第56話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドのデカい扉を押し開けて中に入る。


 俺が入った時は誰も見ていなかった。

 トゥミ、サラ、シャルが入ってきて、一気に注目が集まり近づいて来る奴が居て、その後にボスとワフワンとアルファが入ってきたら、静まった。


 誰も口を利かない‥‥誰かの喉を鳴らす音が妙に響いた。

 そこに、

「すいません、神田真悟人様ご一行でしょうか?」


 妙に通る男の声が響いた。

「ああ。俺が神田真悟人だが。」


 その瞬間、ザワッ!と場内がどよめいた。

「あれが?」 「牙猿と魔狼を従えてる男?」 「牙猿と魔狼が服着てるぞ?」

「エルフの姉さん、イイ女だねぇ~」 「あんなパッとしない男が…」

「誰だ?魔狼なんてガセだって言った奴は?」 「牙猿の本物、初めて見た…」


 様々な感想が場内を満たす中、声を掛けて来た男に案内されて2階に上がってきた。


「どうぞ、こちらに。」


 質の良い調度品に飾られた応接室に案内された。

 中には白い髭を蓄えて魔導士のようなローブを着た壮年の男性が待っていた。


「どうぞ、お座りください。」


 高級そうなソファーに並んで座り、横にアルファがお座りをして、ボスとワフワンは後ろに立った。


 白髭の男性は、

「私は、この冒険者ギルドでギルドマスターをしている、コーチと言います。」

「案内をしたのは、サブギルドマスターのロンシャンです。」


 案内をしてくれた男性が頭を下げる。


「私は、牙狼村、村長をしております神田真悟人と申します。」

「神田真悟人の妻、トゥミです。」

「同じく神田真悟人の妻、サラです。」

「同じく神田真悟人の妻、シャルです。」

「そして、僕らの村の民であり、護衛をしてくれています。牙猿のボスとワフワン。そして魔狼のアルファです。」


 ボス達は、ほんの少し、顎を引くくらい頭を下げた。これは凄い事なので、後で褒めてやろうと思った。


「早速、本題じゃが、彼らの従魔登録を行いたいと言う事じゃな?」


 爺さん、いきなり砕けてきたな?

 まぁ、話しやすいから良いけどね。


「そうです。従魔登録をすれば、一緒に街を歩けるとの事でしたので、お願いします。」


 ここで、サブギルドマスターのロンシャンが口を開く。

「それにはまず、冒険者登録をして頂く必要がある。それから従魔登録が出来るかの審査ですな。それが通って初めて従魔登録となります。」


「えっ。それは時間的にどの位掛かるものですか?」


「そうですね、条件にも寄りますが、2日から1週間と言うところですか?」


「では、その間、彼らは?」


「一応、ギルドにある檻に入っていただきます。」


 薄ら笑いを浮かべて、そんなことを言い出した。

 そのセリフを聞いた途端に俺は立ち上がった。

「皆、帰ろう。」


「はっ?」


「俺は言ったはずだ。俺の村の民だと。自分の村の民を、牢屋に喜んで入れる主など居ない。この話はここまでだ。邪魔したな。」


 ギルドマスターとサブギルドマスターが呆気に取られてる間にサッサと冒険者ギルドを後にした。一旦、市役所に帰ってバルバータスさんに挨拶して帰ろう。


「ボス、俺を乗せてくれ。ワフワン、トゥミを頼む。アルファ、サラとシャルを乗せて行けるか?。」


「主、大丈夫だ。それと、我等の事に気を使わせて済まない。」


「何、言ってんだ?さっきも言ったがお前達を牢屋に入れるくらいなら敵対してやる。」


「フフ。真悟人らしいね。」「うんうん。ちょっとスッキリしちゃった。」

「なんか、嫌味っぽかったもんね!」


 皆も俺の行動には賛成だった様だ。

 そんな話をしながら市役所までやって来ると‥‥


「「居たぞ!あそこだ!」」


 ありゃ!?捕物ですか?下手人は俺らか!?


「なんかメチャクチャだな!皆!乗れ!」


 それぞれワフワンやアルファに乗ると、

「ヨシ!行け!!」

 街中を全力疾走!ボスとワフワンは屋根に乗って、家の間を渡って行く!

 後ろの方から、兵士が追って来るが、ドンドン遠ざかる。

「どうせ門からは出られない!直ぐに袋のネズミだ!」

 門が見えてきたが、先に手が回って閉められている。


「飛っべっぇぇ~~!!!」


 4mは有ろうかと言う門を、ボスもアルファも苦も無く飛び越えた!


「イッエェェェーーーイ!!!」

 飛び越えて、後は家まで帰るだけだが‥‥


「ボス、俺とトゥミの二人背負えるか?」


「?大丈夫ですが?」


「ワフワン!先に帰ってエルフの・・・あーーーーー!!!」

「ヴィトン達、置いて来ちゃった‥‥」


「「「あっ!‥‥」」」

「まぁ、しょうがない。取り敢えずサラ。ワフワンと先に帰ってエルフの里に報告と戦隊を呼んでくれ。あと、戦隊は新しい戦闘服を持ってこい!と伝えてくれ。」


「真悟人はどうするの?」


「ここで暫く様子を見て、ヴィトン達を取り返す。」


「うん。分かった。他に伝える事はある?」


「飛竜便の魔道具を持って来てくれ。叩き返してやる!」


「了解!じゃあ行って来るね!トゥミ、シャル、真悟人をお願いね。」


「「任しといて!余り無茶はさせないようにするわ。」」


 おいおい。君たち。無茶なんてしませんから。

 誰も聞いてくれないが‥‥


 サラとワフワンは、あっと言う間に見えなくなった。

「此処まで、馬車で1週間かかったけど、ボス!どのくらいで戻って来る?」


「そうですね。ワンなら3日で戻ってくるでしょう。」

 早っ!‥‥サラが持つかなぁ??

 サラ、がんばれ~~!


 さて、それまでこの周辺で身を隠さないとな。

 水辺があって良さげな所はあるか?


「主、ちょっと探してきます。アルは周囲の警戒を頼む。」

「ああ。気を付けて探してこい。」


 アルファは寝そべりながら、耳と鼻で周囲を探知している様だ。

 では、俺らは作戦会議をしよう。


「まず、今回は嵌められたのか?」


「冒険者ギルドから一連の流れを考えると、嵌められた線が濃いよね。」


「そうよね。私たちがギルド出てから追手が掛かるのが早すぎる。」


「うん。流れとしては護衛の牙猿と魔狼を離したかったんだろう。そして市役所に残ってたヴィトン達は人質だな。」


「ねぇ、気になってたんだけど、その市役所って何??」


「あ!ん~~、俺の居た国での領主たちが執務する建物の事だな。国の事を決めるには国会。貴族の領都などは、県庁や市役所。代官の所は区役所って感じかな。」


「ふ~~ん。そんな風に分かれてるんだ?」


「そうだな。だから此処は市役所みたいだなと思ったんだよ。」


 アルファがぴくッと起きた。

「ボスが戻るぞ。」


 言うが早いか、両手に狸の様な獲物を持ってボスが戻った。

 ボスから狸を受け取って移動をする。10分としないで、滝壺の横に出た。

 そこに洞窟が口を開けている。ここなら天候を気にしないで眠れるだろう。


 さすがボス!

 では早速、飯の準備をしよう。

 ここで、実はシャルが料理が得意な事が判明する!

 村じゃカレンが頑張ってるので、妊婦さん用の食事位しか作って無いと。

 だから、イイ機会なので俺に手料理を作りたいと言ってくれた。


 ボスが取ってきた狸をトゥミに渡して解体してもらう。

 水は豊富にあるし、鍋やタライや調理器具を出して、後はお任せである。


 その間に、周囲の探索をして、食えるものを採取しておく。

 そして、一人で考える。

 この街に来る前に察知出来なかったのか?何故、裏付けも取らずに信用したのか?交易してる街へは寄るべきだった。あの商人たちは既に殺されてるかも知れないな。そう考えると可哀想な事をしたと思う。あそこで寄っていれば、ヴィトン達を人質に取られずに済んだかも知れない。色々と悔やまれる所である。


 ただ、起きてしまった事を悔やんでもしょうがない。

 どう打開するかだ。

 相手は次はどんな手で来る?この場所を知られていたら?

 ボスの移動で10分足らず。人間の足なら半日で来るか?

 日が落ちてから到着して、どんな手を使う?牙猿や魔狼相手にどんな手を?

 麻痺?それには煙や食い物?水?・・・・


 走って戻った!

「待て!水も食い物も待て!!」


 みんな、キョトンとしている。

 ちょっと待ってろ!

 狸や周辺の木や川の水、全て鑑定を掛ける。・・・・・異常は無い。

 洞窟も入って見る・・・・・おかしい所は無い。

 でも、何かが引っかかる。


「ボス、アルファ、周囲に何も居ないか?罠や待ち伏せや‥‥‥待て。」


 川の中で何かが動いている。

 何だ?何が居る?

 それは、ゆっくり姿を現した‥‥ん?サンショウウオ?

 出てきたのは、3mもあるオオサンショウウオだった。

 慌てて鑑定をかける。


【オオサンショウウオ】

 巨大になるサンショウウオ。夜行性で夕方から夜にかけて活動する。

 毒などはないが、力は強いので噛まれると命に関わることもある。

 大きい個体は5m位の者も居る。身は何気に美味。


「はぁ~~~~‥‥‥」

 なんだ。気を回し過ぎか?

 一応皆には気付いた事を伝えて置く。それから単独行動はしないようにと。

 俺が気になった点は、ボスやアルファも当然分かっていて、確認済だった。

 彼らは伊達に森の覇者と言われていないと、トゥミやシャルに宥められた。


 そうか。もっと信用しないといけないね。特にこういう時は猶更だな。

 夜の番は、ボスとアルファでやるので主は寝ていてくれと言われた。

 お言葉に甘えて、広めに結界を掛けて寝た。‥‥




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