第67話 再度、辺境伯
角熊をアイテムBOXに格納して、里に戻る。
街に向かう準備をしなければ。
まぁ、準備と言っても何も無いのだが‥‥
商隊がオダーラに着くのは三日後。
俺らは明日には着くだろう。
先に行っても良い物だろうか?何となく気まずい感じがするので、三日後に出発して商隊が到着した翌日位に着くのが良いかも知れない。
トゥミやヴィトンと、そんな相談をしていたら、ボスが変わった物を持って来た。
「主、角熊を狩った日、商隊の北側でコレを構えている奴が居たそうです。イエローが持ってきました。」
「コレは‥‥‥」
「真悟人?それなぁに?武器?初めて見るけど。」
「ヴィトンは知っているか?」
黙って首を横に振る。
「初めて見るモノじゃの。」
「これはな、望遠鏡って言うんだ。」
「「ボウエンキョウ??」」
ヴィトンがハッとした顔になって、
「それは、もしかして遠くが見える代物じゃないか?」
「お!知ってたか?いいか?こうやって覗いて見るんだ。」
片目をつぶり、片目で筒の細い側の穴を覗く。
そして、筒の太い方を前後に動かして見る。
レンズの出来が今一つなので、鮮明に見える訳ではないが、まぁ見えない事は無い程度に見る事は出来る。
説明をしてそれぞれに覗かせて見る。
「わ!わ!スゴイ!遠くが見える!」
トゥミは大喜びである。
実は真悟人も持っている。
リュックを出して、そこから双眼鏡を取り出す。
オートフォーカスで生活防水、軽量コンパクトな素人(俺)向き双眼鏡。
これにはヴィトンもビックリ!
「なんてことじゃ!遠くがこんなにハッキリ見えるとは!それも両の目で見える。なんと素晴らしい!」
ヴィトンにしては、大絶賛である。
「お爺ちゃん見せて~!」
覗いてる途中で、トゥミにひょいと取られてしまった!
「こりゃ!トゥミ!見てる途中で何するんじゃ!
ヴィトンさんお怒りです。
「わーお!!さっきより全然スゴイ!ね~!クッキリ!ハッキリ!」
そう言って、ぐるっとヴィトンが見ていた方向を見ると‥‥
「お爺ちゃん?さっき何を見てたかなぁ?」
「何?って、と、鳥じゃ!鳥を見てたんじゃ!」
「へ~!鳥さんの水浴びですか~!?」
「水浴び?」
どうやら、先の泉で娘さんたちが水浴びをしていた様だ。
トゥミに散々攻められたヴィトンは、話題を変えるべく、
「と、とにかくコレを使って、誰が覗いてたか?じゃな。」
「う~ん、辺境伯関係とかも今さら薄い気もするが、高価な物だろうから、やはり貴族だろうな。」
「うむ。これは王家の間者だろうな。」
「王家!?」
「辺境伯の領地の事とは言え、クーデターじみた騒乱が起きたんじゃ。王家が調査に乗り出しても可笑しくないじゃろ。」
「また、メンドクサイなぁ。」
「それに真悟人の出す交易品は、王家も喉から手が出る程欲しいじゃろう。このまま大人しくしてるとは思えんな。」
「そうか!それじゃ、先にマウントフジに行って辺境伯のアーサーと会ってからオダーラに行くか。時間的にも良いだろ。」
「それが良いかも知れんの。」
ボス!マウントフジへ行こう!
~~~~~~~~~~~~~~~
マウントフジには二日で着いた。
といっても街に入った訳では無く、滝の横に洞窟のある、前回隠れた場所である。
改めて来ると、非常に良い場所で、ちょくちょく来たくなるような避暑地的雰囲気のある場所である。
もう秋っぽくなってきて朝晩は冷えるが、洞窟でトゥミとくっ付いてるととても落ち着く。キノコはないが、それなりにハッスルしてしまった。
夕飯は、オオサンショウウオを試しに1匹獲って来て、塩焼きにしてみる。
これが中々美味い!鳥のささみの様な淡白で癖のない味で、唐揚げとかも美味しいと思う。
こいつが意外とワラワラと大量に居るので、デカいのだけ4、5匹獲ってアイテムBOXに格納しておいた。
~~~~~~~~~~~~~~~~
朝一番でマウントフジの街に入る。
メンドクサイから、ボス達もそのまま入る。
最初、門番が固まった。
それが伝染するように、こちらを見た人間が固まって行く。
門番に、「おはよう!」と言って門を潜る。
門番、再起動!「お、おはようございます。真悟人様!」
それを見た、街の人間が一斉に再起動した!
「おーー!!真悟人様が来られたぞ!」
「伝令!早く迎えを寄越せ。」
「真悟人様!ありがとうございます。おかげで娘は助かりました!」
「真悟人様!うちは息子が帰って来れました。」
「トゥミ様!握手してください。」
「トゥミ様!サイン下さい!」
「トゥミ様!チューして下さい!」「却下!」ベシッ!
「牙猿のボス様の活躍も聞きました!」
「牙猿と魔狼の方々が街の兵士をやっつけてくれたと息子から聞きました。」
「なんだ!?どうなってんだ!?」
突然の街の皆からの歓迎に動揺が隠せない。
さすがのボス達もたじたじになっている。
そこに馬車が来て、バルバータスが降りて来た。
「真悟人様方、お乗りください。」
バタバタと馬車に乗って行く。
馬車が動き出して、一息ついた。
ボス達は馬車に乗ると居心地が悪そうだ。
この状況をバルバータスに聞いて見る。
「これはどうなってんだ?」
バルバータスは笑いながら、
「真悟人様は今、時の人でしてね。街の英雄なんですよ。」
「は? 意味分からないんだが?」
「あの時、有志を連れてオダーラに向かって行きましたね。有志達は着いたら既に終わっていたと。そこで街の人から詳細を聞いた有志達は大興奮しましてね。俺たちはそんな凄い人に導かれて来たんだと!話の詳細を聞くうちにどんどん興奮が伝播しまして、それがこのマウントフジにも伝わって、この状況です。」
「それじゃ、辺境伯も悪者にされたんじゃないか?」
「それがですね、元々ロンシャンはこの街でかなり評判が悪かったんですよ。辺境伯も何度も諫めていたんですが、その様子を街の人も見てるんですね。だから、逆に辺境伯には同情が集まっています。」
「そういうことなんだ。アーサーってやはり根は悪い奴じゃ無かったんだね。性癖は兎も角‥‥」
バルバータスはそれを聞いて、
「真悟人様も人が悪い。あの3日間の後の辺境伯はツヤツヤのピカピカになってましたよ。」
「やはり、ガチな奴だったか‥‥あれ?バルバータスは入らなかったの?」
「とんでもない!私は全くの無実ですし。ちゃんと観察日記を付けさせて頂きました。」
「あの観察日記をつける方も地獄な気がするわ‥‥」
そんな会話をする内に、辺境伯の屋敷に着いた。
馬車から降りると、辺境伯のアーサー・マウントフジ自らが出迎えてくれた。
握手をして再会を喜ぶ。
「突然、訪問して済まないな。」
「大丈夫だ。真悟人なら何時でも歓迎だよ。」
「早速なんだが、ちょっと気になることが在ってね。」
「うむ。詳しい話は中でしよう。」
相変わらず豪華な屋敷だが、趣味の良い応接間に通されて。
香りの良い紅茶を出される。
メイドさんたちが下がった後に会話を始める。
「コレを見てくれ。」
望遠鏡を出す。
アーサーの顔が一気に引き締まった。
「これを、何処で?」
「先日、エルフの里に交易商人が来たんだ。商人たちの帰り道、障害を排除したんだが、その様子をこれで覗かれていたみたいだな。うちの者が威嚇したら、それを落して逃げたんだ。」
アーサーはふぅ~と息を吐きながら「障害とは?」と聞いて来る。
「角熊だよ。デカい奴。商隊と遭遇しそうだったんで排除したんだ。」
「角熊‥‥‥」 目を見開いて真悟人を見る。
そもそも、角熊とはそんな簡単に排除できる相手じゃない。
それこそ軍隊で、被害覚悟の戦いになる。
それをあっさりと排除するとは。
「どうやって倒したんだ?聞いても良いか?」
「ああ、隠す事じゃないよ。今回は『剣』で一突き。目ん玉から脳に突き刺してやった。」
ブーーーッ!吹き出した。折角の紅茶が台無しだ。
「おいおい!何やってんだよ!汚ぇなぁ!」
「あ、ああ、スマン!突拍子も無い事言い出すから。」
メイドさんが入ってきて、手早く片付けて新しい紅茶を入れてくれる。
さすがプロだね!手際がイイや。
「突拍子も無い事なんて言ってないぞ。見りゃ分かるが、出したら血の海になるからな。」
「角熊を一突きかよ‥‥‥」どんだけの手練れなんだ?
剣を持ってる姿なんて見た事無いが、そこまでの使い手なのか。
そりゃ、牙猿と魔狼を従えてる位だからな。
今更だが、私が思ってる以上に、この男は大物かも知れないな。
「剣を持ってる姿なんて見た事無かったが、どんな剣を使ってるんだ?」
「ん?『剣』を見たいのか?ここで出しても良いのか?」
「ああ。大丈夫だ。信用してるからな。」
「ふっ。そりゃありがとう。出すぞ?」
「ああ。良いぞ。」
「『剣』!」
真悟人の右に、刀身を上に向けた『剣』が出現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます