第68話 聖剣エクスカリバー

「『剣』!」

 真悟人の右に、刀身を上に向けた『剣』が出現した。


「こ、これは!・・・・・」


「ん? どうかしたのか?」


「これは、どうやって手に入れたものだ?」


「ん~? 呼んだら来たんだ。」


「はい?」


 事実、真悟人がこの世界に来て、最初に『道具』に認められた。

 その際に、出し入れを実験してたら『剣』がやってきた。

 これを、どうやって説明したものか?


「そのまんまだよ。呼んだら来てくれたんだ。」

 細かい説明は端折った。説明は諦めたとも言う。


「エクスカリバー。」


「ん?なんだ?」


「それは、聖剣エクスカリバーだぞ!」


「ほぅ!伝説の聖剣って奴か?‥‥『剣』お前って聖剣なの?」


『剣』は照れたように左右にクネクネと揺れた後、今更気付いたの?と言いたげだったが、しょうがないねと言う様に真悟人の右の定位置に着いた。


「なんか、そうみたいだな。‥‥聖剣伝説はお前と関係あんの?」


 アーサーはその様子を見ていて、がっくりと項垂れた。

 実は、聖剣エクスカリバーは祖先から受け継いだ物であり、その経緯は不明だが、マウントフジ家の家宝になっていた。

 しかし、聖剣を受け継いだは良いが、誰も鞘から抜けない。

 マウントフジ家でも、更に王家でも、使える者は居ないか?散々探したのである。


 そのうち余りにも誰も抜けないので、これはきっと偽物で、鞘と一体で作られていると揶揄されていた。


 屋敷が出来た当初は、正面に堂々と飾られていたのだが、その内に地下の倉庫の壁に飾られるようになってしまった。

 もしこの剣が、本物の聖剣エクスカリバーであるなら、あの倉庫の壁には鞘しかない事になる。


「バルバータス!」


「お呼びでしょうか?旦那様。」


「地下の倉庫に行って、壁の聖剣を確認してくれ。あ!持って来てくれ!」

 バルバータスは訝しげにしながら部屋を出て行った。


「おい!、アーサー!聞いてるか?」


「あ、ああ、スマン。今確かめてみるからな。」


「そんな事じゃ無くて、あ、そんな事か。」


 アーサーは経緯を説明した。

 そして、この『剣』が本当に聖剣エクスカリバーであるなら、この家には鞘が残っているはずだ。


 そして、バルバータスは布に巻いた剣らしきものを持って来た。


 それは、剣の鞘だった。

「旦那様。壁には鞘しか残されておりませんでした。一体どういう事でしょう?」


 アーサーは鞘を持ち、

「ここに帰って来てくれるか?」『剣』に問うた。

『剣』は動かない。ピクリともしなかった。

「やはりか‥‥真悟人。これを。」


 アーサーから鞘を受け取り、腰の左に佩いた。

「『剣』!来るか?」

『剣』は喜びを表すように、クルルルン♪と横回転すると、真悟人の腰の鞘に収まった。久しぶりにホッとするような『剣』の意識が流れて来る。

 それと一緒に鞘の意識の様な物も加わり、ホワホワと光った。

 やはり、互いが居てこそなのだな。


 アーサーはそれを見て確信した。

 聖剣は人を選ぶと言うが、本当にそのようだ。

「真悟人。聖剣はお前を選んだ様だ。大事にしてやってくれ。」


「ああ。今まで『剣』と一緒にやって来たんだ。俺にとって聖剣とか、そういう事は大事じゃない。こいつが、『剣』が良いんだよ。」

 それを聞いて、『剣』が揺れた。同時に鞘がまたホワホワと光った。

「なんだか、喜んでくれてるみたいだぞ。」


「そうか、本当の聖剣は意思の疎通が出来ると言う伝説は本当なのだな。」


「俺は、剣は『剣』《こいつ》しか知らないんだ。他の剣は使えないからな。」


「そうなのか?剣以外は使えないのか?」


「ああ、そういう意味じゃ‥‥見せた方が早いな。」


『根切鋤』!手許に鋼の棒状で先端に刃物付いた物が登場する。

『造林鎌』!長柄の鎌が登場する。


 アーサーは目の前の光景が信じられなかった。

 聖剣を従えてただけでも驚愕に値するのに、次々と武器を変えて見せる。

 こ、この男には逆らってはイケないと。改めて本能的に思い知らされる。

 今は味方だから良いが、ちゃんと話をしないと大変な事になる。

「真悟人。分かった。仕舞って置いてくれ。」


「ああ。」


「それじゃあ、話を戻そうか。寄り道が多くて済まなかった。」


「構わんよ。『剣』の鞘も見つかったし。」


 ふっと笑ってしまう。人間は所有したがるが、きっと真悟人は『剣』も仲間として、自分の意思で付いて来てくれてる。と、思っているのだろう。

 だからこそ『剣』は付き従っているのだな。


「では、この望遠鏡だが、これは王家の物で間違いない。これを使用できるのは、中でも最上級の影部隊の筈だ。残念ながら私も詳しい事は分からない。」


「ふ~ん。その影部隊が覗いてて何か問題は生じるか?」


「最初は我が領の調査だったろう。奴らのやった事がやった事だけにな。そこから、真悟人の話に繋がって、交易内容と実力の調査だろう。牙猿と魔狼を従えた男なんて話だけでは、眉唾もんだからな。」


「それで見られても大した事無いんじゃないか?話し通りでした!ちゃんちゃんってね。」


「そんな簡単に行く訳無いだろ。騒乱の時に商人と取引した塩や砂糖がどうなったか知ってるか?」


「さぁ?流通の先は詳しくないんでね。」


「まったく‥‥少しは先々警戒しとけ。 あの品物は全て王家が買い上げた。あれ程の品質の物を大量に持ち込める!そりゃ王家も警戒するさ。なんせ砂糖と塩は、王家の専売だからな。」

 アーサーはニヤリと笑う。

 王家専売品を、横から高品質で掻っ攫う。王家の経済に喧嘩売ってる様なもんだからだが、その慌てふためき振りを想像して可笑しくなってしまった。


「ありゃ~!今回も塩、砂糖、香辛料と大量に流してしまったぞ?」


「自由取引が許されていない訳じゃ無い。ただ塩、砂糖、香辛料となると流通経路がしっかり分かってるから、王家が取り仕切ってたんだ。莫大な税金を乗っけてな。それが、出所不明の高品質な塩が出回って見ろ!税金も掛かって無いから安価に取引されて市場に出回る。誰も王家の塩なんて買わないぞ。」


「そういう事か‥‥俺は兎も角、商人たちは大丈夫かな?」


「基本的には大丈夫だろう。良い物を安く売るのが商人のモットーだし、それを罰したら流通は滞るからな。それに卸したのもトリネコの所だろう?禁制品を扱う、ヤバい所と違って、信用を築いて来てるからな。」


「お?良く知ってるな。」


「まあな。ちゃんと報告がきてるぞ。真悟人の指名したジャニ達を取り込んで使ってるってな。あそこは商人にしては珍しく正直な商売を心がけててな。最近になって頭角を現して来たんだ。街の者に認められた証だな。」


 認められた証。それを聞いて思うところがあった。

 ボス達やトゥミ達に、最初に『道具』達に認められて、今の自分がある。

 そうやって皆、成長するのかも知れない。


「それでは、この先王家はちょっかい出して来るか?」


「来るだろうな。先ずはマウントフジの騒乱を静めた者として、王都に召喚されるだろう。その際に、抱え込みに入るか?従わせるか?は分からん。」


 取引の話はそこまでにして、今回の目的に入る。

「俺、今回はゲラルディーニとロンシャン兄弟を引き取りに来たんだよね。もう連れて帰って良いかな?」


「あいつらは、あの後も騒ぎを起こそうとしおって!もう、早く連れて行って欲しかったんだ。」

 アーサーは苦虫を噛み潰したような、憎々し気な表情で訴える。


「今度は何を仕出かした?」


「家の兄上。侯爵家だがな、そこに手紙を出そうとしてた。全て仕組まれたことで、私とリアムが共謀して騒乱を起こしたのに、全て自分たちのせいにされていると。話を捏造して手紙で助けを乞おうとしてた。マウントフジとオダーラが共謀して騒乱となると王家に対する反逆と取られる。危うく差し止める事が出来たが、それが流れたら街の者まで皆殺しだ!あいつらは事の重大性をまったく認識しておらん。」


「危ない所だったな。それであいつらは今は何処に?」


「オダーラからこの屋敷の地下牢に移したばかりだ。真悟人がこちらに来てくれて幸いだったな。」


「それじゃ、引き取って帰るかな。帰りがけにオダーラに寄って引き取る心算だったから、手間が省けて良かった。」


「もう帰るか?1日位ゆっくりして行けないのか?」


「いや、帰って人魚さんの所にも行かなきゃイケないし、あいつらも居るからな。」


「あいつらはどうするんだ?」


「人魚さんへの貢ぎ物」


「ブフォッ!!ゲホッゲホッ!」


「おいおい!2回目だぞ!」

 再び、メイド部隊登場。手際よく片付けて紅茶を入れ直していく。

 このメイド部隊、欲しいかも。


「そ、そうか。あいつ等に相応しい最後だな。」


「勘違いすんなよ?殺されたりしないから。命は保証してやるよ。」


「そうなのか?人魚に関わると大抵は殺されてしまうのだが。」


「それは大丈夫だ。あ!それと望遠鏡な。処分頼むわ」


「ああ、真悟人から返してもプライドから受け取らないだろうからな。」


 その後は、地下に降りてゲラルディーニとロンシャン兄弟を回収して帰ろう。


 色んな情報と謎が解けてスッキリはしたが、王家はメンドクサイので関わり合いたくはないなぁと憂鬱の種が残った。




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