第64話 好きな奴と常識

 仕入れた品物も全て届いたし、指輪も受け取って来たし、向こうの世界に帰るかな。


「じゃあお祖母ちゃん、よろしくお願いします。」


「ああ、任しておきな。3割引いて移しといてやるよ。」


「頼むね!行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


 いつも通りに‥‥‥‥‥‥覚悟ヨシ!

 ・・・・・・・・・飛べ!・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ふぅ。」


「お帰りなさい。‥‥‥」


 トゥミ、サラ、シャルが居た。

「皆、帰って来るの良く分かったね?」


「先生が予想してくれたの。バタバタするだろうから、この位だろう?って」

「さすが、先生!いい読みだね。」


 サラと、シャルにチュッとするが、トゥミはなんか不貞腐れてる?


「トゥミはねぇ、一緒に行くって言ってたのに置いて行かれたって怒ってんだよ。」

 シャルが教えてくれた。


「だって、一緒に行くって、ババ様に会わせてくれるって約束したのに‥‥」

 トゥミの手を握って、

「ごめんな。今回は時間が無くて一人で行って来たんだ。ちゃんと時間のある時に一緒に連れて行くから、今回は許してくれる?」


「次は、絶対だよ!もう置いて行っちゃやだヨ!」


「うん。ごめんね。」

 ギュッとして、なんとか機嫌を直してくれた様だ。

 安易に行っちゃダメだよな。


 次はいつかな?と、指輪に飛べるかを聞いたら、

 ---転移レベルが上がっています。次に転移できるのは、2週間後です。---

 おお!!いつの間に!

 今回で4回目?だっけか。実は3回目くらいに転移レベルって奴は上がってたのか?

 何にしても、飛べる回数が増えたのは良い事だ!


 トゥミ達に留守の間の事を聞いて、何か変わった事とか、交易の事とか、村の事を聞いてたら、牙猿の赤ちゃんが更に生まれた事。

 牛の最初の赤ちゃんが、もうすぐ生まれそうな事、それと‥‥


 顔を見合わせて、言いづらそうにしている。

 シャルが口火を切ってくれた。

 ユナとカレンの様子が変わった。‥‥‥どう変わったかと言うと、


 あぁ、早速祖母ちゃんの言ったとおりだな。

 何か魔法を使ってんのかな?どんな魔法だ?人の心も思うがままかい?

 掌で転がされているようで居心地が悪い。


「ユナとカレンは、好きな奴でも出来たか?」


「「「!!!!!」」な、何故そう思うの?」


「何となくね。相手は?」


「あ、あのね、真悟人、彼らも悪気がある訳じゃ無くて‥‥」

「そ、そうそう!たまたま!そう、たまたまなのよ!」


「何がたまたま何だか分からんが?(タマタマを偶々握っちゃったのか?)」

 などと下らん事を考えながら、彼女たちの慌てぶりを見ていると、また俺がぶち切れるか家出するとでも思ってるのか?

 まぁ、その辺は自業自得なんだが‥‥


 しばらくは余計な事を言わずに様子を見てれば良いか。

 そんな真悟人の胸中を知らないトゥミ達はアワアワしていた。

 先ずは、トゥミ達に落ち着いて貰わないとな。


「落ち着け!大丈夫だよ。怒ったり、邪魔したりしないから。」

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 それより、倉庫にある程度格納するから、皆集めてくれる?」

「うん。」

「なんか真悟人、落ち着いてる?」

「雰囲気がちょっと大人っぽくなった?」


「はい?何も変わってないぞ。さぁ、奥さんたち?サッサと仕舞っちゃおうぜ。」

「「「はいっ」」」


 倉庫に行って関係責任者を集める。

 牙猿チームとエルフチーム。

 魔狼達は基本的に警備と防衛、狩りなので倉庫には係わりは無い。


「それじゃ、順番にパレットの上に出して行くから、仕訳と収納を頼むな。」

「それと、ビーフォとビーファイ。整理の方、頼む。」

「「了解です。」」


「まず、服飾関係。ワフワンと裁縫エルフ娘(やべ!名前覚えてないや)」

「もう!真悟人さん。ちゃんと名前憶えて下さいね!金髪がオフィ。銀髪がシルヴィ。赤髪がティーネです。お願いしますね!」

「うん。ごめんね。」



「次に食料関係。カレンとジーワン、後はグッチか。」

 妙な緊張感が走る。普通にしてりゃ良いのに。そんなに緊張すんなよ。

 口には出さないで黙って様子を伺う。


「真悟人?新しい食材や調味料もあるぞ?」

「お。さすがカレン!目ざといな。後でどんなもんなのかを説明するよ。

 あとグッチ?(ビクッとするのが伝わる。だからビクビクすんなっての。)」

「な、なんでしょう?」

「だいぶ料理も火魔法も上達したって聞いてるよ?今度、グッチの料理喰わしてくれな!」

「あ、は、はい。了解です。」

 周りの方がドキドキしてるよな?ちゃんと言ってあげた方が良いのかな?

 でも、先走っても困るだろうし。



「えーと、次が資材関係だから、あれ?資材関係は誰が見てた?」

「農場資材と一緒に私が見てました。」

「おぉ。ユナが見てくれてたか、ありがとな。後は、補佐に反乱軍ディオだっけ?」

「あ、はい。私が補佐をしています。」

 またここでも緊張してるなぁ!?喋るのも初めてだし、しょうがないか。


「今回は、増築や新築を考えてるんで、その分の資材も色々用意したんだ。ちょっと種類多いけど、仕訳頼むな。」

「はい。了解しました。お任せください。」

 おお!イイ男じゃないの!こんな爽やかに来られたら俺でも惚れるわ。


「??どうしました?」

「お?ごめんごめん。建築の事ちょっと考えててね。」

「そうでしたか。」

「今後も色々頼むよ。」

「はい。分かりました。」

 グッチもこんくらいシャンとしとけってね。



 周囲の緊張を他所に仕訳は続けられる。

「後は、牧場関係と産院、幼稚園関係だな。」


「???さんいん?ようちえん???」


「ああ、ゴメンな。子供を産む所を、お産をする病院って事で産院。

 生まれた子供達を育てるのを纏めて手助けするのが保育園。

 んで、更に子供達を纏めて教育するのを幼稚園と言うんだよ。」


「「「「「あぁ~~!なるほど!!」」」」」


「産むのは女の仕事だが、育てるのは皆の仕事だからね。産んだ後の、女の悩みは女同士で相談、育てる事、教える事は皆で相談。男の悩みは男同士で相談だな。」


「ん?子供を教育するトコじゃないの?」


「はい、カレンちゃん良い質問だね!黒糖をあげよう!」

「おおー!!」


「今、カレンが言ったように、基本は子供を教育するところだよ。でもね、お父さんお母さんがベテランさんなら良いよ?お父さんお母さんは子供と一緒に育って行くんだよ。子育てなんてね、分からない事山積みだから!お父さんお母さんと子供と一緒に乗り越えて行くもんだ。男の悩み、女の悩み、言えない事沢山あるだろうけど、此処で悩み解消して、子育てを皆で楽しもうってね。だから皆も協力お願いします。」


 何故か皆で拍手をしてくれた。

 なんか趣旨が変わってしまったが、そういう事なんです。


 倉庫で一通り物資を出してから、農場の状況を見た。

 一通り収穫は終わってるし、果物関係は俺が収穫するように残されている。

 果樹園に行って、収穫を繰り返す。

 種類ごとに収穫してアイテムBOXの中で仕分けをする。

 果物は傷みやすいから俺が収穫するのが一番なんだが、折角だから皆に食わしてあげたい。飯の時にデザートとして出す事を考えてたら、サラに釘を刺された。


「ねぇ、真悟人の事だから皆に果物食べさせて上げたいとか思ってない?」


「お?なんで分かるんだ?」


「もう~!果物1個幾らだか分かってんの?」


「は?」


「ほら~!分かって無いでしょ?トゥミもシャルもその常識外れを心配してるんだよ?」


「ええ!常識外れな行動なの?」


「思いっきりね!」


「マジか!?」


「真悟人の国じゃ果物なんて誰でも食べれる物かも知れない。でもココじゃ違うんだよ?超が付く高級品で、だからリンゴでエルフ全員が食べれたの。忘れてたでしょ?」


 あ‥‥‥忘れてた。最初リンゴで国を左右するような言われ方をして、まさかそんな事は無いと高を括ってた。

 俺の常識が通用しないことを忘れていた。俺の常識でイッパイ偉そうな事言っちゃったよ。


「あ~~。思考に沈むのは後にして欲しいかな。」


「あ!ごめん!つい。」


「ンとね、今まで私たちも言わなかったのが悪いんだけど、その直ぐに考えに浸るのは止めた方が良いよ?会話の途中に無言で考えられると‥‥相手に寄っては殺されちゃうよ?」


 あ‥‥一般常識からも外れてた。ビジネスマナーで言われてたじゃん!失礼になると。それを考えたらこの世界では殺されても可笑しくない訳だ。

「あ、ゴメン。‥‥」


「後はね、偶に皆の前で演説するけど、それもね私達だけなら良いよ?でもね、他の街行ってそれやったら、多分反逆罪。殺されるよ?」


 あ~~。俺って最低だった。

 調子に乗って、この世界の人間の常識も知らずに、自分の常識を振りかざしてました‥‥‥

 今、ここで俺の命があるのは、サラ達がフォローしてたのか!

 そんな事も知らずに‥‥嫁の数で悩むなんて最低野郎もいいとこだな。

 トゥミ、サラ、シャルに愛想付かされない様に、頑張ろう!


「ほら!また考えに入っちゃう!ダメだって!」


「!!早速出来てなかった‥‥」


「会話の途中で、返答も無しに黙って考えに入られちゃうと、何を考えてるのか他の人には分からないから。ちゃんと意思表示しないと他の人は良い方には取らないからね! それでね、皆で相談したの。真悟人の非常識を直そうって!」


「え?俺って、そんなに非常識?かな?」


「かなりね。真悟人の国じゃ常識でもここは違う国なんだよ?分かってくれないとその内、騙されるか殺されるか。」


「マジか。「マジです!ちゃんと分かって!」」


 もしかして俺って、日本でも出来てないから干されたのか?

 改めて自分のダメさ加減を身に染みる事になった。


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