第58話 辺境伯
夜になった。
戦隊達は明日には来るか?それとも?決断しかねていた。
自分達だけでヴィトン達を救出するには、どうしても力押しになる。
殺すことに躊躇は無いが、仲間が殺されたくはない。
相手の数が数だけに、事故は付き物である。
「俺と、ボスだけで行って、攪乱してから突入?‥‥イヤイヤ、ヴィトンの居場所も状況も分からないのに、それは無謀だな‥‥」
情報が少なすぎる。相手の出方も分からない。早馬の事もサッパリである。
イライラと焦れてる所に、
「主!来ました!」
待ちに待った牙狼戦隊が到着した!
「お疲れさん!待ってたぞ。状況を教えてくれ!」
レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクの他に、見た事無い5人が居た。
それにはアルファが反応した!
「お前達!!いつ人化を覚えた!!」
どうやら、牙狼戦隊の魔狼の5頭らしい。
一緒に走って来たが、人化の練習も兼ねて来たそうだ。
彼らが望むので、ここで名前を付けてやった。
赤(アカ)、青(アオ)、黄色(キーロ)、緑(ミドリ)、桃(モモ)
レッド達と同じ意味を持つ名前だと言ったら、とても喜んでいた。
キーロとモモは女の子である。
その辺も一緒に合わせてるんだぁ!?知らなかったよ。
人化した姿は、牙猿達より一回り大きくケモミミである。
草原は乗せて走った方が速いが、森では別に走った方が速いんだそうだ。
思わずモモのケモミミと尻尾に見とれてしまった。
触りたい。モフモフしたい‥‥
ジト目で見られて、慌てて目を逸らした。(だって可愛かったんだよ)
彼らは、新しい戦闘服に身を包んでいる。
それは、日本で言えば忍者装束である。
真っ黒な忍者装束に、帯の色だけ各色の違いがある。
牙狼忍者部隊(月光)である。
忍者部隊は黒が基本!本当は帯も闇に溶けるために黒にする。
誰が誰だか分からないって?分からない様にするんだよ。
少しづつ教えてやる。
彼らはこの呼び名もかなり気に入っていて、忍者についての研究に余念がない。
女の子の忍者は”くのいち”と言う。と教えたら、テンション爆上がりであった。
「ようやく着いたね!」
「!!先生!!」
「ビックリしてくれて嬉しいよ。詳しい話は後にして、ヴィトンを連れて来ようか?」
「あ、はい。」
もう作戦は出来てるらしい。レッドに付いて行けば良いようになっていると。
辺りはすっかり暗くなり、本来なら虫の音くらいで静まっているだろうが、今夜は街の中が騒然としている。
各所に篝火が焚かれ、物々しい雰囲気なのはきっと自分達のせいだな!と思っていた。‥‥それが勘違いと気付くのは、まだ後の事である。
レッドを先頭に、ブルー、グリーンと俺とボスである。
ボスはレッド達の衣装が羨ましそうだ。
街の外壁沿いにグルっと周り、街から流れ出ている川に入る。
そこから街中に入って行くと、どうやら上水道に使っている川の様だ。
途中途中でスライムが居て、レッドに何か話している。
何度目かの分岐を過ぎて上に上がると、厨房に出た。
そこからヴィトンの部屋までは直ぐだった!
「ヴィトン!無事か!?」
「おぉ。真悟人か!?良く来たのう。」
「ん?なんか随分まったりとしてないか?」
「そりゃ、そうじゃろ。真悟人は何を慌てておる?」
「はっ?ヴィトン?何言ってんだ?お前‥‥」
はっ!と気付くと入って来たのとは逆の扉に、いかにも貴族という高価そうな格好をした白髪の男が立っていた。
「誰だ?‥‥」
「君が真悟人君か。初めてお目に掛かる。私はこの街、マウントフジの領主で辺境伯であるアーサー・マウントフジだ。」
「お前が辺境伯か。」
『剣』を出す。
ボス達は壁際に並んでジッと立っている。
『剣』やボス達を見ても動じることなく。
「まず、真悟人君には謝罪をしなければイケないね。‥‥済まなかった。この通りだ。」
膝に手を付き、深々と頭を下げる。
「どういう事だ?何の謝罪だ?命乞いか?」
辺境伯は深々とさげていた頭を少し上げて、
「まず、私の首で済むのならいくらでも差し出そう。ただ、この騒乱が収まるまで今暫く命乞いをしたいのが本音だがね。」
「分かる様に説明して欲しいな。」
毒気を抜かれて、敵対する感じじゃ無くなってしまった。
「まず、ギルドでの対応は行き違いであった。会話ができるとは思って無くて、普通の従魔に対する扱いをしてしまった。本当に申し訳ない。」
ボスを見ると。顎を引いて、頷いていた。特に蟠りは無い様だ。
「すると、俺からボス達を引き離そうとかの目論見は無かったって事か?」
「真悟人よ。それは儂が説明しようか。
真悟人が逃亡したと聞いて何があったか聞いたんじゃ。
ここでは、魔物と会話できる者なんておらん。まったくじゃ無いがな。
それで、普段通り申請が通るまでは、檻の中に招待したんじゃ。
ボスもアルファも儂らでさえ会話できる程、魔力が強い。
それに、大体、牙猿や魔狼を見るのさえ初めてじゃ。怯えもあったじゃろう。
そんな常識の違いが生んだ行き違いじゃな。」
「そういう事か。それは分かった。ギルドのおっさんの態度は気に入らんがね。
それじゃ、この騒乱は何だ?何が起きてるんだ?」
「それは、オダーラの街で収監されていた代官と商業ギルドマスターが奪還されたんだ。今、オダーラの街は内乱状態になっている。」
「それじゃあ、あの早馬は?」
「見てたか?オダーラからの使者だ。幸い一命は取り留めたが、まだ危ない状況だ。」
「‥‥‥‥」
シャルやトゥミを呼んで、治してやりたい衝動に駆られるが、何の関わりも無い相手にそれもどうかと思う。
辺境伯は、そんな俺を見て、
「ここで、真悟人君にお願いがあるんだ。」
たぶん、言いたいことは分かる。しかし‥‥
「出来たら、オダーラの街を開放してくれないか?今、あの街は無法地帯だ。女子供に一番被害が出る。ここから兵を編成して向かうには、最低でも三日は掛かる。その間にどれだけの被害が出るか‥‥」
辺境伯は、ぎりっと噛み締めて堪えている。
言っている事はもっともだ。商人のメイちゃんも無事では済まないかも‥‥
しかし、仲間たちに被害が出たらと思うと躊躇してしまう。
「真悟人。考えてることは分かるよ?」
「先生!」
スライム先生はレッドの服の中から出てきた。
会話の出来るスライムを見て、辺境伯は、目を跳び出さんばかりに見開いて驚いている。
「真悟人はこの戦いで仲間が傷付いたら?とか思うんでしょ?分かるけどね。
たださ、牙猿も魔狼もそんな弱くないよ?見くびっちゃダメだよ?
それに、この戦いの見返りを考えてごらん?」
「戦いの見返り?‥‥‥」
「そう。オダーラの奪還によって、街の秩序が戻るよね?そしたらエルフの交易は?
今後の扱いは?ボスやアルファの地位向上とか?真悟人の知ってる人間も居るんでしょ?考えて見て?」
「主!私も賛成だ。」
はっ?えっ?誰だ??ボスより更に2回りはデカい!ケモミミの偉丈夫・・・・
「あ、アルファか?」
「ああ、あんまりこの姿は好きじゃ無いんだが‥‥まぁ、それは兎も角、
折角の戦いだろ?ボスも暴れたいんじゃないか?」
「主、商人も仲間なら助けよう。我等は負けない。我等の強さ!主に見せる折角の機会だから、戦いたい。」
「‥‥‥‥お前達、しょうがねぇな。そんじゃやるか!!」
「「「「「おおーーーー!!」」」」」
振り返ると、辺境伯がガクガクしている。
「ま、魔狼の人化。伝説のウェアウルフが‥‥それが、牙猿と会話するなんて!
わ、私は夢でも見てるんじゃ‥‥??」
「おーい!!辺境伯さんよ!?」
「はっ!?す、すまん。夢でも見てるような‥‥」
「ちゃっちゃと行って来るが、皆殺しはダメなんだろ?他に気を付ける事あるか?」
「あ、あぁ。皆殺しは困る。出来たら半殺しくらいで。口さえ利ければ手足は無くても構わん。」
「兵士とかもどっちの味方だか分からん。歯向かう者は容赦しないがそれで良いな火事場泥棒とか、不審な行動をしてる奴は全て半殺し。後は責任者を付けてくれ。」
「わ、分かった。直ぐに用意させる。」
辺境伯は人を呼んで、アレコレと指示を出している。執事の様な爺さんが来てるが、目を皿のようにして固まっている。・・・大丈夫か?
「ヨシ、街の外で準備するから、半時後に出発する。」
辺境伯の正門から出て、真っ直ぐ街の正門へ向かう。
屋敷の前には、黒山の人だかりが出来ていた。
オダーラの状況を聞きに、かなりの住民が詰めかけた様だが、出てきた俺たちを見て、モーゼの十戒よろしく、人垣が割れて行く。正門まで人垣の道が出来た。
そこに護衛の2人組が左右から現れて、
「真悟人様!お待ちしておりました。オダーラの街、開放の使命!お供いたします。」
それを聞いた、街の人々は・・・
おい、あれって牙猿だよな? あの人狼ってもしかしてウェアウルフか? まさか!伝説だぞ! 魔狼?だよな? 牙猿と魔狼を従えた男って?あの噂の? オダーラの街を開放するって? 助けてくれるのか?あっちに家族が居るんだよぉ。
騒めきが大きくなる。
門に着いた所で振り返り、街の者に宣言をする。
「俺は、牙狼村の神田 真悟人だ! これからオダーラの街を開放する。その為に敵対する者は容赦なく攻撃する。ただし!殺すことはしない!
あの街に家族、友人、愛する者が居る者は付いてこい! 敵対させたくなければ、投降させろ!悪いようにはしない。お前達の愛する街を悪代官から取り戻す!
今から半時後に出発だ!皆!準備しろ!取り返した街を立て直すのはお前達だ!
行くぞ!!」
「「「「「おおおおおおぉぉぉーーー!!!」」」」」
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