いて、店の中から外から人がやって来た。

「会長!どうしましたかぁ!?」

「会長。どうしたんです?」

「会長の声ですか?」

 トリネコさんは恥ずかしくなって思わず口を押えてしまった。


 周りに人が集まって来たので、燃えないお皿の様な物を持って来て貰った。

「みんな静かにしろ!黙って見てろ!」

 トリネコさんが周囲を静めた。


「丁度良い。メイちゃん、コレを持って。」

 メイちゃんに小枝を持たせて、魔力を流しながら擦って見て?

 と、やらせてみた。

 ボッと火のつく小枝。


「「「「「「おおぉぉーーーー!!」」」」」」

「何だこれは!?」

「着火の魔道具か!?」

「す、すごい!女の子でも直ぐ着いた!」


 トリネコさんに持たせて、同じ説明をした。

 ポイントは、魔力を流しながら擦るんです。


 緊張の面持ちで、小枝を擦る。ボッ!と火が着いた!

 小枝の先の炎を見ながら、トリネコさんは唸る。

「こ、これは素晴らしい!こんなに簡単に火が着くなんて!?」


 周りに集まった人たちにも1本ずつ配ってやって貰う。

 ポイントは、魔力を流しながら擦るんです!

 最初は出来ない人も何人か居て、力を入れ過ぎて折ってしまう人も居たが、結局全員が出来た!

 感動して、小枝の先の炎を見つめる人々‥‥

 危ない集団の様だが、皆に我に返って貰う。


「皆さん無事に着火出来ました。おめでとうございます!そこで次のステップです。」


「はっ?次のステップ?」


「先ほど何本か折れてしまいました。でも捨てないで下さいね。」

 折れた小枝は半分ほどに短くなっている。

 それを持って、擦る!ボッ!と着火!

「「「「「「おおぉぉーーーー!!」」」」」」


「も、もしかして何回も使えるのか?」

 トリネコさんが興奮しながら聞いて来る。

 近い!近いよ!落ち着いて!離れて!


「この長さで2、3回は使えますよ。5回使った強者も居ます。」

 指先火傷してたけどね。


「す、すごい!‥‥し、しかし、魔道具だし高いんだろ?」

 金額の話になったら、皆一気にトーンダウン‥‥


「まず、この袋なんですが、魔物の革で作ってます。これを銅貨1枚で買ってください。この袋は持ち歩くときに着火しない様に保護を掛けてます。」

 色々試したが、絶対は無いので、だったら保護袋を強化する事にした。

「肝心のマッチですが、袋があれば20本で銅貨2枚を考えています。」


 ・・・・・・・・・・・し~~ん‥‥‥


 あ、あれ?高すぎたかな?

「ま、真悟人さん?本当にその値段で良いんですか?」


「え?あれ?高すぎますか?」

「「「「「「ええぇーーーー??」」」」」」

「とんでもない!安すぎます!こんな何回も使える魔道具が銅貨で買えるなんて在り得ません。」


「いや、しかし、一般家庭でも使えるのを考えるとその位が精一杯かな?っと」


「な、なんと!一般家庭を考えていらっしゃる!?」

「うーーむ。一般家庭を考えると‥‥‥」


「後、まだ続きがあります。」


「はい?更に続きが?」


 別の小袋を取り出した。先ほどの小袋よりちょっと豪華そうな装飾で、やはり真ん中に〇真の印。

 中の小枝は、先ほどの小枝と違って薄赤で染められている。


 最初の小枝を持って、水に濡らす。

 当然、火は着かない。皆当然だと言う顔をする。

 次に薄赤の小枝を水に浸ける。濡らすどころか浸けた。

 その水滴が付いたままの小枝を擦ると、ボッ!と着火した!

「「「「「「うおぉぉーーーー!!」」」」」」


「こちらは、小袋が銅貨2枚、マッチは20本で銅貨5枚でどうですか?」


「‥‥‥それでも銅貨で買える。」

「冒険者なら、絶対そちらを買うぞ。」

「袋もおしゃれかも?」

「この袋、もっと高くても良くない?」

「袋だけ欲しがる奴も居そうだな。」

 この世界には無かった巾着袋も中々評判が良い様だ。




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