第54話 旅立ち?

 人間の商人との話は纏まった。

 ヴィトンに飛竜便について聞いて見た。

 基本的に一方通行。果実出荷の準備が出来たら知らせればやって来る。

 その時期以外は使った事は無いと。


 護衛組の話によれば、飛竜便の取引は真っ当だと言う。

 ただ、実際に金銭が届くのは、途中の代官云々で色々抜かれると‥‥

 もう、代官殺して良い?街滅ぼして良い?

 ……後始末が大変だから止めてくれと。


 果実の季節ってリンゴは終わってるけど、桃や梨や他の季節は今なんだけど、その辺の取引は無くて良いの?

 回復効果はリンゴ‥‥そういう訳じゃ無いよ?

 リンゴでヒールは分かってるけど、桃はキュアだし、ナシは体力アップみたいな感じかなぁ?それぞれの果物に違う効果があるけど、言わない方が良いか?


 「一度飛竜便呼んでみようか?ダメなら敵対と言う事で!」


 「だから!何でお主は直ぐ敵対するか!?」

 そんな話を繰り広げながら今後の話をする。


 水長老のプラダは、

「そーねぇ~~!??えっと真悟人は?どうしたいの?」


 土長老のヘルメスは、

「ん~~…全部肥やしでも良いよ?」


 風長老のヴィトンは、

「まったく‥‥一度聞いて見よう。確かに搾取されてるのを放置した儂らも悪い。だから今後の取引として、搾取されるならもう取引は行なわない。真面目に対応してくれるなら考える。で、どうじゃ?」


 おーーー!さすが長老♪


 おいおい、プラダとヘルメスよ、お前らそれで良いのか?

 実は面倒くさいから丸投げだろう??

 二人して目を逸らすからそうなんだろう。

 んじゃ、ヴィトンの案で一回呼んでみよう。



 早速、飛竜便を呼んだら、半日くらいでやって来た。

「この時期に何用だ?そんだけの出荷物があるのだろうな?」


なんだ?随分高飛車に来たな。

「今回来て頂いたのは、飛竜便で出荷出来るかどうかを判定していただ‥‥」

「ふん。このエルフの里のモノなんて、リンゴ以外判定するほどの価値もないわ。」


 この言い回しにムカついた!

「たかがお使いのトカゲが何だ?その口上は?お前の想定以上の出荷物が有ったら何とする?お前の態度如何によっては出荷しなくてもこちらの腹は痛まん。もう一度帰ってお前の主に伺いを立てて来い!返答によっては二度と出荷はせん!顔洗って出直してこい。」


 追い返した。

 ヴィトンを始め、全員真っ青になっていたが、よく考えたらその通りなので別に良いかと皆思っていた。


 所が、予想以上に高飛車に来た。

 今度は飛竜に使者を乗せて、


「お主等エルフごときの下賤の者に我を愚弄するなど、あるまじき行為は許されない。今すぐ礼を持って謝罪せよ。」


 おい!飛竜!お前、何言った?

 こうなるとこちらも一歩も引けない。


「言うに事欠いて、エルフごとき下賤の者と来たか?それはお前の所属する王国の総意と受け取って良いんだな?トカゲごとき冷血動物が我々を愚弄するとは、どれだけ勘違いを助長させているのか?使者の者!お主の首を送り届けると言う事で良いのだな!?」


「あ、いえ、そんな心算では‥‥決してありません。何故そんな話に?‥‥」


「使者の者、このトカゲの口上を聞いておったろう?全面的に敵対するのであれば、戦争に突入も辞さない。‥‥おい!」


 牙猿と魔狼が一斉に吠えた!

「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」


 使者も飛竜も腰を抜かした。

 まさか、そんな森の覇者が出て来るとは思っていなかった。


 ボスとアルファは真悟人の横に並び立ち、

「「我が主に敵対するのであれば、この森の者、全員でもって人間を蹂躙してくれる!それだけの覚悟を持ってこの対応か!!」


 使者と飛竜は縮上がってしまった。

 こんなはずじゃ無かった。

 たかが、エルフとの交易と高を括ってやってきたら、森の覇者たちが並んでいる。

 ましてや魔狼なんて伝説の域に居る。

 彼らに抗える術はない。それこそ伝説のドラゴンを持ってくるレベルである。


 心の全てを折られた使者と飛竜は、平伏した。

「行き違いがあり申し訳ありませんでした。知らぬ事とは言え、ご無礼申し訳ありませんでした。」

 飛竜も一緒に頭を下げて、

「申し訳ありませんでした。」


 これは皆が驚いた!!あの飛竜が謝るなんて!

 そこで、これまでの経緯を使者に語った。

 飛竜便の報酬は1/3しか届かない事。

 商人の値段が市価の5倍以上に跳ね上がった事。

 里との交易が少なくなったら新人を向かわして商いをさせるだけでなく、更に人質をとって商いさせている事。

 そして、街の代官は交易する見返りにエルフの女を所望している事。


 これは、ご存じか?‥‥

 もし、ご存じないなら調べて是正して欲しいと。

 正常な状態になれば、こんな交易も出来ると言って、砂糖を見せた。

 使者や飛竜には黒糖も食わせてやった。



 使者は非常に喜んだ!

 今迄のエルフの交易では考えられない程の有益な品物が用意されている。

 一刻、只ならぬ状況になったが、平謝りする事によって謝罪を受け入れて貰った。

 飛竜は動物なだけに、絶対強者には逆らわないので、分かりやすくて逆に救いであった。

 聞いた話も尋常じゃ無い。

 今迄、さんざん搾取を繰り返してたようだ。更に女を所望するとか、今の辺境伯が聞いたら間違いなく打ち首にするだろう。

 これは、きちんと報告して、あの問題だらけの領地を正して貰おう。



 交易をしていた街は、周囲のエルフ達からだけでなく、人間の内部でも問題ありと、機会を伺われていた様だ。

 しかし‥‥どんな対応をして貰えるかは未知数である。


 今のエルフの里は、人間と交易しなくても豊かに暮らしていける。

 しかし、それは言わずに互いの為に交易したいと下手に出ている。


 後は、どんな対応をするか?

 戦争?・・・・・全員にキャラメルを始め、能力アップの全てを食わして、全員がブレーンとなれる様にしよう。誰も死なせたくない。絶対に!


 そんな思いを持って飛竜を見送った。

 辺境伯がどんな奴か知らんが、もう一度帰って準備を整えよう。

 最悪は、人間との戦争だ。

 まだ、人を殺したことはない。・・・俺に殺せるのか?

 若い男は人魚さんの所に連れて行くか。

 おっさんは肥料にしかならないか?

 それとも、そのまま餌になるか?

 でも、牙猿と魔狼がおっさんをぼりぼり食ってる光景は……イヤだなぁ。


 う~~ん。殺すに当たっては大丈夫かな?

 日本でも、此処でも、人間って醜いって、そんな面しか見て無いね。

 だから大丈夫な気がする。ちゃんと殺せるさ。

 敵対する奴らは餌にしてやる。役に立ててやんよ。

 あ!餌じゃ無くて、肥料ね。




 ==================




 思った以上にあっさりと収まった様だ。


 代官と、連なる者は打ち首。

 商業ギルド、ギルドマスターを筆頭に、精査して対象者は打ち首。

 商人関係、過去エルフ交易に関わった者、厳重取り調べ。

 逃亡者は指名手配ののち打ち首。

 過去の取引明細全て押収、関係者は事情聴取。


 しかし、流石にエルフの協力者までは、裁けない様だ。

 この辺は、ヴィトンの範疇と言う事で、サラの養父母のジョゼットさんと、クアガールさんは拘束された。

 沙汰を下すには、人間側の裁きを見てから。

 やったことは、グッチ達の方が重いが、こちらは長きに渡って仲間から搾取し続けていたのと、サラの父母殺害の嫌疑もある。更には養女を人間に売り渡そうとしてた訳で、こちらは言い逃れ出来ない。


 サラの気持ちとしてはどうなんだろう?仮にも養父母で、しかし両親殺害の嫌疑もあり、自分を売り渡そうとしてた養父母。

 言葉を掛けられなくて気を使っていたら、サラから教えてくれた。


 昔から、両親との事は疑っていた。生きるために養女になったが、貴族の嫁になれと言い出したので、こいつらはやはり黒だな。と思っていたと。

 そこに真悟人の話が在ったので、直ぐに乗った。

 貴族の慰み者になるくらいならと思って手を上げたが、実は牙猿を従える程の人間とは!これは予想以上に好物件だとは思っていたが、あのトゥミがメロメロになっている。

 奔放だけど誰にも靡かなかったあのトゥミが?

 どうなってるんだ?と信じられなかったが、会って納得した。

 同年代だけど、妙に大人びた雰囲気と、ちょっと可愛い系の容姿。

 更には、女にがっついてないし、逆に引いてる面もある。

 大当たりを引いた気分だったが、養父母は許さなかった。

 その事を真悟人に言えずにいたが、里で口論してる所を真悟人にあっさりと見つかった。

 真悟人は妻と言ってくれた。嬉しかった。本当に嬉しかった。

 人生で初めて味方を得た気がした。

 そして今、真実が明らかになろうとしている。

 しかし、私にとって両親はもう戻ってこないし、あの人たちがどうなろうと知った事ではない。

 私は、これからの私は、真悟人と共に、真悟人の為に生きる。

 それが、これからの私の思い‥‥


 ・・・・・・・。

 思わず抱き締めて、話を聞いた。‥‥思わず涙が。

 この娘を、サラを一生守り抜くと、改めて心に誓った。



 閑話休題

 辺境伯って人物は物凄くやり手なんだそうだ。

 実は大体の調べは付いていたんだが、搾取されている側からの訴えが無いと、内容として弱いので、そこでも機会を伺っていたという話だ。

 交易してた街の代官と商業ギルド関係者はあらかた捕縛され、人員入れ替えが進んでいると報告が来ている。

 更に裏の関係者も芋づるでしょっ引かれて、治安の安定化も進んでいると。


 辺境伯の名前はアーサー・マウントフジ‥‥‥ん?

 どこかで聞いたが?


 まぁ突っ込まないで置こう。

 考えてた以上に掃除してくれた様だ。これは感謝しなければいけないだろう。

 俺自身が手を汚さないで済んだし、人間と直接敵対しなくて済んだ。

 しかし、その分、厄介事も増えた様だ。


 辺境伯自身からの出頭命令が来たらしい。


 断っても良いかな?

 そんな事は許されないと、周囲の者全員で説得される。

 んじゃ・・・逃げても良いかな?

 お前は阿保か?と、出発日まで監禁された。


 今日の監禁当番はトゥミ。・・・・「なぁトゥミ、二人で逃げないか?あの地平線の向こうには二人だけの新天地が‥‥‥あた!」

 言い終わる前にチョップされた!・・・無念。


 今日の監禁当番はサラ。・・・・「なぁサラ、二人で逃げないか?あの空の向こうには二人の永遠のオアシスが‥‥‥んん♪」

 チューで黙らされた。・・・もっと♪


 今日の監禁当番はシャル。・・・・「なぁシャル、二人で逃げないか?あの海の向こうには二人だけの大地が広がってるんだ!」

「そうね!行きましょうか!」

「おお!シャルだけは分かってくれると思って・・・」

「ねぇ?この馬車は何?‥‥」

「二人だけの大地に向かう馬車よ!」


「えっ・・・いや~~~~~~!!!!」


 そうして、辺境伯領都の大地へ真悟人は旅立って行った・・・

 つか、飛竜便で行くんじゃないの??




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