第65話 エルフの里で交易

 常識か。良く考えたら、この世界の常識なんて何も知らない。

 そりゃそうだろう。

 来て早々、牙猿との対決で落ち着く暇など無かった。

 トゥミに会ってからも、そんな認識をすることなく、思うままにやって来たので、言われないと分からない。

 と、言う事でこれからは行動に制約を付けられてしまった。

 要するに自分勝手な行動はするな!って事だね。


「サラ達が絶えず付いてる訳には行かないから、今までと変わらないんじゃ?」


「そうじゃなくて、自覚を持ってって事よ。真悟人は村長でしょ?」


「そうだね。分かったよ。」


 嫁3人のお説教が終わった所で、次のやるべき事を考える。

 ・オーク達の様子を見に行く。

 ・人魚さん達と交易しに行く。

 ・辺境伯の甥っ子兄弟を連れに行く。

 ・ゴロゴロする。


「ヨシ!決めた。ゴロゴロしよう。」


 トゥミにベシッと叩かれた。

 しょうがない、ロンシャンとゲラルディーニ兄弟を捕獲しに行こう。

 一応、犯罪者なのであまり放置は良く無いだろう。


 行く途中で、エルフの里に寄って交易品も置いて来よう。

 今回は、サラは放牧場牛の赤ちゃんが生まれるのと、仕事が溜まっているので、留守番すると。

 シャルは牙猿の赤ちゃんが生まれたばかりなので、やはり留守番。

 トゥミとボス、ワフワンと牙狼戦隊といつものメンバーで向かう。


 まだ昼前だから、夕方にはエルフの里に着くだろう。

 交易品の在庫がどうか?無くなりはしないだろうが、少々心配である。

 ボスにおんぶ紐で縛って貰って、GO!


 エルフの里に到着したら‥‥‥


「なんだ?こりゃ?‥‥どうなってんだ?」


 里の周りに人間たちの馬車が何台もキャンプを張っている。

 唖然と眺めていたら、見た事のある顔を発見した。


「おーー!これは、これは、あの時の!お待ちしておりました。」


 思い出した!見た顔だと思ったら、オダーラの街で締め出されてた商人たちだ。


「あの時、取引して頂いた物がスゴイ値段になりまして。お礼がてら、もう一度取引出来ないかお願いに伺ったんです。改めて、ご挨拶が遅れまして、オダーラとマウントフジで商人を営んでおります。トリネコと申します。どうぞご贔屓に。」


「そうか。俺は、この更に奥にある牙狼村で村長をしている神田真悟人と言う。」

 頭の中には正義の算盤を振りかざす、髭で小太りのオジサンが浮かんでいた。

「そして、妻のトゥミだ。」

 トゥミは一歩下がった位置で挨拶をする。

「そして、護衛で仲間のボスとワフワンだ。」

 ボス達は顎を引く。


「神田真悟人様。トゥミ様。ボス様とワフワン様。どうかよろしくお願いします。」

「真悟人様、今回の英雄ぶりは有名ですよ。オダーラの街を開放した英雄。牙猿と魔狼を従えた男。街の皆が熱狂するほどに話が広がっています。」


「なんだそりゃ?話が大きくなってないか? しかし、この馬車の数はどうしたんだ?大丈夫か?」

 その話題からはメンドクサイので敢えて避ける。


「これはお恥ずかしい。こちらエルフの里まで来るには、中々命懸けなんです。そこで仲間に声を掛けたら、商品の内容を知ってる連中が食いついて来まして、こんな大所帯になってしまいました。」


 いつの間にか、気付いた商人たちが後ろで整列している。

 そちらに目を向けると、

「「「「よろしくお願いいたします。」」」」

「お、おぉ。こちらこそよろしく。」

「それで、周りでキャンプしてる理由は?」


「はい、実は先ほど到着したばかりで、長老にお目通りを願っている所です。中には宿なども無いと言う事で、周囲の比較的安全な場所で野営させて頂こうかと思いまして。」


「そうか。それは気付かなかったな。トゥミ、中には場所は無かったか?」

「そうね。長老に聞かないと何ともだけど、ギリギリ入れるか、も?」

「じゃあ、聞いて見ようか。トリネコさん、少々お待ち下さい。」


 門番に挨拶して、久しぶり!と言葉を交わす。

 商人たちは横柄な振る舞いは無かったか聞いて見るが、ちゃんと礼節を弁えた行動をしている様だ。

 それなら話を通しても大丈夫だろう。


 里の中に入って、場所の当りを付ける。トゥミに聞いても、その辺りなら大丈夫だと言ってくれた。

 ヴィトンの屋敷に行くと、丁度ヴィトン達が出てきた。


「おお!真悟人!お主、相変わらず良いタイミングで登場するのう!」


「主人公の出番のタイミングは計算されてんだよ。」


「相変わらず、話は薄っぺらいのう。」


「なんだぁ?ヴィトンに言われたくないぞ!」


「真悟人には言われたくないの!」


「うー!」「ヴー!」


 互いに睨み合う二人にプラダが一言。

「どっちも一緒ね。」


 トゥミとプラダとヘルメスで商人の事を相談している。

 オダーラの騒乱の時に締め出されてた商人で、真悟人と一度物々交換していると。

 その際に、エルフの里で直接取引にも応じると話している。

 真悟人の商品の品質が最高なので、再度取引したいとやって来た。

 里の隅の一角に商人用のキャンプ地を作ってそこでキャンプしてもらう。

 牙狼戦隊に警備を任せて、不届き者は殺処分と言う事にした。

 一旦、里に商品を卸すので、ここで取引してもらう様にしようと話は纏まった。


「儂らはいらん様じゃの?」

「ああ、商品さえ出せば良いみたいだ。」

「時代かの?」

「後で魚で一杯やろうぜ。」

「そうじゃの。」


 話が纏まったところで、長老を筆頭に商人の所へ向かう。

 トリネコとヴィトンが挨拶をして、先ほど取り決めた内容を守って貰う様に話をする。里の中に野営地を設けるが、牙狼戦隊が警備するので安心して欲しいと。逆に不届き者が居た場合は、殺処分とするので覚えていてください。


 商人たちを里の中に入れて、野営地に案内する。

 馬は簡易厩舎を準備して、水と牧草を振舞ってやる。

 商人たちの食事は、今回だけは初回なので俺が振舞ってやる。

 長老たちと商人たちと皆で今後の話をしながら食事をする。


 食事自体は、簡単な物。

 ポトフといつもの焼肉。

 それが、爆発的な反響を呼んだ!

「な、な、なんですか!?この肉の味付けは!?」

「初めて食う、この肉はなんだ?なんの肉だ!?」

 単なるカミソリウサギの肉ですが?

「なんと!!カミソリウサギはこれほどに美味い!!」

「こっちの肉と味付けは!?どうなってますか!?」

 単なる一角ボアと牙狼村秘伝のタレですね。

「い!い?一角ボア~~!?」

「そんなモンが食えるなんて!更にこの秘伝のタレがぁ!」


 商人もエルフ達も大騒ぎである!

 その中で静かに俺とトゥミとヴィトンは日本酒を交わしている。

 目ざとく見つけたプラダとヘルメス、さらにトリネコも加わって、

 それは何か?と、詰め寄って来る。

 牙狼村で研究中の最高級の酒!‥‥大嘘である。


 量が無いのでちょっとだけな?と言って、おちょこ一杯ずつ味見を頼む。

 皆、雷に打たれたように固まった!!

「「「うっっまぁぁあ~~~いい!!」」」


「あ!しー!しー!言っちゃダメだって!」

 3人は絶叫して美味さを吠える!

 皆に行き渡るには少ないから!と嘘言って価値を高める。

 実は、日本酒と言っても紙パックのお徳用だったりする。

 大量にあるのだが、まだ米を作って無いので少量出ししかしない。


 周りの商人やエルフ達も、この絶叫には食い付いた!

 しょうがないなぁ!と言う顔をして、全員におちょこ一杯ずつ飲んで貰う。


 酒に弱い人は兎も角、商人たちは大絶賛!!

 是非売って欲しいと来るが、何分量が無いと渋る。

 そこを何とか!とドンドン値段が吊り上がる。

 樽1個で金貨10枚‥‥‥100万円である。

 今回は樽3個だけ。

 次回は時期未定なので、どの位欲しいのか当りを付けてくれ。

 それによって仕込みを調整すると大嘘を並べて行く。

 実際は樽100個出しても、100万円でお釣りが来るのだが、俺しか入荷出来ないと言う事で勘弁して貰おう。


 他に焼肉のタレも欲しいと言う。

 これもかなり少量生産なので‥‥‥

 結局1ℓ瓶で1本金貨2枚‥‥‥20万円である。

 当然、酒なんかより全然高いが、使い方を説明してそれでもこの値段で元が取れると!ホントかよ!?と思うが、それほどインパクトあるそうだ。


 実は俺らが普段食っているカミソリウサギや一角ボアは、街では最高級の肉として滅多に食えるもんじゃ無いらしい。

 俺のアイテムBOXには大量に入ってるので、それらも時価として卸すことにした。




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