第76話 その後

 皆の所に戻ろうとしたが‥‥

 倒れた。


 まだあちこちから出血が止まらない。

 トゥミ達が泣きながら怒っている。

 アルファ達もまだ意識は戻らない。

 全員が傷だらけで、半死半生の者も多い。


 こんなにやられたのは初めてだった。

 舐めていた。

 やれると思っていた。

 俺のせいだ。


 血と涙と悔しさで、どうにかなりそうなまま、意識を手放した。



 ~~~~~~~~~~~



 気付いた。

 皆は?ボスは?アルファは?シャマルは?

 ここは?

 此処は?何処だ?


 身体が動かない。

 ゆっくりと周囲を窺う‥‥

 どうやらヴィトンの屋敷‥‥だと思う。

 客間のベッドに寝ているようだ‥‥そんな大した所では無いが(俺が言っちゃいけないが)運び込まれたみたいだな。どれくらい寝てたのか?どうなったのか?状況を知りたいが動けない。


 あれこれ考えてる間に誰かが来た。

 トゥミ‥‥


「あ!真悟人!?気付いた!?ちょっと待ってね」


 トゥミが部屋を出て行って、直ぐにサラとシャルがやって来た。


「真悟人、やっと気付いたね。いっときは危なかったんだから!」

「もう〜!あんまり無茶しないでよ!皆んなボロボロで、どうしようかと思ったよ!」


 そこにトゥミが戻って来た。

 手にはトレイがあり、食事を持って来てくれたみたいで、良い匂いがする。


「お腹空いてるでしょ?しばらく食べてないから、温かいおかゆだけど食べられる?」


 しばらく食べてない?‥‥

「俺は、どのくらい寝てたんだ?」


「もう3日になるかな?」


 そ、そんなに寝てたのか?

「み、皆んなは?無事なのか?アルファは?シャルは?‥‥オゥッ!!」


 起きようとしたら、身体の中から激痛が襲う。


「ほら〜!まだ寝てなきゃダメだよ!あちこちの骨が折れてたし、身体の中も傷付いてて、吐血も凄かったし、命あるのが奇跡的なんだからね!」


 そんな重傷だったのか!?

 あの時は大した事無いと思ったが、アドレナリンのお陰だったか‥‥


「み、皆んなは無事なのか?」


「そうね。無事だよ。アルファが危なかったけど、真悟人より、復活は早いね!さすが魔狼ってトコかな。」


 他に、死んだりした奴は居ないのか。

 せめてもの救いだな。

 誰か死んだりしたら、俺は俺を許せない。


「そうか、他に被害が無ければ良かった。」


 被害が無い訳じゃ無いが、なんて言って良いのか分からなかった。


「さあ、ご飯食べて体力回復しなきゃ!」


「そうだな。」

 手を出そうとしたが思うように動かない。

 サラが頭を支えて、身体を起こしてくれたが、自分の身体じゃないみたいだ。

 動く度に呻き声を出してしまう。


 トゥミに、ア〜ン!とされて、気恥ずかしいが素直に食べた。

 腹は減ってる筈なのに、大して食えずに腹一杯になってしまい、食ったらまた眠り込んだ。


 翌日は、裸に剥かれて全身をお湯で拭かれた。

 コレも恥ずかしかったが、素直に従ってかなりスッキリした。

 問題はトイレである。

 自然の摂理で、食えば出る。

 意識無い間は、オムツの様な物を付けられて、知らずに済んだが、現在では意識ある上にトイレを知らせないとならない。


 ‥‥‥これはかなり凹んだ。

 看護師さんなどの他人ではなく、自分の嫁さんに頼むのは羞恥の極みである。


 その暖かい眼が、俺の顔を火照らせる。

 早く動ける様になりたい‥‥‥



 羞恥プレイも一週間位で脱出して、自分で歩ける様になった。


 その頃に、ボスとワフワンが来て、奴等のその後を教えてくれた。


 新しく傘下に入ったのは、最初に分けた、非道な行いをしなかった者達。彼等は牙猿の掟通り、従順に群れに加わった。


 リーダーだった奴は、牙猿の間でも卑怯な行いをしたとして、見せしめに放置。

 動けないまま、こないだ死んだそうだ。


 他の幹部?連中は、ボス達群れの上位の者で相手をしてやったが、タイマンだと、上位どころか中位の者で倒せた。

 やはり、卑怯な行いが染み付いていて、牙猿の掟的に許せない。残り全員葬って、牙と毛皮は保管してあると‥‥ボスって俺より容赦なく無いか?


 ワフワン曰く、俺のお陰で優しい方だと。

 もっと弱肉強食は厳しいとの事だ。怖いね。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 アルファは復活した。

 シャマルも大きな怪我も無く、少し静養して身体は元気になった。

 ただ、今回の事件は自分のせいだと気に病んでいて、それで復活出来ないでいる。


 アルファはアルファで、主人に牙を剥いた。

 更に、護るべき姫を殺されかけた上に、牙を剥いてしまった主人に助けられて主人も殺されかけた。


 もう顔向け出来ないと、こちらも病んでいる。

 それを聞いた真悟人は、

「メンドクセェ奴だなぁ‥‥ゴメンなさいって言えば良いじゃねぇか?」


「それが中々言えないから病んでるんでしょ?」


「それもそうか。」

 シャルに言われて、最初にアルファに会いに行った。


「‥‥‥‥‥」

 無言でアルファの前に立つ。

 面白いくらいに動揺するアルファ。


「‥‥‥‥‥」

 無言のままアルファの尻を引っ叩いてやった。

「キャン!」

 不意を突かれて思わず可愛い声を出す。

 笑いそうになったが、グッと堪えた。


「ゴメンなさいは?」


「う?‥‥」


「ゴメンなさいだろ?」


「うっ‥‥ご、ごめんなさい‥‥」

 顔は真っ赤である。


「最初からそう言えば良いんだよ!」

 ひっくり返してワシャワシャしてやったら。

「あひゃひゃひゃひゃ!」と変な声を出していた。


「さて、シャマルのトコ行くぞ。」

 シャマルには俺が謝らないとな。


 シャマルの部屋に声を掛けて入った。

 彼女はベッドの上で外を見ていたが、入ってきた俺とアルファを見て‥‥

「ごめんなさい。‥‥ごめんなさい。私のせいで‥‥」


 泣き出した。


 ゆっくり近づいて、そっと抱き締めた。

 ビックリした様だが、嫌がりはしなかった。


「シャマル。」

 声を掛けたらビクッとしている。

「シャマル。お前のせいじゃない。俺の方こそゴメンなさいだ。」


 シャマルは首を振りながら、「わ、私が、私が悪いの‥‥」

 抱き締めたまま、ゆっくりと膝を付いて視線を合わせた。


「そうじゃない。シャマルのせいじゃない。俺がちゃんと考えなかったからだ。俺がちゃんと話をしなかったからだ。」

 シャマルは俯いてフルフルと首を振っている。


「俺は、シャマルがまだ子供と思っていたんだ。ちゃんと女性として扱っていなかったんだ。だから、アルファが怒ったんだよ。」

 シャマルはまだ俯いている。


「シャマル、聞いて。お前もアルファも悪くない。あそこで行き違いになったのは、俺がちゃんと話をしなかったからだ。牙猿の別の群れと遭遇したのも、俺は忠告されてたんだ。秋になると別の群れが来るかも知れないと。‥‥俺は皆に警告するべきだったんだ。それを怠って遭遇してしまったんだよ。‥‥もう一つある。俺は思い上がってた。自惚れてたんだよ。上手くやれるって思ってた。‥‥‥とんでもなかった。皆を殺されかけた。自分もヤバかった。俺の思い上がりの代償に皆を危険に晒したんだ。」


 シャマルもアルファも目を丸くして聞いていた。

「だから、決してシャマルのせいでもないし、誰のせいでもない。俺の思い上がりが招いた事なんだ。だから、俺が、ごめんなさい。‥‥」

 ちゃんと頭を下げる。


 シャマルは俺の首に手を回して、首を振る。

「真悟人は思い上がって何かいない。いつでも皆を助けてくれて、考えてくれてた。私が我が儘言ったの。真悟人にもっと構って欲しいって。だから、罰が当たったの。皆にも巻き込んじゃったの。だから私は‥私は‥‥ぅぅぇぇ~ぇん、えぇぇ~~ん」


 泣き出したシャマルを抱き締めて頭を撫でながら、

「大丈夫。もう大丈夫。シャマルのせいじゃない。ごめんな。」


 シャマルが落ち着くまで、そのまま頭を撫でていた。

 アルファは後ろでジッとお座りしている。

 落ち着いてきたシャマルの涙を拭いてやり、

「シャマル。俺たちが仲良くすれば、もうこんな事は起きないよ。だから、これからはもっと仲良しになろう。な?」


 シャマルは顔を上げて、頷いた。

 ちょっと、はにかみ乍らもう一度頷いた。

「よし。アルファもそれでいいな?」


 突然振られて、アワアワしながら「わぅ!」と返事した。


 じゃあ、ちゃんと元気にならなきゃな!

 俺も、シャマルも、ついでにアルファも!

「主、ついではヒドイ!」

 やっと、笑顔を見せてくれた。


 俺の思い上がりで大変な事になる所だった。

 もっとしっかりしないとイケないね。・・・






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