第77話 願い

 やっと復活した。

 シャマルやアルファ達とも仲直りしたし、傷付いた仲間たちも復活した。


 牙狼戦隊を呼んだ。

 先ず一言。「済まなかった。」ちゃんと頭を下げた。

「お前たちに八つ当たりをした。申し訳ない。」


 いきなり頭を下げられて、戦隊の面々は挙動不審になっている。


「あ、主!頭を上げて下さい。私達は全然大丈夫です。それに、戦闘の時、皆を助けてくれました。主に助けられなかったらどうなっていたか?」

 イエローとピンクがブルっと身体を震わせて自分の身体を抱えた。


「それに、俺たち、普段は牙狼戦隊なんて粋がってましたが、戦闘になって手も足も出ませんでした。アカやアオ達との連携も上手く行きませんでしたし、イエローやピンク達が襲われた時も動けなかったんです。」


「せっかく装備も整えて貰ったのに、俺たち隠密の良い所を出せませんでした。これからもっとレッドやブルーとの連携訓練に励みます。」


 レッド達もアカ達も連携の大切さを身に染みた様だ。

 そんな君たちに!

 ミスターサトウさんのバタークッキー!・・・【体力+1】

 これで鍛錬に励め!



 全員を集めた。

 牙猿も魔狼も、そして新たに増えた仲間を紹介した。

 彼らは正々堂々と戦った。そして仲間になった。暖かく迎えてやってくれ!

 全員の拍手で迎えられた。


 今回、皆、大変に頑張ってくれた。

 俺が危なかった時、戦隊達の特攻によって助けられた。

 先ほど、個別に褒賞を渡した。

 ただ、俺を助けてくれたのは、彼等だけじゃない。

 全員に助けられた。

 だから全員に褒賞を渡そう。

 みんな、順に取りに来てくれ!


 ボスから順にみんなに渡すのは、モリナゴさんのチョイス♪【冷静+1】

 冷静に物事をチョイスしてくれ!と個々に渡す。

 戦隊の他にも、ボスなどから殊勲報告の在る者は、戦隊と同じバタークッキーも渡す。

 この能力アップの甘味は、皆の憧れの的らしく、殊勲の多い戦隊への入隊希望が一気に増えた事から、皆にも殊勲報告があれば渡すことにした。

 戦隊は、訓練も厳しく狭き門としており、隠密部隊の役割もあるので、ボスやワフワン達の紹介を必要とする。


 揃いの黒い装備も人気があり、黒は下級の色から、隠密の色へとランクアップして誰もが着れる色では無くなった。


 牙猿の子供達と魔狼の子供達でパートナーを組むのも流行っており、パートナーが出来た二人は周りから羨望の眼差しを受ける。それが尚流行りを加速させている様である。


 新たに仲間になった者達には、イチゴミルク【賢さ+0.5】仲間外れは可哀想だし、折角仲間になったからと、飴ちゃんを渡したら、泣く程喜んでくれた!


 今まで、やはり良い待遇ではなく厳しい暮らしだった様だ。

 ♀達は更に辛い状況だったみたいで、ワフワンやワフトゥのトップの♀達に優しくされて号泣していたらしい。


 賢さも上がって、服を着る事を覚えて、美味い食い物を知る。

 行動の正しさや牙猿の掟を守ることで、今の自分達があると気付く。

 非道な行いをしていた奴の末路も見た。

 もう、彼らが道を間違える事は無いであろう。


 自分自身にも言える事だなと、真悟人はひっそりと思っていた。


 仲間に感謝を伝えた後は、エルフさん達に感謝を伝えよう。

 何をするか?

 当然!焼肉!BBQパーティである!!

 肉!肉!肉!野菜野菜!魚介類!こんな贅沢なBBQパーティは日本でもやったことが無い!ワインや日本酒も放出!全員潰れて下さいとばかりに酒も提供した。


 ヴィトンがやってきて、

「真悟人、もう飲んで平気なのか?」

「ああ、中からアルコール消毒しないとな。」

「ん??アルコール?なんじゃそれは?」

「あれ?説明したこと無かったか?アルコールってのは、酒精の事だよ。」

「ほう!?真悟人の国じゃそういうのか?」

「そうだな。これが水や空気に溶けやすいんだ。だから温めると直ぐに無くなっちまうんだよ。」

「空気??また分からん事を?」

「あはは!そうだな。まぁ飲め!って事だよ。」


 魚介類は相変わらず人気で、タコ焼きは大人気だ。

 今回は、仕入れた直後での騒動だったので材料はふんだんにある。


 エルフさんに命を救って貰った者も多いので、感謝を伝えてる者が多い。

 もう、牙猿や魔狼だからと怯えるエルフさんは居ない。

 今まで以上に和気藹々とした飲み会に真悟人もほっこりと飲んでいた。


 サラが居た。少し元気がなさそうだ。

「サラ、一緒に飲もう。新しい料理をするからチョット手伝ってくれ。」


 サラを呼んで、厨房で白身魚のムニエルと、赤魚の煮付けを作った。

 それと、ワインを持ってヴィトンの屋敷の地下に向かった。

「ちょ!ちょっと真悟人!待って!?」


「ん?どうしたサラ?」


「こ、この先には‥‥」


「サラ、俺に任せとけ。」


「で、でも‥‥」


「まぁ、いいからいいから。」


 屋敷の地下には、地下牢が在った。

 そこには、かつてのサラの養父母、ジョゼットさんとクアガールさんが囚われていた。そこに料理とワインを持って、真悟人とサラはやって来た。


 隣り合った別々の部屋に囚われてる二人を、部屋から出して別の部屋に招待した。

 訝しんでる二人に、料理とワインを召し上がって下さいと出すが、二人は手を付けない。

「これが、最後の晩餐か?これで俺たちは首を括られるのか?」

「最後に美味しい物を出して、毒が入ってるんでしょ!?見え見えよ!」


「何を仰いますか?酒も料理も毒なんて入って無いですよ。乾杯しましょう!それで分かります」

 乾杯のうんちくを話してワイングラスを渡して注ぐ。

「料理も僕から食べますよ。心配なら取り分けた皿の好きな物を取って下さい。」


 そうして、毒の心配を消してから料理を進めた。やはり大した食事の提供は無いし、海の魚の料理と言う事もあり、手を付けてくれた。

「う、美味い。これが海の魚か。」

「初めて食べるわ。どうやって手に入れたの?」


 そこから少しずつ話をするようになってきた。

 サラは終始だんまりで相槌すら打たない。

「今回、僕は死にかけたんです。」


「「はっ??」」


「別の牙猿の襲撃に遭いまして‥‥‥」

 事の顛末を語って聞かせる。

 彼らは黙って聞いてくれた。


「サラ達のお陰で助かったんです。本当に命の恩人です。」

 サラは何を言いたいの?という眼で俺を見る。


「そこで、改めてジョゼットさんとクアガールさんにお願いです。僕にサラさんをお嫁さんに下さい。お願いします。」

 頭を下げた。


 皆の沈黙。

 頭を下げ続けた。

「わ、私達に、そ、そんな資格は‥‥」

 クアガールさんが沈黙を破ってくれた。


「サラが小さい時から育ててくれたと言っていました。資格なんて僕には分かりません。仮にも親代わりであったお二人の許しを頂きたいと思いました。」

 サラは目を丸くして、何を言い出したの?と言いたげだ。


「わ、私は‥‥」

 クアガールさんは泣き出してしまった。

「サ、サラ。ごめんなさい。私たちはあなたの親になれなかったの。」

 泣いているクアガールさんに代わって、ジョゼットさんが話してくれた。


 元々、サラの母親とクアガールさんは友人だった。

 互いに結婚してからも、互いの旦那を交えて親交は続いていた。

 ある日、馬車の事故でサラの両親は亡くなった。

 これは、本当に事故だったらしい。

 しかし、残されたのは交易に関する利権と、サラという幼い娘。


 彼らに子供は居なかったし、親友の娘。サラを本当の娘の様に思っていた。

 しかし、付いて来た利権が悪魔のささやきを始めた。

 真面にやっていたのが、一回悪魔のささやきを聞いてしまうと、もう止められない。

 次から次へと、水の流るが如く、歯止めが利かなくなった。

 あんなに可愛がってた娘。サラさえも悪魔の餌食に呑まれていった。


 もう取り戻せない。

 何度葛藤したか。年頃になって美しくなった娘のために、何故非情な仕打ちをしなければいけないのか。娘を売る行為のなんと非情な事か。

 もう、悪魔からは逃れられなかった。

 もう、サラを可愛がってたなんて言えない。サラの幸せを願うなんて言えない。

 もう、全ては遅かった。

 ジョゼットさんも泣き崩れた。

 もう、サラの幸せを願う資格すらないのだと。‥‥


 サラは黙って聞いていた。

 泣きながら黙って聞いていた。

 そして、

「‥‥‥お養父さん、お養母さん。今から願って下さい。まだ遅くありません。私は、これから幸せになります。真悟人と幸せに成ります。真悟人との結婚を許して下さい。お願いします。」


 サラは頭を下げた。反発し続けた養父母に、初めて頭を下げた。

 クアガールさんがサラの手を取り、

「サラ、ごめんなさい。ダメな私達でごめんなさい。サラ、幸せになって。今までの分も幸せになって。‥‥」

「お養母さん‥‥」


 二人で抱き合って泣いていた。

 横でジョゼットさんが頷きながら泣いていた。


 真悟人は、三人だけにしようと上に上がっていた。

 一緒に泣く訳にはいかない。

 上で、潤んだ眼を乾かしていた。






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