第69話 ゲラルディーニとロンシャン
さて、アーサー・マウントフジの屋敷の地下牢に降りて来た。
地下牢と言っても、所謂牢屋では無く、監禁部屋という感じかな。
一応、貴族なのと、血縁と言う事もあって考慮したのかも知れない。
最初はロンシャンの部屋へ行く。
扉は格子になっていて、ロンシャンはベットに横になっていた。
俺が入って行くと、
「なんだ?貴様は?英雄気取りの反逆者か?誰に断って此処に来た?」
「・・・・・・・」
黙って見下ろす俺を見て、更に逆上する。
「だいたい貴様が叔父上に要らぬ入れ知恵をしたのだろう!叔父上を騙すとは言語道断!この冤罪が晴れた暁には、貴様の首など無いと思え!‥‥‥」
聞くに堪えない罵倒が続く。終いには、自分達の境遇の経緯は俺のせい!と迄言い出す始末で、あぁコイツの更生は望めないなぁ。と思う。
彼らの経緯はアーサーから聞いた。
元々マウントフジ家は辺境伯家で名を馳せていた。
魔物たちに対して、人間の生活圏を守っていたのだ。
その辺境伯家に長男が生まれた。
皆喜んだ!跡取りが生まれた訳だ。
これでマウントフジ家も安泰だと誰もが思った。
ただ、長男は身体が弱かった。
何かと熱を出したり、ケガをしたりと、皆が心配した。
長男が3歳の時の次男が生まれた。
今度も男の子!これで絶対に辺境伯家は安泰であろう!と誰もが思った。
長男は、次男を可愛いとは思わなかった。
所詮は自分が何かあった時の代役に過ぎない。
だから、居なくても良いもんと思っていた。
物心が付いて来ると、次男は色々な才能を発揮し始めた。
読み書き、計算、何でも長男の時より卒なくこなす。
周りの関心は次男に向いて行った。
その状況が長男は非常に面白くない。
自分自身が努力すると言う事を怠り、次男の邪魔をする。
家臣にも長男派と次男派が出来た。
両親はこれを見て、危機感を募らせた。
基本的に貴族の爵位は長男に継承される。
しかし、現状の長男の行いは些か目に余るものが有る。
長男を呼んで、次男に対する行動の真意を質した。
「あの男は、事あるごとに私と対抗して、自分が優位にある様に振舞います。私は兄の立場からその様な行動は慎むべきと正しているのです。父上、母上にはお見苦しい点もあるかと思いますが、彼を正しい道に進ませるべく、長い目で見守って頂きたいと思っています。」
辺境伯夫妻は次男も呼んだ。
そして、現状をどう思うか質した。
「私には叛意はございません。マウントフジ辺境伯家は、長男が継ぐべき家であり、私は外に出るための実力を養っているに過ぎません。もし私の存在が邪魔だと言われる方々が居られるのでしたら、街に卸して頂いても構いません。」
これには両親も考えてしまった。
どう考えても次男に理がある。
もう少し、もう少し、‥‥せめて成人するまでは見守る事にした。
この頃から長男は、悪い友達と問題を起こすようになった。
一緒に問題を起こして、囚われる者が5人、10人じゃ利かなくなった。
自分は何をしても許されると思ってしまったのかも知れない。
街の女性に乱暴を働いたりして、両親は火消しに奔走した。
反対に次男は、一切係わらず黙々と文武両道に努めていた。
もう長男は廃嫡をするしかないと考え出した頃に、長男は侯爵家の娘に手を出した。それも一人娘!これにはさすがに周囲も騒然となったが、長男を婿養子として差し出せば、娘の名誉も守られて丸く収まるとの打診があった。
もともと廃嫡を考えていたくらいだから、この提案に飛びついた。
長男は不満を言っていたが、余りにも目に余る言動に廃嫡されて全ての権利を失うか、大人しく侯爵家に婿養子入りするか、選ばせてやった。
しぶしぶだが、婿養子入りして大人しく暮らすよう周りに監視の目を敷いた。
しかし、大人しく出来なかった彼は、街の娘を囲い込んで二人も子を成した。
さすがにブチ切れた侯爵家は、彼から一切の実権を取り上げ、名ばかりの侯爵跡取りとなった。
平民生まれの兄弟は、何の愛情を知らぬままに育てられ、生かされただけの貴族の庶子となり、最低限の教育だけ施されて育った。
侯爵の当主はこの時の心労から病に伏せ、しかし絶対に跡取りの男には実権を与えてはならぬと息を引き取った。
晴れて侯爵当主となった長男だが、一切の実権は剥奪され、籠の鳥となり、嫁の顔色を伺う生活になった。元々そんな生活だったのだが、彼には自覚が無かった。
当然、夫婦関係は無く、子供は出来ないので、親類から養子を貰い、決して侯爵当主(長男)には合わせてはならぬ中、厳格に育てられ次代の跡取りとして教育されていた。
しかし、仮にも実子だが庶子である男の子が二人も居ると今後災いの種になる。
そこで既に辺境伯当主になっていたアーサーに押し付けられた。
ここからまたアーサーの苦悩が始まり現在に至る。
この話を聞いて、真悟人は溜息しか出なかった。
どんだけ甘やかしたのか?
きっと更生はもう無理であろう。
だったら出来る事をやらすしかない。
罵倒を続けるロンシャンの意識を刈り取って置いておく。
次はゲラルディーニの部屋に行く。
扉を開けたら、彼は跪いた。
「お待ちしていました。我が主人として仕えさせて頂きます。」
「ほう。俺が誰だか分かるのか?」
「はい。牙猿と魔狼を従える男。神田真悟人様とお見受けします。」
「ああ。それじゃ俺が来た理由も分かるか?」
「はい。先ほどから我が愚弟、ロンシャンの罵倒が聞こえていました。察するに我々の裁きが決まったものと思われます。今さら悪あがきは行ないません。煮るなり焼くなり、お好きになさって下さい。その裁き、甘んじて受け入れます。」
「そうか。それではその命、貰い受ける。やって貰いたい仕事があるので、黙って付いて来てくれ。」
「畏まりました。」
真悟人は内心、感心していた。
何か企んでいるとしても、中々跪けるものではない。
この態度が本物であれば、未来展望も開けるだろう。
まぁ、しばらく様子を見て、それから処遇を考えようか。
俺の後ろにゲラルディーニが付いて来る。
その後ろをボスがロンシャンを抱えて付いて来る。
アーサー辺境伯の元に行く。
「アーサー。二人を貰い受けた。」
「うむ。ゲラルディーニ。お前の知恵は、これからは真悟人の役に立ててくれ。」
「はい。叔父上。今後、私ゲラルディーニは真悟人様の元、身を粉にして働く所存です。叔父上には大変なご迷惑をお掛けしました。この命を以てしても償いきれる物ではございません。しかし、今一度、温情を頂きました。今度こそご期待に沿うべく精進いたします。真に申し訳在りませんでした。」
そう言ってゲラルディーニはアーサーに跪き頭を下げる。
アーサーは少し涙ぐんで、黙って頷いている。
「真悟人、頼んだ。」
「ああ。頼まれた。‥‥よし、行こうか?」
ゲラルディーニは立ち上がり、アーサーに再度頭を下げて、
「はい。」と、言った。
街の外に出てからトゥミに会わせた。
「妻のトゥミだ。」
自然と跪き、トゥミにもきちんと挨拶をした。
「ゲラルディーニと申します。真悟人様の温情のお陰でこの命を以てお仕えする事になりました。奥様にもどうか宜しくお願い致します。」
ここで、ゲラルディーニからお願いがあった。
希望を叶えられるかは別にして、何でも言って見ろ!と、言ってはいたが、
彼のお願いは予想と違った。
「弟のロンシャンは状況を把握できておりません。気が付いたらきっと真悟人様に失礼な暴言を吐きます。寛大な心でお許し下さいとは申しません。滅する時は、どうか苦しまぬようにお願いします。私の教育の至らなさが招いた物です。私の傲慢な心を写した者として、彼は苦しまぬように。その分、私に苦しみを与えて下さい。」
さすがに動揺した。弟は苦しまぬ様に逝かせて欲しい。その分、自分には苦しみを?‥‥どう答えろと?」
「分かった。‥‥弟が苦しむ事がお前の苦しみであるなら、ロンシャンには精々苦しんで貰おう。それが嫌なら互いに苦しまぬように、ゲラルディーニ!お前が教育しろ!」
ゲラルディーニは驚きの眼を見開いて、ゆっくりと頭を下げた。
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