第60話 開放

 辺境伯の罵倒は続く。

 いい加減にイラついてきたので、殴って止めさせた。


「聞くに堪えない。いい加減にしろ。」

 辺境伯は、殴られた頬を押えながら赤い顔して睨んでいる。


 それを無視して、捕縛された貴族たちの元に向かう。

「貴様!こんな真似をして、どういう心算だ!?」

「我々にこんな事をして、それなりの覚悟があるのだろうな?」

「街の兵士と反逆者の区別も付かんのか!?」


 言いたい放題である。

 一番偉そうで、口も達者で、華美な格好をした若い男。

「辺境伯の甥っ子で、ロンシャンの兄のゲラルディーニだな?」


「なんだ?貴様は?気安く口を利くな。」

『根切鋤』で横っ面を叩いてやった。歯が何本か飛んで行ったようだが、知ったこっちゃない。

「余計な口を利くな。質問に答えろ。」

「き、貴様!私に対して‥‥ぐへっ」

 逆の横っ面も叩いてやった。

 今度は歯は飛ばなかった。‥‥ちっ!


 目配せして、辺境伯を連れて来させた。

「お前たちが共謀して、オダーラの代官の処刑を企んでたのは分かってんだ。

 辺境伯と言えども、自分の私利私欲で代官を殺すわけには行かないからなぁ。

 オダーラは昔からの豪族で、民から信頼の厚かった家系なんだろ?」


 代官の方を見たら、悔しそうに唇を噛んでいる。


「代官を失脚させようと、エルフの里の交易から搾取したり、税金を上げたのは、代官の側近に付いて悪巧みしてた、辺境伯の身内のゲラルディーニだろ?

 辺境伯と直取引の飛竜便は、如何にも真面な取引ですとアピールして、でも、ここでまたゲラルディーニが途中で抜くと。上手く考えたな?おい?」


 周囲では住民も大勢聞いていて、ざわめきが広がって行く。


「代官であるリアム・オダーラはこの状況を何とか打開しようと、最悪は独立してでも民の生活を守ろうと思った。これが、奴らの思う壺だったわけだ。

 クーデターを起こしたように見せかけて、逆らう者は皆殺し!街の者も、自分の息のかかった者で占めれば、オダーラの街は自由になる!更に!エルフの街から新しい交易品の話もある!だから急いだんだろう。

 お前さんの民を思う気持ちを逆手に取られたんだよ。」


 住民達から怒号が上がる!何故もっと伝えてくれなかったのかと。

 もっと住民にも頼って欲しかったと!悔しい気持ちは皆、一緒だと!

 辺境伯達には、殺してやるだの物騒なヤジが飛ぶ。誰が操作してるのか?誰の指示でやってるのか?このままじゃゲラルディーニとロンシャンは殺されるかも?


「住民の声やその辺りもゲラルディーニが操作したんじゃないか?

 なんせ、エルフの里でも奴の甘言に乗って、身を滅ぼした奴も居るんだ。

 まぁ、全て辺境伯の指示の元だろうがな?

 そんで、辺境伯?あんたはどうするつもりなんだ?」



 呆気に取られて話を聞いていた辺境伯は、突然話を振られて動揺を隠せない。


「わ、私は知らない!まったく感知していない。‥‥‥」


「叔父上!!今さらそれは無いのじゃありませんか!?‥‥‥」

 ゲラルディーニはここで反論する。

 こうなると目上や目下などは関係ないようだ。

 身内同士の不毛な遣り取りを公衆の面前で繰り広げる。

 その様子に、住民たちも呆気に取られるばかりである。



 そんな彼らは取り敢えず放って置いて、リアム・オダーラさんの縄を解く。

「すいません。縛ってしまって。」


「いや、私の方こそ済まない。とても嫌な思いをさせた様だ。後ほど改めて謝罪をしよう。」

「いえ、それには及びませんが、今、この場で私たちの正当性を皆に伝えて頂ければ助かります。」

「そうか。そうだな。‥‥皆の者!聞いてくれ!

 今回は、私が至らないばかりに皆の者に迷惑をかけた!

 ここに、私の横に居るのは、私たちの街を救ってくれた英雄!

 牙猿と魔狼を従えた男! 牙狼村の村長、神田真悟人村長である。

 私はここで誓う!私、リアム・オダーラは、神田真悟人の永遠の親友であろうと思う!皆の者はその証人になってくれ!!」


「「「「「うおおぉぉーー!!」」」」」

 街の住民から歓声が上がった!!


「いやいやいや、ちょっと予想と違うんですが?」


「真悟人の親友も演説好き?」

 サラが戻ってきてそんな事を言う。


「いやいや、違うだろ!って、なんでそのネタをサラが知ってる??」


「ふふっ、真悟人の事は何でも知ってるよぉ♪キノコの事とかも?」


「えっ‥‥‥そ、それは、‥‥」


「うふふ。今度楽しみにしてるね♪」



 さて、兵士たちも選別されて、疑いの晴れた者は解放された。

 色々悪さに加担してたものは、街の人に寄って裁かれる。

 問題は貴族たちである。彼らは、ほぼ黒である。

 どうするか?直接裁けるのは王族のみと言う事なら、人に言えない様な裁きが良いか?‥‥‥ちょっと耳を貸せ!と、リアム・オダーラに提案する。


 今回の首謀者の貴族を、逃げられない部屋に軟禁する。

 当然、辺境伯も一緒である。従者たちも一緒。

 皆、一緒で良かったね~♪


 食事は、キノコ!

 そう、例のキノコである。男だけの部屋で、あのキノコ!

 3日間位それぞれの観察日記を付けて、写本を作り、1冊は本人にお持ち帰り頂く。ご丁寧に図解入りで、細かくプレイ内容を記載してある。

 中には目覚めた奴も居る様だが、公には言えないだろう。

 家宝として厳重に保管して欲しい物だ。


 そういえば、辺境伯の甥っ子。

 辺境伯って、兄弟居るの?‥‥姉が王族に嫁いでいるらしい。

 その子供なら、えらいこっちゃ!なのだが、侯爵の兄が居て、下働きだった庶民のメイドに手を付けて二人も産ませたそうだ。庶子だし、持て余してて押し付けられた感じ?辺境伯は何故か独り身だし、丁度良かったんだろう。

 兄弟で侯爵と辺境伯なんて、かなりやり手で賢い立ち回りが出来るようだ。


 よくよく話を聞いて見ると、エルフを欲しがったのはゲラルディーニ。

 街を欲しがったのはロンシャン。貴族として領地?が欲しかったのか?

 街を落すには、と、安易に話をしてしまったのが失敗だった。

 実行するとは思わなかったのと、リアム・オダーラとは反りが合わなかったので放置したと。今後は辺境伯として、オダーラの街の統治は真っ当に行うと約束してくれた。


 甥っ子二人は、特に愛情も無く甘やかして育てたおかげで、あんなになってしまったのかな?因みにキノコ部屋には入れていない。別の使い道があるからね。

 まだまだ若いので、俺にくれ!と辺境伯にお願いしたら、あっさりくれた。

 真悟人もそんな気が?ニヤリと、されたが、おいおい違うから!それにしても、いつの間にかあんたも随分フレンドリーになったな。


 つか、あんた目覚めたと言うより、元々そっちでしょ?だから独り身なんだよね?

 こらこら、太もも撫でるな!

 キノコプレイは、辺境伯にはご褒美だったようだ。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~


 閑話休題


 リアム・オダーラと今後の打ち合わせをする。


 商業ギルドは解体。

 新たに商人ギルドとして再編成を行う。

 商業全般を纏めると、利権が偏って悪い前例があるので、仕入れて売る商人と、生産者達、農家、漁師、薬、食物生産など、細かく分けて、それぞれルールを設ける。


 そうやって、流通の正常化を図って、品物が適正価格で取引出来るようにする。

 これで、一方的に搾取されることが無くなる事を期待する。


 エルフの里との交易もちゃんと見直して、適正価格で取引する。

 今迄の悪徳商人関係は、全員奴隷落ち。奴隷!?あったんだ~!


 今後、取引出来るリストを見せたら、吹き出していた!

 砂糖や香辛料に海産物~~~!!!!

 どういう事だと詰め寄られたが、企業秘密ですと突っぱねた。


 これが、この交易品が他領に広まれば、このオダーラは商人で溢れるだろう!

 それほどのインパクトがあるらしい。

 海産物の輸送には、氷魔法の使い手が同伴するから割高になるが、その分、大商隊にして大量に生モノを運ぶそうだ。

 んじゃ、角熊でも高く売れるか?と言って出したら、椅子から転げ落ちていた。

 大げさだなぁ‥‥と言ったら、俺が常識知らずなんだと‥‥解せぬ。



 実は、今回の騒動は、全てスライム先生が仕切って納めてくれている。

 オダーラの動向も、マウントフジの動向も、演説も、ある程度スライム先生監修の元に行っている。(暴走して支離滅裂なのは俺のせい)


 サラがワフワンと帰った後、スライム先生の命で、先にオダーラに潜入して制圧していた。それでも、あちこちで暴力は絶えなかったし、住民は命の危機を感じたと思う。ただ、女性に対するレイプや子供への虐待は、神経を尖らしてたので、ある程度は抑えられたと思う。実際には被害にあった人は少なからず居た様だが‥‥


 開放のタイミングは、俺のGO!が出てから。

 サラ達も心待ちにしてただろうが、住民たちはもっとだろう!

 突然、牙猿と魔狼が湧いて出て、住民を害していた兵士たちを捕縛していく。

 住民たちも牙猿と魔狼には恐怖だったろうが、狙われた兵士たちは半狂乱になって逃げまどっていたらしい。


 貴族たちは成す術も無く、あっという間に囚われて、リアム・オダーラの所には、

 サラ達が直接、説明しに来てくれたと。

 サラの最初の自己紹介が、俺の嫁のサラと言うのを聞いて、若干殺意を覚えたそうだ。 それは、うん、まぁ、分からないでも無い。


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